映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』ヨン・サンホ監督インタビュー
【写真】映画「新感染 ファイナル・エクスプレス」ヨン・サンホ監督

映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』
ヨン・サンホ監督オフィシャルインタビュー!

第69回カンヌ国際映画祭を筆頭に世界156カ国から買い付けオファーが殺到、各国で圧倒的な⼤ヒットを果たし、世界規模で話題を席巻した超ド級ノンストップ・サバイバル・スペクタクル・アクション映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』(原題:부산행 / 英題:Train to Busan)が、9⽉1⽇(⾦)より全国ロードショーとなる。

日本公開に先駆けて来日したヨン・サンホ監督のオフィシャルインタビューをお届けします。

―― 現実では起こりそうにない状況をリアルに描かれていましたが、最も重点を置かれた部分はどこですか?

まずは登場人物の行動パターンを、平凡なものにするという部分に重点を置きました。キャラクターについては、庶民を描きたかったです。特殊部隊の要員や大統領などといった特殊な人物ではなく、我々が日常的に接する平凡な人物のドラマを描こうと思いました。

映画「新感染 ファイナル・エクスプレス」

―― 感染者の演技がそれぞれ違った個性があったのが印象的で、より魅力的に見えました。モブシーンが多かったですか?

振付師の先生にお願いして、感染者の動きを作ろうと思いました。それで振付師の先生とミーティングをしたら、この作品の前に『哭声/コクソン』(2016年)で同じような仕事をしたそうです。ナ・ホンジン監督は徹底的に準備するスタイルですよね。『哭声/コクソン』では尺の短いシーンでした。それなのにすごくたくさん準備してこられたのです。実際に使うのは1つなのに。僕はうれしかったです。“これと、これと、これに”というふうに決めました。『哭声/コクソン』の制作チームに感謝します。

第一感染者03

―― 監督は“平凡な人物を描きたかった”とおっしゃいましたが、そういった設定にした理由はなんですか?また、コン・ユさんの職業をファンドマネジャーにした理由も教えてください。

僕の作品は全てそうなのですが、権力関係の話をする時も、上流階級の話より、庶民のドラマや争いを描くのが好きです。僕は上流階級の人間ではないのでよく知らないし、日常的な人々のドラマを描くのがいいと思ったからです。それから主人公のソグの職業をファンドマネジャーにしたのは、この映画を撮る前に、自問自答したことの1つが、世界の終末を描く時にどんなテーマにすべきかについてです。

観客は気付いてないかもしれませんが僕は、成長中心の社会で我々は次世代に何を残してやれるかという大げさなことを考えながらこの映画を企画しました。なので自然に主人公の職業を、成長を代弁できるものにしようと思ってファンドマネジャーに決めました。

映画「新感染 ファイナル・エクスプレス」

―― 韓国での記者会見で、コン・ユが「韓国では馴染みのない素材」とおっしゃっていましたが、ご自身のゾンビ映画への思いや、韓国でのゾンビ映画事情などについて教えていただけますでしょうか。(低予算ゾンビ映画は世界中の若手クリエイターが挑むことの多い題材かと思われますが、韓国ではそうでもないのでしょうか?)また、馴染みのない素材を作ろうと思った動機は何ですか?

韓国にゾンビ映画がまったくなかったわけではありませんが、ゾンビという素材自体が韓国人にとって馴染みのない存在だったのは事実です。また、ゾンビの外見も大衆が好むような要素ではないので、韓国ではゾンビを素材にした大型の映画が作られることはほとんどありませんでした。

でも私が『新感染 ファイナル・エクスプレス』(以下『新感染』)を作る頃は、若い世代がゾンビに対して関心が高まっていた時期でもあり、映画にはあまり登場していませんでしたが、漫画、特にウェブ漫画ではゾンビを素材とした作品が盛んに作られていた時期でもありました。そのため、当時、すでにゾンビは大衆にアピールできるジャンルになったのではないかと考え、初めて手掛けることになり、規模の大きな映画を作ることができました。

映画「新感染 ファイナル・エクスプレス」

―― ゾンビ映画+鉄道パニックというアイデアはどこからきたのでしょうか?参考にした作品はありますか?(感染者がトンネルに入ると動きを止める、攻撃対象が見えなくなると攻撃性が弱まるなどの描写は、過去の作品を参考にされたのでしょうか?)

ソウル・ステーション/パンデミック』(2016年)というアニメーションを企画していた時、投資・配給会社から『ソウル・ステーション』を実写映画としてリメイクしてみないかという提案がありました。それなら、同じ映画をアニメから実写にリメイクするよりも、新しい作品を作った方がよいと思い、ゾンビが列車の中で急速に増えていく状況を描く映画を企画することになりました。

そのような企画を思いついた理由は、コーマック・マッカーシーの『ザ・ロード』(2009年)のような、滅亡していく世界の中での父と息子の関係、違う世代同士の物語を描いてみたいと考えていたからです。そしてスティーブン・キングの『ミスト』(2007年)のように、閉ざされた空間での群衆と人間の心理をアクション映画として作りたいという考えも同時に持っていました。

その結果、『新感染』を企画することになりました。プサン行きのとても狭い列車の中で展開するアクションを構想していたところ、韓国で列車に乗ると、数多くのトンネルを通ることを思い出し、トンネルをゾンビの特徴と結びつけたら新しいアクションを作れるのではないかと考え、ゾンビのいろいろな特徴を作り出しました。

第一感染者01

―― 公開後の一般の反応を聞いて、特に監督が嬉しかった反応はどんなことでしたか?(「家族で観られる」「おばあちゃんたちが見に来た」などのリアクションが嬉しかった、という話を聞いたので)またブームになっているな、と感じた具体的なことはありましたか?

『新感染』は韓国で予想以上の人気を得たので、以前はゾンビに全く興味のなかった高齢の方々も映画館に観に来て、ゾンビの特徴について話していたのを聞いたと知人が話してくれました。そのような話を聞くと不思議で、面白いとも思いました。 また、小さな子どもたち、特に小学生の間で『新感染』ごっこが流行り、ゾンビを鬼にした鬼ごっこの遊びができたという話も聞きました。かつてゾンビ映画は韓国でマイナーなジャンルでしたが、『新感染』がきっかけで普遍的なジャンルになったことがとても嬉しかったです。

―― カンヌ国際映画祭でも絶賛され、スティーヴン・キングを始め世界中の著名人も「最高!」と言っています。どういう要素が、こういった評価につながったと思いますか?また、そういった海外の著名人や監督などと話す機会(メールやりとり)などはありましたか?(あった場合、どんな言葉をかけられたか、もらったかなども)

(海外の著名人や監督とは)個人的に連絡を取り合ったことはありませんが、記事などを通して、ありがたいことに、『新感染』を楽しんで観てくださったという話は聞いていました。『新感染』のどんな要素が人気につながったのかについては、私も常に考えていますが、おそらく登場するキャラクターが普遍的な人間の姿だったから、多くの方が共感してくださったのではないかと思います。

第一感染者02

―― 今回日本を訪れる初めての機会ですか? 日本の映画監督で好きな監督、もしくは出演させてみたいなあと、注目している俳優はいますか?また、特に日本のアニメーションで、影響を受けた監督や作品はありますか?

(今回の)来日は初めてではありません。2008年頃、日本で短編アニメーションの上映があって東京に行きました。去年もミーティング(打ち合せ)のために日本に行ってきました。別府で行われた映画祭に行ったこともあります。そんなふうに日本には何度か行きました。

私は日本の映画や監督が好きで、日本のアニメーションも大好きですし、日本の漫画もよく見ています。好きな監督は本当に大勢いますが、具体的に名前を挙げると、中島哲也監督、アニメーション監督の中では今敏監督も大好きでした。子どもの頃に影響を受けたのは押井守監督、大友克洋監督、宮崎駿監督。他にも、アニメーション監督の湯浅政明監督の作品は最近、興味深く観ています。今でも、それらの監督のファンとして作品を待っています。漫画家では、古谷実さんの作品をいつも楽しみに待っています。

日本の俳優に関しては、名前はなかなか思い出せませんが、日本映画をたくさん観ているので興味を持っている俳優もかなりいます。

カンヌが愛してやまない男ら02

―― アニメーション作品を作ってきた経験が、初の実写作品の撮影で活かされたところ、もしくは意識したシーンはありますか?

韓国でアニメーションは低予算のジャンルなので、限られた予算の中でアニメーション映画を作った経験が超大作映画を作る上で役立ったと思います。『新感染』は特別なアクションが多い映画だったので、アニメーション監督の経験を活かして、それぞれのシーンを自由に想像し、それを具現化するために他のチームと話し合うプロセスが楽しかったです。今回の撮影の楽しみでしたね。

―― “釜山を目指す”となったのは(原題にある釜山行きが示しているところ)、KTX の終着駅という、単に地理的なものだったからでしょうか?

終着駅という地理的な理由からです。終着駅という印象を与えてくれることが大事だと思いました。列車が最後に到着する所が決まっているという点が、まるで終末に向かっていく本作の内容とも重なるからです。

それぞれの人生も終わりが決まっていますから、人生の比喩としても終着駅の印象を与えてくれるイメージが大事だったのです。韓国にはいろいろな終着駅がありますが、最も代表的な終着駅と言える釜山(プサン)駅に到着する、つまり終着駅に向かっていくストーリーという意味で原題を『부산행〔プサン行き〕』(英題: Train to Busan)に決めました。

ヨン・サンホ監督P

[インタビュー/映画メイキング&場面カット: オフィシャル提供]

監督プロフィール

ヨン・サンホ  (Yeon Sang-ho)

1978年、ソウル生まれ。祥明大学西洋学科を卒業。初めて監督した作品は短編アニメ『Megalomania of D』(1997年)で、その後も『D‐Day』(2000年)、『The Hell』(2003年)、『The Hell: Two Kinds of Life』(2006年)、『Love Is Protein』(2008年)といった短編を発表した。初めて手がけた長編アニメは『豚の王』(2011年・未)。ヤン・イクチュン、キム・コッピが声優として参加し、韓国社会におけるヒエラルキーがもたらす悲劇的な人間模様を描いた同作品は、カンヌ国際映画祭の監督週間部門に出品され、社会派インディーズ作家としてのヨン監督の名声を一躍高めた。続いて2013年にエセ宗教を題材に社会の闇をえぐり出した長編第2作『我は神なり』(2017年10月21日公開予定)を発表。長編第3作『ソウル・ステーション/パンデミック』(2016年)では、格差社会の底辺に生きる人々を主人公に、ソウル駅周辺で発生したウイルス・パンデミックの恐怖を衝撃的なストーリー展開で描き上げた。ブリュッセル・ファンタスティック国際映画祭シルバークロウ賞、アジア・パシフィック・スクリーン・アワード最優秀長編アニメ賞に輝いた同作品は、ヨン監督の実写長編映画デビュー作『新感染 ファイナル・エクスプレス』の前日譚にあたり、2017年9月30日に日本公開が決定している。

映画作品情報

映画「新感染 ファイナル・エクスプレス」9.1 [Fri]

第69回 カンヌ国際映画祭 ミッドナイト・スクリーニング部門 特別招待作品
第20回 ファンタジア国際映画祭 最優秀作品賞受賞!
第49回 シッチェス・カタロニア国際映画祭 2冠!! 監督賞&視覚効果賞受賞!
 
原題: 부산행
英題: Train to Busan
監督: ヨン・サンホ
出演: コン・ユ、チョン・ユミ、マ・ドンソク
2016年 / 韓国 / 韓国語 / 118分
配給: ツイン 
© 2016 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & REDPETER FILM. All Rights Reserved. 
 

9.1 [Fri] 新宿ピカデリーほか全国疾走!!

映画公式サイト

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