- 2022-10-29
- イベントレポート, セレモニー, 映画賞/アワード, 第35回 東京国際映画祭
第35回 東京国際映画祭(TIFF)
黒澤明賞授賞式
イニャリトゥ監督と深田晃司監督がW受賞🏆
賞金は双方共に自身の活動先へ寄付
日本が世界に誇る故・黒澤明監督の業績を長く後世に伝え、新たな才能を世に送り出して行きたいとの願いから、世界の映画界に貢献した映画人、そして映画界の未来を託していきたい映画人に贈られる賞として、2008年(第21回)以来14年ぶりに復活した黒澤明賞。選考委員に山田洋次監督、俳優の仲代達矢、原田美枝子、作家の川本三郎、東京国際映画祭プログラミングディレクターの市山尚三の5名を迎え、選考の結果、映画『バードマン:あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(2015年)、『レヴェナント:蘇りし者』(2016年)が2作品連続でアカデミー賞監督賞を受賞したメキシコの映画監督、脚本家、映画プロデューサーのアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥと、最新作『LOVE LIFE』(2022年)が第79回ヴェネツィア国際映画祭コンペティション部門に選出され、コロナ禍においては小規模映画館支援のためのクラウドファンディング「ミニシアター・エイド基金」を立ち上げたり、俳優やタレントら芸能従事者の心のケアを目的とした「芸能従事者こころの119相談窓口」設立など多岐にわたる活動を行なっている映画監督の深田晃司の2名が選出された。
10月29日(土)、帝国ホテル3階の富士の間にて同賞の授賞式および晩餐会が行われた。
東京国際映画祭チェアマンの安藤裕康による挨拶では、ニューヨークから昨晩到着したばかりのイニャリトゥ監督から、授賞式の前に行われたガラ・セレクション部門出品のNetfilix映画『バルド、偽りの記録と一握りの真実』の記者会見にて黒澤明監督と日本文化を称賛するコメントをいただいたこと、「黒澤作品の全体に通じるテーマは何か」と、黒澤明監督の親族とお話した際に「正義と人間愛だろう」とのコメントを受けたことに触れ、「今日の日本と世界で起こっているさまざまな出来事において、まさにその二つこそが今、最も必要なものではあるまいか」と、黒澤明賞復活の意義を改めて明言し挨拶を締めくくった。
その後、株式会社カプコン 代表取締役会長最高経営責任者(CEO)の辻本憲三によるトロフィー授与が執り行われ、受賞者二人によるスピーチが披露された。
イニャリトゥ監督「黒澤明作品が、いかに世界で評価され、自分の作品も影響を受けているか」
今回、深田監督と共に受賞できたことへの喜びを表した後、自身が初めて東京を訪れるきっかけとなった長編映画監督としてのデビュー作『アモーレス・ペロス』(2002年公開)が第13回東京国際映画祭にて東京グランプリを受賞した時の思い出や、『バベル』(2006年)の撮影では5カ月日本で暮らしたこと、北海道の荒野を娘と共に修行僧のように巡ったことや、奈良で陶芸家の師匠に陶芸を教わったこと、そして今回は自分と日本文化の関係を彼に知ってもらうべく、息子と共に来日したことなどについて感慨深げに語った。
その上で、イニャリトゥが日本文化、音楽、本、そして映画にどれだけ影響を受けてきたかについて強調し、黒澤明監督は巨匠の中の巨匠、映画の殿堂の中の神だと思っていること、世界中の映画作家が彼の作品を大事に思っていると同時に映画の中で描かれている人間性やその複雑さについて大いに影響を受けたことを明かした。
『羅生門』(1950年)は、『アモーレス・ペロス』(2002年)に、『七人の侍』(1954年)は『レヴェナント』(2015年)に、『生きる』(1952年)は『ビューティフル』(2010年)にその影響が見て取れると語り、今回の賞金はイニャリトゥ監督がモンテレー大学(UDEM)と一緒に立ち上げた、故郷メキシコのモンテレイのスカラーシップファンド「Reconoce R scholarship」に寄付すると表明した。
深田監督によるスピーチ「賞金は芸能従事者こころの119相談窓口へ寄付したい」
黒澤明監督の『野良犬』(1949年)を地元での上映会で観たことをきっかけに、10代の頃より貪るようにさまざまな作品を観てきたという深田。「黄金時代と言われていた時代は、監督もスタッフもスタジオとの専属契約という形で、安定した雇用の中で優れた映画を量産することができたが、テレビの普及とともにそのシステムは崩壊し、みんなフリーランスになった。雇用の形態の変化に業界が対応しきれなかったと考えている」「今非常にスタッフ、俳優は不安定な状況で働いており、今回のコロナでさらに厳しいことになった。経済的にも非常に厳しく、俳優でも自殺する方が増えてしまった。芸術文化に携わる、評価に晒され続ける大きなストレスを抱え、コロナ禍でさらに仕事をなくしていく。心の芸術に携わる人たちの心を、どうケアしていくか。これが大きな課題となっていると思います」と、俳優やスタッフ、映画監督、演出家など、フリーランスの芸能従事者の心の健康をどう守っていくかが課題だと、昨今の業界を取り巻く問題を提起した上で、本賞金を、日本芸能従事者協会でやっている「芸能従事者こころの119」というハラスメントやコロナストレスなどの相談窓口の存続のために寄付をすると表明。最後に、一番好きな黒澤作品に『どですかでん』(1970年)を挙げ、本受賞スピーチを締めくくった。
その後、フォトセッションが行われ、5名の選考委員や、2年連続でTIFFのポスタービジュアルの監修を手掛けたコシノジュンコなど多くの来賓に見守られる中、ブルーに染まる会場が大きな拍手喝采に包まれ、授賞式は終了した。
フォトギャラリー📸
イベント情報
第35回 東京国際映画祭(TIFF) 黒澤明賞授賞式■開催日時: 2022年10月29日(土) |
第35回 東京国際映画祭(TIFF) 開催概要■主催: 公益財団法人ユニジャパン(第34回東京国際映画祭実行委員会) TIFFCOM2022 開催概要■主催: 公益財団法人ユニジャパン |