映画『明日にかける橋 1989年の想い出』
主演・鈴木杏 インタビュー
娘の視点以外から親を見たら、もっと素直になれるのかな
静岡県袋井市、磐田市、森町で全面ロケ、地元市民グループによって企画・製作された映画『明日にかける橋 1989年の想い出』が6月30日(土)より有楽町スバル座他、全国順次公開される。
人生に後悔を抱えて生きる主人公みゆきを演じるのは、『花とアリス』(2004年)、『軽蔑』(2011年)などで確かな演技を見せる鈴木杏。主人公の父親役に、芸人・俳優・監督として幅広く活躍を広げる板尾創路。母親役に、NHK朝の連続テレビ小説『あぐり』(1997年)で人気を博した田中美里。主人公の高校生時代を演じるのは、期待の新人、越後はる香。その他にも、『渡る世間は鬼ばかり』(1990年~2011年)の藤田朋子や、日本映画界の重鎮、宝田明など豪華キャストが脇を固める。
監督は、『青い青い空』(2010年)、『朝日のあたる家』(2013年)、『向日葵の丘 1983年の夏』(2015年)と3作品連続で静岡県をロケ地とし、毎回、涙と感動を届ける太田隆文。
主人公、みゆきが後悔を抱える元となったある出来事は、1989年を舞台に展開される。そこから21年後の2010年から、再び1989年バブル最盛期にタイムスリップするというまさに日本版『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の感動ドラマが完成した。
今回、心に後悔を抱えて生きる主人公みゆきを演じた鈴木杏さんに、みゆきを演じる上で感じたことやロケ地である静岡県について話を伺った。
―― 公開を間近に控えて、どのようなお気持ちですか?
ここまであっという間だった気がします。昨年8月に撮影に入って、ロケ地の静岡県は山と川に囲まれた場所でとても気持ちが良かったです。私はビルに囲まれて育ったので、いい時間だったなと振り返っています。
―― これまで静岡県に行かれたことはありましたか?
初めてではありませんが、2週間という長期間滞在したのは初めてでした。
撮影中は静岡県袋井市に滞在して、袋井市だけでなく、磐田市と森町にも撮影しに行きました。
―― 地元の方達とのふれあいが密にあったみたいですね。
地元の方がスタッフやエキストラを務めてくださったので、地元の方に支えられて助けてもらいました。
懇親会を3回も開いてくれて、温かい環境を作ってくださったり、ケータリングも地元の方が出してくださって、おいしいお野菜中心の食事を食べて、とても健康的な毎日でした。
―― 太田監督は、どんな監督でしたか?
まさに、映画少年です。映画、作品、静岡県の地元の方に対する愛情が深い、純粋な方でした。
誰よりも現場で楽しそうで、でも、真剣に映画に取り組んでいる監督だからこそ、地元の方達と深い絆を築くことができたのだと強く感じました。
―― 主演が決定した時のお気持ちはいかがでしたか?
久しぶりの映画だったので、大丈夫かなと不安な気持ちもありました。「台詞ってどうやって覚えるんだっけ!?」って思ってしまったぐらいです。
でも、太田監督や地元の方やいろいろな方に助けられて、楽しく撮影を終えることができました。
―― 高校生時代のみゆき役を演じた越後はる香さんに関しては、どのような印象を持たれましたか?
不思議な雰囲気を持っている女の子だなと思いました。年齢よりも大人っぽくて、落ち着いていて、初めての映画出演だとは思えませんでした。
でも、私の横でサインを考えている表情は幼さが残っていたし、制服姿で会うと、まだ高校生なんだと改めて気付かされました。これからが楽しみな役者さんだと思います。
―― みゆきの癖に関しては、太田監督と越後さんと3人で話し合って決められたとか?
そうですね。太田監督の過去の作品でも、子どもの時と大人になった時で、それぞれの役者さんが同じ癖をしていて、この作品でも、高校生時代のみゆきと、大人のみゆきが同じ空間にいる時に、同じ癖の動きをしたらおもしろいのではないかと思って、太田監督に提案しました。
そうしたら太田監督も「癖のことは相談しようと思っていたんだ。何がいいか考えてきて」と言ってくださり、さりげなくできる動作が良かったので、何かを考えている時に耳を触るというのが、自然に手を動かせていいかなと思いました。
―― 1989年というと、鈴木さんは2歳ですね。今がバブル全盛期だったらいかがですか?
バブルが崩壊することを既に知っているので、その時代に生きていたら、楽しいかもしれないけど、その後の変化も経験すると思うと、全盛期の時代に生きるのではなく、そんな時代もあったんだなと夢物語のように想像している方がいいかもしれません。
―― 高校生のみゆきは“明日橋”を渡りませんでしたが、大人になったみゆきは渡ります。なぜ渡ったと思いますか?
あの時のみゆきは、やけくそだったと思います。やけくそで走って橋を渡ったら、本当にタイムスリップしてしまった。日常は変わらないと思いながら過ごしてきたけど「あの頃に戻れたらいいな」という気持ちは潜在的に持っていたと思います。
過去にタイムスリップして、両親の自分に対する深い愛情を知り、昔の自分と再会して、本来、持っていた強さや勢いを思い出し、いつの間にか受け身になっていたみゆきが、また少しずつ未来に希望を見いだしたから、自分からどんどん動けるようになっていったのだと思います。
―― 高校生のみゆきは、かなり強気でしたものね。
ブルドーザーのようでしたね(笑)。そういう気持ちも忘れてしまうくらい、その後の日常が大変だったから、失くしてしまった自分も過去に戻ったことで拾い集めることができたのだと思います。
―― 鈴木さんは、昔の自分に会ってみたいと思いますか?
昔の自分って、恥ずかしいですよね。振り返って考えると、何でこんなに生意気なんだと思うこともたくさんあります。
でも、そういうことの積み重ねが、今の自分には大事なことで、どんなに後悔や反省を繰り返す自分でもずっと一緒にいてくれる人や、支えてくれる人に感謝をして生きていきたいと思います。
だから、出来上がった作品を観て、「こうすれば良かった」「こういう演技もできたな」と考えて、戻りたいと思うことはありますが、実生活ではないですね。
でも、みゆきのように過去に戻って、自分の知らない両親の気持ちを聞いてみたいです。どうしても、娘の視点からしか親のことを見ることができないけど、視点を変えると親も全然違う人間なのかもしれない。そのことを知っていると、もっと優しくできたり、素直になれたりするのかな。そういうことを、みゆきを演じながら感じました。
[ヘアメイク: 宮本 愛(yosine.)/ スタイリスト: 小山 よし子]
プロフィール
鈴木 杏 (Anne Suzuki)1987年4月27日生まれ。東京都出身。 2016年には、舞台「イニシュマン島のビリー」、「母と惑星について、および自転する女たちの記録」で第24回読売演劇大賞最優秀女優賞を受賞。2018年には、蜷川幸雄三回忌追悼公演 舞台「ムサシ」に出演し、更に演技の幅を広げている。 |
映画『明日にかける橋 1989年の想い出』予告篇
映画作品情報
《ストーリー》主人公のみゆき(鈴木杏)は30代のOL。とある田舎町で暮らしている。 弟・健太(田崎伶弥)が交通事故で死んでから家族は崩壊。母(田中美里)は病気で入院。父(板尾創路)は会社が倒産、酒に溺れる。みゆきが両親を支え働く日々。 そんな2010年の夏のある日、夢がかなうという明日橋を渡ったことでなんとタイムスリップ! 弟が死んだ1989年に戻ってしまう。バブル全盛の時代。 そこで出会う若き日の両親と元気な弟と若き日の自分(越後はる香)。 みゆきは、もし、この時代で健太を救うことができれば、家族を救うことができるかもしれないと希望を見出すが、その先には、様々な困難が待ち構えていた。 |
8月11日(土)よりテアトル梅田、
9月1日(土)より静岡県内ほかにて全国順次公開!