- 2021-10-5
- イベントレポート, 第34回 東京国際映画祭, 記者会見
第34回 東京国際映画祭(TIFF)
「Nippon Cinema Now」部門 特集
《人間の心理をえぐる鬼才 𠮷田恵輔監督》
日本外国特派員協会 記者会見
第34回東京国際映画祭(TIFF)が、10月30日(土)~11月8日(月)に、今年は日比谷・有楽町・銀座地区に会場を移し、新たな体制で開催される。
東京国際映画祭では、昨年までは「Japan Now」部門として現在の日本を代表する邦画作品が紹介されてきたが、今年から「Nippon Cinema Now」部門と名称を改め、より多様性に富んだ邦画作品を世界に向けて紹介される。
そして今回特集されるのは、『ヒメアノ〜ル』(2016年)、『愛しのアイリーン』 (2018年)、『BLUE/ブルー』(2021年)、そして最新作の『空白』(2021年)と、いずれの作品も上質なエンターテイメントでありながら観る人の心を強く揺さぶる衝撃作を発表し続ける、𠮷田恵輔監督。
ストーカー、兄弟姉妹、国際結婚、ボクシング、加害者と被害者、人間関係の狂気ともいえる純粋さ、もしくは純粋なまでの狂気を映画的な視線で描き切るその才能は、今後間違えなく国内外の映画祭で注目されると、3作品の特集がラインナップされている。
10月5日(月)、第34回東京国際映画祭での上映に先駆け、日本外国特派員協会(FCCJ)にて記者会見が行われ、東京国際映画祭チェアマンの安藤裕康、 第34回東京国際映画祭プログラミング・ディレクターの市山尚三、そして今回特集上映が行われる𠮷田恵輔監督が登壇した。
𠮷田恵補監督 コメント
僕は、塚本晋也監督の照明スタッフとして数十年間働いてきました。天才を身近にして、海外から評価されているところを間近で見てきて、ずっとあこがれを持っていたんです。あまりにも身近に天才がいると自分は選ばれる側の人間ではないのかなと思ってきたんですが、今回、東京国際映画祭の特集に選んでいただいたのをきっかけに僕の作品を海外の人にも知ってもらい、憧れの塚本監督には及ばないとは思いますが、少しでも近づいていけたらいいなと思っています。
安藤裕康 東京国際映画祭チェアマン コメント
新型コロナウイルスがまだまだ厳しい状況だが、昨年同様に感染症対策をしっかりした上でリアルに実施していく。今年、17年ぶりに会場を六本木から日比谷・有楽町・銀座地区へ移転します。伝統ある映画の街であり、地の利もよいので、より広いお客様に親しんで頂きたい。映画祭の最重要課題は素晴らしい作品をそろえること。その為、17年ぶりにプログラミング・ディレクターを市山氏へ交代し、部内の改編や粒ぞろいの作品を集めてもらうことに努めてもらった。
さらに、TIFFの国際色を一層豊かにするため、是枝監督からの強い要望もあり、日本と外国の映画人との交流強化を目的に、昨年からスタートした「アジア交流ラウンジ」を今年も実施します。しかしコロナの状況により、初期に予定していた海外からのお客さんをあまり呼べず、限定的な数となってしまった。フルスケールでの実施は来年に持ち越し、これを来年に向けての布石としていきたい。我々は、映画祭を通して様々な現代社会が直面している課題と向き合っていきたい。
ジェンダーやSDGsの問題。今後の映画界にとっての課題である配信とどう向き合うかという問題。そして、コロナの影響もあり、人と人との断絶が起こってしまっている状況を、観客の皆さまと一緒に考えていける機会にしたい。
東京国際映画祭プログラミング・ディレクター 市山尚三 コメント
東京国際映画祭は日本映画を多く上映する場、そして海外の作品も招聘し、日本映画を海外へアピールする場として貢献をしてきたと思う。「Nippon Cinema Now」という部門は、今年つくられた作品の中で素晴らしいと思うものを紹介する部門です。
この東京国際映画祭を起点として、海外の人たちに発見してもらうために作品選びを致しました。その枠の中で監督を特集しようとなり、今年は是非、𠮷田恵輔監督を取り上げようということになった。これまでもクオリティの高い素晴らしい作品を作り続けているのに、これまで特集などをされてこなかったことが理由です。
そして、『空白』という作品が今年公開した日本映画を代表する大傑作であることがあげられます。来年以降、この特集をきっかけに𠮷田監督の作品が海外でもどんどん注目を集め、特集などでも取り上げてもらえれる様になればと思っています。
𠮷田恵輔監督へのマスコミからの質疑応答
—— 塚本監督のどこが素晴らしいのでしょうか?
誤解がない様にいうのですが、20歳くらいの頃に、日本映画ってダサいなってとがっていたんです。そのころ塚本監督の『鉄男』(1989年)という作品と出会って、こんなにカッコいい作品があるんだ、すごいなと思ったんです。誰が監督か知らずに観ても、映画を塚本監督作品だとわかるオリジナリティがあるところに憧れます。
—— 今年東京国際映画祭で特集され、これをきっかけに国際的に注目を浴びることになると思いますが、今年の東京国際映画祭に何を期待しますか?
個人的には自分の作品を好きだと言ってくれる人はいたのですが、こういった特集に選ばれたことがなかったので、口だけなのかなと疑っていました。でもこうして1回選ばれると、選ばれていい人だと思ってくれるのでそう認識されたら嬉しいです。東京国際映画祭に関しましては、コロナの状況もあるとは思いますが、映画を通して未来に開けていけばいいと思うし、お客さんにも沢山来てほしい。映画を目指す若者にも沢山観てほしいなと思います。
市山プログラミング・ディレクター及び安藤チェアマンへのマスコミからの質疑応答
—— 東京フィルメックスと東京国際映画祭が連携することで、映画祭のカラーがごちゃ混ぜになってしまう可能性はないのか?
市山プログラミング・ディレクター: 東京フィルメックスを後進に、誰かに譲るべきだとずっと思ってきました。ヨーロッパの主要な映画祭は、プログラム・ディレクターが何年かごとに変わりながら進んでいっている。東京フィルメックスも東京国際映画祭もそうあるべきだと思うんです。どうしても映画祭と言うのはプログラム・ディレクターのカラーが反映されてしまうもの。今年の東京国際映画祭では僕のカラーが出ているかもしれません。もちろん、東京フィルメックスでは選ばなかった様な作品も今回選考していますが、僕のカラーというものは反映されていると思います。東京フィルメックスと東京国際映画祭の2つの映画祭を観ていただければ、今のアジアの主要な映画はほぼカバーできれているのではないかと思っています。東京フィルメックスの選考も、僕だったら選ばないような作品が選ばれていたりしていますので、東京フィルメックスのプログラムを確認してどちらも楽しみにしていただければと思います。
安藤チェアマン: 去年から東京フィルメックスと東京国際映画祭の連携を強めるようにしました。2つの映画祭が同じことをするという事ではなく、それぞれの別の特色をもった2つの映画祭が連携することで、全体としてより素晴らしい映画祭になるという考えに基づいてやっています。海外でも、カンヌやベルリン、ヴェニスなどで本体の映画祭とは独立した部門で、批評家週間であるとかそういうものがあるので、同じように東京映画祭とフィルメックスも分業して行おうという考えです。市山さんに東京国際映画祭のプログラミング・ディレクターをお願いしたのは、フィルメックスと同じ様な映画祭をつくってほしいというわけではなく、市山さんの眼力、作品を観る力、海外とのネットワークを評価し、これまでの市山さんの映画人生を東京国際映画祭の場で活かしてほしいと思ったからです。今年の東京国際映画祭のラインナップをよく見てもらえれば、フィルメックスでやらないような作品も入っていることがわかります。例えば、今年のオープニング作品はクリント・イーストウッド監督の『クライ・マッチョ』(2021年)で、クロージング作品は『ディア・エヴァン・ハンセン』(2021年)です。これらの作品はおそらくフィルメックスでは選ばれない作品でしょう。そういった作品もラインナップされているところも注目して欲しいです。
《記者会見概要》■開催日: 2021年10月5日(月) |
《𠮷田恵輔監督 プロフィール》1975年生まれ、埼玉県出身。東京ビジュアルアーツ在学中から自主映画を制作し、塚本晋也監督作品の照明を担当する。2006年に『なま夏』を自主制作し、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭ファンタスティック・オフシアター・コンペティション部門のグランプリを受賞。2008年に小説「純喫茶磯辺」を発表し、自らの手で映画化する。その他の監督作品に、机のなかみ』(2007年)、『さんかく』(2010年)、『ばしゃ馬さんとビッグマウス』(2013年)、『麦子さんと』(2013年)、『銀の匙 Silver Spoon』(2014年)、『ヒメアノ~ル』(2016年)、『犬猿』(2018年)、『愛しのアイリーン』(2018年)、『BLUE/ブルー』(2021年)、『空白』(2021年)などがある。 |