映画徹底解説トークイベント開催!
「強烈な表現力を持つストーリー」とモーリー・ロバートソン
「監督はジャーナリスト」と堀潤
「価値観が変わった」と木佐彩子
巨匠クリント・イーストウッド監督最新作『15時17分、パリ行き』(原題: THE 15:17 TO PARIS)が、3月1日(木)より、丸の内ピカデリー、新宿ピカデリー他全国にて公開となる。
2015年8月21日、イスラム過激派の武装した男が554名の乗客を乗せたアムステルダム発パリ行きの高速列車タリスで乗客全員の無差別テロを企てる。この「タリス銃乱射事件」はヨーロッパ旅行中の若者3人が果敢にもテロ犯に立ち向かったことで被害が最小限に抑えられた。本作は若者3人がテロに遭遇するまでの生い立ちとテロの真実を描く。クリント・イーストウッド監督は主演や列車内の乗客に事件の当事者を起用し、究極のリアリティを追求した。
日本公開に先立ち、開かれた試写会の上映前に、トークイベントが行われた。登壇したのは、モーリー・ロバートソン、堀潤、木佐彩子の3人。ジャーナリストのモーリー・ロバートソンが本作のアメリカでの評判の背景を解説するとともに、世界におけるテロの実態について、堀潤と意見を交わした。さらにアメリカ育ちの木佐彩子が自身の経験と子育て中の母親の視点で映画の魅力を語った。
クリント・イーストウッド監督はテロ問題を描きつつ、銃規制に揺れるアメリカを炙り出す!
開始前からスクリーンでは作品の予告編を上映。観客の期待が高まったところで、司会者が本日の登壇者3人の名前を読み上げ、モーリー・ロバートソン、堀潤、木佐彩子が舞台に上がった。司会者が3人に挨拶をお願いすると、モーリーが堀と木佐に「まずはみなさん、座って」と仕切り、「今日は司会者がたくさんいますからね」と観客を笑わせ、場を和ませた。 本作はアメリカで賛否両論が起こっていると司会者が切り出すと、モーリーが「クリント・イーストウッド監督の銃に対する考え方」と「主演や列車内の乗客に事件当事者を起用」、「トランプ政権」の3つの角度から作品を観ることができると解説。
まず、クリント・イーストウッド監督が全米ライフル協会の大会で、そこにいないはずのオバマ大統領がいるかのような一人芝居をして、オバマ大統領を批判するパフォーマンスをしたことを挙げ、「クリント・イーストウッドは上品そうだけれど、ガンクレージーな人なのではと懸念を持っている人もいる」とした。その上で、「この作品は自分がクリント・イーストウッドに対して持っていた人としての懸念と切り離されました」と試写を観た感想を述べた。ただ、「銃や軍人に対して強い意見を持っている場合は、観方によっては映画の中でその先入観やバイアスが強まるかもしれません」と付け加えた。
主演や列車内の乗客に事件当事者を起用した点については、「ヒロイックなことをした人たちをフィクションで再構築をするのは不純ではないかという意見もある」とし、「ご覧いただいて判定していただきたい」とした。
3つめのトランプ政権については、「今のアメリカは全てが政治の小道具」とし、トランプ大統領がフロリダ州の高校で起きた銃乱射事件の遺族をホワイトハウスに招き入れたとき、「学校に銃火器に熟練した教師がいたら、襲撃をもっと早く終わらせることができたかもしれない」と全米ライフル協会寄りの発言をしてしまったことに触れ、アメリカ人が銃に関して感情的な状況になっていることを話しながら、「日本ではちょっと距離を置いて、作品性の角度から観る人が多いかもしれません」とアメリカと日本では、受けとめ方に違いがあるだろうと考えていることを示した。
堀潤がクリント・イーストウッドの監督としての手腕を絶賛!
モーリーの話を受けて、堀は作品を「事件に至るまでの経緯を振り返り、その中に社会問題と向き合うための私たちの気づきをどう持っていくかを上手に散りばめている」と解説した。ネタバレを心配しつつ、「起因となるものを注意深く丁寧に描きながら、ラストシーンを導き出し、非常に完成された映画だった」、「現代社会が直面している問題に対して何ができるかという当事者性を喚起させていく内容になっているところも巧み」と絶賛。「もう一回観たい」と言って、これから試写が始まる観客をうらやましがった。
銃規制については、自身がロサンゼルス留学中にコネチカット州サンディフック小学校銃乱射事件(2012年)が起こり、当時のロサンゼルスを取材した経験から、ロス市警が自宅にある銃を持ってきた人に食品クーポンを引き換えとして渡した話を出し、「単なる銃の問題ではなく、目に見えない貧困などいろいろな問題が見え隠れした」と当時を振り返る。「そういう要素も含めて本作を描いたクリント・イーストウッド監督をジャーナリストだなと思いました」と評した。 また「タリス銃乱射事件」をキャスターとして伝えた堀は「社会がテロの問題をどう受け止めていくのか。分断なのか、排除なのか。それともダイバーシティ(多様な人材を積極的に活用しようという考え方)なのかを問われる時代感だった」と当時を振り返る。そして「彼ら3人がどう向き合ったからこそ解決できたのか。この作品はいちばんコアな部分を描こうとしている」という。また、「30年紛争と向き合ってきたアフガニスタンでは、子どもたちが銃のおもちゃを使うのを止めようという運動が始まり、銃器おもちゃの販売を禁止する法律ができたが、それにもいろいろな賛否の声がある」と取材で聞いた話を披露し、現在進行形のテーマとして、事件を見ることの重要性を述べた。
子育て中の人こそ見てほしい!価値観が変わるメッセージを内包
司会者は木佐には子育て中の母親としての感想を尋ねた。「子育てをしていると日々悩むことがある」木佐はヒューマンタッチな部分に心動かされたという。「この作品に10年くらい前に出会えていたら、子育てがちょっと違ったかなと思うくらい価値観が変わりました」。事前に観た試写の余韻にまだ浸っている木佐も堀と同様に、「これから試写を観る人がうらやましい」と言い、「長く生きていると価値観が固まってしまう。この作品はそれを解してくれ、(子育て中の親にとって)こういう視点があるというメッセージも入っている」と観客の期待をさらに高めた。
貧困が入隊を促進 アメリカ軍が抱える問題を提示
主人公3人のうち、2人は軍人だったことから、モーリーが軍人についても触れた。「アメリカで軍人と言ったとき、それぞれの出身、背景、家族の所得や地位によってイメージが違う」。すると堀が「沖縄で海兵隊の取材をし、ニューヨーク大でジャーナリズムを学んだというエリート将校に話を聞いた。彼によると沖縄にやってくる海兵隊の若者たちは、社会に順応できず、就職先もなくて、海兵隊になった。彼らに社会性を持たせるために、沖縄の人に英語を教えたり、一緒に掃除をしたりと300以上のボランティアプログラムを組んでいる。ただ、今は入隊希望者が多いが、景気が良くなれば海兵隊も不足すると語っていた」と話し、軍内部にも格差がある具体例を示した。
さらにモーリーはアメリカの社会が抱える問題として、帰還兵のPTSD(心的外傷後ストレス障害)を指摘する。彼らは国のために血を流してまで戦ったと思っているが、リベラルな人たちから「君はただ、誰かのコマとして悪いことをしてきた」と人格を否定されて傷ついている現状を説明。「トランプが選挙期間中に傷ついた軍人たちをステージに上げて褒め称えたことで、軍人が家族も含めて熱狂してしまった。それが今のトランプの現象の裏にある。クリント・イーストウッドの演出でその要素が作品に少しずつ浮かび上がってくる」と作品に関連付けた。
最後にひとことを求められると、モーリーは「クリント・イーストウッドの発言による物議や現在進行形の銃乱射事件というフィルターを通して映画を観ましたが、作品性が強く、私としてはクリント・イーストウッドの言動と作品は別の領域だった。むしろ、この作品を観た若い人たちがインスピレーションを受けて、トランプ大統領に替われというかもしれない。それくらい強烈な表現力を持つストーリーだった」。堀は「世界中で起きている紛争、テロ、貧困。何も問題は解決していない。そういった世界の混乱や不条理に対して目を向けるためのいい機会。作品をいろいろな人に広げていってほしい」。木佐は「誰かのため、役に立てる。必要とされる。これは人間の生きる上でのパワー。子どもだけでなく、部下を育てる場合にも参考にしてほしい」とイベントを締めくくった。
イベント情報<映画『15時17分、パリ行き』映画徹底解説トークイベント>日時: 2018年2月22日(木)18:30~ |
映画作品情報
テロの<真実>に迫る【実話】
|
脚本: ドロシー・ブリスカル