ファティ・アキン監督 × デニス・モシット
2ショット独占インタビュー!
ファティ・アキン監督が『ソウル・キッチン』より8年ぶりに来日!
デニス・モシットと共に撮影当時を振り返る!!
ドイツの名匠ファティ・アキン監督最新作『女は二度決断する』が、4月14日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国で公開される。
ファティ・アキン監督は30代で世界三大映画祭の主要賞を受賞し、本作でゴールデングローブ賞外国語映画賞を受賞。ドイツで実際に起こった連続テロ事件に着想を得て、トルコ人の夫と幼い息子を奪われた女性カティヤが思うように進まぬ裁判に、深い絶望を感じて下す“決断”をサスペンスフルに描く。
主演は『トロイ』(2004年)、『イングロリアス・バスターズ』(2009年)などのハリウッド超大作やヨーロッパ作品にも出演する国際派女優ダイアン・クルーガー。初めて母国ドイツでドイツ語の演技に挑戦した。
公開に先立ち、ファティ・アキン監督とダイアン・クルーガー、主人公の友人で弁護士として彼女を支えるダニーロを演じたデニス・モシットが来日。ファティ・アキン監督とデニス・モシットに作品への思いや主演のダイアン・クルーガーに対する印象を聞いた。
サムライのタトゥーは夫への貞節の現れ
―― 主人公はトルコ人の夫と幼い息子を奪われた女性です。そこに込めた意味をお聞かせください。
ファティ・アキン監督: 母から子を奪ったら何が残るのか。ギリシア神話やシェイクスピア的な側面があると感じました。主人公が男性だったら、チャールズ・ブロンソンものになってしまいます。「アンチゴーヌ」[*1] をイメージしたので、主人公を女性にしました。
―― 主人公と獄中にいる恋人との結婚式から始まりました。
ファティ・アキン監督: 主人公のバックグラウンドを手早く、ソリッドに見せたかったのです。ワンカットで映しましたが、見ている方に登場人物について、たくさんのことを知っていただけたと思います。
―― サスペンスフルなエンディングでしたが、最初から決めていたのでしょうか。カティヤが体に入れていたサムライの入れ墨は物語の核心を象徴しているような気がしました。
ファティ・アキン監督: 脚本に着手する前、大枠の段階から考えていました。しかし、このエンディングは衝撃的です。どうしてそこに至るのか、きちんと信憑性のある形で作り上げる必要があります。こういうことがあったから、ここに到達したんだという作り方をし、観客にわかりやすいよう、三部構成にしました。
サムライに限らず、アジアのモチーフはタトゥーのモチーフとして人気があります。彼女がサムライのタトゥーを入れたのは、武士道的な気持ちと解釈できます。夫に対する貞節を死んでも、なお持ち続けた。だから、デニスが演じる友人弁護士はイケメンで聡明、そしてチャーミングなのに惚れないのです(笑)。
ファティ・アキン監督が現場でムーンウォーク
―― デニス・モシットさんはファティ・アキン監督の作品にこれまでも何作か出演されていますが、デニスさんの魅力を教えてください。
ファティ・アキン監督: デニスは何でも演じられる、とても素晴らしい役者です。しかも、役者としての理想が高く、自分の限界の更に上をいく正確無比な演技を見せてくれます。それなのに、いい意味で役者らしくありません。
僕は役者との仕事は大好きですが、役者と友情が芽生えないタイプ。私生活での付き合いはほとんどありません。でも彼の知性はとても好きです。デニスはケルン、僕はハンブルクに住んでいますが、もし、同じ街に住んでいたら、一緒に釣りに行くような友だちになっていたでしょう。
―― デニスさん、今回の作品の出演が決まったときのお気持ちをお聞かせください。
デニス・モシット: ファティ・アキン監督は今、ドイツで最も才能のある監督だと思います。ヨーロッパ随一かもしれません。その監督と仕事ができるのは、とても光栄なことです。演じてほしい役があると言われれば、何も言わずに引き受けます。
僕は役者としてドイツに拠点を置いていますが、両親は他の国から来た移民です。僕のようなバックグラウンドを持つ役者はステレオタイプな役が多くなります。しかも、依頼される仕事の数も多くはありません。監督に弁護士役をやってほしいと言われたときはとてもうれしくて、興奮しました。監督と出会い、仕事ができたのは、とても幸運だったと思います。感謝しています。
―― 撮影現場でのファティ・アキン監督はどんな方ですか。
デニス: ドイツでは知的な監督が多く、すべてを考えてから理詰めで撮っていきます。もちろん、監督もそれができる才能を持っていますが、今回は監督自身の感性で、「客観的にはまったく違うけれど、感覚的にはこれで正しいと思うんだ」という演出することがありました。
監督との仕事はアドベンチャーです。監督は撮影がうまく進まず、機嫌が悪いときもあれば、うまく撮影ができて、とても幸せそうなときもある。喜びのあまりムーンウォークをしていたこともありました。
ダイアン・クルーガーは役者として準備万端!
―― 監督にうかがいます。主演にダイアン・クルーガーさんを迎えました。彼女の印象をお聞かせください。
ファティ・アキン監督: 役者としてプロでしたね。ほとんど説明をする必要がない。演出をつけた記憶がありません。準備万端なんです。素晴らしいと思いました。ドイツでは彼女ほどのプロ根性を持ち合わせている役者はいません。デニスは別ですけれどね(笑)。アメリカでは競争に勝つために、常に最高の自分を見せなきゃいけない。甘やかされてもいないのです。彼女はサムライ。勤勉にやるべきことに向き合っていました。
―― デニスさんはダイアン・クルーガーさんと共演していかがでしたか。
デニス・モシット: 彼女はとても聡明な役者です。インタビューで共演者のことを聞かれたときは、いつも「ワンダフル」とマスコミ向けの答えをしますが、今回は本当にそうなんです。ハリウッドスターと仕事をしているというプレッシャーを全然、感じさせません。一役者として僕らを助けてくれるし、他の役のために何ができるかを考えながら演じてくれる。一人の役者として本当に素晴らしいです。ご一緒できたことをうれしく思っています。
異文化結婚の陰に見え隠れする家族の葛藤
―― 生粋のドイツ人のカティヤがトルコ系移民の男性と結婚しました。日本では娘が外国人と結婚したいと言い出したら、親はすんなりOKを出さないことが多いと思います。ドイツではいかがでしょうか。
デニス・モシット: ドイツでは外国人や移民が日本よりはるかに多い。そういう形の結婚も少なくはなく、映画で描かれているように、表面的にはすんなり受け入れられているように見えるかもしれない。でも、まだ躊躇する人がいるのも事実。それだからこそ、苦労もある。まさしくカティヤの家族がそう。トルコ系側、ドイツ系側。家族として表面的には大丈夫そうですが、この事件をきっかけに「実は」というところが見え隠れしました。
―― 今作で演じられたダニーロは一審後、上告を勧めていましたが、デニスさんご自身ならどうすることを勧めましたか。
デニス・モシット: 僕だったとしても上告することを勧めましたね。他に方法がありません。勝訴する可能性もあったと思います。でも、それは僕の個人的な意見。彼女に必要だったのは上告して戦って、勝訴することではなかったのです。
―― 監督が弁護士だったら、カティヤにどうすることを勧めましたか。
ファティ・アキン監督: やはり上告することを勧めます。そうすれば弁護士の僕に報酬が発生しますからね(笑)。
―― これから作品を観る方にメッセージをお願いいたします。
ファティ・アキン監督: 映画として楽しめて、スリルを感じられる作品にすべく、最善の努力を尽くしました。体で感じてもらえると思いますし、多分、鳥肌も立つと思います。びっくりする瞬間もある。作品を通じて、いろいろと考えていただければ幸いです。
デニス・モシット: 作品にどんなに深い思いを盛り込んだとしても、やはり映画は映画に過ぎない。娯楽性は必要です。僕たち役者の演技を楽しんでもらえるよう、がんばりました。気づきのある作品になっていますから、ぜひ、それを経験してください。
プロフィール
監督・脚本
|
デニス・モシット (Denis Moschitto)1977年6月22日、ドイツ、ケルン生まれ。イタリア人の父とトルコ人の母のもとに生まれる。学生時代から俳優の仕事を始め、『暗い日曜日』(1999年/ロルフ・シューベル監督)で映画デビュー。テレビドラマにも度々出演し、オムニバス映画「ドイツ2009-13人の作家による短編」(2009年)の一篇、ファティ・アキン監督が手掛けた“Der Name Murat Kurnaz”にも出演。ファティ・アキンが脚本を担当した『ソウル・キッチン』の前身ともいえる“Kebab Connection”(2004年/アノ・サオル監督)、モーリッツ・ブライプトロイと共演した“CHIKO”(2008年/Özgür Yildirim監督)に主演、その他の出演作は「クローズド・サーキット」(2013年/ジョン・クローリー監督)など。 |
映画作品情報
《ストーリー》突然のテロ、嘲笑うかのような犯人、思うように進まぬ裁判…。主人公は深い絶望に突き落とされた。 ドイツ、ハンブルク。カティヤはトルコからの移民であるヌーリと結婚し、幸せな家庭を築いていた。ある日、白昼に爆弾が爆発し、ヌーリと愛息ロッコが犠牲になる。警察はトルコ人同士の抗争を疑うが、人種差別主義者のドイツ人によるテロであることが判明する。しかし、裁判は思うように進まない。突然愛する家族を奪われたカティヤ。憎悪と絶望の中、カティヤの魂はどこへ向かうのか。 |
第75回ゴールデングローブ賞 外国語映画賞受賞
第90回アカデミー賞® 外国語映画賞受賞 ショーリスト(ドイツ代表)
監督・脚本: ファティ・アキン
後援: ドイツ連邦共和国大使館
提供: ビターズ・エンド、WOWOW、朝日新聞社
配給: ビターズ・エンド