映画『翔んで埼玉 ~琵琶湖より愛をこめて~』
京都市長役 川﨑麻世 インタビュー
ディスりに愛を加えた京都市長への役作り
「京都らしさ」の表現方法とは?
映画『翔んで埼玉 〜琵琶湖より愛をこめて〜』が11月23日(木・祝)に公開される。
2019年に公開された前作『翔んで埼玉』では、東京都民によるひどい迫害に耐える埼玉県人が描かれ、麻実麗(GACKT)率いる埼玉解放戦線の活躍により自由と平和を手に入れるも、劇中で放たれた数々の“埼玉ディス”に、日本中に衝撃が走った。
そしてまさかの続編が製作され、この秋ついに公開!
舞台を関西にまで広げ「日本埼玉化計画」を進める麗だが、その旅路でなんと関西にも“超・地域格差”が存在していたことを知る――!
劇中の関西では、大阪・神戸・京都による支配のもと、滋賀・和歌山・奈良が非人道的な扱いを受けており、それぞれの地域の特徴を見事表現しきるキャラクターたちも個性豊か。
その中の一人、京都に絶対的な誇りを持つ雅な京都市長役を演じたのは、実は生まれが京都だという川﨑麻世。京都という街を背負うということに特別な想いを抱いたそうだ。日本にとどまらず世界が知る「京都」を、ビジュアルと立居振る舞いで表現し切ったその裏側にある「愛のある役作り」について、そして今の時代に腹の底から笑える作品は『翔んで埼玉』が一番だと断言するその理由を聞いた。
嬉しすぎるオファー
『翔んで埼玉』への出演はGACKTが推してくれた?!
―― 前作をご覧になっていたとのことですが、『翔んで埼玉』への出演オファーがあった際の感想をお聞かせください。
『翔んで埼玉』といえば、前作が全国的に大ヒットした映画ですよね。僕も拝見して、「(友人の)GACKTがめちゃめちゃ面白い役をやっている!」と衝撃を受け、以来大好きな作品なんです。どの役もキャラクターが立っていて、どの役でもいいから出たかったなと(笑)。今作のオファーが来たときは「あれ、GACKTが推してくれたのかな?」と思ったほどです(笑)。
―― 京都市長という役柄については、いかがでしたか?
不思議に思いつつも、すごく嬉しかったですね。大阪出身のイメージが強いかもしれないのですが、実は生まれは京都なんです。京都出身といえば、有名な俳優さんがたくさんいらっしゃいますから、選んでいただけたことが光栄です。
―― 「京都」という都市を人間性で表現していく役作りだったと思いますが、工夫されたことはありますか?
語尾に含みを持たせた話し方は意識して、「京都に対する京都人のプライド」を出すことは意識していました。
また、今回のメイクは実は自前で施しているんです。武内監督から(キャラクターの)イメージ写真を共有していただいたときに、ここまでメイクで京都を表現するんだなと感じて。これまで舞台などでは自分でメイクをすることもあったので、「自分でやりたいな」と思ったのがきっかけです。
メイクさんと相談しながら、必要なものを揃えてもらって、自前の道具も持って挑みました。若い頃に、舞台でご一緒した(坂東)玉三郎さんに教えていただいたメイク方法を参考にさせてもらいました。
着物の裾の持ち方にまで京都らしさをトッピング
―― メイク1つにも本格的なエッセンスが加味されているからこそ、滲み出ている京都感なのですね。武内監督から見せられたイメージとは、どのぐらいの再現率なんですか?
5倍以上は誇張してますね(笑)。
メイク以外にも、衣装は着物を着て「洛中」と書いてある扇子を持っているのですが、どう立ち振る舞えば「粋な京都人の男」に見えるかは計算しました。
着物といえば(大阪府知事を演じた片岡)愛之助さんなので、現場で相談しながら着物の扱い方を教えていただいたり、「今のシーンでは(裾を)持たない方がいいよ」など細やかなアドバイスをいただきました。
―― 今回の役を演じるにあたって参考にした人物などはいますか?
この人!という人はいないのですが、2010年に『阿国歌舞伎~いいご縁をさずかりに~』という舞台で、名古屋山三郎という粋な歌舞伎男の役を演じたときの立ち振る舞いや佇まいは活かしました。歌舞伎ってもともと京都の四条河原が発祥の地で、阿国という女性が始めたんです。その阿国が恋した名古屋山三郎の立ち振る舞いが参考になりましたね。
悪役なのに憎めないキャラクターたち
『翔んで埼玉』の名物とも言える、「愛のあるディスり」
―― 京都も「ならでは」のアイコンが登場するなど個性的に描かれていますが、「これは誇張しすぎ!」と思ったことはありますか?
(山村)紅葉さんが出てくる=京都みたいなイメージ。一瞬で毒々しい京都を感じさせるあの雰囲気は、個人的にはすごく好きなんですけど、あれはやっぱり見る側にとっての京都のイメージだと思いますね(笑)。京都の女性がみんなあんな感じではないです(笑)。
あとは、「洛中」*という言葉がよく出てくるのですが、京都の人にとって洛中ってめちゃめちゃこだわりがあるみたいなんですよ。「京都生まれの中でも洛中に住む人が京都人、それ以外の人を京都人とは呼ばないで」というくらい。あまりにもプライドが高くてそう呼ばれることを嫌がる人も多い中で、あえて京都のブランドとして強調していたのはすごいなと思いました。
* 洛中とは、現在の上京区、中京区、下京区にあたる京都市の中心部のこと。
―― 逆に「これは京都らしいな」と思った部分はありますか?
京都を表すシーンは、色がすごく綺麗でしたね。「これは京都だな」という赤色の鮮やかさ、京都の良さを色で表現しているのは監督のセンスだと思います。一瞬にして「京都の良さ」を感じました。
―― 多くの観客が「京都だ」と認識できるよう細やかに演出されているのだと感じました。完成した作品を観て、ご自身ではどう感じましたか?
この茶番さがすごく今の世の中の流れに合っているんじゃないかなと思いました。大きく世界が開いて、新しい世の中になってきちゃって、みなさん実はちょっと疲れているんじゃないかなと思うんですよ。
SNSのコメントが中心となって世の中が動いている、だから自分の意見は言いづらい。そういう風潮に疲れてるんじゃないかなって中で、こういう馬鹿馬鹿しい作品を観て、緊張感を解いてリラックスしてもらう。思いっきり「馬鹿だな」と笑える作品は、もしかしたら『翔んで埼玉』が一番じゃないかなと思うんです。
実際に試写会で観たときに一瞬で終わってしまって、観終わったあと、かなり体がリラックスしたんです。劇場でですよ。これってとても大事で、これがもっともっと全国的に広がっていったときに、『翔んで埼玉』という映画がどこまでブレイクして、新しい流れを作ってくれるか、楽しみですね。
―― この映画に救われる人も、きっと多くいるのではないでしょうか。
各都道府県だけではなくて、誰しもディスられたら嫌な一面って持っていると思うんですよね。自分でコンプレックスに思ってること。だけど、実はコンプレックスの中にこそ愛おしさがあるというか、プラスの要素がいっぱいあるんだよっていう。この映画を観て、そういう捉え方に気づけると嬉しいですね。
マイナスの要素をプラスに持っていける力が、めちゃくちゃ込められてる作品ですから。そういう意味でも、世の中を変えてくれるんじゃないかなって期待しています。
今の時代にこそ『翔んで埼玉』が必要だ
―― マイナスをプラスへ変える力。確かに、この映画でなら「そうそう、こういうところある〜!」ってマイナスも笑い飛ばせますね。
今の時代、自由に発言することがどんどん難しくなっていますよね。正直つまんないなって、僕は思ってしまいます。本当に言いたいことを、自分の意見として言える人はすごいと思う。
でもこの映画は、愛をもったディスりの力を見せてくれた。もちろん、いじめはだめですよ。だけど、この映画によって思い切り笑って、ニコニコしながら「うちの出身県は〜」と「愛のある都道府県ディスり」をして、自分のルーツに愛着を持てるといいですよね。
[ヘアメイク: 梅原 愛美 / スタイリスト: 慶田盛 麻実]
フォトギャラリー📸
プロフィール
川﨑 麻世 (Mayo Kawasaki)1963年3月1日生まれ。13歳で芸能界入り。1983年劇団四季「CATS」出演を皮切りに、現在に至るまで数多くのミュージカル、舞台で活躍を続ける。 主な出演作に、映画『トリック劇場版』(2002年)、『ヒッチハイク』(2023年)、『ゾン100~ゾンビになるまでにしたい100のこと~』(2023年)、ドラマ「シロでもクロでもない世界で、パンダは笑う。」(2020年/NTV)などがある。 |
映画『翔んで埼玉 ~琵琶湖より愛をこめて~』予告篇🎞
映画作品情報
《プロローグ》その昔、東京都民からひどい迫害を受けていた埼玉県人は自由を求め立ち上がった。 麻実麗・壇ノ浦百美をはじめとする埼玉解放戦線の活躍により通行手形制度が撤廃され埼玉は平穏な日常を手に入れた。 しかし、それは単なる序章に過ぎなかった…。 さらなる自由と平和を求め、埼玉の心をふたたびひとつにするため、埼玉解放戦線は次なる野望へと突き進む。 〜日本埼玉化計画・第Ⅱ章 東西対決〜 遥か西の地・関西へと飛び火したこの事態は東西の天下を分かち全国をも巻き込む大事件へと発展していく。 史上類を見ない壮絶なディスバトルの火蓋が今、切られようとしていた――。 |
脚本: 徳永友一