- 2015-11-21
- ヨーテボリ映画祭, ロッテルダム国際映画祭, 日本映画, 映画レビュー, 映画作品紹介, 第28回 東京国際映画祭
映画『さようなら』
アンドロイドと人間の友情で問う、フクシマと命の未来。
《ストーリー》
近未来の日本。12基の原子力発電所が次々と爆発し、国全体が放射能に侵されたとき、政府は「棄国」を宣言。国民は難民として各国に避難していく。計画的な避難体制のもと、避難先の国は国民につけられたナンバーによって決まるしくみだ。離れ離れになりたくない恋人たちは、次々と結婚して連番を得ようとする。
そんななか、ターニャはアンドロイドのレオナと一緒にまだ家にいた。外国人難民であるターニャは、日本人より優先順位が低かった。病弱なターニャを幼いころからサポートしてきたレオナとの静寂すぎる日々。そしてついに、ターニャの命のともしびは消えようとする。そのとき、アンドロイドのレオナは・・・
《みどころ》
近未来の話でありながら、私たちはフクシマを思う。故郷を捨てさせられた人たちの虚しさを思う。あるいは、難民問題を思う。受け入れてくれる国がなければ、移住できない難民の嘆きを思う。
「あなたは良し」「あなたはダメ」と選別される苦しみを思う。「あなたのために行かれない」「お前の巻き添えは喰わない」と、犠牲者同志でささくれ立つ辛さを思う。
一方で、移住をあきらめた人々の悲し過ぎる微笑。草々を揺らす風も、山の端からこぼれる夕日も、抜けるような青空も、あの日とまったく変わらないのに、故郷から人々の営みは一つ、また一つ、消えていく。
最後に残った人間と、アンドロイド。カメラは、ターニャの命がつきるまでを冷徹な眼で追っていく。そして、残された「死なない機械」レオナの最期まで。
この映画は、平田オリザが2011年に発表した「アンドロイド演劇」の映画化であり、ブライアリー・ロングは舞台でも同役を務めている。ロボットとは何か、ロボットに反映される精神性とは何かを考えさせられるとともに、一人では生きられない人間の共同体としての生命を思わずにはいられない作品になっている。
日本人がロボットに単なる「作業効率」だけでなく、「人間らしさ」を埋め込みたくなるのは、手塚治虫のマンガ「鉄腕アトム」の影響が大きいのかもしれない。その「鉄腕アトム」も、田中儀右衛門らのつくった精巧なからくり人形や、人間のように緻密に動く文楽人形という人形をめぐる歴史があってこそ生まれたともいえる。まさに国民的DNAといえる特性だ。
フクシマに対するレクイエムとなっているだけでなく、静かな中にもロボット、難民問題、と、21世紀の人間の未来を占うごとき視点が刃物のように鋭く突き刺さる作品となっている。
[ライター: 仲野 マリ]
映画『さようなら』予告篇
映画作品情報
第45回 ロッテルダム国際映画祭 Voices 2016 部門出品
第39回 ヨーテボリ映画祭 FEM KONTINENTER 部門出品
英題: Sayonara
原作: 平田オリザ
アンドロイドアドバイザー: 石黒 浩
プロデューサー: 小西啓介
プロデューサー/録音/音楽: 小野川浩幸
撮影: 芦澤明子
2015年11月21日(土)より全国ロードショー!
★第28回 東京国際映画祭 オフィシャルレポート (TIFF)
10/24(土):舞台挨拶「ジェミノイドFさんの手の感触はちょっとやばいです」
10/27(火):Q&A「たった15分だった作品を、連想ゲームのように膨らませていきました」