映画『もみの家』坂本欣弘監督インタビュー

【写真】映画『もみの家』坂本欣弘監督インタビュー

映画『もみの家』

坂本欣弘監督インタビュー

家族との絆や人間関係が修復するきっかけとなる作品に

心に不安を抱えた若者を受け入れる〔もみの家〕で生活することになった不登校の少女の一年間の成長を描いた映画『もみの家』。実際に一年という時間をかけて撮影されたロケ地である富山県の風景と、そこに生きる人々のこの上なく優しい心をみずみずしく描いた本作が3月20日(金・祝)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか、全国で公開される。

【写真】映画『もみの家』メインカット

本作はデビュー作『真白の恋』(2017年)で主人公・真白の拙い恋心の機微を自身の出身地・富山県の美しい風景と共に丹念に映し出し、第32回高崎映画祭にて新進監督グランプリ、第4回なら国際映画祭や第11回福井映画祭で観客賞を受賞した坂本欣弘監督による二作目の長編映画作品。題材選びや主演オファーなど、監督自ら企画から取り組んだ本作への想いや、初の挑戦となった一年を通しての撮影について話を聞いた。

【写真】映画『もみの家』坂本欣弘監督インタビュー

一年という撮影期間を初めて経験して

―― 『もみの家』は企画から坂本監督が立ち上げたということですが、本テーマを題材に選んだ理由をお聞きかせください。

テーマで選んだというよりも、富山を舞台にした映画を前作『真白の恋』(2017年)に引き続き、本作でも撮りたかったんです。その上で映画になりそうな題材を探していて、手に取った二冊の内の一冊が乃南アサさんが書いた「ドラマチック チルドレン」という本で、1990年代の赤髪ヤンキーがシンナーを吸ったことが原因で自立支援施設に入ることになる話なのですが、今の時代と合わない部分もあったのでそのまま映画にするのは難しいかなと思いました。けれど、この作品の中で描かれている自立支援施設については題材として扱えるのではないかと思ったんです。全国にこうした自立支援施設は存在していて、直にお話を聞きに施設へ伺いました。

「不登校の子たちと触れ合って農作業をやりつつ、自立を促していく。自分で作ったものを食べて、それが自分の血となり骨となる上で、成長していく。土に触れていくことがいいことなんだよね」といったお話を施設の方から実際に伺って、この話で映画を作ろうと思いました。

【写真】映画『もみの家』場面カット

二度とやりたくないと思うぐらい大変だったという撮影を経て

―― お米の収穫と同じように実に一年かけて撮影を行うという、とても丁寧な作品という印象を受けました。四季を通しての撮影期間中、どんなことが印象に残っていますか。

本音を言えば、もう二度とやりたくないと感じるぐらい大変な撮影でした(笑)。 例えばこれは映画の製作自体に関わることですが、「撮りきれない撮影が出てくるような撮影をやっている」と感じたこともありました。

四季をまたぐということはそれなりに予算もかかりますし、出演者たちの撮影スケジュールの確保や、撮影日の天候も気にしなければなりません。「もしかしたらこの作品、完成しないかもしれない」とも途中、何度か思いました。一本の映画を撮ることの難しさについて、ものすごく考えた一年だったように思います。

【写真】映画『もみの家』場面カット

―― 坂本監督が自ら主演に選んだ南沙良さんについてお聞かせください。

僕が南さんにオファーを出した理由は『幼な子われらに生まれ』(2017年/三島有紀子監督)を観て、そこに出ていた子役たちがみんなものすごくいい芝居をしていたんですね。中でも南さんがいい芝居してるなあと思って、企画の段階でオファーを出しました。

僕が会った時はまだ彼女の初主演作『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』(2018年/湯浅弘章監督/蒔田彩珠とのW主演)はまだ公開前でしたが、その本編を観た時、改めていいなと思いました。クランクインや衣装合わせの時に「普通の女の子」という印象が強かったのですが、本読みの際に、彼女だったら自分が危惧していることを全て取っ払って彩花役を任せられるなと感じました。

クランクイン時は緊張していて、そのまま現場が進んでいきましたけど、ポッキーのCMが決まり、午後の紅茶のCMが決まり、あれよあれよと露出が増えて。彼女の芝居に対する意気込みは当初からきっと変わっていないと思いますが、一年の撮影期間を通しての女優としての風格はクランクイン時と比べると別人のように変わったなと感じました。

芝居に関しては順番に撮っていく順撮りのスタイルを取っていたのですが、「役柄が心を開いていく。その過程を自分で感じました」と本人が言っていました。“そういうこと”を実際に感じて言える役者ってなかなかいないと思うんです。すごく良い役者だなと思いました。

キャストへのリクエストは「その場で役を生きてほしい」

―― 緒形直人さんはじめ、他のキャストの皆さんとはどのようなお話をしながら作品作りをしていったのですか。

基本的には「その場で、役を生きてほしい」とリクエストしました。台本はあるけれど、そこからは感じられないリアルな感情が湧き出てきたり、やりたくなることがあると思うので。「自分がここでちゃんと生きて、台本とは違うこと、台本にないことを言ってもいいんだ」と。間違っていることに対してはこだわり強く言いますけど、「それはダメです、あれはダメですと抑制することはないので、基本的には自由にやってください」と伝えました。最後にOKか否かは自分が判断する形をとりましたね。

生きることが苦しくなる理由は場所ではなく、人

―― 本作の舞台は『真白の恋』に引き続き富山県ですが、坂本監督が思う富山の魅力を教えてください。

富山を舞台に撮影している映画作品が多いんです。木村大作監督は時代劇すらも富山で撮っているぐらい、360度、どこを切り取っても絵になるよとおっしゃっています。ロケーションがまず魅力的ですし、北陸新幹線が開通したことでアクセスも良い。富山県のフィルムコミッションの手厚いサポートがあるので、富山の魅力というよりも、富山で映画を撮る魅力になっていますね(笑)。人が生きずらく感じる理由は場所ではなく、人だと思っています。僕は富山出身で、いま現在も富山に住んでいますが、やっぱり人が良いですね。

【写真】映画『もみの家』坂本欣弘監督インタビュー

―― もみの家のような施設が全国に存在し、心救われる人が数多くいる一方で、存在を知らずに苦しんでいる人もまだまだ多いと思います。この作品が広く知られることで彩花のように心の拠り所が生まれる人がたくさんいるのではないかと思いますが、監督ご自身、この作品にどんな想いを込めていますか。

もちろんこの作品が不登校や引きこもりの方が成長するきっかけや、一歩背中を押すような映画になればいいなとは思っていますが、もみの家がそのきっかけとして一番理想の場所だとは思っていません。

僕が本作を通じて一番何が言いたかったかというと、劇中で泰利(緒形直人)が彩花(南沙良)に「息子さん、泣いてたんだぞ」と言うセリフがあるんですけど、例えば小さなことで家族と喧嘩して、疎遠になっていくような人もいっぱいいると思うのです。どんどん気まずくなって、家族に対して強がって突っ張っていたけど、いつか相手が死んでしまう時が来る。

そういう時というのは急にやってくるものです。小さな喧嘩をして疎遠になっている人たちに対して、突っぱねずに一言謝ったり、ありがとうと感謝の気持ちを伝えることで再生していく家族というものもあるのではないか。家族の絆も含め、関係性の修復につながるような作品になればというメッセージを込めました。

【写真】映画『もみの家』場面カット

―― 最後に、この作品をこれからご覧になる方に向けてメッセージをお願いいたします。

この作品は、不登校や引きこもりの成長だったり、生と死を通じた命の大切さが描かれています。それらを通して人との繋がり、食や地域が人を育てるということなど、普段見落としてしまいがちな当たり前のことが大事なのだと思えるような作品になっていると思いますので、ぜひ劇場で観ていただきたいです。

【写真】映画『もみの家』場面カット

[インタビュー: 蒼山 隆之 / スチール撮影:久保 昌美]

プロフィール

坂本 欣弘 (Yoshihiro Sakamoto)

1986年生まれ、富山県出身。
大学在学中に、映画監督の岩井俊二が主宰するplay worksにシナリオの陪審員として参加。その後、冨樫森や呉美保らのもとで助監督として活動。2011年より映像制作会社を立ち上げ、富山と 東京を拠点 にCM、PV、VP、テレビ番組などの制作を行う。

デビュー作『真白の恋』(2017年)で、主人公・真白のつたない恋心の機微を自身の出身地・富山県の美しい風景と共に丹念に映し出し、第32回高崎映画祭にて新進監督グランプリ、第4回なら国際映画祭や第11回福井映画祭で観客賞を受賞するなど、国内における映画祭において映画ファンの心を鷲掴みにした。

【写真】映画『もみの家』坂本欣弘監督

映画『もみの家』予告篇

映画作品情報

【写真】映画『もみの家』ポスタービジュアル

《ストーリー》

めぐる季節の中で少女を成長させたのは、豊かな自然と生命の神秘。心に不安を抱えた若者を受け入れる〔もみの家〕に、16歳の彩花(沙良)がやってきた。不登校になって半年、心配する母親に促されうつむきながらやってきた彩花を、もみの家を主宰する泰利(緒形直人)は笑顔で招き入れる。慣れない環境に戸惑いながらも、周囲に暮らす人々との出会いや豊かな自然、日々過ごす穏やかな時間が、彩花の心を少しずつ満たしてゆく――。

《もみの家について》

不登校、ひきこもり、ニートなど、様々な問題を抱える人々が共同生活を送りながら、自立に向けて動き出すための「宿泊型・自立支援塾」。実際に日本各地にこのような施設があり、場所により受け入れる対象年齢は様々。また、自然とふれあい、農作業を日々の日課にするところもあれば、場所や環境により自立への契機を見出す取り組み方はそれぞれ違っている。本作で取材協力いただいたのは、特定非営利活動(NPO)法人 北陸青少年自立支援センター「PeacefulHouse はぐれ雲」(通称:はぐれ雲)と、その代表 川又直さん。1980年から今の活動を始め、はぐれ雲を開設したのは1988年のこと。このように心の問題を持つ人達が、農業や自然に触れることで、農業・生産の活性化を図る取り組みは、ノウフク〈農林水産省と厚生労働省が中心となっている農業と福祉の連携事業〉などの国家事業としても注目を集めている。

はぐれ雲HP: https://www.haguregumo.jp/
ノウフクHP: https://noufuku.jp/

出演: 南 沙良、緒形直人、田中美里、中村 蒼、渡辺真起子、二階堂 智、菅原大吉、佐々木すみ江
 
監督: 坂本欣弘
脚本: 北川亜矢子
音楽: 未知瑠
主題歌:羊毛とおはな「明日は、」(LD&K)
製作:映画「もみの家」製作委員会
制作プロダクション:コトリ
配給:ビターズ・エンド
2020年/ 日本/ 105分/ 5.1ch / シネスコサイズ/ カラー/ デジタル
文部科学省選定 (少年向き、青年向き、成人向き、家庭向き)
選定日: 令和元年11月
 
©2020 「もみの家」製作委員会
 
2020年3月20日(金・祝)より
新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー!
2020年2月28日(金)より 富山県先行上映中!
 
映画公式サイト
 
公式Twitter: @mominoie_movie
公式Facebook: @mominoie.movie

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