- 2019-11-3
- イベントレポート, 第32回 東京国際映画祭, 記者会見
第32回 東京国際映画祭(TIFF)
コンペティション部門 映画『ばるぼら』記者会見
初お披露目は漫画の日であり、原作者・手塚治虫の誕生日!
手塚眞監督「10歳の頃出会った大切な作品」満を持して映像化!!
第32回東京国際映画祭(TIFF)コンペティション部門出品作品である、映画『ばるぼら』。11月3日(日)、TOHOシネマズ 六本木ヒルズにて手塚眞監督による記者会見が行われた。
手塚眞監督の父である漫画家・手塚治虫が1970年代に発表した漫画「ばるぼら」を原作とし、稲垣五郎と二階堂ふみが主演を務めた本作。会場に手塚監督が登場すると、今日この日が初お披露目である縁について「11月3日は文化の日でありますが漫画の日でもあります。そして手塚治虫の誕生日です。原作者の誕生日にこの映画をみなさんに観ていただけたことを嬉しく思っています」と話し、数奇な取り合わせに思いを馳せた。
以下、会見の内容は一問一答形式でお届けする。
—— 原作の映像化で大切にしたこととは?
(手塚治虫の)原作を預かっている身でありますので、映像化や映画化した作品を拝見することがありますが、良いものもあれば、これはどうかと思うものもあります。原作に沿った映像化が必ずしも良い訳ではなく、漫画の大事なテーマやモチーフは残しながら、作り手の考え方が表現されないとだめだと思います。かといって漫画から離れてしまっても原作を好きな方はがっかりされると思いますし、バランスがとても難しい。「ばるぼら」の場合は、原作全部を映像化すると、3時間くらいの長編になってしまい、それはあまり意味がないように感じました。観やすい長さに縮めて、なおかつ大事な内容を残すということには非常に気を使ったつもりです。
—— 稲垣と二階堂というキャスティングの経緯は?
日本の俳優の方は裸体に対してシャイな方が多いんです。脚本を読んで、多くの俳優に「できません」と断られました。もちろん稲垣さん二階堂さんも気にはされたかと思うのですが、作品の意味を大変理解してくださり、誰が作るのかということもわかったうえでこの役を受けていただけたんだと思います。彼らがすばらしかったのは、撮影でもセンシティブな場面が沢山ありましたが、脚本にあることは気にせず躊躇もなくやっていただけたことです。演出しやすかった。
普通の映画よりそういう(エロティックな)場面が多いかと思います。脚本の上で決まっていたことですし、この作品の場合は自分は良いバランスでそういった場面が入っていると思っています。
—— 原作「ばるぼら」との出会いと、映画化を決めた経緯
「ばるぼら」を初めて読んだのは、おそらく10歳くらい、雑誌連載時でした。掲載誌(ビッグコミックスピリッツ)は、そのくらいの子供がなかなか読むことができない大人向けの雑誌でしたが、家の中には父親の仕事として置いてあり、読むことができたのです。当然印象的な作品として思い出に残っています。もしかしたら「鉄腕アトム」や「ブラックジャック」よりも・・・。自分にとって大切な作品だったので、それだけに自分が映像化するなら、心構えや実力がつくまで待ってからやろうと思っていました。プロの映画監督として何作か作品を発表し、そろそろこれをやる時期かなと思ったので企画にしました。
この作品を選んだのは、自分も監督として仕事をする中で思っていること、考えていることがこの作品に重ねて表現できるのではと思ったからです。この作品は父親にとって大切な作品であるだけでなく、自分にとっても大切な作品になったと思います。
—— 演出には”手塚治虫”を意識しましたか?
自分が監督・演出しているので、自分の”色”というのが出るのだと思います。他の演出家よりは、手塚治虫の血が濃いこともあり、意識したわけではないのですが、映画のカラーや俳優の演技ふくめ、結果として自然にそういった”手塚治虫色”が出たのではないかと思います。
撮影中にスタッフから「手塚治虫ならどうするでしょうか」と尋ねられることもあったのですが、僕はその時に、「無理に原作に戻らなくても、僕の考え方に任せてくれれば大丈夫」と話しました。おそらく漫画に戻って読んでしまうと”絵にこだわって再現するだけの仕事”になってしまうので、内にある手塚の血を湧き立たせてることでそれが正解になると思ってやりました。
渡辺えりや二階堂の演じたキャラクターは漫画から抜け出したような原作そっくりの姿しているのですが、これは自分のアイデアではなく、キャラクターデザイナーの柘植伊佐夫さんのアイデアです。彼は原作原理主義者だと言っていました(笑)。最初僕はコスプレのようになってしまうのではないかという危惧もあったのですが、最終的にはプロフェッショナルである彼に一任しました。
—— クリストファー・ドイルを起用した理由について
日本の東京の話ですが、異国のような、この世とは違う景色が観たかった。町が重要な要素なので、街並みを美しく撮れる人という条件がありました。原作のなかにはたくさんの要素が入っているのですが、シンプルに考えると”ラブストーリー”です。男と女を美しく撮れ、街並みも美しく撮れる人、そして日本人とは違う視点を持っている、しかし日本のことをよく知っているという要求に最適なのが、クリストファー・ドイルさんでした。影の理由がもう一つ。ドイルさんはお酒がお好きだと聞きました。そして美しい女性も。ですからこの物語はぴったりで、気に入るんじゃないと思い、5年前に脚本を送りました。すぐに「ぜひやりたい。自分が撮らなくてはいけない、撮るべき作品」と返事をもらいました。それから実際に製作が動き出すまで5年間、彼は待っていてくれました。彼と一緒に仕事ができて幸せです。
—— 原作との時代や、女神とされる”ばるぼら”の人物像の描き方の違いについて
時代設定はいろいろ考えて現代にしました。過去の話にするとノスタルジックな空気が強くなりすぎてしまうのと、原作の舞台となる1970年代の東京を忠実の再現しようとすると、バジェットもかかってしまうので。ただ、社会的な状況は当時と今とは似ているのではないかと思います。貧富の差や政府への不満は1970年代を思い出させるところがあると思います。そういった理由から現代にしました。
”ばるぼら”は、原作の中でもミューズとははっきりとは書かれていなかったと思います。途中からはオカルティックな悪魔の話になり、手塚もあいまいに描いています。ですから、観ようによっては美倉の妄想で、彼女は現実にはいなかったとも考えることができるのではないかと思います。そこは観客のイマジネーションに委ねています。
—— もし手塚治虫がこの作品を観たら、どのような感想を言うと思いますか?
父が生きていて、こういう映画をやるといったら「俺も一緒にやる」と言ったかと思います。彼は自分で脚本を書きたがったかと思うので、そうすると原作とは全く違う話になったのではないかと思います。手伝わなかった場合は、「俺だったらもっと面白くしたぞ」と言うと思います。大変負けず嫌いの人間ですから(笑)。
[スチール写真: © 2019 TIFF]
イベント情報
第32回 東京国際映画祭(TIFF) コンペティション部門
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映画『ばるぼら』予告篇
映画作品情報
英題: Tezuka’s Barbara