- 2017-10-28
- イベントレポート, ティーチイン, 第30回 東京国際映画祭
第30回 東京国際映画祭(TIFF)
コンペティション部門『グレイン』Q&A
近未来のディストピアを描く問題作!
グランプリ作品の呼び声高い『グレイン』の監督と主演俳優登壇!!
10月28日(土)、第30回 東京国際映画祭(TIFF) コンペティション部門の出品作品『グレイン』(原題:Buğday / 英題:Grain)の上映後、セミフ・カプランオール監督(脚本/編集/プロデューサー兼)、主演俳優のジャン=マルク・バール氏、プロデューサーのベッティーナ・ブロケンパー氏を迎えてのアフタートークが開催された。3人とも来日は初めてということで、日本に対する好印象と、温かい歓迎への感謝、そして『グレイン』という作品とともに来日できたことの喜びを語った。次に司会の矢田部吉彦氏の代表質問、さらに会場からの質問が続き、最後に再度矢田部氏が質問して締めくくった。
《Q&A レポート》
―― 今回の作品は、近未来のディストピアを描いていて、これまでの作風とはかなり異なります。このような作品を作ろうと思った背景をおしえてください。 (監督への質問)
カプランオール監督: 実は今回の製作は長引いて、5年の期間を要しました。その間、他の映画のため、アメリカからオーストラリア、アフリカまでさまざまな国を回り、そのおかげで、今世界中で起こっている様々な出来事を知れたのです。人間が、あまりに過剰な消費のために世界を壊している、社会に害を及ぼしていることを、目の当たりにしたのです。そこで、我々は一体なにができるのかを考えました。あらゆる種そして種族を無くしている。私たち自身も自分たちを無くしている。これは精神面だけでなく、身体についてもいえると思います。このことには、私自身も含め、すべての人間に責任があると思います。
―― 主演にジャン・マルク・バール氏を起用した決め手は? (監督への質問)
カプランオール監督: 彼の出演する映画をずっと見ていました。そこでの演技、立ち姿には、純粋さ、親密さの感情もあると思いましたが、初めて直接会った時も同じように感じたので、これは彼自身が持っている精神なのだと思い、一緒に仕事をしようと決めたのです。
―― オファーを受けた決め手は?(ジャン=マルク・バール氏への質問)
バール氏: カプランオール監督の映画ですから、脚本をいただいたらすぐに読んですぐにイエスと答える、というくらい簡単なことでした。私自身はアメリカ人とフランス人のハーフで、今はパリに住んでいます。このようなヨーロッパの作品に出られることは本当に光栄なことです。これまでも様々な国際的な作品に、英語で出演していますが、「国」という枠から離れて国際的な映画になっていくためには「英語で」というところは重要で、それによってハリウッドと真に競える作品になれると思っています。それが私のやりたいことでもあります。
―― 「ミミズ」の意味をおしえてください。 (監督への質問)
カプランオール監督: ミミズは、汚染されていない土のシンボル。周りは死の大地ですが、その一角だけ、土は生きていることを示しています。
―― そこに入るとき、靴を脱ぐのは神聖な場所だから?(ジャン=マルク・バール氏への質問)
バール氏: 私はもともとカリフォルニア出身で、近代的な社会で育ちましたが、私たちの社会は、「神聖さ」についての感覚を失ってきているように思います。ですので、この映画から学べる教訓のようなものがあるのではないでしょうか。靴を脱ぐというのは、神聖な場所に足を踏み入れることであり、私自身はそれが、過去に立ち戻ろうとしているように感じました。今私たちが直面している問題、気候変動やその他のチャレンジングな問題に、もし答えがあるとするならば、それは神聖さに対する気持ちを取り戻すことではないか、これまで人間が受け継いできたもの、たとえば儀式などは、言葉に書かれていなくても、何かしら意味がある。モスクの中に入るときに靴を脱ぐ、というようなことなどが、その例かもしれません。心の中に生きている。そういったものを、監督は作品の中で描いたのではないかと思います。
―― モノクロ作品にした理由と効果は? (監督への質問)
カプランオール監督: 今回の映画は3か所で撮影しています。デトロイト州、ドイツの4~5か所、そしてトルコ。それぞれ気候の違い、地理上の違い、建造物の違いがあり、これらを1つに結び付けるために、私の持つ技術としてはモノクロ撮影が適していると思いつきました。
もう一つ、今回の映画のネガティブなトーンを、映像としてどう表現するか。世界を異なる視点でとらえるためにもモノクロは効果があると思いました。
そして最後に、コントラストの強調。二つの勢力による報復合戦、2人の男の二面性、人生の二面性、生物と死の大地、そういったコントラストを作ることで、人生にはコントラストがあることを強調できると思いました。
―― 壁を超えるシーンなど、映像のデジタル加工はどれくらい加えましたか? (監督への質問)
カプランオール監督: CGは少ししかありません。ご覧になったものは、ほとんど実際のものです。(電磁波壁の柱としての)タワーは6本くらい作ってもらって、その後デジタル加工で数を増やしてはいます。電流のテスターは、実際に電流を流して場面をつくりました。
―― 途中で出てくる「Breath or Wheat」に込められた思いとは? (監督への質問)
カプランオール監督: この言葉こそ、映画の根本的なものを含んでいます。1000年くらい前のトルコ(アナトリア)の詩人ユヌス・エムレによる言葉です。彼は「Breath or Wheat(穀物か息吹か)」と聞かれて「穀物だ」と答えたために、薪を40本運ばなければならなくなった、というお話で、つまり、本当は「息吹だ」と答えるべきだったのです。私たちの国の文献では「息吹」は「精神」を意味するもの。今回の映画の原点はまさにここにあります。
イベント情報
第30回東京国際映画祭(TIFF) コンペティション部門『グレイン』上映後 Q&A■開催日: 2017年10月28日(土) |
映画作品情報
脚本: レイラ・イペッキチ
撮影監督: ジャイルズ・ナットジェンズ
編集: オスマン・バイラクタルオウル
編集: アイハン・エルギュルセル
音楽: ムスタファ・ビベル
音響: ヨルグ・キードロウスキー
衣装/プロダクション・デザイナー: ナズ・エルアイダ
エグゼクティブプロデューサー: ヨハネス・レキシン
プロデューサー: ナディル・オペルリ
IMDb: www.imdb.com/title/tt4073682/
Kaplan Film Production: www.kaplanfilm.com/tr/bugday.php