
ヒット映画を生み出す知られざる裏方、初公開!
「映画予告編クリエイターの世界」ラウンドテーブル
「映像は作品ではなく、広告である」株式会社ココロドル 密本雄太が語る
人を劇場へと導く映画予告編の奥深きノウハウ
2026年2月25日(水)、コモレ四谷 タワーコンファレンスにて、株式会社ココロドル主催の「ヒット映画を生み出す知られざる裏方、初公開!『映画予告編クリエイターの世界』ラウンドテーブル」が開催された。
本イベントには、劇場予告編に関する映像企画・制作を専門とする株式会社ココロドルの代表取締役社長・密本雄太氏が登壇。2012年に専門学校を卒業後ロサンゼルスのハリウッドへ渡米して映画予告編の制作技術を習得し、2016年10月13日に同社を創設。現在、年間100本以上にもおよぶ予告編ディレクターとして第一線で活躍している。さらに密本氏はJAPAN MENSA、および世界人口上位0.1%の高IQ団体「TNS(Triple Nine Society)」に所属し、プライベートパイロットや深海へ潜るテクニカルダイビングのライセンスも保有する異色の経歴の持ち主である。
イベントは、専用のラウンドテーブルに座った密本氏がスクリーンへスライド資料や予告編映像を投影しながら進行。国の文化に合わせた「CTR(Cultural Transformation Rules)」の違いや、本編に全くないシーンやセリフを構築する手法「ADR(Automated Dialogue Replacement)」、聴覚で防衛本能を突く音響心理学からスキップを防ぐための感情曲線の仕掛けまで、論理的に体系化された予告編構築の驚くべき全貌が公開された。

パズルと構造から導く「1を10にする」という哲学
MCの紹介で登場した密本氏は、世界的な高IQ団体へ所属する論理的思考のバックボーンとして幼少期のエピソードを披露。「外で遊ぶ男子というよりは、家の中でPCを分解したり、テーブルや構造物を見るとネジを外したくなっちゃったりという癖がありました。つまり、パズルやすごく物事の構造を考えるのが好きなんです」と語り、映画予告編の制作も、映画という完成された巨大なパズルを一度分解し、一番観客の心を惹きつける順序へ情報を組み直す論理的な組み立て作業であることを説明した。
また同社は、自分たちの専門的な役割と立ち位置を明確にするため、「クリエイター」という呼称を使わず「ディレクター」や「エディター」を用いているという。
「クリエイティブというのは0から1を生み出す仕事だと思うんですよね。ですが、我々っていうのは1を10にする仕事だと思ってます。感覚で作る属人的なものにならず、その組み立て方のフローを法則化すれば、世の中に一定のクオリティで価値を提供できるという考え方で作っています」

時代が変えた映画予告編と、「作る仕事」と「売る仕事」の違い
続いて、予告編のみを制作する「専門会社」が誕生した業界の時代背景が解説された。フィルム時代における予告編は、本編の情報を純粋に正しく伝えることを目的として「助監督」の登竜門的につくられていたという。しかし映像業界には10年周期で大きな変革の分岐点が訪れた。1999年の映画『マトリックス』による第1次映像革命(CGの進化)、2009年の映画『アバター』の第2次映像革命(3D化)、2019年のコロナ禍が生んだ第3の波となる流通(配信)革命であり、密本氏は「おそらく次、2029年にはAIによる革命が起きるだろう」と語る。
情報過多のデジタル社会になると、情報を伝えるだけでは誰も劇場へ来てくれなくなる。「見ている人の行動を変えないといけない。映画館へと足を運ばせないといけない」。そこで初めて映画予告編制作に独立した広告ツールとしての専門性が生まれたのだという。
その違いの例として、過去にあった興味深い検証が挙げられた。「CMディレクター」と「映画予告編ディレクター」が同じ映画素材で予告を作ると、全く別物になる。「CMディレクターさんはすごくアーティスティックで素晴らしいものを作るんですが、観終わったあとに映画を観に行きたいかと言われると、それで完結してしまう。『作る仕事』と我々のように『売る(ための)仕事』とでは役割やアプローチが違うというところに、こういった専門会社が存在する理由があるんです」。

CTRが示す、日米の「無意識の枠組み」の差異
そして話題は具体的な“裏側”となる4つのメソッドへ進んだ。1つ目は、同じ映画の素材でも展開される国のターゲット文化に合わせ、作り方が根底から変わるというCTR(Cultural Transformation Rules:文化変形規則)を用いた構成アプローチだ。
「日本の文化思考は『謙遜』『集団主義』『依存主義』。対してアメリカの文化は『対等主義』『個人主義』『自立主義』。ノリの良さというような曖昧なものではなく、CTRを用いてターゲットが属する文化特有の無意識の枠組みに合わせて最適化させています」
一目でわかるその対比として、映画『アナと雪の女王』(原題:Frozen/2013年)の各国の予告編動画が上映された。日本の予告編はまさにその文化通り、「姉妹の絆や感動路線、ストーリー重視」となっており、ほぼアナとエルサしか映像内には出てこない。しかし同作のUS版(アメリカ)の予告編を再生すると一変、主要キャラに加えオラフ(雪だるま)等のサブキャラクターたちを中心に据えたコメディ的要素の強い、スピーディーで全く別のジョーク仕立てに振り切って編集されているのが実証された。
結末を見せない「魔法のテクニック:ADR」
2つ目のノウハウは、ハリウッドでは頻繁に使われるADR(Automated Dialogue Replacement)だ。通常は後録りのアフレコを示す語だが、密本氏によるとこの業界では「事象が乖離しない範囲で、予告編のためだけに新しくセリフを録音する、映画本編には一切存在しないシーンを追加する」手法として使われている。観客に「映画のすべてを知った気で満足させない」ためである。
「“起承転結”じゃだめなんですよ。なので、オチではなく“起・承・転・点・点”くらいで終わらせないといけない。わざと本編にない謎のセリフを入れたり役者がただ俯くシーンを入れることで、『結末はどうなったの?Yesなの?Noなの?』と思わせ映画館に誘導するための仕掛けです」と説く。
マット・デイモン主演の映画『オデッセイ』(原題:The Martian/2015年)では、冒頭に本編にない記者からの意味深な質問やNASAの長官のリアクション等が組み込まれている。ちなみに事実誤認による混乱を防ぐため、そうしたADR加工済みの予告映像はTVCMやWeb上等の宣伝段階のみに限定し、すでに映画館を訪れている観客がシネコン等のスクリーンで観る特報にはあえて使用しないといった綿密な出し分けがされる点にもプロの思考が表れていた。
防衛本能までを突き動かす「音響心理学」の凄み
続いて「音の重要性」だ。「ハリウッドでは、予算の膨大な大半は音を作ることだけのために組まれており、約2分半のためにフルオーケストラなどを雇って、トレーラー・ミュージック・バンカー(Trailer Music Banker)と呼ばれる予告専用のプロバイダーへお金を払い一から音楽を作り出している」という事実が語られた。「サウンドトラックを買ったのに予告のカッコいい音楽が入ってない」と我々が思う理由はこれである。
ではなぜ「音」にそれほどの重きを置くのか。「人間は心理学や生物学的にも、視覚情報より聴覚情報の方が強制的に感情が引っ張られる生き物なんです」と語り、仮に何でもない雪山を男女が歩く映像でも、音楽がホラーに変われば戦慄のスリラー映画になり、感動のBGMに乗せれば途端にラブストーリーに見えてしまう極論を示した。
「映画『トップガン』(原題:Top Gun/1986年)でさえ、宣伝方針や音楽と見せ方を変えれば本格的な恋愛映画として世に出すことすら可能ですよ(笑)」という言及が、映像メディアの真理を如実に物語る。
驚くべきはそれだけではなく、人間の動物的防衛本能(DNAの記憶)を利用したテクニックまで存在するという。映画『ベイビー・ドライバー』(原題:Baby Driver/2017年)では派手なアクション効果音やブレーキ音に隠れる形で、捕食者側に“ライオンなどの猛獣の唸り声”や“鷹の飛んでくるような音”、追い詰められる被捕食者側に“ウサギなど小動物の悲鳴や、人間の赤ちゃんの泣き声などの危機を促す周波数”といった生物の持つ危険・エマージェンシー信号の音が重ねて鳴らされている。
この耳から直接叩き込まれる魔法のような情報誘導によって、観客は気付かない間に「本能で強制的に心拍数を上げられハラハラしてしまう」という驚きのプロセスが明かされた。
離脱を止める3幕構成と最新手腕「コールドオープン」
そして4つ目のノウハウとして「感情曲線(タイムライン構成)」の構造についての法則性を取り上げる。「導入(Act 1)、葛藤(Act 2)、そしてクライマックス(Act 3)と人間がのめりこむ王道の三幕の心理的な設計が必要になる」という。
ところが、現在若年層をはじめとするスマートフォンのショート動画等の普及により状況は激変。「昔は“冒頭の3秒”が肝心だと言われていたものが、今は下手すると開始から“最初の1秒”で指でスワイプして飛ばされる(スキップされる)」極めて過酷な視聴スタイルとなっている。
だからこそ、昨今生まれた最重要のアプローチとして「本編の一番おいしいクライマックスやフックを動画の0.1秒〜1秒でドカンと提示する、コールドオープンと呼ばれる技法を動画の冒頭に用いなければなりません」とその急務性を説いた。
「この動画離脱を防ぐコールドオープンや感情曲線のメカニズムを、日本の業界内で明確に言語化しているのは、おそらく我々くらいです」

常に進化を重ねる研究の自信の表れといえるだろう。
任される歓び、映画プロモーションはさらなる表現の世界へ
熱きレクチャーの最後には、同社でこれまでに作り上げてきた多数の実績から選りすぐりの予告動画も上映された。
まずは現在公開中で若年層10代を中心に今SNSで大バズリを記録しているという、お笑い芸人ゆりやんレトリィバァ初監督作のホラー映画『禍禍女』。
また同様にこちらも冒頭からコールドオープンを仕掛けて制作した、ノルウェー発のアニメーション映画『スペルマゲドン 精なる大冒険』が続けざまに再生され、若きターゲットたちの心をどのように鷲掴みにしているのかが証明された。
こうしたディレクターたちの手腕によって支えられている数多の作品だが、クライアント側と「専門的技術への確かなリスペクトと信用関係」も存在する。かつて手掛けた『鬼滅の刃』のプロモーションの際には「配給の担当者の方から『何も企画は出さないし言わないので、密本さんたちの好きなようにすべてやってください!』と任せていただき、これは本当に仕事をしていて一番有難く最高の気分でした(笑)」と笑顔を見せた。このエピソードにこそ、彼らエディターたちが担うプロモーション能力がいかに頼りにされているかが詰まっている。
その講義の締めくくりを飾ったのは、第98回アカデミー賞®長編アニメーション賞にノミネートされ、ナタリー・ポートマンが製作総指揮を務めたことでも話題を呼んでいる、アニメーション映画『ARCO/アルコ』(原題:Arco)の特報映像の公開だ。4月24日(金)の日本公開に向けてココロドルが手掛けた特報映像が披露された。
我々が知らず知らずのうちに足を踏み入れていた緻密な罠や、視覚・聴覚を通じた深い広告哲学の力によって、「映画」への誘引の形は劇的にアップデートされている。密本氏の「次回から映画の予告編を見る際は、こういった裏側にも是非注目して観てほしい」との言葉の通り、シネコンやデバイスにおける映像の見方さえも変わる大盛況のラウンドテーブルとなった。
イベント情報
ヒット映画を生み出す知られざる裏方、初公開!
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