映画『不能犯』白石晃士監督インタビュー
見つめるだけで人を殺すダークヒーロー宇相吹を多田は止められるのか?
腐敗した世の中に蔓延る邪悪な願いを叶えるダークヒーローを描いた映画『不能犯』が2月1日(木)に公開される。不能犯とは、思い込みやマインドコントロールで殺すなど、目的は犯罪だが、常識的に考えて実現が不可能な行為。たとえ相手が死んでも罪には問われない。原作は集英社「グランドジャンプ」に連載中の人気コミック。松坂桃李が演じる主人公・宇相吹正(うそぶき ただし)は視線だけで人を死に導く。この立証不可能な犯罪を新感覚スリラー・エンターティンメントに仕立て上げたのが、『貞子vs伽椰子』(2016年)の白石晃士監督だ。ホラー以外の作品は珍しいという白石監督に、作品に対する思いを聞いた。
―― 監督を引き受けようと思った『不能犯』の魅力は?
オファーを受けたとき、「とりあえず原作を読んでください」と言われて、初めて読みました。自分がいつもやりたいと思っていることと通じるものが根底にあると感じましたね。ある意味、露悪的とも言えるような、ちょっと邪悪な方面からの描き方や見せ方で真実めいたことを描こうとする。そんな要素を原作から感じたことと、ホラーではないものもやりたかったので、「ぜひやってみたい」と返事をしました。
―― 連載が続いている作品の実写化はハードルが高かったのでは?
連載中であっても、それまでの要素で十分映画にできると思ったので、その点は気になりませんでした。撮影直前でしたが、原作者の方に「宇相吹の正体を明かすつもりはありますか?」と聞いたところ、「わからない」とのことでしたが、映画でも宇相吹の正体を明確にはせず、お客さんに任せる描き方が一番だと思って脚本を作っていたので、これで正解だったなと思いました。
―― 共同脚本ではどのように分担や話し合いをしましたか?
共同脚本は以前にも経験はあります。今回は前の仕事が続いていたので忙しく、山岡潤平さんとは打ち合わせをした上で、まず山岡さんに書いていただきました。そして私が撮影に合わせ、最終的に手を入れたという進め方です。脚本はいつも「もっと時間がほしい」と思ってしまいます。それは映画全体にも言えることですけれど(笑)。
―― 映画に出てくるエピソードを原作の中から選んだ基準は?
登場人物の年齢やそれぞれの立場が被らず、できるだけバリエーションがあるものという狙いでバランスを考えました。ただ、長編映画にするためクライマックスに至る縦軸として連続爆破事件をオリジナルで入れました。
―― 白石監督のこれまでの作品の印象から、高校生がターゲットになるエピソードが入ると思っていました。
エピソードの候補には、高校生が登場するものもありました。ただ、学校のシーンが1つ入るだけでも、生徒のエキストラをかなり用意しなくてはいけない。作品全体の中でそのシーンの比重が強くなります。揃えたいキャストの年齢、ロケーション現場など様々な要素を総合的に考えて、高校生のエピソードは消去しました。もちろん、中身のバランスもあります。
―― 主人公の宇相吹を演じた松坂桃李の印象は?
原作の宇相吹にはお茶目なところもあります。手塚治虫さんのヒョウタンツギみたいな感じで、ズッコケとまではいきませんが、甘いものが好きだったり、猫と戯れたり、家賃が払えなくて追い出されたり。そんな可愛らしいところが、原作では描かれています。ただ、実写映画でそれをすると緩い感じになってしまう。かといって、緩さをすべて排除すれば邪悪になりすぎる。松坂くんは基本、とても優しい方です。その優しさを微妙に感じさせながら、やっていることや表情は邪悪。彼が演じることで生じる奇妙なバランスが実写版の宇相吹には合っていたと思います。気品のようなものも感じられましたね。松坂くんが持っている人間性がそういう風に思わせたのでしょう。
宇相吹がやろうとしていることは何なのか、目指していることは何なのか、を想像してもらえたらうれしいですね。
―― ウロコの模様が入った宇相吹の黒いスーツは監督のこだわり?
原作もネクタイには複雑な柄が入っています。映画ではネクタイだけでなく、スーツやエンジ色のシャツ、ブーツもよく見ると模様が見えてくる。遠くから見たときと、目を凝らしたときでは見え方が違う。これによって、宇相吹が人に仕掛けることを視覚的、潜在的に表現できると思ったのです。と同時に衣装が皮膚のようなイメージもあり、基本的に爬虫類のようなウロコ柄が中心となりました。血管をイメージして指にタトゥーもつけてみました。
―― 宇相吹がターゲットにマインドコントロールを仕掛けるとき、その様子が相手によって違うのはなぜ?
マインドコントロールは受ける人によって受けとめる感覚が違います。宇相吹もターゲットに応じて違うコントロールをしています。万華鏡のイメージを基本に、目眩のような回転する効果も加え、ターゲットごとにデザインを変え、何度も修正してもらいました。
―― 宇相吹を追う刑事の多田を男性から女性に変えた意図は?
プロデューサーから提案があったのですが「刑事まで男ではアシスタントが女の子でも、原作よりも男臭い映画になってしまうので、多田を女にすることで、実写の世界における見た目の華やかさ、男と女だからこそ見え方に幅が出て面白くなりそうだと思い、多田を女性にする提案に賛成しました。熱血漢的な要素があり、美しくて、キリッとしたところを見てみたいと感じる人を探して、沢尻エリカさんにお願いしました。
―― 白石監督ならではのシーンは?
白石っぽさを感じるホラー的なシーンということであれば、夜目刑事が宇相吹に舐められた後の手首でしょうね。あそこは「期待」してください。
―― 次はどんな作品を考えていらっしゃいますか。
ホラー、バイオレンス、コメディいろいろありますが、いずれも危険な要素は入っています。これからも、基本的には倫理に抵触するような危険な娯楽映画を作っていきたいと思っています。
[インタビュー: 堀木 三紀]
監督プロフィール白石晃士(Koji Shiraishi)1973年生まれ、福岡県出身。主な監督作品は、『暴力人間』(1997年)、『ノロイ』(2005年)、『オカルト』(2009年)、『グロテスク』(2009年)、『超・悪人』(2011年)、『カルト』(2013年)、『戦慄怪奇ファイルコワすぎ!シリーズ』(2014年)、『ある優しき殺人者の記録』(2014年)、『殺人ワークショップ』(2014年)、『鬼談百景(密閉)』(2015年)、『ミュージアム-序章-』(2016年/WOWOW)、『貞子vs伽椰子』(2016年)など。 |
映画作品情報
《ストーリー》絶望をあやつる殺人者。希望で闘う女刑事。 |
新田真剣佑、間宮祥太朗、テット・ワダ、菅谷哲也、岡崎紗絵、真野恵里菜、忍成修吾、水上剣星、水上京香、今野浩喜、堀田茜、芦名星、矢田亜希子、安田顕、小林稔侍
監督: 白石晃士
脚本: 山岡潤平、白石晃士
© 宮月新・神崎裕也/集英社 2018「不能犯」製作委員会
2018年2月1日(木) 全国ロードショー!
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