映画『旅立つ息子へ』都立西高校3年生親子特別授業レポート
【写真】映画『旅立つ息子へ』都立西高校3年生親子特別授業トークイベント

映画『旅立つ息子へ』

脚本家ダナ・イディシス、天才新人俳優ノアム・インベルが登壇!
都立西高校3年生親子特別授業トークイベント

Zoomで繋がるイスラエルと日本
卒業式を迎えた3年生と保護者の高校“最後の授業”

自閉症スペクトラムを抱える息子を全力で守る父と、父の愛を受けとめて心優しい青年に成長した息子。世界中で共感と感動の涙がこぼれた、実話をもとにした感動作。

脚本家ダナ・イディシスは、自身の自閉症の弟と父親の関係をモデルに本作を執筆。東京国際映画祭史上初にして唯一の二度のグランプリ受賞の快挙を果たした、イスラエルを代表する巨匠ニル・ベルグマンが監督を務め、息子ウリ役を気鋭の新人ノアム・インベルが演じる。

3月16日(火)、都立西高校にて映画『旅立つ息子へ』3年生親子特別授業トークイベントが開催。

3月9日(火)に卒業式を迎えたばかりの高校3年生とその保護者が集まった教室で、Zoomでイスラエルと繋がり、映画『旅立つ息子へ』脚本家ダナ・イディシス、ウリ役の俳優ノアム・インベルがスクリーンに登場。本授業にあたり事前に映画を鑑賞した授業参加者によるゲストへのQ&Aが行われた。

Zoomでイスラエルの2人にQ&A!!

―― 自閉症を抱えたウリは、ダナさんご自身の弟さんがモデルですね。ダナさんは弟さんの性質をどのように受け止めていたのですか?(生徒)

仰る通り、これは私の父と弟の関係をモデルに書いた脚本です。いずれ来るであろう2人の未来を予見し、畏れながら書いたんです。弟は4人兄弟の末っ子で、皆とても彼を可愛がり、守ろうと思っていました。彼のコミュニケーションは一般の人と違うので、私たちは外の世界との橋渡し役でした。監督のニル・ベルグマンも弟を10歳の頃から彼を知っているので、この映画には監督から見た父と弟の姿も反映されていると思います。(脚本家・ダナ)

―― 親離れ、子離れの普遍的な気持ちが丁寧に描かれていました。私自身も2人子育てをしているので、アハロンの親としての色々な苦労が報われたような笑顔にはとても感動しました。なぜ本作は、母親との別離などがあった後の、ウリがある程度大人になってからのストーリーにしたのですか?(保護者)

大きく環境が変化した出来事を描くよりも、父と息子の間の細やかなやり取りにフォーカスした方が、2人が”シャボン玉の泡の中”に入っているかのような、現実から離れたような特別な関係性が際立つと思ったからです。(脚本家・ダナ)

―― 卒業式の翌日に観たので、親元を離れていくウリの姿が自分と重なりました。ノアムさんは、役作りにおける歩き方や立ち居振る舞いの研究はどのように行ったのですか?(生徒)

父が自閉症の子たちを預かる施設に勤めていたので、幼い頃からそういった子たちとの関わりを持っていました。

また今回、ベルグマン監督と一緒に様々な施設を訪ねて、どんな風に皆が交流をしているかを学びました。長いプロセスを経て、彼らも自閉症を持っていない人たちと同じように深くて広い内面を持った人たちだと心から理解することができました。(俳優・ノアム)

【画像】映画『旅立つ息子へ』場面カット

―― 父親の立場で観て、父と母で感じる時間軸が違うというのが印象的でした。ノアムさんは、オファーを受けた時と実際演じてみた時で何か予想外だったことはありますか?(保護者)

オーディションの時既に「この役は自分が貰える」と確信を持てていたほどに、入念な準備をして臨みました。撮影中はその世界の中に入り込んでいたので、映画が完成した時に初めて物語を外から眺めた気がして、不思議な気持ちでした。(俳優・ノアム)

【画像】映画『旅立つ息子へ』場面カット

―― 自閉症を持つ息子と父親という特殊な関係を描いているようで、不思議と自分のことのように共感できる作品でした。親子に限らず、共依存のような関係になっている2人を見て、第3者の視点でそれを脱した方がいいと感じても、そこに踏み込むことは難しいと思います。そのような時はどうすればいいと思いますか?(保護者)

私は、アハロンとウリは非常に孤立している状態だということを多くの人に知って欲しかった。それを1番望んでいたんです。だから、あなたが自分ごとのように感じてくれてとても嬉しいです。

共依存の関係性には、ケースバイケースですが、どのような形にしろいつかは終わりが来るものだと思います。解決方法の1つとしては、私が映画の中で描いたように、周りが手助けをすることだと思っています。2人が”泡”の中にいる限り、成長は難しい。それは一般の親子関係でも同じなのではないでしょうか。(脚本家・ダナ)

―― コロナ禍で家族との会話が増えた反面、それぞれが独立した個人だということを実感しました。同じ屋根の下で暮らしていると、つい、似た価値観を持つと誤解して衝突してしまうことがあります。お2人はこの1年で家族関係に何か変化がありましたか?(生徒)

僕はコロナ禍で家族と長く過ごすことが苦痛になってしまって家を出たので、ちょっと複雑です…。(俳優・ノアム)

私はコロナ禍の最中に娘を出産したので、印象深い1年でした。ベルリンに住んでいたのですが、パンデミックの直前にイスラエルに戻ることができました。自分の大切な人が自分の近くにいるということの大切さを実感しました。(脚本家・ダナ)

【画像】映画『旅立つ息子へ』場面カット

―― 物語のモデルになったダナさんのお父様はこの映画をご覧になってどのような感想を持たれましたか?(生徒)

父はいつも私の仕事に批判的だったのでドキドキしていたのですが、「自分たちのストーリーの純粋な部分を抜き取ったような、嘘のないものになっている」と言ってくれて、とても嬉しかったです。(脚本家・ダナ)

―― 演じているノアムさんご自身は、ウリをどのような性格だと考えていますか?(生徒)

ウリの性格を考えながら演じたというより、父親との関係性を考える中で自然とウリというキャラクターが出来上がっていきました。とても優しくて繊細で、可愛いところがあって。愛情深い人だと思います。(俳優・ノアム)

【画像】映画『旅立つ息子へ』場面カット

ダナとノアムから“新たな旅立ちを迎える親子”へ

自身の弟と父との関係をモデルとし脚本を手掛けたダナは「互いに耳を傾ける。親、子供、そして自分自身の声を聞くということが大切だと思います。私も、弟から多くを学びます。弟は言葉で表現するのが苦手ですが、しっかりと見ていると、彼の言いたいことのエッセンスは分かるんです」とコメント。

ウリを演じたノアムは「ウリは、自分の内面を外の世界に表出するというのがとても困難で、いつも戦っている。自分自身も、同じようなところがあります。でもそれを克服しようとすることが大事です。それによって他者と繋がりや関係を持てるんだと思います」とウリの立場で語った。

【写真】映画『旅立つ息子へ』都立西高校3年生親子特別授業トークイベント

生徒・保護者それぞれのグループに分かれ意見交換

授業終了後、生徒・保護者それぞれのグループに分かれ感想共有と意見交換の時間へ。

生徒からは「先ほどダナさんは、親子が”泡”に入ってしまっているという表現をされていましたが、最後2人は”泡”を破ったのではなく、”泡”自体が広がったのではないでしょうか。自立の象徴となるあるシーンも、行動のきっかけを作ったのが父で、1人でできるようになったのがウリだから」といった意見も出た。

さらに生徒から保護者へ「もし自分の子どもが発達障がいを抱えていたとしたら、どういう幸せを子どもに与えるべきだと考えて、どういう育て方をしたと思いますか?」と問いかけの声もあがる。

それに対し保護者は「私の弟が知的障がいを持っていたのですが、父は、“親が亡くなった時に子どもがどのように生きていけばいいか”を考えていたと思います。知的障がい者のグループホームを作ったり、自活するための収入が得られるような手段を授けようとしたりしていた。障がいの有無にかかわらず、親は少なからずそのようなことを考えるんじゃないでしょうか」と答え、“親の気持ち”を語った。

【写真】映画『旅立つ息子へ』都立西高校3年生親子特別授業トークイベント

子から親へ、親から子へのメッセージ✉

特別授業イベントの最後には、親子がお互いにメッセージを送った。

生徒からは「高校生活の中でも、旅立ちのときでも、両親はいつも私のことを待ってくれていると感じます。その感謝を改めて伝えたいです」と感謝の思いが告げられる。

保護者は「映画を1本観ただけでこんなにも語り合える、子どもたちの成長を感じました」とコメント。

旅立ちや成長をテーマに親子それぞれの視点で意見を交わしながら、こうした機会だからこそ伝えられる感謝があり、感じられる成長がある。そんな高校“最後の授業”となった。

【写真】映画『旅立つ息子へ』都立西高校3年生親子特別授業トークイベント

[記者: 美坂 英里 / スチール写真: オフィシャル提供]

プロフィール

ダナ・イディシス (Dana Idisis)

1986年、ニューヨーク生まれ。イスラエルのテレビシリーズ「On the Spectrum」(2018年~)の企画・脚本を手がける。同作は、2018年トライベッカ映画祭にてお披露目されて以来、シリーズ・マニア・フェスティバルにてグランプリ受賞、モンテカルロ・テレビ祭にて最高賞に値するゴールデンニンフ賞を3部門受賞(最優秀テレビコメディ・シリーズ賞、コメディ部門女優賞、男優賞)、そして2019年ソウルドラマアワードにて大賞を受賞など、国際的な賞を多数受賞している。さらに、イスラエル・アカデミー賞(Ophir賞)では、最優秀テレビドラマ・シリーズ賞、監督賞、脚本賞を含む9部門を受賞。アマゾンスタジオにて、同作のアメリカリメイク版が配給された。

ノアム・インベル (Noam Imber)

【写真】ノアム・インベル (Noam Imber)

1998年、イスラエル、ケフェア・サバ出身。第17回東京フィルメックスで特集上映された『山のかなたに』(2016年)でスクリーンデビュー。その他の主な出演作には、短編『A Meaningful Job』(2018年)、オートバイレーサーたちの友情を描いたドラマ『Full Speed』(2020年)など。本作で、イスラエル・アカデミー賞助演男優賞を受賞。

イベント情報

映画『旅立つ息子へ』都立西高校3年生親子特別授業

■開催日: 2021年3月16日(火)
■会場: 都立西高校 第一社会科教室
■登壇者: ダナ・イディシス、ノアム・インベル

映画『旅立つ息子へ』予告篇🎞

映画作品情報

《ストーリー》

かつて売れっ子グラフィックデザイナーとして活躍していたアハロン(シャイ・アヴィヴィ)は、自閉症スペクトラムの息子ウリ(ノアム・インベル)を育てることにすべてを捧げ、田舎町で2人で暮らしている。ある日、別居中の妻タマラ(スマダル・ヴォルフマン)は将来を心配して、全寮制の特別支援施設への入所を決める。定収入のないアハロンは養育不適合と判断され、裁判所の決定に従うしかなかった。入所の日。ウリは大好きな父との別れにパニックを起こしてしまう。アハロンは決意した。「息子は自分が守る」こうして2人の逃避行が始まった。

 
邦題: 旅立つ息子へ
原題: Hine Anachnu
英題: Here We Are
 
監督: ニル・ベルグマン
 
脚本: ダナ・イディシス
 
出演: シャイ・アヴィヴィ、ノアム・インベル、スマダル・ヴォルフマン
 
配給: ロングライド
 
2020年 / イスラエル・イタリア / ヘブライ語 / 94分 / 1.85ビスタ / カラー / 5.1ch / 日本語字幕:原田りえ / PG12
 
©︎ 2020 Spiro Films LTD.
 
2021年3月26日(金)
TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー!
 
映画公式サイト
 
映画公式Twitter: @musukoe_movie

公式ハッシュタグ: #旅立つ息子へ

この記事の著者

Cinema Teens Online編集部

インタビューやイベントレポートなど、Cinema Art Onlineのティーンメンバーが注目する映画作品やキャストを中心に発信しています❣

この著者の最新の記事

関連記事

カテゴリー

アーカイブ

YouTube Channel

Twitter

【バナー画像】日本アカデミー賞
ページ上部へ戻る