映画『ミッドナイト・バス』
高宮怜司役 七瀬公インタビュー
伊吹有喜の傑作ヒューマン小説を竹下昌男監督が映画化!
物語のクッション役を果たした七瀬公さんにインタビュー!
直木賞候補となった伊吹有喜の傑作ヒューマンドラマを『ジャンプ』(2004年)の竹下昌男監督が映画化した『ミッドナイト・バス』は、第30回東京国際映画祭(TIFF)で特別招待作品として上映され、2018年1月20日(土)より舞台となる新潟で先行公開、翌週の1月27日(土)より全国公開されている。
新潟で長距離深夜バスの運転手として働く高宮利一(原田泰造)は、東京で定食屋を営む恋人の志穂(小西真奈美)との再婚を考えていた矢先、16年前に別れた妻の深雪(山本未来)と思いがけない再会をする。二人の間には、怜司(七瀬公)と彩菜(葵わかな)という社会人になる子どもがいる。一度バラバラとなった家族がそれぞれの問題と向き合うために新潟に集まってきた。
高宮家の長男・怜司を射止めたのは、東宝芸能創立50周年を記念して開催された初の男性オーディション合格して、2015年に俳優デビューした七瀬公。家族の再生のクッションとなる大きな役を果たした本作でのキャスティングや撮影について伺った。
全国に先駆けて先行した新潟では、県内2日で1万人の動員
―― 新潟での先行ロードショーの反響がものすごく大きかったそうですが、舞台挨拶などに行かれてみて、どのような状況でしたでしょうか?
新潟では、本当に満席で空席が見当たらない状況でした。舞台挨拶でも、MCの方や監督が「どうでしたか?」と観客のみなさん訊ねると、会場から拍手喝さいでした。僕のInstagramにも、ファンの方から「良かったよ」とか、「観に行くよ」など、たくさんのコメントをいただいて、とても大きな手応えを感じました。
―― そのときの七瀬さんのお気持ちはいかがでしたでしょうか?
もう、うれしいですよ。「うれしい」のひと言で済ませることはできないのですけれども、こんなに大きな役で映画にたずさわることや、宣伝やPRなどにも関わることも初めてでした。ここまで自分が公開の前から宣伝まで色々とやってきたものが世間に受け入れられて、みなさんに喜んでいただいて本当に嬉しいです。この仕事をしていてすごくありがたい事です。
『ミッドナイト・バス』は七瀬公が歩み出した作品
―― 今回、オーディションから撮影、第30回東京国際映画祭、劇場公開や宣伝まで全てに関わられて来られましたが、これらの経験は今後の七瀬さんにとってどのような影響がありそうですか?
ほぼゼロから関わらせていただきました。七瀬公が俳優としてきちんと歩みだした作品になるのが『ミッドナイトバス』であり、将来ターニングポイントとしても絶対に思い出す作品になると思います。その点がすごくいい経験だと思っています。竹下監督がとても優しく接してくださって、普段関わることができないような前日の音響のチェックなどにも連れて行ってもらったり、本当に貴重な経験をたくさんさせていただきました。
―― 七瀬さんは、キャスティングに当たり、ワークショップ形式のオーディションを受けられたと聴いています。原作を読まれて、たいへん共感されて感動もされたそうですが、どんな風に感じられたのでしょうか?
原作では、お父さんの片親で両親が16年前に離婚をしています。僕も物心がついた頃には、両親が離婚をしていました。母なのですが、片親という点でとても共感をしました。原作を読んでオーディション形式のワークショップを受けることになったときに、自分はこれまでに一度もそう思ったことはないのですけれども、今までマイナスとして思われていた「片親」ということを前面に押し出せるチャンスだなとすごく思いました。やっぱり片親の苦労はすごくあって、それは片親の人や子どもでないと分からないこともたくさんあるので、それを武器にして、怜司という役にアプローチをしようと強く思いました。
―― キャスティングに起用をされたときに、竹下監督からその理由を聴いたことはありますか?
最近聴いたのですけれども、ワークショップを受けた当時は、もう少しぽっちゃりとしていて、そういった容姿もろもろが「怜司っぽい」と(笑)。「それだけで決めたわけではないけれども、それが他の子とはちょっと違う」ということを最近よく聴くようになりました。きっき聴いたばかりのホヤホヤの話では、ワークショップを2日間行ってオーディションをして、1〜2週間後にもう一度オーディションがあったのです。1回目のオーディションの後に人数が絞られ、2回目オーディションをした後に、合格の連絡がきました。でも実は、2回目のオーディションでは、僕が怜司役に決まっていたそうです。他の人たちの可能性をみるために決まっているとは言わずに、僕たちを呼んだんだと。つい先ほど、序盤から怜司役に決まっていたことを聴いて、思わず「えー」と口にするほどの驚きでした。
冬の新潟ロケは味わったことのない新鮮な環境
―― ほとんどが新潟ロケだと聴いています。七瀬さんはずっと新潟にいらっしゃったのですか?
ほぼ全編が新潟ロケでした。僕は3月1日から入って、途中で2〜3日くらい東京に戻ったのですけども、また直ぐに新潟に戻りました。3月の終わり頃までは、ずっと新潟にいましたね。
―― 物語と同じように、怜司さんが仕事に疲れて東京から実家に戻ってきたような感じで撮影をされていたのですね。
そうですね。向こうでずっと休養をしていました(笑)。
―― 東京と新潟では空気や景色も違うと思いますが、新潟ロケでは、どんなことが印象に残っていますか?
新鮮だったのは雪景色ですね。普通にころころと天候が変わるので、味わったことのない環境でした。降雪は地元の奈良でもあったりするのですけれども、降る雪に出くわすこと自体が少なかったのに、向こうにいたら、普通にパラパラと一週間に一度は降っていましたし、急に降り出したり、吹雪もありました。撮影をした高宮家のある三条市の辺りでは、新潟市内よりも断然に雪が多くて、本当に映像で観るような感じでした。そういう景色を見ることが新鮮で、東京で過ごしていると、味わえない時間だったと思い出します。
暗中模索で苦労した役作りで繰り返し過ぎたあるシーン
―― 今回、役作りで苦労をされた点や経験して良かったと思うことを教えてください。
役作りでは、明日自分が演じるシーンなどを事前に読んで、色々とやってみて、当日に監督の前にもっていって演じるのですけれども、監督からは「違う」と言われて。監督も、ここをこうしてこうしろという風に細かくは言わないで、「そうじゃなくて」とか、「そうじゃないだろう」みたいに違うということを指摘されるので、それを暗中模索しながら苦労しました。また、監督に、「こういうときはこうやって気持ちの切り替えをしていかないと」とか、「次に響くことが一番駄目だから」と色々と乗り越え方や気持ちの切り替え方なども教えていただきました。今後の撮影でも、もし自分が「駄目だ」となったときに使えるので、本当に為になったと思います。
―― 何回も何回も役作りをされて、それを監督にもっていって、OKが出たり、それは違うと言われたりの繰り返しだったのですか?
そうですね。繰り返しをし過ぎて、ビワの葉を切るシーンでは、「葉がなくなるぞ!」と怒られてしまいました(笑)。
―― そんなに葉っぱを撮影中に切ってらっしゃったんですか?
もうめちゃくちゃ切りましたよ。監督から「なくなるぞ、これ。なくなったら、無理じゃないか」って。「本当にごめんなさい」と。でも、なくなる前になんとか間に合いました。
―― では、その後のシーンでお母さん役の山本未来さんが怜司が葉をいっぱい切って、ちょっと完璧過ぎるんじゃないかと心配する場面がありましたが、まさに七瀬さんご自身もいっぱい切っておられたのですね(笑)。
そういうことなんですよ(笑)。本当に完璧すぎちゃったんですね(笑)。普段から(剪定を)やっている人くらいに切ってしまったこともありました。
―― そういう裏話を知らずにこの作品を観ると、怜司くんは実際に東北に暮らす男の子という印象でした。演技なのか、自然なのか分からないナチュラルさがとても新鮮に感じました。
(丁寧にお辞儀をして)ありがとうございます。
―― 裏では、そんなご苦労がいっぱいあったのですね。
そうですね。話し方に関しても、方言指導の先生が、この映画が始まる前から指導をしてくださいました。とても良い先生で、いつも「バッチリだよ」って励ましてくださるんです。そのおかげで、結構、映画を観終わった後のお客さまから、直接「新潟弁がすごく良かったよ」って言ってくださる方がいて感謝をしています。
本当の親子や家族のように甘えさせてくれた俳優・原田泰造
―― お父さん役の主演の原田泰造さんとは、劇中では本当の親子みたいでしたが共演はどうでしたでしょうか?
僕にとっては、「あの原田泰造さん」じゃないですか。うれしいけれども、緊張もしました。事前に本読みなどでお会いしてはいるのですけれども、撮影のときも緊張しながら、テレビで観ているお笑い芸人の原田泰造さんのイメージをもっていたのですけれども、実際は全然違っていて、本当に優しくてくて落ち着いた方でした。笑いも忘れてはいなくて、ちょっとしたボケもちゃんと拾ってくださるし、ちゃんとアンテナを張りつつも、役者としての原田泰造さんが存在するという印象でした。
また、僕が緊張をしていることをくみ取ってくださったのか、最初に原田さんから「僕は人見知りだから、あんまり話せないけれどもごめんね」と言ってくださいました。それで自分から話しかけようと思っていたら、原田さんからバンバン話しかけてくださって、初日や2日目には、普通に自分の中では父として見れるぐらいの関係性で話ができるようになりました。良い意味で緊張をしなくなったというか、気を遣わなくなって、甘えられるようにもなれました。早い段階で原田さんのお人柄に助けられ、いい関係が作れたと思います。
―― 七瀬さんが先輩の俳優さんに懐いたり、可愛がられたりする強みもあるのではないでしょうか?
僕にとって、先輩の役者さんとお話したりするのは大変なことでもあるのですけれども、原田さんとの場合は、家族感が出るように僕も極力話そうと心がけました。一緒にいる時間も増やそうと思い、控えのときにも、原田さんとお話しました。本番中では、とくにここをこうするというのもなかったことから、自然に演じようとしていたので、それが良い方向に向いたのではないかと思います。
―― 船上のシーンでは、本当の親子や家族に見えました。個人的には、神社に参拝するシーンも本当の親子じゃないかと思うくらいにすごく自然に息もピッタリ合っていらっしゃいましたね。
あのシーンは、本当はもう少し長かったのですけれども、色々と撮影のタイミングだとか、繋がり具合などで省略されているのです。あのシーンでは、もう少し甘えているシーンもあって、自分がなぜ故郷に戻ってきたのかを吐露しているところもあったのです。
―― そういうシーンも撮影をされていたのですね。
すごく大事なシーンなんですけれども、そこはなくなって、ちょっ残念だなと思っています(笑)。
高宮怜司と七瀬公の共通点とは
―― 怜司は、どちらかと言うと、話す以上に行動をしたり、心情を現すような役柄だったと思うのですけれども、ああいう繊細で頑張屋さんな面は、実際の七瀬さんと重なる部分はありますか。それとも、普段の七瀬さんは違うタイプですか?
そうですね。やっぱり怜司は頑張り過ぎですね。頑張るところはすごいなと思いますし、自分にはまだまだ足りていないと思うところも怜司はもっています。言うよりも行動をしたり、優しさが空回りをしてしまうところには、自分にも思い当たる節はあるかと思いますね。相手のことを考えてそうなったことが何回かありますね。
―― 七瀬さんの演技と元々の人柄が重なって、映画の中では、柔らかいクッションのようないなくてはならない役をされていたと感じました。
怜司は全員の関わっていますものね。本当にすごい重大な役でした。
大ベテラン・長塚京三のような格好良い大人になりたい
―― 怜司は、空気のような感じで誰とでも上手くうち解けていて、長塚京三さんとのシーンも多かったと思うのですが、印象はいかがでしたか?
本当に出演者みなさんに優しくして頂きました。長塚さんもすごくフランクな方で、こちらが気を遣うことを分かった上で肩を組んでくださったりとか、今日の午前中も舞台挨拶でご一緒していたのですが、終わるときにもガッシリと握手をしてくださって、「またね」っておっしゃってくだる方なんです。長塚さんみたいな素敵な大人になりたいなって思います。あと、甘いものがお好きで、奥さまから「チョコ食べ過ぎ」って言われる可愛らしい一面もあるんです。お洒落でスタイルも良いじゃないですか。尊敬する素晴らしい先輩です。
原田泰造の本番の強さと瞬発力、山本未来の切り替えの凄さに感動
―― たくさんの先輩の役者さんと共演されて、七瀬さんが刺激を受けたり、参考になったことはどんなことですか?
すごいなと思ったのは、これは監督もおっしゃっているのですけれども、原田さんは、生放送でのお仕事が多いので、一発目から素晴らしい演技をされるのです。俳優はテストを何度かやりながら、段々と上げていくのですけれども、原田さんは最初から良いので、監督がそこを俳優とクロスさせるところが難しかったとも語っていました。
でも、一発目からいい演技に持っていける本番の強さと瞬発力は、本当に勉強になりました。
また、山本未来さんは映画では静かな役でしたが、実際は真逆で、本当の未来さんは「超元気っ子」な印象のムードメーカーなんです。だから、初めてご一緒させていただいたときも、「あの山本未来さんだ」と見ていたのですけれども、未来さんの天然ぷりで現場が爆笑になって、良い感じで現場の緊張をほぐしてくださっていました。未来さんのオンとオフの切り替え方や、あんなにテンションが高かったのに、急に役に入れてしまうすごいスイッチだと思いました。
七瀬公を知ってもらって、善人面した連続殺人犯を演じてみたい
―― 今回、オーディションから宣伝までを含めて、この『ミッドナイト・バス』に関わられ上で、七瀬さんのお仕事の方向性などにも影響があると思うのですけれども、今後はどんな風な役を演じたり、どんな活動をしていきたいと思われますか?
僕は、早く皆さんに名前を覚えてもらいたい。この映画のおかげで、映画やドラマ、CM、など色々と出させていただいて、覚えていただくスタートが切れるのではないかと感じています。現に1年前よりは知ってくださる方々も多くなりまして、本当に今年や来年と、皆さんの前にどんどん出ていけたら良いと思っています。
演じてみたい役は悪い役ですね(笑)。「えっ、お前が犯人だったのか」という役もやりたいです。怜司みたいな良い人にみえるけれども、実は連続殺人犯だったりとか、「お前が一番のワルだったのか」という役です。良い人という期待を裏切りたいですね。昔から、悪人から善人や良い人から悪い人へ変化する役をやってみたかったんですよ。漫画などを読んでいて、好きになるキャラクターがそういうタイプが多いので、そんな役もやってみたいと思います。
独りで悩まなくても良いことに気づく『ミッドナイト・バス』
―― 『ミッドナイト・バス』は老若男女問わずに誰もが楽しめる映画ですけれども、とくに七瀬さんや七瀬さんのお友だち世代の方々へ、この作品の見どころなどのコメントをよろしくお願いいたします。
今、僕は23歳なんですけれども、ちょうど就職活動が終わって1年が経って、甘やかされてきた学生から社会人になった時期なんです。僕の周りの人たちも、悩みをもっている人がいます。この映画を観たら分かると思うのですけれども、独りで悩むよりも、自分を支えてくれている家族や周りの人がたくさんいるので、そういう人たちにいったんフラットな状態になって打ち明けてみたら、きっと今悩んでいるときよりも解決策が絶対にたくさんあると思うのですね。話している途中に解決することもあるじゃないですか。家族の再生や人とのつながりがテーマとなる映画なので、悩みを自分独りで抱え込むのではなくて、みんなに相談に乗ってもらう機会をもつ参考にしていただけたらと思います。家族の大切さもこの作品を観てくれたら一目瞭然なので、ぜひ同世代の人たちにもたくさん観ていただきたいですね。
色々な表情を魅せる冬の新潟を舞台に、日差しや空、流れる雲、降る雪といった景色、新潟の人々を東京に運ぶ深夜バス、良い味を出している白鳥や柴犬、そんな中に空気や景色、音楽と一体となって、家族やこのストーリーの重要なクッション役を務めた七瀬公さんは、素晴らしい出演者たちとともに『ミッドナイト・バス』に欠かせない存在でした。原作のあるヒューマンドラマがより現実的で自然な心地良い作品となっていた。
プロフィール
七瀬 公 (Kou Nanase)1994年生まれ、奈良県出身。 |
フォトギャラリー📸
映画『ミッドナイト・バス』予告篇
映画作品情報
《ストーリー》バツイチ中年男の高宮利一(原田泰造)は、新潟~東京間を走る長距離深夜バスの運転手。 東京で定食屋を営む恋人・志穂(小西真奈美)との再婚を考えていた矢先、息子の怜司(七瀬公)が東京での仕事を辞め、帰ってくる。娘の彩菜(葵わかな)は友人とマンガやグッズのウェブショップを立ち上げ、実現しそうな夢と結婚の間で揺れていた。 そしてある夜、利一が運転する新潟行きのバスに、十六年前に別れた妻・美雪(山本未來)が乗り合わせる。十六年の長い時を経て、やるせない現実と人生の不安が、再び、利一と美雪の心を近づける。母の出現に反発する彩菜、動揺する怜司。 突然の思いがけない再会をきっかけに、停まっていた家族の時間が、また動き出す――。 |
第30回 東京国際映画祭(TIFF) 特別招待作品
出演: 原田泰造、山本未來、小西真奈美、葵わかな、七瀬公、長塚京三
原作: 伊吹有喜「ミッドナイト・バス」(文春文庫刊)
製作: 竹下昌男、渡辺美奈子、小田敏三、星野純朗
プロデューサー: 本間英行 遠藤日登思
脚本: 加藤正人
制作プロダクション: ストラーダフィルムズ
制作協力: アミューズ
製作: ストラーダフィルムズ、新潟日報社
配給: アークエンタテインメント
2018年1月27日(土)より有楽町スバル座ほか全国ロードショー!
公式Facebook: @midnightbus301