- 2016-1-13
- ホラー映画, 日本映画, 映画レビュー, 映画作品紹介, 第28回 東京国際映画祭
日本のスピルバーグ、中村義洋の原点回帰!
中村義洋監督がホラーに帰ってきた。2005年頃から年2本という驚異的なスピードで『ジェネラル・ルージュの凱旋』(2009年)『ゴールデンスランバー』(2010年)『ちょんまげぷりん』(2010年)『奇跡のリンゴ(2013年)など、名作を独特の人間愛で撮り続けてきたヒットメーカー、中村義洋監督。その彼の原点は、ホラーなのだ。駆け出しの1999年から4年ほど、『ほんとにあった!呪いのビデオ』1~7巻の演出・構成を担当し、映画を撮り始めた当初も『わたしの赤ちゃん』(2004年)『絶対恐怖 Booth ブース』(2005年)など、ホラー専門だった。そこから10年。近年の『白ゆき姫殺人事件』(2014年)『予告犯』(2015年)を経て、中村義洋がもう一度ホラーを撮った。
ストーリー
怪談の連載を持つ小説家「私」のもとに、読者である女子大生「久保さん」から手紙が届いた。
「今住んでいるマンションで、変な〝音〟がするんです。」
久保さんとのやりとりを続けるうちに、以前にも同じ内容の手紙が届いていたことを思い出す「私」。探しあてると、それは久保さんと同じマンションの別の部屋での話だった。すでに転居していた過去の住人を「私」と久保さんが追っていくと、待っていたのは元住人たちの引っ越し先での不幸な末路だった。やがて戦慄の真相へと向かって一つの「物」から一つの「場所」にたどり着くことになる。
「場所」と「物」の持つ力
以前、広島に旅行した際、平和シンポジウムの「この地で語ることの意味」というキャッチコピーを目にしたことがある。ふと窓の外を見やると原爆ドームがあって、妙に打ち震えた。その土地に根付く憎しみ、悲しみが頭で理解するよりも身体に伝わってきたのだと思う。それを私たちは畏怖と呼び、平和への祈りの原動力とする。それは、弔いにもなるだろう。しかし、その場や物から出ている負のオーラの理由を知らない時、人間の心に宿るのは単なる嫌悪でしかなくなる。そして、嫌悪からくる恐怖に囚われた心がどんな行動を起こすのか。ごみ屋敷、子殺し、自殺、家庭内暴力。現代の惨事がどんな心の闇から発生しているのか、そんなことまでこの物語は示唆しているように感じる。また土地に根差した暮らしをしていない現代人を揶揄しているようにさえも。あなたは、今住んでいる土地の歴史を知っているだろうか?
ホラーは、観客想い
ホラーは、怖い。「ほらほら、来るよ、来るよ。」「今、安心しきっていたでしょ?!油断していないでね!」「こう思っていたでしょ~!違うんだな~!」ゾクっとする度、映像から語りかけられている感じだ。また、そう感じさせる間合いがちゃんと用意されている。
誰も通っていないはずの廊下のライトが、センサーによって点く。
「でも、今3人ともここに居たよね・・・?」
「・・・・」
何気ないセリフにもそれは宿る。
「あれ?!痩せた?」
観客は思う。「呪われたのは、この人?」
ひとつひとつの要素が緻密に計算され尽くしており、お化け屋敷のルートを歩くがごとく、心を弄ばされているのが分かる。そして、最後の最後の最後までそれは続く。
ホラーでその技量を積んだ中村監督が、感動のツボを心得ているのは至極当然なのかもしれない。しかし、鑑賞後の右足のしびれがどういうワケなのだか、私にはちっとも分からないのだが。
[ライター: 横田 美穂子]
映画『残穢【ざんえ】-住んではいけない部屋-』予告篇
映画『残穢【ざんえ】-住んではいけない部屋-』予告編(中村義洋監督ナレーションver)
映画『残穢【ざんえ】-住んではいけない部屋-』和楽器バンド スペシャルトレーラー
映画作品情報
第28回東京国際映画祭(TIFF) コンペティション部門出品作品
英題: The Inerasable
監督: 中村義洋
企画/プロデュース: 永田芳弘
プロデューサー: 池田史嗣
原作: 小野不由美『残穢』(新潮文庫刊)
脚本: 鈴木謙一
音楽: 安川午朗
撮影: 沖村志宏
照明: 岡田佳樹
美術: 丸尾知行
助監督: 片桐健滋
出演: 竹内結子、橋本愛、佐々木蔵之介、坂口健太郎、滝藤賢一
配給: 松竹株式会社
2016年1月30日(土)より全国ロードショー!