- 2019-4-11
- ゴールデングローブ賞, 映画レビュー, 映画作品紹介, 英国アカデミー賞
ドラッグに堕ちた息子を信じ続ける親の愛
世界が最も期待する俳優ティモシー・シャラメ、23歳。待望の最新作『ビューティフル・ボーイ』が、4月12日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ他にて全国公開される。
本作は、8年という長い歳月をかけてドラッグ依存を克服し、現在はNetflixの人気ドラマ「13の理由」の脚本家として活躍する人物と、彼を支え続けた家族の物語。音楽ジャーナリストの父デヴィッド・シェフと、ドラッグ依存症だった息子ニック・シェフが、それぞれの視点から描いた2冊のベストセラー回顧録が原作。製作は『ムーンライト』(2016年)、『ビールストリートの恋人たち』(2018年)など上質なドラマを世に送り出し、今やオスカー常連のブラッド・ピット率いるPLAN Bエンターテインメント。父デヴィッドの心情とシンクロするジョン・レノンの名曲「Beautiful Boy」が力強く胸に迫る珠玉の人間ドラマだ。
ストーリー
「息子のことで相談があります」フリーの音楽ライター、デヴィッド・シェフ*1(スティーヴ・カレル)は、深刻な面持ちでカウンセラーに切り出した。最悪のドラック、クリスタル・メス依存から息子ニック(ティモシー・シャラメ)を救い出す方法はないかという相談だ。ニックは、成績優秀でスポーツ万能、才能豊かな学生として将来を期待されていた。しかし彼は、義理の母親、幼い弟たちにとって“いい息子・いい兄”であることが求められていた。そんな日常生活の中で、ふとしたきっかけに手を出したドラッグ。次第にのめり込み、更生施設に入院することに。再発を繰り返すニックを、大きな愛と献身で包み込む父親デヴィッド。ニックの再生への旅は、まだ始まったばかりだった。
主演は若手トップスター、ティモシー・シャラメ
父親の悲痛な相談から始まる本作は、最愛の息子ニックがドラッグ依存症から抜け出す過程を父親デヴィッドの視点中心に描かれている。
地獄のような8年間に7つの治療センターを訪れ、13回再発している。観客は、親として息子の気持ちに寄り添い、手探りで依存症から抜け出す感覚を味わうことになる。
自慢の息子がドラッグという破滅への道を突き進み、絶望の淵に追い込まれ、それでも助けだそうとする父デヴィッドを『フォックスキャッチャー』(2014年)のスティーヴ・カレルが熱演。
息子ニックは、『君の名前で僕を呼んで』(2017年)で若手スターのトップに躍り出たティモシー・シャラメが演じ、第76回ゴールデングローブ賞助演男優賞にノミネートされている。撮影前に9キロの減量をし、人気やルックスだけではない、実力派としての一面を見せつけている。
ドラッグを始めるきっかけ
ニックが依存症になったクリスタル・メスは、ドラッグの中でも中毒性が強く、大変危険とされている。更生施設に入れても、再発を繰り返し、続ければ死んでしまうような代物だ。この薬物に辿り着いた原因はわからないままだが、物語が進むにつれ家族の在り方の問題が見え隠れするようになる。誰でも成長をする過程で家族と心の擦れ違いや束縛の重さを感じたことはあるだろう。特にニックの場合、ステップファミリーの中での微妙な立ち位置や父親の“自慢の息子”という期待が、いつの間にか心の重荷になっていった可能性がある。
ニックの実母と育ての母親
ニックのふたりの母の象徴的なシーンが記憶に残る人もいるかもしれない。依存症が繰り返し再発し、父デヴィッドがくじけそうになった時、支え励ましたのは元妻の方だった。依存症のニックは、実の息子だからである。更生施設から戻ったニックを義母は温かく迎え入れたが、実子に悪い影響が及びそうになった時、毅然と強い態度を貫いている。
二人とも自分の母としての役割を本能的に善意で行っているにすぎない。ニックには歯がゆさを、父デヴィッドには、息子を理解できないもどかしさを感じるだろう。どこの国にでも起こる普遍的な家族のドラマがそこにあるだけだ。ニックの身にひどいことが起こる度に、幼い頃の父子の温かい交流や幼い弟妹と無邪気にはしゃぐニックの姿がスクリーンいっぱいに映し出され、遠くの方から見守る子どもを愛する父親の愛情を連想させる。物語の全体を通して、家族のお互いの愛と支えがいかに大切なのかが伝わってくる。
伝わってくる温かいメッセージ
監督はベルギー生まれのフェリックス・ヴァン・ヒュルーニンゲン。2012年の『オーバー・ザ・ブルースカイ』で世界的に高い評価を受けている。家族の絆、理解への幻想、時の経過をテーマとして好んで描く。
この映画には、ヒーローも悪役も登場しない。普通の人々の生きている世界。多くの若者がドラッグ依存に陥り命までも落とす中、現在ニックは人気脚本家となり自己を取り戻している。しかし薬物依存症の家族にとって、たとえ更生してもいつ再発するのかわからない不安は一生つきまとう。
若手人気俳優ティモシー・シャラメを抜擢したのは、世界中の人に「ドラッグ」というテーマを身近な問題として提示したかったからだろう。知りたくない、受け止めがたい悲惨な家族の状態を扱っているのに、心に美しさと温かさが宿ってくる。深刻な問題に直面して悩んでいる人も諦めなければ必ず解決できると勇気づけられる。親にとってどれほど失望させられ、手のかかる息子だとしても、大切な我が子は「ビューティフル・ボーイ」だからだ。
*1. デヴィッド・シェフ(David Sheff)は、アメリカ心理学会から「薬物依存を理解するための優れた貢献」に対して特別賞が贈られた。12言語以上翻訳され、アマゾンの「2008年の最高の書籍」となった。さらに2009年世界で最も影響力を持つ人として“タイムが選ぶ100人”にも選出されている。 |
映画『ビューティフル・ボーイ』予告篇
映画『ビューティフル・ボーイ』インタビュー&メイキング映像
映画作品情報
スティーヴ・カレル(デヴィッド・シェフ)
ティモシー・シャラメ(ニック・シェフ)
ジャック・ディラン・グレイザー(12歳のニック)
ザカリー・リフキン(8歳のニック)
クエ・ローレンス(4歳のニック)
モーラ・ティアニー(カレン・バーバー)
エイミー・ライアン(ヴィッキー・シェフ)
ケイトリン・ディーヴァ―(ローレン)
アンドレ・ロヨ(スペンサー)(英語版)
ティモシー・ハットン( ドクター・ブラウン)
リサ・ゲイ・ハミルトン(ローズ)
エイミー・フォーサイス(ダイアン)
クリスティアン・コンヴェリー(ジャスパー・シェフ)
オークリー・ベル(デイジー・シェフ)
ステファニー・スコット(ジュリア)
リッキー・ロウ(ディス ティニー)
脚本: ルーク・デイヴィス
原作:
デヴィッド・シェフ「Beautiful Boy: A Father’s Journey Through His Son’s Addiction」
ニック・シェフ「Tweak: Growing Up on Methamphetamines」
美術: イーサン・トーマン
撮影: ルーベン・インペンス
編集: ニコ・ルーネン
衣装: エマ・ポッター
制作会社: プランBエンターテインメント、ビッグ・インディー・ピクチャーズ
2018年|アメリカ|120分|ビスタサイズ|R-15|字幕翻訳: 松浦美奈
提供: ファントム・フィルム、カルチュア・パブリシャーズ、朝日新聞社