
映画『Page30』
エグゼクティブプロデューサー/音楽
DREAMS COME TRUE 中村正人 インタビュー
『Page30』は観て初めてわかる体験型の映画
映画『Page30』が4月11日(金)に「渋谷 ドリカム シアター」他、全国の映画館にて公開を迎えた。
それぞれ切実な事情を抱える4人の女優達、平野琴李(唐田えりか)、宇賀遙(林田麻里)、宮園咲良(広山詩葉)、樹利亜(MAAKIII)は、スタジオに集められ、30ページの台本を渡される。
稽古から舞台本番まではたったの4日間。演出家や監督も不在の異様な閉鎖空間で、やりたい役を掴むため、4人は稽古に打ち込んでいく。
原案・監督に堤幸彦、音楽に上原ひろみ、脚本に井上テテ(劇団マカリスター主宰)、劇中劇脚本に山田佳奈(劇団ロ字ック主宰)が入り、映画、音楽、舞台のプロフェッショナルが集結し、注目を集めている。
本作でエグゼクティブプロデューサーと音楽を務めたDREAMS COME TRUE 中村正人に、本作製作の経緯や制作背景についてなど話を聞いた。
―― 中村さんは過去にもいろいろなかたちで映画に携わられたことがありますが、エグゼクティブプロデューサーは初めてとお聞きしています。具体的にはどのような点に注力されたのでしょうか。
中村: それはもう資金繰りですね(笑)。いろいろな偶然が重なって、堤監督と映画を作ることになったんです。最初は制作委員会制にしようと考えていたのですが、堤監督にアバンギャルドな部分を思う存分発揮してもらいたかったので、株式会社ディーシーティーエンタテインメントの一社出資で作りましょうということになりました。
制作委員会制だとどうしても利益の分配が最重要になって、脚本やキャスティングなど、出資者全員が満足するような映画にはなりにくいですからね。
そうしたら、堤監督が最初に用意していた脚本から変更し、『Page30』を用意してくれたんです。
なぜかというと、最初の脚本は世界中でロケをするような大作だったので、いろいろなことを考慮し考えてくださいました。
―― 『Page 30』は宣伝が難しい映画だとおっしゃっていたそうですが、具体的にどういうところが難しいとお考えですか?
中村: この映画は、「女優陣4人の本気のバトル」だとか、どうとでも言えると思いますが、言葉で何を言ってもみんな観に来てくれないと思うんです。多分これは体験する映画なんだと思うんですね。
観て楽しむということよりも、自分もあの女優の中の1人になって体験する映画です。題材は舞台や女優ですが、芸能やエンターテインメントに関わる人だけでなく、学生にも社会人にも、誰でも当てはまって体験できるんです。
血液型占いじゃないですが、4人のタイプを見ているうちに、「あ、これって私っぽいかも」と思った瞬間に、観客は巻き込まれていっちゃうと思うんですね。
なので、その体験型映画を説明するのがとても難しいんです!
あれは、サスペンスなのか、殺人事件なのか、ホラーなのか、わからない。
それでポスタービジュアルとしてもそれを狙ったんです。
ひょっとしたら幽霊の話なのかとか、あるいは劇場で誰かが殺された話なのかなとか、どちらにも想像できるということをプロモーション側としても狙っています。
一体何の映画なんだ?と考えていただくのがスタートです。
今はSNS時代なので、どんな映画でも冒頭5分見せたりとか、映画の良いとこどりのトレーラーを見せたりしてますよね。
私はシルクドソレイユの立ち上げの時に、サンタモニカのテントに観に行ったんですが、入るまでどんな演目が全くわからなかったんです。入って初めて、「ああ、こういうものなんだ!」と感動がある。
『Page 30』はそういう映画な感じがしますね。
凄い人達が集まると凄いものが出来上がる
シンプルだけどすごく深い
―― 音楽が非常に印象的だったのですが、本作で音楽を担当された上原ひろみさんはどのような経緯でのご参加になったのでしょうか。
中村: 上原さんは、吉田美和の大親友なんです。上原さんがまだ学生時代の頃、DREAMS COME TRUEの曲ならエレクトーンで何でも弾けるということで有名で、そこからお付き合いが始まったんです。
それで、堤監督が今作の音楽はジャズで行きたいとおっしゃっていて、私は今作では音楽も兼務しているので、オーケストラの構成とか、劇伴作家とコラボしようかなど考えたんですが、堤監督はピアノ1本で行きたいという意向だったみたいです。
『死刑台のエレベーター』(1958年)のマイルス・デイヴィスに代表されるジャズと映画の関係って大好きなんですよ。僕の基本とも言えます。
そこで上原さんに相談したんです。
こういうコンセプトでジャズのピアノを弾いてくれるおすすめの人がいないか紹介してもらおうと思って。まさか上原ひろみにやってもらうわけにはいきませんからね(笑)。
そしたら、「私やってもいいよ」って。
堤監督を抱えるだけでも大変なのに、上原ひろみも抱えるのか!とすごく困った瞬間でした。
重大な責任という意味でもうすごく気が重くなりましたね(笑)。
上原さんは、映画と脚本をとことん読み込んで臨んでくださいました。
基本的には映画の画面を観ながらの即興演奏なんです。1フレームに至るまでこだわった集中力極限のパフォーマンスでした。セリフの一つ一つにも反応してるし、女優の呼吸の間にも音を置いている。
スタジオで録るとあの雰囲気が出ないんですよね。なので録音の時も小劇場と同じ設定で録ろうということになりました。上原さんがヤマハの同じようなホールをブックしてくれて。この二大巨頭と、素晴らしい4人の女優さんのガチセッション、責任が余計重くなりました(笑)。
―― では、この映画を製作したことによって、中村さんが一番感じたことはどんなことだったでしょうか?
中村: 「凄い人」という言い方しかできないんですが、堤監督にしても、上原さんにしても、映画のメインテーマの作詩をしてくれた吉田美和にしても、そういう人達って説明が必要ないなと改めて思いました。
やはり凄い人達が集まると凄いものができるんだなって、レベルを感じました。
ガンダムシリーズの劇場版『Gのレコンギスタ』のテーマソングを担当させてもらった際、富野由悠季総監督とやりとりした時に、監督が同じようなことを吉田に言ってくださいました。「説明はいらないんだよ」って。今回、その意味がわかったような気がします。
それから、私はとにかくすべてにおいて何でも自分で管理しないと気が済まない人間なんです。ただ、人選さえ正しければ何も心配することはないんだなって。今回は、人選が正しかったというか、正しい人が集まっちゃっただけなんですけど。それは学びでしたね。
―― 凄い人が集まっても方向性の違いなどから上手くいかないケースも世の中にはたくさんあると思うのですが、この作品が上手くいったのはなぜなのでしょうか。
中村: 運命だったというところもあるんでしょうが、本当に彼らは作品のことしか考えていない人達なんです。堤監督は気遣いが素晴らしい方ですが、作品に関してはプロデューサーと監督で関係を良く保とうとか全く考えていないですし、上原さんも私のためにやってくれているのですが、それよりも作品を良くすることしか考えていません。
結局作品が良くなることイコール私のためになるということなんでしょうね。
この作品に関しては、それぞれが持てる限りの力を持って作品に集中してくれたので、上手く行ったのかなと思います。針の穴を通すような作品なので、一つ掛け違うととんでもない映画になってしまいましたね。
監督の演出の凄さもそうだし、編集の洲崎千恵子さんがまた物凄く素晴らしいんです。
現代のハリウッドの大作的な編集ではなくて、少し昔の入り組んだ映画のカットの仕方が大好きです。
私の感覚からすると、映画を観ている際に、何フレーム早く切ればもっと良かったなと感じることが結構あるんです。
最近ではYouTubeの編集などは少し近いかもしれませんね。間髪入れずに被せていくところとか。
堤監督は、撮影した先から編集していくので、ドキュメンタリーのように見えているかもしれませんが、全然バラバラなんです。ある程度は時系列で撮っているんですが、別撮りをしたり、何度もやり直したものなどをどんどん繋いでいくんです。
それに対応できる洲崎さんも凄い人としか言いようがありません。
何度も観ると沼にハマって抜け出せない
でも抜け出すためには何度も観ないといけない
―― この作品はまるでドキュメンタリーのような作品ですが、中村さんも劇中の女優が体験したようなことを実際に見聞きした経験はありますでしょうか?
中村: 4人の女優がそれぞれ体験したようなことは、すべて私も体験しています(笑)。なので、とても気持ちがわかります。また、周りで聞いたりもしています。
まさにあのような渦中で悩んでいる役者さんの方が圧倒的に多いんですよね。成功できる人は本当に一握りですから。なので、多くの方が共感すると思います。
―― 悩んでいる役者さんが周りにいた時にアドバイスしたりしていましたか?
中村: 以前はアドバイスしていましたが、最近ではもうできないですよね。
もう時代が違うので、昭和・平成までは、自分たちの時はこうだったというアドバイスができたかもしれませんが、今は逆にアドバイスしない方がいいかもしれないと思うようになりました。
常識というものは時代によって違いますから、私たちが正しいと思っていることが本当に正しいかどうかはわかりません。
近年の時代の移り変わりはやはりネットやSNSの台頭が大きいですね。これによって目まぐるしく変化が起こりました。
人生の中でこんなに時代の移り変わりが見えるということはとてもエキサイティングですね。
ただ、客観的に今の状況を理解するということに対する手助けはできるかもしれません。そこからは自分で判断していって欲しいですね。
生物としての生命力を強く持って時代に合わせて生きなさいということは言えるかもしれないです。
―― 「沼にハマると抜け出せない」ということでしたが、沼とはどういうことなのか教えてください。
中村: 映画に仕掛けられているトリック全体ですね。
劇中劇のやり取りもそうだし、その劇をやるための女優4人のバトルもそうです。細かく観れば観るほど面白くてしょうがない映画です。
何度も観ているとセリフを真似したくなり、真似しているうちにいつの間にか自分にトレースされている。
自分の悲鳴だったり、ストレス発散、自責の念、他者批判などなど、すべてが自分のこととなってくる。沼にハマると恐ろしいというのはそういうところ。
女優と同じ苦しみや不安を味わい出す。これは抜け出すのは大変ですね。
自分で解決していかなくてはいけません。
あの映画の脚本から抜け出す、突破口を見つけるためにさらに沼にハマるという感じです。
―― 本作を実際の女優さんにも観てもらいたいですか?
中村: いや〜、もちろん業界の人にも観ていただきたいですが、女優さんが実際に観たらツラいかもしれないなぁ(笑)。
業界に関係ない方にも観ていただきたいし、お子さんにも観ていただいて、漠然と大人になったらこういうことも待ってるのか、夢を見るってこういうことなのかなども感じてもらいたい。
沼から抜け出すのはやっぱり自分なんだと気づいて欲しい。
で、どこかで周りの人を助けることや、人への優しさというものも学んでいてほしい。一人では生きられないので。この映画は大変ですよ。哲学なので(笑)。
夢を叶える渋谷 ドリカム シアター
―― 渋谷 ドリカム シアター supported by Page30についてお聞かせください。常設させる施設ということですが、何度も足を運びたくなる仕掛けがあるのでしょうか。
中村: 4月から9月まで常設しまして、映画『Page30』は6月1日まで上映される予定です。名前のとおり、夢を叶えるシアターとして作ります。
まずは『Page30』をプロモーションしたい、それから他の方々にもいろんなイベントもやって欲しいと考えています。
ダンスイベントでもいいですし、プレゼンテーションなどの企業イベントでも良い。
渋谷は今、大きく変わろうとしていますが、カルチャーの面からも刺激を与えたいなと思っています。
渋谷警察署の裏なので、渋谷の再開発からは少し離れているエリアです。
今回、渋谷区の後援も頂いているので、渋谷区がチャレンジしていることも協力していきたいと思っています。私も青学出身で渋谷に育ててもらったと思っています。
渋谷が置き去りにしてきたものがあると思うので、そこに刺激を与えて、細胞が躍動するように、ドキドキとカルチャーが生まれてくると嬉しいです。
興行としても成功するように、学生やアマチュアの作家さん、映像作家、演劇関連の方、色々な方の知恵も集めてチャレンジしていきたいと思っています。
[ヘアメイク: mikitaro (octbre) / スタイリスト: 内田 考昭 (A-T)]
プロフィール
中村 正人 (Masato Nakamura)
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渋谷 ドリカム シアター
supported by Page30
「渋谷 ドリカム シアター supported by Page30」開催概要■英名: SHIBUYA DREAMS COME TRUE THEATER supported by Page30 【テントシアター内 詳細】 【テントシアター外 詳細】
【今後の実施予定イベント】 映画『Page30』上映&公開イベント(舞台挨拶、トークイベント等)/ドリカムディスコ(ダンス&ディスコイベント)/映画『Page30』渋谷区民の日(4月28日)ご招待/渋谷区在住小中学生向け クリエイターワークショップ/映画監督・クリエイター・アーティスト数珠繋ぎ企画(6月以降予定)→クリエイターが夢見た映画、クリエイターを目指すキッカケとなった映画、影響を受けた映画などの特別上映を1日かけて行い、トークも行って頂く企画。現在、活躍する映画監督やクリエイター、アーティストがどんな映画を観て夢見てきたかを語っていただく。 主催 : 株式会社ディーシーティーエンタテインメント |
渋谷とドリカム🎥
「夢が始まった街を歩く ~DREAMS COME TRUEの軌跡~」
映画『Page30』予告篇🎞
映画作品情報
《ストーリー》とあるスタジオに集められ、30ページある台本とともに4日後に舞台公演を行うとだけ告げられた4 人の女優たち。演出家や監督不在の異様な閉鎖空間で、理由や説明も無いまま連絡手段も没収され、疑心暗鬼の中で熾烈な舞台稽古を強いられる。 二流の役者、売れない役者、大根役者、言われるがまま演じることに満たされなくなった役者…。 稽古をしていくにつれ、切実な事情を抱えた4人それぞれの事情が浮き彫りになり、ついに4日目、不気味な仮面をつけた謎の観客たちが見守る中、絶対に失敗の許されない“とある仕掛け”が告げられ、舞台の幕が上がる。果たして彼女たちを待ち受ける驚きのクライマックスとは————? |
渋谷 ドリカム シアター他 全国映画館にて公開!