- 2025-7-26
- SKIPシティ国際Dシネマ映画祭, イベントレポート, セレモニー

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2025
クロージング・セレモニー
『水底のミメシス』がグランプリに輝く!
若き才能たちの熱意と未来への希望に満ちた表彰式
若手映像クリエイターの登竜門として、今年で第22回を迎えたSKIPシティ国際Dシネマ映画祭2025が、7月18日(金)から9日間にわたる熱気あふれる会期を終え、7月26日(土)にクロージング・セレモニーが行われた。
会場となったSKIPシティ 彩の国ビジュアルプラザ 映像ホールには、コンペティション部門にノミネートされた監督や関係者、そして主催者、審査員らが一堂に会し、各賞の受賞者発表を見守った。栄えある最優秀作品賞(グランプリ)には、茂木毅流監督と長澤太一監督による共同監督作品『水底のミメシス』が輝いた。
映画祭の成功を祝し、未来の才能へエール
表彰式は、司会の沢口みなみの進行で幕を開けた。まず登壇したのは、映画祭実行委員会会長を務める大野元裕埼玉県知事。「9日間で6,000名を超える方々にお越しをいただき、開催にご協力をいただきました企業、団体の皆様に改めて感謝を申し上げたいと思います。本当にありがとうございます」と深々と頭を下げた。
また、今年のコンペティション部門には国内から271作品もの応募があったことに言及し、「今回受賞された方も、惜しくも受賞を逃された方も、今回の映画祭を契機として大きく羽ばたいていただきたいと強い思いを持っております」と、ノミネートされた全てのクリエイターに温かいエールを送った。さらに、「今年の映画祭では、XRあるいはAIを活用した映画など、多種多様な映画コンテンツをご紹介させていただきました。ご来場いただき、そして接していただいた皆様には、映画の新たな可能性を感じ取っていただけたのではないかと考えています」と、映画祭の新たな試みについても語った。
未来の巨匠は誰の手に?
個性豊かな13作品から各賞を発表!
今年のコンペティション部門には、実写からアニメーションまで、個性あふれる13の作品がノミネートされた。いずれも若き才能のほとばしりが感じられる力作揃いだ。
コンペティション部門 出品作品
- 『お笑えない芸人』(監督:西田祐香)
- 『死神は待ってくれる』(監督:木下一心)
- 『東京の青稞酒』(監督:楊 宇安)
- 『長い夜』(監督:草刈悠生)
- 『夏休みの記録』(監督:川田 淳)
- 『ひみつきちのつくりかた』(監督:板橋知也)
- 『ブラックホールに願いを!』(監督:渡邉 聡)
- 『そこまで一緒に。』(監督:関 寛之)
- 『さざなみに揺れる手』(監督:川上栄輝)
- 『山のあなた』(監督:伊藤希紗)
- 『そして、今日も生きる』(監督:サイラス・望・セスナ)
- 『水底のミメシス』(監督:茂木毅流、長澤太一)
- 『ラッキー・ストライク』(監督:星野有樹)
これらの作品を審査したのは、国際色豊かな3名の審査員。審査員長を務めたのは、『愚行録』(2017年)、『ある男』(2022年)などで国際的な評価も高い映画監督の石川慶。そして、ロッテルダム国際映画祭プログラマーのクーン・デ・ローイ、映画プロデューサーの水野詠子が審査員として名を連ねた。
観客が選んだ至極の一本
板橋知也監督の『ひみつきちのつくりかた』が観客賞を受賞
最初の発表は、映画祭期間中の観客投票で決まる「観客賞」。映画祭ディレクターの土川勉から『ひみつきちのつくりかた』のタイトルが告げられると、会場は温かい拍手に包まれた。
板橋知也監督が登壇し、プレゼンターのクーン・デ・ローイ審査員からトロフィーを受け取った。
クーン・デ・ローイ審査員 講評観客賞を受賞した『ひみつきちのつくりかた』は、我々審査員も大いに楽しむことができた作品でした。非常に完成度が高く、これが長編デビュー作だと伺い、我々は大変驚きました。板橋知也監督は、人間関係や葛藤、孤独といったテーマを鋭い観察眼で描き出す素晴らしい手腕をお持ちです。丹念に紡がれたシーンとセリフは、4人の登場人物それぞれの内面に観客をいざない、彼らが歩んできた道のりを理解するにつれて、自然と深い共感が芽生えてきます。この作品は、より多くの人々に観ていただくにふさわしい映画であり、きっと多くの観客の心を打つこととなるでしょう。 |
板橋知也監督 受賞コメントこの映画は、コロナ禍の時に脚本を書いていました。暗いニュースが続く中で、僕自身も不幸な出来事が続いたりしていて、とにかく楽しい映画を作りたい、観ていただいたお客さんが楽しめる面白い映画を作りたいと思って作った作品です。観客賞という素晴らしい賞をいただけて、大変光栄に思います。 |
審査員たちが熱望した特別賞!
西田祐香監督の『お笑えない芸人』がスペシャル・メンションを受賞
続いて、審査員のクーン・デ・ローイが再びマイクの前に立ち、審査員団の強い要望により、今回特別に「スペシャル・メンション」が設けられたことを発表。そして、受賞作品名を伏せたまま、作品への熱い想いが込められた講評を語り始め、その最後に「スペシャル・メンションは、『お笑えない芸人』です」と受賞作を明かすと、会場からは驚きと共にひときわ大きな拍手が送られた。受賞した西田祐香監督は、客席から立ち上がると、はにかんだ表情でステージへ。プレゼンターのクーン・デ・ローイ審査員から賞状が手渡された。
クーン・デ・ローイ審査員 講評力作が揃ったコンペティションで、それぞれが個性を放つ中、私たち審査員はここでスペシャル・メンションを設けたいという思いに至りました。これは私たちを驚かせた作品であり、若い映像作家による大胆な試みとお見受けしました。 作品は創造性に満ちたもので、誰しもが抱える葛藤、つまり「別バージョンの自分になりたい。しかしそれはもはや自分ではない」という葛藤を、創造的かつ独創的な表現で描いており、深い感動を覚えました。特に印象的だったのはオリジナリティあふれる編集です。それがこの物語に独特の躍動感とエネルギーを与え、観るものを引き込む力を持っていました。自らの選択を暮らし、自らの道を切り開こうとする監督の姿が見えてまいりました。 |
西田祐香監督 受賞コメントまさかこんな賞がもらえるとは思っていなかったので、すごくびっくりしております。監督として今ここに立ってはいますが、一緒に映画を作ってくれた11人のメンバーと共にステージに上がっている気持ちです。 この映画の主人公のように、私も理想の自分を追い続けている身なので、これからも理想の自分が生まれては戦ってを繰り返して生きていくのだと思います。改めて、この映画祭は本当に素晴らしいと思いましたし、埼玉も大好きになりました。ありがとうございました。 |
今後の長編制作に期待!
草刈悠生監督の『長い夜』がSKIPシティアワードを受賞
次に発表されたのは、今後の長編映画制作に最も期待のかかる監督に贈られる「SKIPシティアワード」。プレゼンターを務めた奥ノ木信夫川口市長から『長い夜』と草刈悠生監督の名前が呼ばれると、草刈監督はステージに登壇。審査員の水野詠子からトロフィーを受け取った後のスピーチでは、客席にいる主演俳優やスタッフを紹介し、会場からは温かい拍手が送られた。
水野詠子審査員 講評映画『長い夜』からは、草刈監督が勇敢にチャレンジした普遍的なトピック、大切な人を失った時、人間がいかにその悲しみと向き合い克服していくか、そして“克服”とは何なのか。このトピックを現代の若者の生き様を通して、孤独と葛藤を丁寧に描いた、そのシネマティックなアプローチを審査員一同は確かに感じ取りました。審査員の皆の心に触れ、満場一致で今回の受賞となりました。 |
草刈悠生監督 受賞コメントこの度は、名誉ある賞をありがとうございます。先ほど水野さんがおっしゃっていたように、映画は監督1人のものではありません。この映画は本当に少ない人数で制作しました。 クラウドファンディングをしてくださった皆様、本当にありがとうございました。僕の少ないバイト代では、映画を作ることまではできても、こうやって映画祭に提出する準備や応募費用を賄うことはできませんでした。今この場に立てているのは、クラウドファンディングをしてくださった皆様のおかげだと感じております。 今日、会場には主演の原田光一くん、ブッタ改役の笠原一輝くん、助監督、制作、音楽の仲間が来てくれています。この賞は、彼らと一緒にいただいたものだと思っています。今後の長編映画に期待していただいているというのを、このトロフィーの重みからすごく感じております。その期待にお応えできるように、今後も頑張っていきたいと思います。本当にありがとうございました。 |
栄えあるグランプリを発表!
最優秀作品賞は『水底のミメシス』が受賞🏆
そして、いよいよコンペティション部門の頂点となる「最優秀作品賞(グランプリ)」の発表へ。大野元裕知事が封筒を開け、高らかに告げた。
「最優秀作品賞は、『水底のミメシス』茂木毅流監督、長澤太一監督、おめでとうございます」
会場がひときわ大きな拍手に包まれる中、共同監督の茂木毅流監督が登壇。審査員長の石川慶から、グランプリのトロフィーが手渡された。
石川慶審査委員長 講評今回のコンペの中で、審査員3人が最も高く評価したのが『水底のミメシス』と『長い夜』でした。どちらがグランプリを獲ってもおかしくなかったです。それぐらい、どちらも作品としての力、監督の可能性を強く感じました。最終的にこの映画を選んだのは、作品が持つ強度に圧倒されたからです。ただ、ここで言う強度とは完成度やセンスのことではありません。映画がこちらに向かって語りかけてくる“意志の強さ”です。この映画には作り手としての迷いや葛藤が、むき出しのままぶつけられています。恥ずかしげもなく、まっすぐに伝わってきて、僕らはそこに強く心を動かされました。 |
茂木毅流監督 受賞コメント僕はてっきりこの後、手ぶらで、会場に来てくれた友達2人と帰り道にお茶をして帰るものだと思っていました。こういうものを持つと、この作品が、アニメーションの“ア”の字も知らなかったような後輩や同級生、総勢30人ほどの仲間たちが興味があるというだけで集まってくれて…そういう仲間たちの想いを改めてこの形で感じるとは思わず、驚きで手も声も震えています。この賞は、僕と、もう一人の監督・長澤、そしてついてきてくれたみんなと獲った賞だと心に留め、持ち帰りたいと思います。本当にありがとうございました。 |
石川慶審査委員長総評「映画祭は誇るべき文化的レガシー」
コンペティション部門の全受賞作品の発表が終わり、会場が祝祭の余韻と期待感に包まれる中、その締めくくりとして、審査員団を代表し、審査委員長を務めた映画監督の石川慶が総評を述べた。
石川慶審査委員長 総評今年のコンペは本当に多様で、高いレベルの作品が揃っていたと思います。何よりも心を動かされたのは、それぞれの作品に込められた「この映画をどうしても撮りたい」という強い意志です。作り手の皆さんが完成させた作品が、こうして川口の地で世界に向けて産声を上げた。その事実だけで、すでに賞以上の価値があると僕は思っています。そこらで何となく作られた志のない商業作品よりも、よほど存在価値がある作品たちです。改めて全ての作り手に心から「おめでとう」と言いたいです。 20回を超える国際映画祭というのは世界的に見ても特別な存在で、それ自体が素晴らしい成果です。この映画祭の歴史は、川口という街にとってかけがえのない財産であり、誇るべき文化的レガシーなんだと思っています。今回、国際コンペティションが見送られたことで規模は少し縮小したかもしれませんが、どうかここで立ち止まることなく、外に開かれた国際的な映画祭として成長を続けていただきたいと強く願っています。 その中でどうしても一言だけ触れておきたい作品がありまして、ドキュメンタリー作品の『夏休みの記録』です。今回は、作り手の奨励、次回作への期待というところに重きを置いたために賞からは漏れてしまいましたが、子供たちが駆けつけた温かい雰囲気の公式上映は、今回の映画祭のハイライトの一つだったと思っています。そしてこの映画がSKIPシティで上映されたこと、それ自体が本当に良かったと僕は思っていますし、上映を決断された関係者の皆様に心から敬意を表したいです。 川口という街は、今や多様な文化や背景を持つ人々が共に暮らす国際都市だと思います。そこで今起きていることというのはニュースで目にすることもありますが、そこに映されていることが本当に一部にすぎないことも分かっています。そうした遠くから見えない日常の声や姿を映画という形で可視化すること、それを偏りなく共有し語り合う場を生むこと、というのは映画が持つ本来の力であり、映画祭の本質的な役割だと信じています。これからの時代に何を語るべきか、どんな声を届けるのか、その一つのヒントが今回の映画祭には確かにあったと思います。ありがとうございました。 |
閉会の挨拶、そして未来へ
続いて、映画祭ディレクターの土川勉が登壇。「今年の映画祭は、映像視聴の多様化を受け、映画祭のあり方を再考し、国内クリエイターの発掘と育成を中心としたコンペティションに再編成いたしました。本当に映画は、その映画を観る人の人生を反映するものであることを実感いたしました。今回参加した全ての作品の監督、俳優、スタッフの皆さんの今後の健闘を期待したいと思います。皆さん、来年もこの場でお会いしましょう。どうもありがとうございました」と締めくくった。
最後に、開催地を代表して映画祭実行委員会副会長の奥ノ木信夫川口市長が挨拶。「各賞をおとりになった皆さん、本当におめでとうございます」と祝福し、受賞した若き監督たちの姿に「『水底のミメシス』をおとりになった茂木毅流監督。すごいねえ、下駄履いてここまで来て、本当はみんなとお茶して帰ろうと思っていたと。それでいて最優秀作品賞を取って、本当に素晴らしいと思います。『SKIPシティ アワード』を獲った草刈悠生監督、この人も年を聞いたら22歳だっていうんですね。仲間が集まって作り上げたんだということを聞いて、これもまたびっくりしました」と感銘を受けた様子で語った。
また、石川審査委員長の総評に触れ、「川口を国際都市と言ってくれた石川監督、本当ありがとうございました。私は嬉しかった。10数年後には、まさに石川監督が言った国際都市になっているものと私は確信しております。私がその時いるかどうかは分かりませんけども(笑)。多くの協力者の皆様方に厚く御礼申し上げまして、私の挨拶とさせていただきます。本当に今回はありがとうございました」と、ユーモアを交えつつ感謝を述べた。
閉会の挨拶がすべて終了し、ステージ上では受賞者と主催者による記念撮影が和やかな雰囲気の中で行われた。受賞監督たちは少し緊張した面持ちながらも、喜びの表情でカメラマンの求めに応じていた。9日間にわたる祭典は、最優秀作品賞『水底のミメシス』のクロージング上映をもって、盛況のうちに幕を閉じた。
フォトギャラリー📸
イベント情報
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2025
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SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2025 (第22回) 開催概要■会期: 2025年7月18日(金)~7月26日(土)(9日間) |