第36回 東京国際映画祭(TIFF) アニメ・シンポジウム「アニメーション表現の可能性」レポート
【写真】第36回東京国際映画祭(TIFF)  アニメ・シンポジウム「アニメーション表現の可能性」フォトセッション (原恵一監督、板津匡覧監督、片渕須直監督、パブロ・ベルヘル監督、藤津亮太 東京国際映画祭アニメーション部門 プログラミング・アドバイザー)

第36回東京国際映画祭(TIFF) 
アニメ・シンポジウム「アニメーション表現の可能性」
原恵一監督×板津匡覧監督×片渕須直監督×パブロ・ベルヘル監督 

“職人の技”とリアリティをどう融合!?
注目の四監督が、自身のこだわりとアニメーション制作の裏側を明かす!

世界で長編アニメーションの製作が盛んになり、扱われる題材や主題も広がりを見せる中、第36回東京国際映画祭(TIFF)アニメーション部門では、第一線で活躍する監督たちがこれからのアニメーションについて語り合うシンポジウムを開催。

10月29日(日)に東京ミッドタウン日比谷 BaseQ ホール1で行われた「アニメーション表現の可能性」をテーマとするシンポジウムには、今回アニメーション部門に出品された『かがみの孤城』(2022年)の原恵一監督、『北極百貨店のコンシェルジュさん』(2023年)の板津匡覧監督、『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』(2016年)の片渕須直監督、『Robot Dreams』(2023年)のパブロ・ベルヘル監督が登場。

各監督は、自作に取り組むにあたり、いかなる発想で題材を選び、それをどのようにアニメーションとして成立させるよう考えたのか。藤津亮太(アニメ評論家/東京国際映画祭アニメーション部門 プログラミング・アドバイザー)がモデレーターを務め、各監督のアニメーションへの向き合い方と、その先にある可能性について聞いた。

原恵一監督の頭の中の映像は、ほとんど実写
「絵コンテ作成中に“強靭
なラストシーン”を思いつくことが大事」

監督になったきっかけは、実写映画だったという原監督。もともとアニメーター出身ではなく、実写をたくさん見て育ってきた自身の中にある「大切な映像」のピースは、実写からのものが多いという。その経験から「アニメーター出身の監督とは違う絵作りをしている気はする。それが自分の強みと信じて仕事をしている」とそのオリジナリティについて言及した。

また、制作過程においては、絵コンテを書き始めたときにどんなラストシーンにするかを想像すると告白。「脚本では浮かんでこない。絵コンテを描いてビジュアル化している内にラストシーンとラストカットが浮かぶんです。それが浮かんだら、後はそのゴールに向かって走っていけばいい。脆弱ではなく強靭なラストシーンを途中で思いつくことが大事だと思っています」と伝えた。

【写真】第36回東京国際映画祭(TIFF)  アニメ・シンポジウム「アニメーション表現の可能性」(原恵一監督)

さらに、「シリーズもの以外は、どの作品も最初は初めましてのキャラクターですよね」と前置きしたうえで、「ある程度絵コンテを進めていく内にだんだんキャラクターのことが分かってきて、人物が自分の中でリアリティを帯びて来る。その時に頭の中で想像しているのは、僕の場合実写の映像なんです。そこがちょっと変わっているかも」と独自のイメージの持ち方を明かした。

キャラクターの動きは「人間の表現であり、演技」
片渕須直監督が語る、“動きの表現”へのこだわり

作品制作時、アクションレコーダー(動きを確認する装置)を活用しているという片淵監督は、「動き」のコントールにおける重要ポイントついて聞かれると、「(アニメにおける)動き自体は紙をパラパラしてコントロールできないと嘘だと思います。ただ、1シーンが長時間になると難しいし、複数の人物やせりふが絡まってくるとさらに複雑になっていく。それを同時にできるのがアクションレコーダーなんです。各自の動きを本当にビジュアルとして確認できて、スタッフとも共有できるので、20年以上使っている制作しています」と、制作を進めるうえで現実的な手法を取り入れていることを説明。

続けて、「人の動きって頭の中ではイメージできない。描いてみるから、形になります。それって人の脳の構造らしいです。動きは人間の表現であって、演技だと思います。アニメーションでも、ある種の演技を通じてその人物がどんな人なのか、どういう状況にいるかが分かるようになる。そこまで含めてのものだと思います」と「動き」に対する独自の見解を語った。

【写真】第36回東京国際映画祭(TIFF)  アニメ・シンポジウム「アニメーション表現の可能性」 (片渕須直監督)

さらに現在制作中の『つるばみ色のなぎ子たち』の映像が一部流された後には、同作を制作するためにスタジオを立ち上げて、新人養成も行っていることを明かした。また「この作品でもそうですが、一人一人の仕草はつくれるけど、全部合わさった時にどう動いて見えるかは、確認の必要がある。(そうした一つ一つの動きを)リハーサルしながらじゃないと作れません。それは実写でしていることを真似しているだけかも」とアニメと実写映画の関係性についてもふれて、自身の論を展開した。

リアリティも大事だけれど、作り手が楽しいかどうかも重要
場面によって力点が変わる、板津匡覧監督のアニメづくり

作品における「リアリティ」の持ち方について質問された板津監督は、『北極百貨店のコンシェルジュさん』は、昔の東映長編作品のような漫画映画を目指したと回答。「作品の中の全部が同じリアリティということでもありません。場面よってキャラクターの身体感覚の方が大事なときと、せりふを大事にしたいから、動きは少し抑えたいといったところがあったりします」と同じ作品でも、シーンによって力点を置く場所を変えていることを告白。

【写真】第36回東京国際映画祭(TIFF)  アニメ・シンポジウム「アニメーション表現の可能性」(板津匡覧監督)

「アニメーションはたくさん見ていますが、書くとなると現実を見て再確認しないといけない。歴史上のアニメーターたちはこういうものを観察して、抽象化、具体化してアニメーションに落とし込んでいたのだということを確認しつつ作っています。それが自分なりのスタイルになっちゃうのだと思います。リアリティも大事だとは思いますが、2~3年の長期スパンで作るときに、自分が描いていて楽しいかもそれなりに大事。自分の監督作を作る時は、これ描いたらみんな楽しいかな?という感覚も大事にしています。その方が作っている間(クリエイターの)気持ちも盛り上がりますから」とアニメーターを経験してきたからこその見解を伝えた。

パブロ・ベルヘル監督がこだわったのはレイアウト
「監督がすべての答えを持っているわけではない」と仲間への信頼を明かす

もともと実写映画を制作しており、今作で初めてアニメーション作品を手掛けたパブロ監督は、制作中、長い時間を絵コンテとアニマティックに費やしたという。「私はストーリーボード(絵コンテ)を全て完全に作ってから先に進みたいと思い、『Robot Dreams』では絵コンテを完成させるのに、約1年を費やしました。これは、(実写でいうと)カメラをどこに設置するのかという部分なので、監督の責任だと思います。それでいうとアニマティックの部分が役者の演技になり、リードアニメーターは実写映画だと主役です」と独自の感覚で実写作品との違いを説明。

さらに、ディレクターとして関りたいとこだわったのが「レイアウト」だと明かし、「シーンごとに作画監督やアニメーターたちと一緒にレイアウトを見て、私が本当にこれでいいと思うまで調整を繰り返しました。彼らは私にとって“7人の侍”というべきメンバーです。私は、監督がすべての答えを持っているとは思っていません。信頼できる人がいることは重要ですし、彼らがオラクル(神託)と呼べるものを与えてくれるのは素晴らしかったです」と一緒に仕事をする相手への信頼を口にした。

【写真】第36回東京国際映画祭(TIFF)  アニメ・シンポジウム「アニメーション表現の可能性」 (パブロ・ベルヘル監督)

その後、今後のアニメーションにおける、自身の表現の可能性などを語り合い、一般参加者からのQ&A、メディア向けのフォトセッションを経て濃厚なシンポジウムは閉幕した。

[スチール撮影: Cinema Art Online UK / 記者: 深海 ワタル]

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イベント情報

第36回東京国際映画祭(TIFF) 
アニメ・シンポジウム「アニメーション表現の可能性」

■開催日: 2023年10月29日(日)
会場: 東京ミッドタウン日比谷 BaseQ ホール1
■登壇者: 原 恵一監督、板津匡覧監督、片渕須直監督、パブロ・ベルヘル監督
■モデレーター: 藤津亮太(アニメ評論家/東京国際映画祭アニメーション部門 プログラミング・アドバイザー)

【写真】第36回東京国際映画祭(TIFF)  アニメ・シンポジウム「アニメーション表現の可能性」フォトセッション (原 恵一監督、板津匡覧監督、片渕須直監督、パブロ・ベルヘル監督、藤津亮太(東京国際映画祭アニメーション部門 プログラミング・アドバイザー))

この記事の著者

深海 ワタルエディター/ライター

ビジネスメディア、情報誌、ITメディア他幅広い媒体で執筆・編集を担当するも、得意分野は一貫して「人」。単独・対談・鼎談含め数多くのインタビュー記事を手掛ける。
エンタメジャンルのインタビュー実績は堤真一、永瀬正敏、大森南朋、北村一輝、斎藤工、菅田将暉、山田涼介、中川大志、柴咲コウ、北川景子、吉田羊、中谷美紀、行定勲監督、大森立嗣監督、藤井道人監督ほか60人超。作品に内包されたテーマに切り込み、その捉え方・アプローチ等を通してインタビュイーの信念や感性、人柄を深堀りしていく記事で評価を得る。

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