映画『万事快調〈オール・グリーンズ〉』児山隆監督 インタビュー
【写真】映画『万事快調〈オール・グリーンズ〉』児山隆監督 インタビュー

映画『万事快調〈オール・グリーンズ〉』
児山隆監督 インタビュー

観終わって、走り出したくなる――。
閉塞感を笑い飛ばす“不適切な青春”に込めた、理屈抜きの熱量と願い 

第28回松本清張賞を満場一致で受賞した、当時21歳の現役大学生・波木銅による小説「万事快調〈オール・グリーンズ〉」(文春文庫)。「地方の閉塞感」「スクールカースト」「家庭問題」といった重層的なテーマを扱いながら、オフ・ビートな文体とユーモアで駆け抜けるこの話題作が、待望の映画化を果たした。

【画像】映画『万事快調〈オール・グリーンズ〉』場面カット (朴秀美、矢口美流紅)

1月16日(金)より全国公開中の映画『万事快調〈オール・グリーンズ〉』の監督・脚本・編集を務めたのは、長編デビュー作『猿楽町で会いましょう』(2021年)で鮮烈な印象を残した児山隆だ。

昨年開催された、第30回釜山国際映画祭(BIFF)Vision部門、第38回東京国際映画祭(TIFF)Nippon Cinema Now部門に正式出品され、その疾走感あふれる映像表現と、南沙良、出口夏希、吉田美月喜ら若手実力派キャストの共演が国内外で高い評価を得ている。

どん詰まりの田舎町で、自分たちの未来を切り開くため“禁断の課外活動”に手を染める女子高生たち。なぜ今、この物語が必要だったのか。監督の演出の矜持、キャスティングの裏側、そして映画に込めた「願い」について、じっくりと話を伺った。

【写真】映画『万事快調〈オール・グリーンズ〉』児山隆監督 インタビュー

「鬱屈とした青春」の視点に共鳴し、即断した映画化 
自身の青春と重なった「教室の隅からの視点」

映画『猿楽町で会いましょう』の公開後、次なる企画を模索し、少し思い悩んでいた時期だったという児山隆監督。そんな折にプロデューサーの近藤多聞氏から渡されたのが、波木銅の原作小説。児山監督は一晩で読み終え、すぐさま映画化を熱望したという。何がそこまで監督を惹きつけたのか。それは、作品に通底するある「視点」への共鳴だった。

児山監督: 原作に描かれている、鬱屈とした青春の在り方に強く惹かれました。(南沙良が演じる)主人公の一人である朴秀美ぼくひでみや、彼女の友人たちが、教室の片隅からクラスの華やかな中心人物たちや学校の喧騒を眺めている。僕自身は彼女たちが通うような工業高校ではなく、私立の進学校出身なので境遇は異なるのですが、あの教室の隅っこから見る景色や、抱えているヒリついた感情は、かつて青春時代を過ごした自分自身の中にもあったものだと強く感じ、またその視点に、理屈抜きで共感しました。

【画像】映画『万事快調〈オール・グリーンズ〉』場面カット1 (朴秀美/南沙良)

作家・波木銅への手紙と、映画としての「強度」

本作の企画を進めるにあたり、児山監督はまず原作者の波木銅氏へ手紙を送ったという。物語の登場人物たちは、それぞれの境遇や直面する問題などシビアな状況にありながらも、それを悲観することなく、バイタリティを持って乗り越えていく。監督はその波木氏特有の精神性を尊重したいと考えた。

児山監督: 波木さんが作品で大事にされている部分、物事を深刻にしすぎず、ユーモアを交えて軽やかにかわしていく感覚や、ある種の反骨心のようなもの。そういった作品の“核”となる精神性を大切に映像化したいという思いを文章にしてお伝えし、ご本人にも直接お会いしました。

波木さんからは「お任せします」と早い段階で言っていただき、信頼して託していただけたのはありがたかったです。

信頼を得たうえで、映画化にあたっては原作の持つ魅力を映像作品として再構築する必要があった。特にこだわったのが、終盤の展開だ。

児山監督: 原作小説は、物語の起承転結の「転から結」へ向かうスピードが非常に速いのが魅力なのですが、それをそのまま映画の尺でやってしまうと、少しダイジェスト的に見えてしまうかもしれないという懸念がありました。そこで映画版では、オリジナルの展開として「東京への遠征」のエピソードなどを加えています。

自分たちの手で物語のクライマックスを一山ひとやま作ることで、2時間の映画としての強度を高めようと考えました。完成した脚本を波木さんに読んでいただいた際、「面白かったです」と言っていただけて嬉しかったですね。

【画像】映画『万事快調〈オール・グリーンズ〉』場面カット7

南沙良×出口夏希×吉田美月喜 
既存のイメージを覆すキャスティング

〈オール・グリーンズ〉を結成する3人の女子高生を演じたのは、南沙良、出口夏希、そして吉田美月喜。今をときめく若手実力派キャストが集結した。

真っ先にオファーが決まったという主演の南沙良(朴秀美 役)について、児山監督は独自の狙いを語る。

児山監督: 南さんに関しては、これまであまり演じたことのないような、少しストリート感のある役を演じていただいたら面白いのではないかと直感しました。

僕が見た個人的な印象として、南さんがこれまでのイメージにはない「ゴリゴリに口が悪い人物」などを演じたら、すごく魅力的になるんじゃないかと思ったんです(笑)。ご本人も快諾してくださり、実際に朴秀美というキャラクターと南さんが持つ雰囲気が合わさって、素晴らしい主人公になりました。

また、劇中で重要な見せ場となるラップシーンにも触れておきたい。音楽を担当した荘子it(Dos Monos)監修のもと、南沙良がラップに挑戦している。

児山監督: ラップに関しては、原作に無いフリースタイルシーンのリリックを荘子itさんに書いていただいて、事前に南さんに音源をお渡ししました。南さんはすごく努力家なので、事前にたくさん練習してきてくださって、現場では見事に演じ切ってくれました。

【画像】映画『万事快調〈オール・グリーンズ〉』場面カット (朴秀美/南沙良)

もう一人の主人公、矢口美流紅やぐちみるくは、スクールカースト上位の人気者という役どころ。当初はキャスティングが難航したが、プロデューサーの提案で当時からブレイクしていた出口夏希の名が挙がったという。

児山監督: 出口さんは当時『舞妓さんちのまかないさん』(2023年/Netflix)などで注目されていて、スケジュール的に厳しいかと思ったのですが、奇跡的にタイミングが合って出演していただけることになりました。

実は原作の美流紅は「茶髪で派手な子」というイメージだったんですが、映画ではあえて黒髪にしました。出口さんが演じることで、一見普通の人気者に見えるけれど内面に強さを秘めた、今の時代に合った美流紅になったと思います。

【画像】映画『万事快調〈オール・グリーンズ〉』場面カット2 (矢口美流紅/出口夏希)

そして3人目のメンバー、岩隈真子いわくままこが吉田美月喜に決まったことで、チームのバランスが完成した。

児山監督: 南さんと出口さんが決まった後、最後にお会いしたのが吉田さんでした。ちょうど話題作への出演が続いていた時期でお忙しかったと思うのですが、プロデューサー陣の提案でお会いしてみたところ、直感的に「この人ならできる!」と感じ、そこからスタッフ皆で話し合い、吉田さんにお願いすることになりました。

吉田さんが加わってくれたことで、3人のバランスが完璧なものになったと思います。撮影現場でも、吉田さんがお芝居の面でも現場の空気感においても、率先してリードし、引っ張っていってくれた印象が強いですね。本当に素晴らしい存在感でした。

【画像】映画『万事快調〈オール・グリーンズ〉』場面カット場面カット3 (岩隈真子/吉田美月喜)

名作映画へのオマージュの予定が…..?
撮影現場で生まれた“隠し場所”の裏話 

撮影は茨城県那珂郡東海村の全面協力のもと行われた。現場でのエピソードはこれまでの舞台挨拶などでも語られているが、一つ気になったのは、美流紅が〇〇の栽培で手に入れた大金を隠している場所についてだ。児山監督の前作『猿楽町で会いましょう』にも通じる要素を感じ、何らかの意図があるかもしれないと尋ねてみたところ、答えは「完全なる偶然」。しかし、そのシーンの成立には映画ならではの裏話があった。

児山監督: 美流紅が大金を隠す場所については、当初は映画『ゴッドファーザー』(1972年)のようにトイレのタンクの中に隠そうかというアイデアがありました。あっちは銃でしたが、ロケ場所のトイレにタンクがなかったんです(笑)。現場で相談した結果、「ランドセルに詰めよう」ということになりました。

【画像】映画『万事快調〈オール・グリーンズ〉』メインカット

「楽しかった」と言い合える映画に

違法な行為に手を染める少女たちの物語でありながら、本作には重苦しさよりも、疾走感と清々しさが漂う。児山監督はこの映画を通して、観客にどんな感情を持ち帰ってほしいのか伺った。

児山監督: 『万事快調』というタイトルですが、主人公たちの毎日は全然快調じゃない。でも、そんな彼女たちが一世一代の賭けに出て、結果はどうあれ全力で駆け抜けていく姿は、観ていて清々しいものがあると思います。

この映画を観終わった後に、「正しいか正しくないか」とか難しいことは一旦置いておいて、思わず映画館を出て走り出したくなったり、理屈抜きで「なんか楽しかったな」と元気になってもらえれば嬉しいです。

[スチール撮影・取材・文: Cinema Art Online 編集部]

プロフィール

児山 隆 (Takashi Koyama) 

大阪府出身。CM制作、助監督、オフラインエディターを経て、映像ディレクターとして独立。2018年開催の第2回未完成映画予告編大賞 MI-CANでグランプリを受賞し制作された、映画『猿楽町で会いましょう』(2021年)で長編映画監督デビュー。同作は、第32回東京国際映画祭 日本映画スプラッシュ部門、第22回ウーディネ・ファーイースト映画祭 コンペティション部門に出品された。その他、ドラマ「ロマンス暴風域」(2022年/MBS)、「けむたい姉とずるい妹」(2023年/テレビ東京)などの監督を務める。

第30回釜山国際映画祭 Vision部門と第38回東京国際映画祭 Nippon Cinema Now部門に出品された本作『万事快調〈オール・グリーンズ〉』(2026年)が長編映画監督2作目となる。

【写真】映画『万事快調〈オール・グリーンズ〉』児山隆監督 (Takashi Koyama)

映画予告篇

映画作品情報

【画像】映画『万事快調〈オール・グリーンズ〉』ポスタービジュアル

《ストーリー》

ラッパーを夢見ながらも、学校にも家にも居場所を見いだせず鬱屈とした日々を送る朴秀美(南沙良)。陸上部のエースで社交的、かつスクールカースト上位に属しながらも、家庭では問題を抱えている映画好きの矢口美流紅(出口夏希)。

未来が見えない町で暮らすどん詰まりの日々の中、秀美が地元のラッパー佐藤(金子大地)の家で〇〇〇〇を手に入れる。

その出来事をきっかけに、同級生で漫画に詳しい毒舌キャラ岩隈真子(吉田美月喜)、岩隈の後輩で漫画オタクの藤木漢(羽村仁成)らを仲間引き入れ、同好会「オール・グリーンズ」を結成、〇〇〇〇の栽培に乗り出す。

人生を諦めるのはまだ早い!自分たちの夢をかなえるために、この町を出ていくには、一攫千金を狙うしかない!そして、学校の屋上で、禁断の課外活動がはじまる―。

 
監督・脚本・編集: 児山 隆
 
原作: 波木銅「万事快調〈オール・グリーンズ〉」(文春文庫)
 
出演: 南沙良、出口夏希/吉田美月喜、羽村仁成、黒崎煌代/テイ龍進、松岡依都美、安藤裕子/金子大地
 
主題歌: NIKO NIKO TAN TAN「Stranger」(ビクターエンタテインメント/Getting Better)
 
配給: カルチュア・パブリッシャーズ
 
© 2026「万事快調」製作委員会
 
2026年1月16日(金)より新宿ピカデリー他 全国公開中!
 
映画公式サイト
 
公式X: @allgreens_movie
公式Instagram: @allgreens_movie
ハッシュタグ: #万事快調 #オールグリーンズ
 
 

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Cinema Art Online編集部

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