映画『青の帰り道』藤井道人監督インタビュー
映画の広がりを信じて、しっかりと映画に向き合いたい―
『青の帰り道』再上映に込めた思い
2018年冬に公開された映画『青の帰り道』。 群馬県前橋市と東京を舞台に、地元に残った者、夢を追って上京した者、過去の思いを胸に抱きながら、新しい未来へ向かって進んでいく7人の若者達をリアリティ溢れる映像で瑞々しく描いた青春群像劇だ。
映画公開から半年、5月11日(土)よりアップリンク渋谷で再上映がスタートした。
再上映は連日満席と異例の大ヒットで、アップリンク吉祥寺、大阪、京都、新潟へと上映拡大が決定。再上映することを決めたきっかけや作品に込めた思いについて、藤井道人監督に話を聞いた。
自分達の方法で、この映画がどう伝わるものになっているのか、試したい
—— 今回の再上映は監督たっての希望だったとお伺いしています。実現に至った経緯を教えていただけますか?
昨年冬、一般公開を迎えて、お客さんもたくさん来てくれていたのですが、2週間程度で上映終了してしまいました。この映画は一回撮影が中断したというネガティブな面がありますが、僕たちは“やり直したい”という気持ちがあって。以前撮った『光と血』(2017年)という作品は自分たちで配給を決めて、宣伝をして、2週間全回満席になりました。
『青の帰り道』もどうにか届けたいと、自分たちのやり方で試したいと思いました。“face to face”で映画を伝えたいという気持ちから、それが出来るアップリンクさんに直接電話して、「2週間でいいからかけてほしい」とお願いしました。製作・配給は協力していただきながら、僕たちが全部やると決めました。夏の映画だから夏に上映したいという希望もあったので、夏までこの上映が続けば嬉しいです。
—— 今回の再上映は連日キャストやスタッフのトークショーがあるという豪華な企画です。
トークショーのゲストは自分でブッキングしています。本質的には、監督が出しゃばりすぎるのは良くないと思っていて、宣伝プロデューサーや宣伝部の人がいる場合には、この映画をどう売るのかしっかりディスカッションして、その人たちを信じて任せるのが一番だと思います。ですが、今はこれだけSNSの時代になっているのに監督が引っ込んでいるのではなく、一番汗をかくのは監督であるべきだし、僕たちがもっと映画に向き合うべきではないかと思うんです。このシステムがおかしいという提言するためには、自分がやっている人間でないといけないとすごく感じています。(映画に携わっている)自分でもNetflixで映画を観る時代ですが、観客に来てもらうには、もっと劇場での広がりというのを信じなくてはと思います。
“自殺をとどめるような作品を作りたい”原案のおかもとさんと共鳴した思い
—— 本作はどのようなきっかけで出来上がったのでしょうか?
2016年はじめ伊藤主税プロデューサーから、おかもとまりさんが、かつて大事な友達を自殺で亡くし、自殺を止めるようなメッセージを映画で伝えたいと言っているとを聞きました。僕も同じ経験があって、それがきっかけで書いた、映画化するには至らなかった「ぼくらは」という男5人の群像劇の企画があったんです。それがおかもとさんと出会って、物語をすり合わせていって、7人の男女の物語になりました。
“モラトリアムの終わり”を描きたいなと思いから、『モラトリアム・フィクション』というタイトルを付けました。それがびっくりするくらい不評で(笑)。どういうことを描きたいのか突き詰めると、「それでいいじゃない」「それでも生きていく」という二つに行き着きました。辛い時ってどうしても“自分自分”になってしまう。20代の時って、そういう経験が誰しもあると思うんです。でもそうではなくて、他人だけど、寄り添って生きていける戻る場所がみんなどこかにあるはずで。人生をどう表現すればいいかと思った時にストレートに“道”という単語を使いたくて、全部を求めたら今のタイトルになりました。
キャスティングは、ほぼオーディションで決めましたが、主人公のカナは真野恵里菜さんが台本を読んでやりたいとおっしゃっているという話を聞きました。話を伺うと、カナと重なるところもありお願いすることになりました。キリは難航して…この作品は群像劇ですが、キリとカナの物語でもあります。一本柱で立つ真野さんとのバランスも考えて元々注目していた清水くるみさんにオファーをしました。
キャラクターはほぼ自分のまわりにいる人をモデルにしています。リョウ(横浜流星)やコウタ(戸塚純貴)は僕の中学の親友をモデルにしていて、名前も同じです。カナとキリは、自分が通っていた芸術大学の同級生の要素を組み合わせました。
先日、トークショーで(森永悠希さん演じるタツオの父・シゲオ役の)平田満さんも「ユウキの視点でないとこの映画のストーリーテリングはできない」とおっしゃっていましたが、すべてを客観的に見ている立場が冨田佳輔くんが演じているユウキです。僕自身はユウキのキャラクターに自分を重ねています。
ありがたいことに、何回も観てくださるお客さんが多くいらっしゃいます。
この作品には、自分の経験上にいない人や自分の感覚に合わないキャラクターも出てくると思います。でもクラスの端で一言も口を利かなかった子にも人生があるんです。自分以外の人生をのぞき見れるような映画になればいいなと思って作ったので、1回目は“自分はこの子だな”という風に共感できるキャラクターに、2回目以降は他のキャラクターにも焦点を合わせて観てもらえたらと思います。
“もっと海外に出ていく”がスローガン!
アジアのチームと面白い作品を作りたい
—— 本作の脚本は同じBABEL LABELのアベラヒデノブさんと一緒に手掛けられていますが、今後BABEL LABELとしての展望を教えてください。
BABEL LABELは、大学時代に出会ったメンバーで作った映像制作会社です。アベラ君はバンひとつで僕の家に転がり込んできました(笑)。現状を常に打破することを考えているチームで、「このままじゃだめだよね」と会議をします。僕にきた仕事でも、もっと向いているメンバーがいればチームのメンバーを推薦します。例えば、ドラマ「日本ボロ宿紀行」はポップに旅を描ける人の方が面白いとアベラ君を推薦させてもらったり、よりよい形を模索しています。
僕たちの来年のスローガンは“もっと海外に出ていく”!ハリウッドとかではなくアジア、台湾や中国のディレクターとコラボして、海外で作品を作っていこうという作戦で、“BABEL ASIA”を立ち上げて、アジアのチームで面白いものを作っていこうと思っています!
[インタビュー: 金尾 真里 / スチール撮影: 坂本 貴光]
プロフィール
藤井 道人 (Michihito Fujii)映画監督、映像作家、脚本家。 |
映画『青の帰り道』予告篇
映画作品情報
《ストーリー》2008年、東京近郊の町でまもなく高校卒業を迎える7人の若者たち。歌手を夢見て地元を離れ、上京するカナ(真野恵里菜)。家族と上手くいかず実家を出て東京で暮らすことを決めたキリ(清水くるみ)。漠然とデカイことをやると粋がるリョウ(横浜流星)。カナとの音楽活動を夢見ながらも受験に失敗し地元で浪人暮らしのタツオ(森永悠希)。できちゃった婚で結婚を決めたコウタ(戸塚純貴)とマリコ(秋月三佳)。現役で大学に進学し、意気揚々と上京するユウキ(冨田佳輔)。7人がそれぞれに大人への階段を上り始めて3年後、夢に挫折する者、希望を見失う者、予期せぬことに苦しむ者――7人7様の人生模様が繰り広げられる。そして、再び“あの場所”に戻った者たちの胸に宿る思いとは―― |
原案: おかもとまり
脚本: 藤井道人/アベラヒデノブ
製作プロダクション: and pictures
製作協力: BABEL LABEL/プラスディー
配給: NexTone
配給協力: ティ・ジョイ
再上映配給: BABEL LABEL/ボタパカ/and pictures