
映画『Page30』
唐田えりか × 林田麻里 × 広山詞葉 × MAAKIII
毎日の撮影はまるで戦いのよう
今までの人生で積み重ねたものを全て曝け出した作品
それぞれ切実な事情を抱える4人の女優たち、平野琴李(唐田えりか)、宇賀遙(林田麻里)、宮園咲良(広山詞葉)、樹利亜(MAAKIII)は、とあるスタジオに集められ、30ページの台本を渡される。
稽古から舞台本番まではたったの4日間。演出家や監督も不在の異様な閉鎖空間で、やりたい役を掴むため、4人は稽古に打ち込んでいく――。
DREAMS COME TRUEの中村正人プロデュースによる、堤幸彦監督作品、映画『Page30』が4月11日(金)に「渋谷 ドリカム シアター」他、全国の映画館にて公開された。
本作で主演を務めた4人の女優たちにインタビューを行い、どのような現場で撮影が行われたのか、その裏側を聞いた。
―― まずは、皆さんがどのような経緯でご出演されたのかをお聞かせください。
広山: 私はもともと堤組に参加させていただいていました。ただメインというよりは端役が多かったのですが、『truth ~姦しき弔いの果て~』(2022年)という映画を堤さんが監督で、私がプロデューサー兼主演で作らせていただきました。その経緯があって、今回お声がけをいただきました。
唐田: 私は堤監督は初めましてだったのですが、今回直接オファーをいただきまして決まりました。
MAAKIII: 私はもう、運命のいたずらですね。運命のいたずらが飛び交っている中に巻き込んでもらったという感じです。身近にいるやばい人と、もっとやばい人がなんかやばいことやるということになって、うわ〜やばそうと思っていたら、巻き込まれていたという感じですね。
林田: 私は堤監督の作品に何作か出させていただいていて、出会いはもう20年ぐらいになると思うのですが、私が出る芝居を観に来ていただいたりすることもあって、今回出てみませんかというお話をいただきました。
MAAKIII: 私は堤監督には初めてお会いしましたし、映画の現場というものをあまり経験したことがなかったのですが、林田さんと広山さんは、堤監督との信頼関係が出来上がっているので、最初からホーム感があって現場が暖まっていました。
広山: 堤監督の現場はいつもアットホームで、作品を面白くすることはもちろんなんですが、現場を楽しませることも大切にされている方だと思っています。監督自身がエンターティナーなんです。
―― 皆さん、女優を経験されてきています。ご自身と本作で演じた役(琴李、遙、咲良、樹利亜)がリンクする部分はありましたか?
広山: あえてだと思いますが、脚本の中に「お芝居がしたいからどんな小さな役でも受けるし、自分で企画プロデュースもしている」というセリフがありまして、それはもう本当に当て書きをされているという感じです。
脚本家の井上テテさんとは、彼の劇団にも出させていただいたことがありますし、一緒に映画も作ったことがあるので、私のことを知り尽くしてくださっていて、要所要所私に当てて書かれていました。
唐田: 私はそれを言うと、琴李は意地悪な役でもあるので、当てて書かれてたら…ってなりますけど(笑)。私は実際には琴李のように強めの発言をするような性格ではないとは思うんです。
広山: 本当にすごい柔らかい人。背の高い赤ちゃんみたい(笑)。
唐田: でもエネルギーというか、自分の中で渦巻いているものが、ここ数年体の中にパンパンになっているというイメージがあるんです。自分の持っているそのエネルギーと、琴李が持っているエネルギーがリンクした感覚がありました。なので、演じにくいとは思いませんでしたね。
MAAKIII: 役との戦いと、自分との戦いと、なんかもう全てが自分の中での戦いでした。
堤監督に、役作りのために何を準備したら良いかアドバイスくださいって言ったら、「そうだね、キックボクシングやったほうがいいんじゃない?」って言われて。え?って思ったのですが、素直に取り組んでみたんです。キックボクシングってやっぱり自分との戦いじゃないですか。そこで生まれる破壊的なエネルギーみたいなものを体感してほしかったのかなって思いました。
演じている時は、体の奥底をかきむしってえぐって、もがくみたいなものをすべて見せつけなきゃいけないというようなおぞましい感情が自分の中に渦巻いていたんですが、クランクアップして解放されたら忘れちゃったりするんですよね。もうあんまり思い出せないです。
広山: 私もリングに上がるというような気持ちだったかもしれません。舞台に上がって撮影をしに行くというより、毎日リングに上がって試合をしに行くような気持ちでした。
林田: 私は井上テテさんとご一緒するのは初めてだったのですが、私が出てる舞台を見てくださっていたようです。私の役だけでなくみんなに言えることなんですが、今まで演じてきた役柄から来る外から見られているイメージと、素の時のイメージとが混ざって今回のキャラクターになっているような気もしますね。
自分の役についてですと、学生の頃から芝居をやってきていて、映像だろうが舞台だろうがなんでもやってきたというところは自分の俳優人生と似ているなと思います。でも遙の秘密は私とは違いますし、ああいった場は経験していないです(笑)。
まあでも、お芝居大好きというか、自分からお芝居を取り上げたら何も残らないだろうなというところは遙と似ていますね。
山田佳奈が書いた珠玉の劇中劇「under skin」
―― 役の中でさらに役を演じる(劇中劇)というのは難しかったと思いますが、それを演じるにあたって意識した点を教えてください。また、劇中劇「under skin」の4つの役の中でどの役が自分に合ってると思いましたか?
一同: おおー!面白いですね。(「under skin」のどの役が合っているかは)考えたことなかったです!
広山: 堤監督は明確に観せたい画があって、本当に細かく演出をつけてくださるんです。例えば、この場面では帝国劇場にいると思って芝居をしてとか、この場面ではザ・スズナリだと思って芝居してというように、劇場の名前で芝居の大きさを指示していただいたり、このセリフはどこの劇団の誰々さんみたいに演じてなど明確に指示がありました。
私は声も変えて七変化でやるようなキャラクターだったので、監督の指示の元でやっていたので、そこに迷いはなくて、演出に沿ってどうやっていけるかなという意識でした。
唐田: 感覚的にお話ししますと、普段は琴李として台本に沿ってお芝居をしている感じです。劇中劇での演技の感覚は、常に琴李を演じながらエチュードをしているというような感じでした。
林田: 私も同じような感覚でした。自分の役が演技をしているという感じで。それが難しいかと言われたらそうなのかもしれませんが、設定的に4人とも「under skin」の全部の役をやりますよね。なので必然的に自分が演じる役を使ってやるしかないですね。そうなると、実は遥役と遥の演じる4役って、そんなに差がないという感覚でした。
4人それぞれのキャラクターがあって、それを活かしながら「under skin」の4役をやるので、どの役が向いてるとか好きかというよりも、どの役をやってもその人の色が反映されているのかなと思っていて、どの役を自分がやっても面白いし、他の方がやっているのもそれぞれの役や俳優自身が投影されていて、面白いなって思いながら見ていましたね。
MAAKIII: よく考えたら、「under skin」の脚本がめちゃくちゃ好きなんです。普段あまり本とかも読まないんですがこれはすごいと思って。そういえば、映画の脚本をもらうよりも先に「under skin」の脚本をもらったんです。
一同: 確かにそうだ!
MAAKIII: もらった時には意味がわからないと思いつつも、すごく魅力的な、普段聞いたことのない言葉が羅列してあって、日本人としてこれはみんなが知っている言葉なの?と結構錯乱状態になりました。これを監督は全部覚えろって言っているのかと。
でも、肌感としてはものすごく好きなんです。耽美な感じが。覚えなきゃいけないというプレッシャーはありましたが、樹利亜という存在に救われている自分がいました。
樹利亜でガス抜きができたというか。そしてまた、樹利亜で溜まったものを劇中劇の役でガス抜きするみたいな。だからだいぶ発酵していましたね。
―― 劇中では閉鎖的な空間に閉じ込められて、しかも3日間で台本を覚えなくてはいけないという状況です。かなりのプレッシャーだと思いますが、ご自身が同様の状況になったら、どのような行動をすると思いますか?
広山: 本当に3日間というわけではなかったですが、私たちはあの空間に毎日通って、窓もなく完全に遮光な状態で昼も夜もわからなく、終わって外に出たら夜になっていて、また朝早くにそこに入ってと、ちょっと異様でしたね。
―― 実際には何日くらいで台本を覚えられたのですか?
広山: 1カ月もなかったと思います。
MAAKIII: 誰がどの役をやるかというのが定まっていないので、非常に難易度が高かったです。特にえりかちゃんはすごいスピードでセリフを言わないといけないから信じられないです。神様に見えました。
唐田: いつもは一人で淡々としゃべって覚えているのですが、今回は一言一句間違えちゃいけないっていうのもあって、母が家に来てくれていたので練習に付き合ってもらいました。
私も追い込まれていたのでピリピリしがちで、母が他の3人の役のセリフを読む時に、感情を入れて読んでくるからすごいやりにくくて。「ただ読んでくれればいいんだよ!」などと言ってしまいました(笑)。
MAAKIII: あんな温厚なえりかちゃんが。
林田: 実は私も同じことが起こっていて、初めて母に相手してもらっていたのですが、母もそんなこと頼まれたのは初めてだったのですごい頑張ってノリノリでやってくれたんです。でもそれがすごくやりにくくて(笑)。「ごめん、普通に読んで」ってお願いしました。
唐田: 母親たちに支えられましたね。
DREAMS COME TRUE 中村正人は歩くパワースポット
―― エグゼクティブプロデューサーの中村正人さんから何か指示やアドバイスはありましたか?
MAAKIII: 一回も現場には来なかったような…。
広山: 差し入れ入れてくださいましたよね。美味しいプリンを持ってきてくれました。
MAAKIII: そうだ、そうでした。私プリン好きじゃないので、なんでプリンなの?って思いながら食べてみたら、めちゃくちゃ美味しくて。治一郎のプリン最高でした。そこからハマっちゃいました。なので中村さんのイメージはプリンでした(笑)。
広山: 現場で指示ということはなかったのですが、すごく覚えているのは主題歌をレコーディングした時に、えりかちゃんの順番が一番最後で、私と林田さんは早く録り終えちゃって、中村さんと一緒に本編を観るという贅沢な時間がありました。
中村正人のオーディオコメンタリー付き上映みたいな、あんなに楽しそうに映画を観る人は初めてみました。本当に楽しんで映画を撮ってくださったんだなと、私たち全員をハッピーにしてくれました。こんなに周りを幸せにしてくれる方っていないと思います。
唐田: 私も衝撃でした。なんて心が綺麗なんだろうと、パワースポットのような感じです。関わっているみんなにパワーを届けてくださっているのが感動的でした。
広山: 「渋谷 ドリカム シアター」っていう映画1本に収まらないエンターティンメントの場所を作ろうとしてるということもすごくて。誰も思いつきませんよね。行動力が半端なくていつも驚かされます。
主演4人からのメッセージ
―― 最後に、この映画を観る皆様へメッセージをお願いします。
唐田: 今回はセリフ量だったり時間だったりとすごい大変な作品でしたが、結果的には自分の中でとても楽しかったと感じています。楽な場所ではこの感覚は得られないなと思っていて、自分に課題が与えられている厳しい環境の中でしか得られないものがあるんだなと気づきました。これからも挑戦していきたいですし、自分にとって厳しい場所に行くことをやめないでいたいと思っています。
日々皆さん息苦しいことはあると思いますが、その中でもちょっとした楽しさを見出せたり救いになることってあると思いますので、頑張っている人のパワーになったら良いなと思っています。
林田: 女優という人間たちのある一部を覗き見できる作品です。でも女優の話であるようで一生懸命生きている人の話だと思いますので、同じく一生懸命に生きている皆様に観ていただけると嬉しいです。
がむしゃらな姿をお見せしていますが、今回の4役もそうですし、私たち自身の生きてきた様が映画に表れていると思います。観ていただいて頑張ってみようかなとか、どなたかの代弁者になれたら嬉しいです。
広山: この映画は夢を叶えるということが一つのテーマだと思っています。女優のバトルではあるんですが、本当に夢に向かって一生懸命生きている4人の話なんです。
中村さんがYouTubeで語っていたことなんですが、夢を見ること自体も大変で自分が戦うことをやめたら絶対に手に入りません。夢に向かって戦っているこの4人の話は、何かにもがいたり苦しんだりしている人にこそ観てほしい作品だと思っています。
MAAKIII: 同じ苦しみでも、諦めて苦しむよりも諦めないで苦しむほうが良いなと思っています。叶えたい状況に100%到達できるかというのは誰もわかりませんが、私ももちろんわかっていません。でも私は夢を追うということは執念だと思っていて、それが生きる活力になっているはずです。
「under skin」の中では女性は命を断ってしまうんですが、生きるにしても死ぬにしてもものすごい執念を描いた作品だなと感じています。そういった執念の部分を皆さんと一緒に共有できたらと思っています。自分一人で戦っていると思いがちですが、味方はたくさんいるよと、お守りのようにしてほしいです。一緒にもがき苦しもうぜ!って。
プロフィール
唐田 えりか (Erika Karata)2015年、女優デビュー。2018年、濱口竜介監督作『寝ても覚めても』(2018年)で映画初主演を飾り、第42回山路ふみ子映画賞で新人女優賞、第40回ヨコハマ映画祭で最優秀新人賞を受賞した。第77 回カンヌ国際映画祭で国際批評家連盟賞を受賞した『ナミビアの砂漠』(2024年)にも出演。大ヒットとなったNetflixオリジナルシリーズ「極悪女王」(2024年)では長与千種を熱演し話題に。他に公開中の映画『死に損なった男』(2025年2月公開)に出演。『海辺へ行く道』が2025年晩夏に公開を控える。 [ヘアメイク: 江指 明美 (mod’shair) / スタイリスト: 三島 大輝]
[衣装: KAKAN(ジャケット、スラックス、シャツ)、その他スタイリスト私物]
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林田 麻里 (Mari Hayashida)2000年に福岡から東京に拠点を移し、映画『殺し屋1』(2000年)への出演を皮切りに、これまでに70本以上の映画、60本以上のドラマ、50本以上の舞台に出演し続け、TV・映画・演劇と幅広いジャンルの第一線で活躍し続ける。主な出演作に映画 『アキレスと亀』(2008年)、『人魚の眠る家』(2018年)、『ガチ星』(2018年)などがあり、2013年には舞台での演技が評価され、第48回紀伊國屋演劇賞の個人賞受賞を果たした。 [ヘアメイク: 奥野 展子]
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広山 詞葉 (Kotoha Hiroyama)
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MAAKIII2005年よりロックバンド「HIGH and MIGHTY COLOR」の女性ヴォーカルとしてメジャーデビュー。デビューシングル「PRIDE」でオリコン初登場2位を記録し、同年に初の全国ワンマンツアーの実施、第47回日本レコード大賞では新人賞を受賞した。その後、2008年にバンドを脱退し、2013年より「MAAKIII」名義でソロ活動をスタート。現在はバンド「DracoVirgo」のヴォーカルとしても活動中。アーティストとしてキャリアをスタートさせる傍ら、映画『あなたを忘れない』(2007年公開)に初主演し、女優としてもデビューを果たした。 [ヘアメイク: 山井 優 (BELLEZZA STUDIO) / ヘアメイク: 藤井 エヴィ]
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映画『Page30』予告篇🎞
映画作品情報
《ストーリー》とあるスタジオに集められ、30ページある台本とともに4日後に舞台公演を行うとだけ告げられた4人の女優たち。演出家や監督不在の異様な閉鎖空間で、理由や説明も無いまま連絡手段も没収され、疑心暗鬼の中で熾烈な舞台稽古を強いられる。 二流の役者、売れない役者、大根役者、言われるがまま演じることに満たされなくなった役者…。 稽古をしていくにつれ、切実な事情を抱えた4人それぞれの事情が浮き彫りになり、ついに4日目、不気味な仮面をつけた謎の観客たちが見守る中、絶対に失敗の許されない“とある仕掛け”が告げられ、舞台の幕が上がる。果たして彼女たちを待ち受ける驚きのクライマックスとは————? |
渋谷 ドリカム シアター他 全国映画館にて公開!