ボッチな元イジメっ子とイジメられっ子、死にたがり2人のひりつく再会
《ストーリー》
石田将也(声:入野自由/松岡茉優)は、小学生の頃、転校生の儚げな美少女・西宮硝子(声:早見沙織)をいじめていた。聴覚障害を持つ硝子は、コミュニケーションが上手く取れず、クラスメイトの多くに煙たがられていた。硝子の母親によりいじめが露呈すると、担任教師もクラスメイトも、将也一人に全ての責任を押し付ける。
硝子が転校し、いじめのターゲットは将也へと変わる。高校生になってもクラスで浮いた存在の将也は、まともに人の顔を見ることができなくなってしまう。自殺を決めた将也は、最後に硝子に会いに行く。硝子と将也の小学生以来の再会は、二人とかつてのクラスメイト達との関わりも復活させる。いじめの当事者達が、時を経て再び出会う時、生まれる関係とは――。
《みどころ》
「このマンガがすごい!2015」(宝島社刊)オトコ編第1位、第19回「手塚治虫文化賞」(朝日新聞社主催)新生賞受賞!など、数々の評価を受けた大今良時の漫画「聲の形」(こえのかたち)を京都アニメーション制作により映画化した本作は、動作の描写が細やかだ。重要なポイントの1つである手話の表現は、見とれてしまうほど美しい。様々なキャラクターそれぞれに感じる、外見も中身もこんな人周囲にいるかもという親近感が、世間一般に重いとされる「いじめ」というテーマを、受け入れやすくする。
いじめをしていた者がいじめられる側になる。ある種の痛快劇かと思いきやそうではない。いじめの加害者と被害者の再会を通じ、自己肯定とは何か、を問いかける。いじめをし、気が付くと一人ぼっちになっていた将也と、将也にいじめられていた硝子。二人の共通点は死を身近に感じ、自ら命を断とうとしたことがあることだ。
硝子は、将也が会いに行くと初めは戸惑い、逃げ出す。勉強した手話で語りかけると笑顔を見せてくれた硝子に、将也が伝える言葉は、硝子がもう一度生きる力になる。似た二人は互いに惹かれあう。自然なことのようだが、似ている以上に二人は決定的に異なる。将也と硝子は、いじめの加害者と被害者だ。将也が硝子に与えた傷はとてつもなく深い。なのに、硝子は将也を再び受け入れ、むしろ好意すら抱く。
文化祭に来てくれた硝子に対し、将也は、学校で自分は浮いているのだと言う。恥ずかしそうに俯く将也の手をとり、硝子は人混みを歩き出す。聴覚障害を持つ硝子は、人一倍周りを気にし、自分よりも相手を優先し生きてきた。だから将也の、小さなSOSにも気づけたのだろう。硝子は、将也に求められることで、大嫌いだった自分自身を、ほんの少しだけ受け入れる。私たちは人から求められることで、自分の存在意義を肯定できることがあるが、自分を裏切った相手に対しても、果たしてそう思えるだろうか。自分が硝子であったなら将也を赦せない、無理だと多くの人が思うに違いない。硝子にそれができる理由は、きっと映画を観れば腑に落ちる。自分の目で見て、確かめて欲しい。
[文: 宮﨑 千尋]
映画『聲の形』予告篇
映画作品情報
英題: A Silent Voice
キャスト: 石田将也:入野自由/西宮硝子:早見沙織
西宮結絃:悠木碧/永束友宏:小野賢章/植野直花:金子有希
佐原みよこ:石川由依/川井みき役:潘めぐみ/真柴智:豊永利行
石田将也(小学生):松岡茉優
原作:「聲の形」大今良時(講談社コミックス刊)
監督: 山田尚子 脚本: 吉田玲子 キャラクターデザイン: 西屋太志
主題歌: aiko「恋をしたのは」
美術監督: 篠原睦雄 色彩設計: 石田奈央美 設定: 秋竹斉一 撮影監督: 高尾一也
音響監督: 鶴岡陽太 音楽: 牛尾憲輔 音楽制作: 株式会社ポニーキャニオン
アニメーション制作: 株式会社京都アニメーション
製作: 映画聲の形製作委員会
配給: 松竹株式会社
2016年 日本 / カラー / 129分 / 映倫区分: G
© 大今良時・講談社/映画聲の形製作委員会
2016年9月17日(土)より
新宿ピカデリーほか全国ロードショー!