映画『#youth』菱川勢一監督インタビュー

映画『#youth』菱川勢一監督インタビュー

この映画に込めた哲学を紐解いていく

逃げてもいい。
失敗してもいい。
でも、
前に進むことに
怯えないで。
徳島に住む幼なじみ6人、タロウ、リンコ、ヨーコ、マナブ、キンタロー、ユイ。少しづつ変わってゆく地元の風景にどこか寂しさを感じ、20歳を越えた今、社会というものを考え始める。“社会人とは何か? 幸せとは何か?”を問い、6人は答えを探してついには暴動へと突き進む。抱いていた夢と立ちはだかる現実のはざまで仲間たちと分かち合う喜び、悲しみ、怒り、そして過去から解放される青春映画。

―― この映画を菱川監督としては、誰に一番観せたかったのでしょうか?

みんなに観せたかった。

劇中のセリフに「今を創ってきた大人達への挑戦状…」ってあるんですけど、僕も今の時代を創ってきた片隅の一員として、正直な所自信がない。いい時代を創ったのか、いいやこんなの違う、とか。もっと違ったやり方があったかもしれないとか。

例えば、電車の中でみんなスマホを見ていると「本当にこれで良かったのか?」という気になるよね。この便利すぎる時代は、「何が良かったんだっけ?」と思う時がある。そのような思いがどうしても頭の片隅から離れない。毎日毎日思っているのではなく。刹那的に昔を振り返るということがある一方で、今の若者達って「将来のことをどのように考えているんだろう?」とすごい気になる。気になっているだけならいいんだけど、放っておくと妙な法律が知らず知らずにできちゃったりするでしょう。そういうのをね、もうちゃんと次の世代の声を聞いたほうがいいよなあって思う。本気で思うなあ。

―― 純粋に感じて素直な気持ちで若者は考えればいいのでしょうか?

ううん、そんなに無責任に言ってるわけじゃないの。そもそも「若者」っていう定義自体がちょっとね。なんていうか、年寄りが使う言葉だよね。「youth」って辞書で調べるとさ「未熟者」って出てくるんだけどね。未熟っていいじゃない。可能性に満ちてるよね。だからその可能性っていうものを世の中はとことん信じ切ってみようよ。っていうのがこの映画のテーマなんじゃないかなあと思う。

―― やはりこの映画は大人たちへのメッセージなんでしょうか?

この映画は賛否両論あると思う。解釈が人それぞれ違ってくると思うからさ。登場する6人の若者たちは、人騒がせなやつだと非難する人もいるだろうし、一方であのデカ長みたいなフトコロを持った大人って今の世の中減ったよねとか。世の中とか未熟な若者のことについて議論が巻き起こってもいいなと思っていて。あんまり正しい解釈のリードをしてない。不安定な感じにしているんだよね。一見、シンプルでわかりやすい話の筋に観えるんだけど、所々に矛盾点を残していて、引っかかる人がいるだろうなと思うな。そういう意味では実験的なことを実はやっています。

―― 菱川監督の思いは、あのデカ長の思いと近いのでしょうか?

うーん、わからない。フトコロの深さとか、いい加減なこと、未熟なことへの寛容さとかは憧れます。「許す」って人間の最終的な幸せの手段ですよね。いろんな場面で問われる真理だと思うなあ。

―― 今の社会は、“デジタル化されちゃった”みたいな感じでしょうか?

今の社会の危うさってグレーを許さないことにあると思うの。デジタルっぽいといえばそうなのかもしれないね。0/1(ゼロ/イチ)で判断するようなこと。YESかNOか白黒はっきりさせたがったり、一般の人が検索で見つけた小さな法律を振りかざして正義を唱えちゃうみたいなね。持論ですけどね、世の中の幸せの尺度ってグレーゾーンにあると思うんですよ。ま〜色々あるさ〜とかってね(笑)。グレーにしていく幸せ。寛容に許していく幸せっていうのかな。

劇中での「幸せって何ですか?」のセリフに込めた意味はこのあたりかなあ。どう見たってこの映画の主人公のタロウは甘ったれた未熟者ですよ。それで人騒がせなことやってるんだけど、耳を傾けてみるとそういうグレーな部分があったっていいじゃん、という「甘さ」を世の中に求めてるんですよね。

―― 菱川監督の親の世代にはそのような人達が沢山いましたよね?

甘やかしてくれるおっちゃんたちやおばちゃんたちは確かにいました。未熟者を認めてくれるようなね。だからこそ自分が親になった時にそのようにしてあげたいなと思っていたら、結構世間が自分の思惑とは裏腹に白黒つける時代になっていった。

「そうゆう時代を創ったのは、貴方達でしょ?」と次の世代に言われたら身も蓋もないよねと思ってる。こんなに白黒はっきりした世の中にするはずではなかったのに…という思いも強い。なんかね、対話が必要だなって。先人たちがやったことは偉大なこともたくさんあるけどね、好き勝手にやりすぎだよね、とも思う。経済を振りかざしすぎたね。どうみたって。

―― 最先端の企業は気がついてますよね?

どうかなあ、わからない。先端企業ってもはや何の先端かっていうのもあるでしょう。技術革新の先端って言っても細分化がすごすぎてね。

会社っていうもの自体の価値っていうのが変わったでしょ。いや、変えちゃったんだよね、この10-20年くらいで。2010年の『カンパニー・メン』っていう映画でね、「俺たちはモノをつくってきたんだ。それはしっかり見えて、匂いがして、触れるものを」っていうセリフがあってとても印象に残ってるけど、会社っていうものとかもっといえば働くっていうこと自体の考え方や価値観がすっかり変わった。

でも、それがいいことだったのかどうかはまだ誰にもわからなくって、そんなことを考えていても猛スピードで変わっていくから、わからないまま必死に乗っかっているような。正直、わからないんですよ、働くこととか、会社っていうものがどうすれば幸せっていうやつに導いてくれるのか。ただ一つはっきりと言えるのは汗をかいて働いた後に飲むビールはうまいぞ、と。それだけははっきりしてるきがするな。だから先端企業っていうのはそこで働いてる人と家族が全員幸せだと感じてる企業のことだよね。あるのかなそういう会社。

―― この映画の続編を製作するとしたら、どのような感じで作りますでしょうか?

キャストたちとすごい仲良しでね。LINEグループがあって、キャスト達が同じ質問しました。続編はね、つくっちゃダメだね。これ。だって、それやっちゃうとドラマになっちゃうでしょ。登場人物への思い入れがないと続編は成立しない。この映画はね、「そのへんにいた若者たちの、人騒がせなある日の出来事」なんですよ。でもね、そのたった一日の出来事が人生を大きく変えることもあるね、ってね。それをずるずる語っちゃダメだよね。

―― “ここは絶対に見逃してはダメ“というシーンはあるのでしょうか?

まずはヨーコ役のるうことリンコ役の知佳。この二人あっぱれというぐらいの演技だと思っています。それがものすごい細かいところで出ていて。例えばヨーコはお母さんのスナックを手伝っているシーンでね、ヨーコのお母さんが「そういえば今度の金曜日はお母さんの命日だったよな」と。ヨーコのお母さんがタロウに聞いた時にその隣に立っていたヨーコの表情がね。見逃してしまうぐらいの短さで、隅っこでやっている演技なんですけどね、撮影していて小さなモニター越しにそれを見た時に「いいシーンになったなあ」って思った。

1秒あるかないかの表情なんですけどね。女優ってこういう一瞬に実力が垣間見れますよね。もう一人のリンコなんですけど、地元の徳島の人が絶賛するほど阿波弁で本当に徳島にいそうな子をきちんと演じてた。結構アドリブ入れていて、台本にないからヒヤヒヤしたりしてたんだけど、見事な阿波弁でね。暴動シーンの時なんてほぼ創作の世界で阿波弁でまくし立ててね。あとはマナブ役の草馬。東京モンだから阿波弁は初めてでしょう。おそらく相当努力したんだと思う。こいつも地元の人が舌を巻くほど自然だった。

その上、きちんとキャラクターを演じ切ってて。あ、見逃しちゃいけないシーンの話でしたね(笑)。えーっと、ヨーコ、タロウ、マナブが川沿いで3人で小学校の思い出語りながらアイスを食べるシーン。ここ、僕のお気に入り。あとは暴動の日の朝、公園にみんなが集まるシーン。緊張感あるはずなのに、やたらのんびりしてるっていうのが演出でうまくいったなあと思う。

―― そこが監督の心にしみた部分だったのでしょうか?

主演の6人はね、若手の新人ではあるけど無名の実力派を集めたんです。その実力派たちに向かってね、本読み(リハーサル)の時に「演技をするな」って僕言ってるんですよ。無茶苦茶ですよね(笑)。演技はいらないって。徳島にいそうな普通の若者になれって。その代わり、刑事たちや県庁職員の役者たちにはね、演技をきっちりやってもらった。この対比でね、6人の不安定さを出そうと思って。それが見事に成立してた。不安定な演技ができるって実力だよね。そういう、なんていうかスタッフとキャストたちの熱意のかたまりみたいな映画ですね。やってよかった。

インタビューを終えて

この映画は、大人とはグレー色の使い方と、許すという寛大な心を持ち合わせている。それが大人の定義だと。インタビューも通して感じました。

映画に登場するデカ長と若者達との対峙は、昔のドブ板時代の商店街のおじさんと子どものような関係に見えた。「いいじゃねえか」そんな言葉を沢山言うことができる、おじさんと、それに甘えつつもしっかり歩く若者の時代があったことを思い出させたい。デジタル社会に一石を投じた映画だと思いました。

私は、ドブ板の商店街で悪戯三昧育ったのでこの映画好きです。

[スチール撮影&インタビュー: 坂本 貴光 / 編集: Cinema Art Online UK]

写真家 satoshi watanabe 撮影
写真集「#youth」

劇場、Amazonにて販売中。(税込 1,800円)
#youth – Film Book: http://amzn.asia/iSIbBT7

監督プロフィール

菱川 勢一 (Seiichi Hishikawa)

映像作家 / 写真家 / 演出家/ 武蔵野美術大学教授
1969年東京生まれ。音楽業界からキャリアをスタートした。1991年渡米、拠点をニューヨークへと移す。渡米と同時に映像業界へ転身し、US制作によるミュージック・ビデオ、TVCM、TV番組から実験映像、映画製作まで監督、撮影、編集、音響エンジニアとしてあらゆるジャンルの映像に関わった。帰国後、演出の道へ進み、映像演出、舞台演出、空間演出、メディア・アート、ファッションブランドのコレクション演出などを手がけた後、1997年デザインスタジオ DRAWING AND MANUALの設立に参画。2009年、武蔵野美術大学基礎デザイン学科教授に就任。2011年カンヌ国際広告賞にて三冠受賞した。同年、初の写真展「存在しない映画、存在した光景」開催。同時に写真集を刊行。2012年カンヌライオンズ審査員を務める。近年では脚本、展覧会ディレクターなども手がけている。2016年ヴェネツィア・ビエンナーレにて日本館の監修をし審査員特別賞を受賞。2017年 初の長編映画『#youth』を監督。

【受賞歴】
2000 ニューヨークADC賞、2001 ロンドン国際広告賞、2002 IBA―International Broadcast Award、2005 iFデザイン賞 アトモスフィア賞、2005 iFデザイン賞 アニメーション賞、2005 iFデザイン賞 コーポレートデザイン賞、2008 アジア太平洋広告祭 – Bronze、2009 THE ONESHOW INTERACTIVE – Merit、CANNES LIONS 2011 CYBER LIONS Gold / FILM CRAFT LIONS Gold / FILM LIONS Silver、Spikes Asia 2011 FILM CRAFT部門 Gold / DIGITAL部門 Gold / FILM部門 Bronze、2011年度 グッドデザイン賞 金賞、2011 第51回 ACC CM FESTIVAL テレビCM部門 Gold、2011 第51回 ACC CM FESTIVAL ACC賞、ADFEST 2012 FILM LOTUS Gold / FILM CRAFT LOTUS Gold / CYBER LOTUS Gold / 第49回 ギャラクシー奨励賞 CM部門、2012 ONE SHOW Consumer TV 60秒/Non-broadcast online film Merit / Cratf/Sound Design部門 Bronze、第10回東京インタラクティブ・アド・アワード(2012)オンラインビデオ部門 金賞、D&AD Professional Awards 2012 Nomination、2013 iFデザイン賞、2017年ヴェネツィア・ビエンナーレ特別賞

マネジメントオフィス: DRAWING AND MANUAL

映画『#youth』予告篇

https://www.youtube.com/watch?v=orKXMbQaK5I

映画作品情報

映画『#youth』

出演: 岡崎森馬 / 杉本知佳 / るうこ / 藤井草馬 / 古矢航之介 / 北野由依 / ほか
脚本/監督: 菱川勢一
撮影監督: 尾道幸治 照明: 土井立庭 音楽監督: 清川進也
撮影協力: 徳島県 製作: DRAWING AND MANUAL
2017年 / 日本 / カラー / 82分
© 2015-ALL Rights Reserved Dorje Film
 

映画公式サイト

<上映情報>

日時: 2017年9月22日(金)・29日(金) 21:00~
会場: シアター・イメージフォーラム シアター1(東京都渋谷区渋谷2-10-2)
 
日時: 2017年10月6日(金)・13日(金)・20日(金)・27日(金) 19:00~
会場:イオンシネマ徳島(徳島県徳島市南末広町4番1号 イオンモール徳島5F)
 
■菱川勢一
http://seiichihishikawa.info/
 
■satoshi watanabe
http://www.satoshiwatanabe.org/
 
■DRAWING AND MANUAL
https://www.drawingandmanual.studio/

この記事の著者

坂本 貴光フォトグラファー

写真家の家系に生まれ3代目となる。
“精神性”と“コンセプトワーク”を重要視した撮影による写真が国内外で高く評価されている。
2015年にはブラジルで開催さてた世界最大規模のジャパンエキスポでメインビジュアルに写真が使われ、「るろうに剣心」と共に紹介される。
2016年、NYで開催の世界最高峰のバリアフリーアートフェア MvVO ARTにアジア人で唯一選出される。

好きな映画は、『生きる』 (1952年)、『蜘蛛巣城』 (1957年)、『隠し砦の三悪人』 (1958年)で、黒澤明監督の映画に魅せられ、映画が大好きになった。

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