日本アカデミー賞受賞記念
ティーチイン舞台挨拶 in 新宿ピカデリー
妻夫木聡、日本アカデミー賞のブロンズを手に凱旋!!
「日本映画はこれからもどんどん進化していく」
累計40万部を超える平野啓一郎のベストセラー小説を主演・妻夫木聡で映画化した感動ヒューマンミステリー作『ある男』。第79回ヴェネチア国際映画祭、第27回釜山国際映画祭など世界の映画祭で注目を集め、日本でも公開後に国内の映画賞を席巻した。
先日発表された第46回日本アカデミー賞では、作品賞、監督賞、主演男優賞をはじめとする主要8部門の最優秀賞を受賞するという快挙を成し遂げた。
2022年11月に公開されてから約5カ月、国内外での映画賞受賞ラッシュを受け、3月10日(金)より全国の劇場で凱旋上映が開始。そして第46回日本アカデミー賞での快挙を記念して、3月20日(月)に新宿ピカデリーでティーチイン舞台挨拶が行われ、最優秀主演男優賞を受賞した主演の妻夫木聡が登壇した。
観客の拍手に迎えられ、ブロンズを持って妻夫木聡登場!
石川慶監督からのメッセージも
温かな拍手に包まれた劇場へ、妻夫木は微笑みを浮かべながら登場。まずは遅い時間に来場してくれた観客へのお礼を述べると、「今日はせっかくなので持ってきました」と日本アカデミー賞で授与されたブロンズを披露。観客席からは思わず…といったように歓声と大きな拍手、さらには「おめでとう!」という祝福の声が響いた。
続いて、海外に滞在中の石川慶監督からイベントに向けて寄せられた、「凱旋上映にお越しのみなさま、今日はお越しいただきましてありがとうございます!公開時に、細くても、長く愛される映画になってくれればと言ったのを覚えていますが、まさにその望みが叶った気がしています。そして妻夫木さんお忙しい中ありがとうございます。授賞式の後の打ち上げも楽しかったですね。今、タイのバンコクですが、こちらの人たちからもたくさんのおめでとうをいただいてます。『ある男』、世界中もっと多くの人たちに届きますように。そして、この熱気の冷めないうちにぜひ、次の企画を!」のメッセージが読み上げられると、「今すぐ企画を立ててほしいですね」と再タッグへの意欲を見せた。
「映画化は難しい」と言われていた中での成功に喜び
一番は“監督が役者の芝居を信じてくれたこと”
観客とのQ&Aの前に、まずは司会を務めた同作のプロデューサー・秋田周平からの質問が。第46回日本アカデミー賞で最優秀主演男優賞を受賞した瞬間の気持ちを改めて聞かれた妻夫木は「もう本当に信じられなかったですね。全くいただけるとは思っていなかったんで、今でも壇上で何を話したか覚えてない」と素直な感想を告白するも、「実際トロフィー(ブロンズ)をいただいて、この重みを感じたときに、それだけ僕自身がいろんな想いを抱えてこの作品に取り組んでいたことを、すごく実感しました」と、手にしたものの重みをかみしめるように伝えた。
さらに、長らく「映画化は難しい」といわれていた同作の成功について、「やっぱり一番は、石川監督が役者の芝居を信じてくれたことが大きかったと思います。最初は脚本にもわりと細かく(指示が)書かれた部分があったのですが、みんなでブラッシュアップをしていく中で、役者を信じてくださった。余白の部分をしっかりと見せることによって、観客の皆さんにみんなの想い…特に(窪田正孝演じる)大祐が、こう思ってたんじゃないかなって部分が染み渡るような演出になっていたんじゃないかなと思います」と、監督の手腕を称賛した。
最優秀監督賞の発表時には席で号泣
「(安藤)サクラちゃんが僕を見てくれなかった」
そんな石川監督が第46回日本アカデミー賞で最優秀監督賞を受賞したときには、あふれ出る感情をこらえきれなかったといい「自分のときは全然泣かなかったのに、もう号泣しちゃって。(共演した安藤)サクラちゃんが一切僕の方を見ようとしないんですよ、あまりにも号泣してるから。もう何か、すごく嬉しかったんですよね。窪田くんが最優秀助演男優賞を獲ったときも嬉しくて『よし!』なんて言っちゃったんですけど、監督がもらったときは本当嬉しくて」と打ち明けて、観客の温かな笑いを誘った。
石川監督が手掛けたショートフィルムを初めて見た時から「日本映画にない才能を持っている」と感じたという妻夫木。初タッグを組んだ映画『愚行録』(2016年)のほか、自身が企画したWOWOWの連続ドラマW「イノセント・デイズ」(2018年)では、石川監督と組むために直談判をしたというエピソードも披露し、「ずっと石川監督の才能っを目の前で見てきたという思いが強くあったので、みんなにはっきりと認められた瞬間に立ち会えたのはすごく嬉しかった」と改めてその栄誉を喜んだ。
自分自身がやり直したいことはない
観客からの問いに、「前進あるのみが好き」と熱い持論
続く観客の質問に入る前には、席を立ち「自慢させてください」とブロンズを自身の席に。
まだ名前のプレートが付いていない状態のブロンズが存在感をアピールする中で、作品を観たばかりの観客から最初に投げかけられたのは「人生の中で自分自身がやり直したいこと」との質問。妻夫木は「難しいなあ…」と考えつつも、出した答えは「無いかもしれない」。
「『いいことも悪いことも全部含めた上で今の自分がいる』と僕は思っているので、当然自分自身が失敗だと思ったことであっても、それは糧となって僕の力になっていると思う。ただ、一つ決めてるのは後悔しないことですね。失敗してもいいから何が何でも自分がやり尽くす。だから、本当に最後の最後まで諦めずに取り組むこと、本気になることは大事なんだろうなって。妥協をすることがあってもいいのかもしれないけど、僕自身はやっぱり最後の最後まで自分と作品を信じたいって想いがあっていつも取り組んでいます。『前進あるのみ』っていう言葉が僕は好きなので、前向いて生きていこうぜ!って。やり直したいっていうのは後ろ向いちゃうことに繋がると思うんで、僕はないみたいです」と自身を振り返るようにしながら、熱い持論を語った。
変えたいものはまさかの“妻夫木”!?
今でも「芸名にすればよかった」と思う瞬間を告白
一方で「今作は国籍や生まれなど、自分では選べないものに悩んでいる人が出てくる。いいものも悪いものも含め、ご自身がの誰かと交換したい思ったもの」について聞かれると、「めちゃくちゃありますよ!『妻夫木』ですよ僕の苗字!」と即答。
「小学校から転校をするたびに『妻夫木です』と言わなきゃいけない。何で俺『佐藤』じゃないんだろうって何回思ったか。本当にそれぐらい結構大変でした。でもこの仕事をやるようになって、『妻夫木』って苗字が浸透していく中で、自分の名前を誇れるときがあったんですよね。この名字だったから僕は役者としてなんとかご飯食べられるようになったんじゃないかと思うときもある」と、珍しい苗字に対しての複雑な想いを吐露。
しかし、それでもいまだに「なぜ芸名にしなかったんだろう?」と思うときがあるといい、「病院は本当にしんどいですね。田中とか、佐藤とかが良かったなと。もう一番(体調が)きついときに『妻夫木』で行っているから、“一番キツイ妻夫木”なんですよ。呼ばれるとみんなパーッと見るから、止めてください…みたいな」とユーモアを交えながら語り、会場中を笑いで包んだ。
観る者によって感じ方の変わるラストシーンは、
未来永劫、この作品が続いていくきっかけになる
観るものによって解釈が変わる今作のラストシーンに言及した質問が飛びだすと、「最初に監督と(脚本を担当した)向井さんとご飯をしてディスカッションしてるときからいろいろ話していました。『愚行録』の時と同じで、余韻が残るような少しテクニカル感じの最後にしているんですね。演劇って特に観客の方々に想像力を掻き立てさせるようなものになっていると思うんですよ。だから一人一人観客によって感じ方が全然違うものになってくる。映画でもそういうものがあっていいんじゃないかと僕はすごく思っていて、あの終わり方が本当にいろんな人から面白かったって言っていただけて嬉しかった」と回答。
また、周囲からも本当にいろんな解釈を聞いたというエピソードを伝えると「あの終わり方っていうのは未来永劫この作品が続いていくきっかけになってると思います。そんな終わり方を石川監督と向井さんが作ってくれたっていうのは僕自身本当に嬉しいなと思いますよね。これからビデオ化されてもDVD化されても、お客さんがまた違う見方をしてくれる。もしかしたら50年後ぐらいに見たときに情勢だとか社会のいろんなことが変わってまた感じ方が変わってくる。そういう可能性を秘めた終わり方になったので」と同作の今後に向けても大きな期待を寄せた。
「分人主義」と「いい芝居」
本作テーマと役者の在り方について、真摯に回答
熱烈なファンの参加も多かった様子の今イベントでは、以前のインタビューにふれ「ご自身の俳優というお仕事は、まさに(今作のテーマである)分人主義をやっているお仕事。この作品を終えて仕事についても発展などはあるか?」という踏み込んだ質問も。妻夫木は真剣にその言葉に聞き入った後「やっぱり『演じるって何だろう』ってすごく最近考えることが多い」と自身の仕事のコアについて言及。
一時期、“上手い芝居”は「人を感動させる芝居」なのか「どんな見え方にもなれること」なのか「テクニック」なのか「ナチュラル」なのか、何がいい芝居なのか?をすごく考えたという妻夫木。コロナが落ち着いた頃には、本作で共演した窪田正孝、その妻で女優の水川あさみ、高良健吾、柄本佑らとワークショップを行ったと話し、「濱口(竜介)監督の手法で、棒読みで台本を読んでみるっていうのを参考にさせてもらってやってみたんですよ。一切抑揚をつけずに棒読みで読むということをしている時にふと思ったことがあって。例えば『今日はいい天気だ』っていうセリフがあったとして、役者は勝手に自分の感情を乗っけてしまう。でも本当に言いたい事は、今日はいい天気だってことだけだとすると、その言葉の意味をちゃんと伝えるには、僕たちの感情は邪魔になるときがあるということを発見したんです。何よりもいい芝居っていうのは多分言葉を信じることなんじゃないか、信じるっていうことがやっぱいい芝居なのかもしれないなって最近思えた。それは分人主義という考え方を通って、自分を客観的に見つめることで何となくできるようになった考え方」と、今作のテーマでもある「分人主義」の考え方に出合ったことで、自身の芝居に新たな視点が生まれたことを明かした。
「僕は日本映画に恋をした」
最後は日本映画全体に寄せたメッセージ
最後の挨拶では、「本日は本当にありがとうございました。本当に皆さんの応援があって素晴らしい賞をいただけた。僕は『ウォーターボーイズ』(2001年)で初めて日本映画にふれさせていただき、その楽しさや泥臭さやなどを肌で感じ取って、日本映画に恋をしました。みんなで作っているから、いい作品が生まれるんだという想いで今も作り続けています。この賞もみんなで勝ち取った賞。そんな日本映画はこれからもどんどん進化していくと思うので、ぜひ皆さんも応援してくださるとうれしいです」と日本アカデミー賞 授賞式でのスピーチに続いて、日本映画界全体への愛にあふれるメッセージで締めくくった。
プレスによるフォトセッションの後には、妻夫木の厚意で一般の観客による撮影時間も。さらに本人が客席に向けて自撮りをする場面も飛び出し、会場を沸かせた。
観客からの質問時、終始真剣なまなざしで耳を傾けていた姿が印象的だった同氏。穏やかな祝福ムードに包まれた場の名残を惜しむように、最後は再びブロンズを高く掲げて笑顔で挨拶をし、拍手が鳴り止まない中イベントは終了した。
[スチール撮影: Cinema Art Online UK / 記者: 深海 ワタル]
フォトギャラリー📸
イベント情報
映画『ある男』日本アカデミー賞受賞記念
|
映画『ある男』予告篇🎞
映画作品情報
《ストーリー》弁護士の城戸(妻夫木)は、かつての依頼者である里枝(安藤)から、里枝の亡くなった夫「大祐」(窪田)の身元調査という奇妙な相談を受ける。里枝は離婚を経て、子供を連れて故郷に戻り、やがて出会う「大祐」と再婚。そして新たに生まれた子供と4人で幸せな家庭を築いていたが、ある日「大祐」が不慮の事故で命を落としてしまう。 悲しみに暮れる中、長年疎遠になっていた大祐の兄・恭一が法要に訪れ、遺影を見ると「これ、大祐じゃないです」と衝撃の事実を告げる。愛したはずの夫「大祐」は、名前もわからないまったくの別人だったのだ…。 「ある男」の正体を追い“真実”に近づくにつれ、いつしか城戸の中に別人として生きた男への複雑な思いが生まれていく――。 |
脚本: 向井康介
企画・配給: 松竹
大ヒット公開中!