映画『アメリカン・アニマルズ』トークショー
バート・レイトン監督来日!
“新時代の映画”について監督の持論炸裂!
まさかの実話!普通の大学生が起こした普通じゃない強盗事件を描いた映画『アメリカン・アニマルズ』(原題:American Animals)が5月17日(金)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショーとなる。
2004年にアメリカのトランシルヴァニア大学で実際に起きた事件を描き、アメリカ合衆国の映画評論サイト「Rotten Tomates」で満足度98%(2018年北米公開時)を叩き出した100%リアルクライムムービー。犯人は大学生4人組。狙いは図書館に保管された12億円のヴィンテージ本。犯罪初心者の彼らは、『スナッチ』(2000年)、『オーシャンズ11』(2001年)などの犯罪映画を参考に強盗計画を立て始める。
この衝撃の実話の映画化を手掛けたのは、ドキュメンタリー映画『The Imposter』(2012年)で第66回英国アカデミー賞最優秀デビュー賞を受賞し、長編ドラマとしては本作が初監督作品となるバート・レイトン。事件を起こした本人たちを劇中に登場させ、ドキュメンタリーとドラマのハイブリッドに、スタイリッシュな映像と音楽を盛り込んだセンセーショナルな作品を誕生させた。
日本公開に先立ちバート・レイトン監督が来日!5月9日(木)、ヒューマントラストシネマ渋谷でコラムニスト山崎まどかをゲストに迎えトークショーが開催された。
普通の大学生が起こした“まさか”の強盗事件
会場には抽選で選ばれた20~30代の若い観客が圧倒的に多い。お父さん、お母さん世代もチラホラと見受けられる。レイトン監督が会場の後方から姿を現すと、映画を観終ったばかりの観客から一斉に大きな拍手が湧き起こった。コラムニストの山崎まどかの「素晴らしかったですよね、この映画」の掛け声と共にトークイベントが始まった。
実際に起きた事件を映画化した理由
山崎: この事件は、2004年に起きました。どんなポテンシャルを感じ映画化したのですか?
監督: 雑誌の記事からこの事件を知りました。チャンスに恵まれ、良い家庭で育った教養のある若者4人が、自らのリスクを犯し、なぜ“まさか”の計画を実行したのか、という点に興味を持ったのです。面白いと感じたのですが、最初は良い映画になるかどうかわかりませんでした。そこで、4人が刑務所にいた時に手紙を書きました。返事には、事件を犯した動機が説明されていました。“誰か特別な人にならないと、意味のない人生になってしまう”と。そこにすごく惹かれました。ただの面白いストーリーではなく、今の時代を象徴していると直感したのです。プレッシャーに押しつぶされそうな現代の若者たちを象徴していると思いました。そこをベースにすればストーリーを描けると確信し、この事件を映画化したのです。
ハイブリッド・クライム・エンタテインメント仕立て
山崎: ドキュメンタリー映画のご出身ですが、劇映画にしようと思ったのは何か物語を見出したからですか?
監督: この作品は、自分のアイデンティティを探している若者たちが、映画というファンタジーの世界に入り込み、ちょっと行き過ぎた判断を下してしまうというものです。このストーリーを如何に面白く伝えるかを考えた時、ありふれた普通の生活が計画を企てているうちにファンタジー度が増し、その世界に入り込んでしまうという描き方にしました。音楽の使い方もカメラワークも普通とは異なります。ファンタジーの世界に入り込んだ瞬間に、犯人を登場させて強弱をつけました。やっぱり実話だと気付いてもらう目的があって、ドキュメンタリーの部分を融合させたのです。フィクションで作るバイオレンスを見てもあまり実感がなく実生活と結びつかないと思います。ドキュメンタリーの場合は、実際に起きている事なので衝撃が大きいですよね。そういう効果を狙い、今回のようなドキュメンタリーとドラマの融合という構成にしました。自分では上手くいったと思います。
山崎:フィクションとノンフィクションの境目がなくなる面白いシーンがいくつもありました。例えば本物のウォーレンが、演じているエヴァン・ピーターズの助手席に座るシーン。「これは君の覚えている通りなのか」って言うと、「違うけれど、いいんだよ」って答えています。すごくいいシーンでした。ああいうシーンはどういうところから生まれてきたのですか?
監督: 4人の話し手の記憶も信用できるのかわからないし、人の記憶というものは流動的で常に変わっていくものだということを観客にわかってほしくて入れました。実話に基づいて作られていますが、その実話がフィクションにすり替えられる部分があることを、皆さんに理解してほしかったのです。ある役者が「本当にこれって起きたんだと思う?」って僕に聞いたんです。「そうかもしれないけど、僕自身はそれを証明出来ない」って答えました。その役者が「本人に聞いてみるシーンを作ったらどう?」って提案してきたのです。そこで役者のウォーレン(エヴァン)と本物のウォーレンとが一緒に座り、そのシーンを演じるというアイディアが生まれました。
監督がこだわるユニークな演出スタイル
山崎: 多くの実録映画は、いかに似せているかを見せることがひとつの目的になっています。本作はその手法から離れた映画で、そこがユニークかつ挑発的だったと思います。その背後にはどんな意味があるのですか?
監督: おっしゃる通り実話に基づいた映画は多数あるわけです。実話に基づくというのは、監督や脚本家に作り話をする言い訳を与えていると思います。その傾向をちょっと皮肉って、「これは実話である」と最初に宣言したのです。映画を観終わる2時間後に実際の人物を登場させると、語られてきた話はどこまで本当で、どこからがフィクションなのか疑問に思われるでしょう。これは映画の世界で起こったことではなく、現実の世界で起こったことだと強調したかったのです。それを役者の演出などにも反映させました。
山崎: まさに「ベースドオントゥルーストーリー(実話に基づいた)」ではなく、「トゥルーストーリー(実話)」だなと。
実際の犯人のパーソナリティは映画に影響を与えたか
山崎: フィクションとノンフィクションの良いとこ取りをしたのですね。皆さんも思ったでしょうが、実物の4人は俳優と並んでも遜色がありませんでした。その4人のパーソナリティが、この映画のスタイルに影響を与えたのでは?
監督: おっしゃる通りだと思います。実際の4人と役者を撮影前まで会わせないようにしていました。インタビューの映像をいくつか見せ、こういう人物だよという説明には使いましたが、直接会うのを避けてもらいました。実際の人物をまねたり、彼らのルックスに寄せたり、そういうことを絶対にしてほしくなかったんですね。例えばウォーレン、彼は説得力のある、人を惹きつける人物像です。エヴァンともし会っていたら、こういう風に僕を描かないでくれ、こういう風に見せないでくれ、と言ったかもしれない。そうするとエヴァンは自分の演技が限られてしまいますよね。自分のオリジナルの解釈で演じて欲しかったのです。多くの人が言うのですが、実際の人物の方が役者よりもルックスが良いのは初めてだってね(笑)。
本人たちは映画をどう観たか
山崎: 実際に4人は映画作りに関わっています。できあがった映画を観て、4人はどう言いましたか?
監督: 実際には4人はそれほど撮影に関わっていません。まず僕が脚本を書きました。そしてその後に4人にインタビューをし、それに基づいて脚本を書き直しドラマの部分を撮りました。実際の映像部分には4人とも映っていますが、ドラマ部分に登場した本人は、ウォーレンだけです。最終版の脚本は、4人は全く知らないし、完成版を観て初めて全体像を知ったのです。彼らの感想は、「映画を実際に自分の目で観ると恥じ入る部分もある。でも真実をそのまま描いてくれている」というのが最初の感想でした。また、被害にあった図書館員の女性は、この映画をとても気に入ってくれました。この作品を観て初めて彼らのことが許せると思ったらしいです。それまでは4人のことを悪い奴らと嫌っていたのですが、若気の至りと言いますか、そういう部分を理解してくれたようです。
トークイベント終了後、ロビーには監督にサインをもらうための大行列ができていました。笑顔で気さくにサインをし、ツーショットのサービスに応じる監督の姿にファン大感激の夜となった。
[スチール撮影&記者: 花岡 薫]
《イベント情報》映画『アメリカン・アニマルズ』トークショー■開催日: 2019年5月9日(木) |
映画『アメリカン・アニマルズ』予告篇
映画作品情報
《ストーリー》時価12億円のヴィンテージ本を狙った前代未聞の強盗事件。 アメリカ・ケンタッキー州で退屈な大学生活を送るウォーレンとスペンサーは、自分が周りの人間と何一つ変わらない普通の大人になりかけていることを感じていた。 そんなある日、2人は大学図書館に時価1200万ドル(およそ12億円相当)の超える画集「アメリカの鳥類」が保管されていることを知る。 「その本が手に入れば、莫大な金で俺たちの人生は最高になる」そう確信したウォーレンとスペンサーは、大学の友人エリックとチャズに声をかける。 『スナッチ』『レザボア・ドッグス』『オーシャンズ11』などの犯罪映画を参考に作戦を練ることにした4人は、特殊メイクで老人に扮し図書館に乗り込む計画を立てる。 来たる決行日、老人の姿に変装した4人は図書館へと足を踏み入れる――。 そこで彼らを待ち受ける運命とは?これは、刺激を求めて道に迷ったアメリカン・アニマルズ達の物語。 |
邦題: アメリカン・アニマルズ
提供: ファントム・フィルム、カルチュア・パブリッシャーズ