
第3回 横浜国際映画祭 スペシャルゲスト
ジュリアン・レジ
カンヌ国際映画祭 監督週間 アーティスティック・ディレクター
「可能な限り最高の映画」を作ること。
日本の若きフィルムメーカーたちへのアドバイス
ゴールデンウィーク5月4日(日)~6日(火・祝)の3日間に横浜で開催された第3回 横浜国際映画祭のスペシャルゲストとして、世界三大映画祭の一つと称されるカンヌ国際映画祭から、「監督週間」部門のアーティスティック・ディレクターを務めるジュリアン・レジが来日。Cinema Art Onlineでは、この貴重な機会に独占インタビューを実施した。
映画祭初日に行われたレッドカーペットイベントの直前、会場に到着したばかりの彼は、タイトなスケジュールの中でも快く我々のオファーに応じてくれた。
気鋭の才能を発掘し、世界の映画界に紹介してきたレジ氏。今回の来日の目的、今月開催される第78回カンヌ国際映画祭(第57回 監督週間)の見どころ、そして彼が注目する日本映画についても話を聞いた。
日本には新たな才能を発見するために来た。
日本映画は非常に生産的で質が高い。
―― 私たちは非営利で活動している日本の映画メディア「Cinema Art Online」です。本日はお忙しい中、貴重なお時間をいただき誠にありがとうございます。
お会いできて嬉しいです。「Cinema Art Online」、素晴らしい名前ですね。
―― そのように言っていただけて大変光栄です。こちらもお会いできることを楽しみにしておりました。早速ですが、今回来日された目的をお聞かせください。
横浜国際映画祭の主催者からご招待いただき、オープニングセレモニーにゲストとして参加するために来日しました。フランスの映画祭を代表して、このような素晴らしい映画祭に参加できることを大変光栄に思っています。また、もう一つの目的としては、日本に新たな才能を発見しに来ました。
―― 今回の横浜国際映画祭では、第77回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で最優秀作品賞を受賞した『ブラックドック』(原題:狗阵/英題:Black Dog)もオープニング作品として招待されていますね。そして第78回カンヌ国際映画祭もいよいよ開催となりますが、今年のカンヌについても教えてください。
カンヌ国際映画祭には様々なセレクションがあります。特にどんな点について知りたいですか?
―― レジさんがアーティスティック・ディレクターを務める「監督週間」について是非お話を伺いたいです。
まずご理解いただきたいのは、カンヌ国際映画祭には多くの異なるセレクションがあるということです。「コンペティション」部門などの公式セレクションとは別に、並行して開催される「監督週間」(La Quinzaine)や「批評家週間」(La Semaine de la Critique)といった独立した非公式のセレクションがあります。
私が担当するセレクションである「監督週間」は、コンペティションがないセレクションで、短編、中編、長編、フィクション、ノンフィクション、実写、アニメーションなど、幅広いジャンルの映画が一堂に会し、ワールドプレミア上映されます。新しい才能を発掘する場となっています。
第57回 監督週間 ポスタービジュアル
―― 今回のカンヌ国際映画祭には日本からも多くの作品が出品されていますが、「監督週間」にも李相日監督の『国宝』(英題:Kokuho)と団塚唯我監督の『みはらし世代』(英題:Brand New Landscape)の2作品が選出されています。今回の選考について、特色や傾向などがあればお聞かせください。
日本から2本の長編映画を選出できたことをとても嬉しく思っています。まず、このことは、昨今の日本映画が非常に生産的であり、質が高いことを示しています。
選ばれた2作品は非常に異なっており、いわば相補的な関係にあります。一つはメロドラマ、もう一つはファミリー映画です。このように多様な日本の映画が同部門に存在することは、日本映画界が非常に健全であることの証左だと考えています。
日本からカンヌヘの挑戦
日本の若きフィルムメーカーとの出会い
―― 今回の来日は“日本の新たな才能”を発見することも目的と伺いました。私たちCinema Art Onlineのメンバーにはフィルムメーカーもいます。一緒に活動していたメンバーの中には毎年カンヌ国際映画祭へ挑戦し続けている恵水流生というインディペンデント映画の監督がいますが、今年のカンヌでは、その彼が制作した短編映画が「ショートフィルムコーナー」(SFC | Rendez-vous Industry)で上映されます。彼は5年間挑戦し続け、今回初めて自身の作品がカンヌで上映されることになりました。
おお、「ショートフィルムコーナー」に! それは素晴らしい! 5年間の挑戦が実ったのですね。
―― その映画は『Family and War』という作品で、「家族喧嘩」と「戦争」の類似性に焦点をあて、❝争い❞の本質とは何かを観る者に問いかけるような作品です。ここ横浜市と同じ神奈川県にある小田原市の森林の中で撮影されました。
着眼点が面白いですね。小田原での撮影も、とても興味深いです。
カンヌでの上映は、ワールドプレミア(世界初上映)になりますか?
―― SFCはマーケット上映ですので映画祭でのプレミア上映とはみなされませんが、公の場では世界初上映になります。彼の作品は最終日の5月21日に上映される予定です。
それは素晴らしいですね!機会があれば、ぜひ彼にもお会いしたいですね。
―― 彼は、「監督週間」にも毎年挑戦していたので、レジさんにそう言っていただけてとても喜ぶと思います。今回のカンヌ国際映画祭にも伺いますので現地でもお会いできるかもしれませんが、実はこの横浜国際映画祭の会場に今向かっているところです。もしよろしければ、後ほど紹介させてください。
もちろんです!楽しみにしています。
(インタビュー終了後、会場に到着した恵水監督は、ジュリアン・レジ氏と横浜の地で対面を果たした。)
日本の若きフィルムメーカーたちへ
―― 他にも日本からカンヌ(世界)を目指して映画を制作をしている人たちがいると思います。日本の若い世代のフィルムメーカーに向けて何かアドバイスながありましたらお願いします。
それは非常に難しい質問ですね(笑)。アドバイスですか…。正直なところ、不可能です。
国際映画祭でセレクションを行うためには、映画の歴史や偉大な巨匠たちに関する深い知識、いわば強固な映画文化の素養が必要です。そうした知識を基盤として、私たちは新しい才能を発見するための「目」を養っています。
決まったレシピ(成功の方程式)はありません。映画はアートなのです。アートとはイノベーション(革新)であり、クリエーション(創造)そのものです。ですから、「こうすれば選ばれる」といった具体的なアドバイスを与えることは、残念ながらできないのです。
―― アートであるがゆえに、明確な基準やアドバイスは難しいということですね。
私たちのセレクション(監督週間)でお話しすると、例えば短編部門では、毎年約2,500本の応募があります。その中から選ばれるのは、たったの10本です。
―― 約2,500本の中から10本ですか…!
ええ。ですから、選ばれるチャンスは非常に限られています。言えることがあるとすれば、とにかく「可能な限り最高の映画(the best film possible)」を作ること。それに尽きます。
―― やはりベストを尽くして、チャレンジし続けることが大切ですね。映画制作に対する意識だけでなく、国際映画祭のセレクションをする側の素養や見識についても大変勉強になりました。貴重なお話をありがとうございました。
こちらこそ。“アリガトウ”、お二人にお会いできて本当に良かったです。
この日誕生日を迎えたというレジ氏は、スペシャルゲストとして横浜国際映画祭のレッドカーペットを歩き、同じ誕生日のサプライズゲスト・江戸川コナン君と一緒に「名探偵コナン」の名ポーズを披露した。
[取材協力: 堀越 健介、菅野 充 (横浜国際映画祭実行委員長) / 通訳: 中江 和喜]
プロフィール
ジュリアン・レジ (Julien Reji)
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イベント情報
第3回 横浜国際映画祭 開催概要
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恵水流生監督 映画作品情報
《ストーリー》森の中。川辺で向き合う兵士たち。 その様子を遠くから見つめる少年・ヤマト。 響く銃声。訪れる沈黙。 ヤマトの瞳に映るものは、憎しみか、希望か。 そして、兵士たちが辿り着く運命とは――。 |