映画『の・ようなもの のようなもの』レビュー
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映画『の・ようなもの のようなもの』

森田芳光監督への敬愛が生んだ下町人情噺(のような)映画

ストーリー

安定したサラリーマン生活を捨て、一念発起・落語家を目指して出船亭志ん米(でふねていしんこめ)に弟子入りした志ん田(しんでん)。その生真面目な性格が災いして、なかなか日の目を見ない日が続いていたが、ある日師匠から、かつて一門に在籍していた志ん魚(しんとと)を探してこいと言いつけられる。志ん田は、師匠の弟弟子である志ん水(しんすい)や昔の一門衆を訪ね歩き、何とか志ん魚を探し出そうと西へ東へ奔走するが・・・

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森田受け継ぐ愛弟子たち監督の遺志を

2016年、年明け早々おめでたいニュースが舞い込んできた。女優の北川景子が、ミュージシャン・タレントのDAIGOとの結婚を発表。二人仲睦まじい会見は、多くのメディアで取り上げられたが、もし彼女が記者会見上で「この喜びを誰か伝えたい人はいますか?」と聞かれたら― ご両親など何人もの恩人の名前をあげただろうが、おそらくその中に映画監督の故・森田芳光の名もあったに違いない。彼女にとって森田監督は忘れ得ぬ人だ。

2011年に急逝した森田監督は、言わずと知れた日本映画界の巨匠であるが、同時に女優・北川景子を見出した人でもある。映画『間宮兄弟』(2006年)のオーディションで、まだ無名の彼女を採用し、クランクアップ後には「やめないで女優を続けて下さいね」と声をかけたという。その言葉を胸に…時に支えとして、女優・北川景子の快進撃は始まった。その後の活躍は周知のとおりである。

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その恩人の突然の訃報に接した北川景子は、葬儀の席で人目もはばからずに号泣。「全然演技の経験もなかったんですけど…拾って下さって…そこから女優生活が始められたので…」と振り絞るようにして涙ながらに報道陣の問いかけに応じた姿は、今でも目に焼き付いている人が多いだろう。

彼女と同じような森田シンパは、俳優や制作スタッフなど今でも業界に多数いる。これもひとえに森田監督の人柄がそうさせているのだろうが、そうした人たちが中心となり「森田イズムのDNAを次の時代へ繋げていこう」という思いで創り上げた映画が「の・ようなもの のようなもの」だ。本作の前身にあたる『の・ようなもの』は亡き監督の映画デビュー作にあたる。きっと万感の思いで、あの世から愛弟子たちが生み出した自分の「続編」を楽しんだに違いない。

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みどころ

映画本編は『の・ようなもの』のその後を描いた下町人情劇。第28回東京国際映画祭パノラマ部門でも出品上映された2016年新春映画・注目の一本である。ヒロイン役に前述の北川景子、主人公・志ん田には森田監督の遺作『僕達急行 A列車で行こう』(2011年)で主演をつとめた松山ケンイチがキャスティングされた。その他にも、森田監督と縁が深かった、いわゆる森田組の俳優・女優が多数出演。もちろん前作からのお馴染みの面々、伊藤克信、尾藤イサオ、でんでんも健在だ。そうした豪華出演陣の中には、ほんのチョイ役で思わぬ人も起用されており、それが一つの楽しみにもなっている。

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見どころは、ロケ地・谷中の街でゆっくりと流れる平凡な日常だ。粋な江戸風情を残す噺家の日々の生活にどこかホッとさせられ、下町情緒あふれる谷中の街並みに目を奪われる。谷中と言えば昨今は“谷中銀座”と呼ばれる商店街が有名で、観光客などで賑わっているが、それはほんの一部の顔に過ぎない。一歩路地裏に入れば、都会の喧騒を忘れさせるような静寂な空間が続く。何とも言えない居心地の良い情景で、街全体がまるで一つの茶の間のようにも思えてくる。そこで往き交う、のんびりと幸せな人生をおくる人たち。森田監督が映画を通じて描きたかった世界とは、まさにこういうものだったのではないだろうか。

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谷中は、絶景の夕焼けが見えることでもまた有名で、谷中銀座の奥には「夕やけだんだん」と呼ばれる名所まである。1日の終わりに仕事帰りの人たちが、谷中の高台で足を止める。「ああ、今日も綺麗な夕焼けが見れて良かったなぁ」と思わずつぶやく。映画『の・ようなもの のようなもの』を観終えた後も、きっとそんな情調にかられることだろう。

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[ライター: 藤田 哲朗]

映画『の・ようなもの のようなもの』予告篇

映画作品情報

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第28回 東京国際映画祭(TIFF) パノラマ部門出品

邦題: の・ようなもの のようなもの
英題: Something Like Something Like It
 
原案: 森田芳光
監督: 杉山泰一
脚本: 堀口正樹
音楽: 大島ミチル
主題歌: 尾藤イサオ
製作総指揮: 大角 正
プロデューサー: 三沢和子、池田史嗣、古郡真也
出演: 松山ケンイチ、北川景子、伊藤克信、尾藤イサオ、でんでん、野村宏伸
 
2015年 / 日本 / 日本語 / カラー / 95分
配給: 松竹株式会社
© 2016 「の・ようなもの のようなもの」 製作委員会
 

2016年1月16日(土)より全国ロードショー!

映画公式サイト

この記事の著者

藤田 哲朗映画ライター・愛好家

大手出版取次会社で20代後半より一貫してDVDのバイヤー/セールスの仕事に従事する。
担当したクライアントは、各映画会社や映像メーカーの他、大手のレンタルビデオチェーン、eコマース、コンビニチェーンなど多岐にわたり、あらゆるDVDの販売チャネルにかかわって数多くの映画作品を視聴。
プライベートでも週末は必ず都内のどこかの映画館で過ごすなど、公私とも映画づけの日々を送っている。

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