- 2021-11-7
- イベントレポート, ティーチイン, トークショー, 日本映画, 第34回 東京国際映画祭
第34回東京国際映画祭(TIFF)
トークシリーズ@ アジア交流ラウンジ
ポン・ジュノ監督×細田守監督トークショー
ポン・ジュノ監督が新作アニメ映画の構想を明かす!
細田監督はあの話題作の裏側を告白「アニメの新しい扉が開く」
第34回東京国際映画祭(TIFF)では、今年もアジアを含む世界各国・地域を代表する映画人と、第一線で活躍する日本の映画人が語り合う「トークシリーズ@ アジア交流ラウンジ」が開催。今年のテーマは「越境」。国境に限らず、さまざまな「境(ボーダー)」を越えること、越えていくことを含め、映画にまつわる思いや考えを存分に交し合う企画だ。
11月7日(日)に、東京ミッドタウン日比谷 パークビューガーデンで行われたシリーズの最終回には、『パラサイト 半地下の家族』(2019年)で第92回アカデミー賞作品賞・監督賞他を獲得したポン・ジュノ監督と、『竜とそばかすの姫』(2021年)の大ヒットも記憶に新しい細田守監督が登場。互いの映画作りの手法から、次作の構想、映画にかける熱い想いを惜しげもなく語り合った。
ポン・ジュノ監督はコロナ渦で2本のシナリオを完成
一つは自身初のアニメーション映画
『パラサイト 半地下の家族』の公開時に日本で対談をして以来、2年ぶりの再会だという両監督。まずはポン・ジュノ監督が、細田監督の大作『竜とそばかすの姫』が公開されたことへの喜びを口にし、自身はコロナ渦の間にシナリオを2本書いたと話した。一作はアメリカで撮影予定の実写作品で、来年の撮影を目標にロサンゼルスで準備中、もう一作は、自国のスタッフと作るアニメーションであると明かし「アニメーションの大家、細田監督にいろいろ聞ければ。『竜とそばかすの姫』はカンヌ国際映画祭でプレミア上映し、大成功を収めましたよね。私も最近観ましたが、ものすごい大作だと感じました。一つ一つ細かく聞きたいです」と今対談への期待を寄せた。
細田監督は「パンデミックの中での作品作りは大変だったけれど、何とかスタッフから感染者が出ずに完成したのは幸運なこと。コロナ渦を経て、無事に観客に作品を届けられてうれしかった。制作期間がずれてしまったのですが、カンヌ国際映画祭もずれたため、プレミア上映が叶いました。カンヌではパンデミックを経て自由を再認識しよう、自由を取り戻そうという気持ちであふれた中で上映ができ、映画の力が僕らには必要だということを改めて感じました」と、未曽有の状況下での映画作りと、映画祭の持つ力についてしみじみと語った。
オンラインとオフラインの融合を描いた細田監督
「映画は現実で起こっている出来事と密接にリンク」
ポン・ジュノ監督はさらに『竜とそばかすの姫』のストーリー自体がオフラインとオンラインの間を行き来し、2つの世界が平行で描かれたことに言及。「最近では映画祭でもオンラインで映画を上映して観客を呼ぶべきか、オフラインで続けるべきか悩んでいる状況にある。そこが映画のストーリーにも描かれていた。エンディングでそばかすの姫が現実の竜と向き合う場面は強烈な感動が迫ってきました。このパンデミック状況下だからこそ、大きな感動があったのではないかと思いました」と映画祭の現状も踏まえて考察した。
細田監督は、物語自体はコロナの前から考えていたと前置きしつつも「オンラインによって出会う人が限りなく広がり、世界中の人と会える。その価値がありつつ、もう一方でオフラインで出会う人の重要性を再認識した。そういったことを映画で表現できたらいいなと。コロナ渦においてそれは、世界中の人がより実感したことなのでは。やはり映画というのは、現実で起こっている出来事と無縁ではなく、とても密接にリンクしていると思います」と現実の状況から作品に受けた影響について伝えた。
続けてポン・ジュノ監督から「細田監督の作品は背景がすばらしい」とアートワークについて聞かれると、「(映画の中で登場する仮想空間)“U”のデザインに関しては、実はインターネットの中でどういうデザイナーがいるかを探しました。『竜とそばかすの姫』はインターネットの世界で才能を花開かせる主人公の物語。その物語に影響されてインターネットでと考えたのです。探し当てた相手が、ロンドンにいる若い27歳の建築家。彼は全く映画経験がないけれど、大きな世界のデザインを全てお願いしようと決めた。そういう才能と出会える機会も現在ではありえるのが幸運でしたね」と驚きの人選を明かした。
「公開されたら大災害」と幻の作品に…
ポン・ジュノ監督の初作品は短編アニメだった!
ポン・ジュノ監督の探求心はとどまることを知らず、さらに「胸の傷のある野球選手は、アメリカのテレビアニメのよう。どのように作られのですか?」とキャラクター作りに関する細かな質問も。
細田監督は、さすがの着眼点に驚きながらも「実は、日本以外の国の人物として登場するキャラクターのデザイナーもインターネットで発見した、テキサスに住んでいるアフリカ系アメリカ人の学生なんです。彼のキャラクターにはいきいきとした力があって“ぜひ参加してほしい”と。そういう意味でもこの作品は珍しい。ベルはディズニーのレジェンドアニメーターにお願いをしているし、国境を越えていろんなアニメーターの方と協力して作っています。これも一つのパンデミックの中での作品の作り方かもしれません。今までアニメーションは特に分断されていたんです。その壁を飛び越えて新しいアニメーションを作る流れがもしかしたらできるかも。ポンジュノ監督のアニメにもそういうところがあるのでは?」と、国境を越えてのアニメーション作りへの希望を伝えたうえで、ポン・ジュノ監督へと質問返し。
すると、ポン・ジュノ監督は「率直に言うと、公式のフィルモグラフィには載っていないけれど、初めて私が作ったのは短編アニメーションなんです。1992年に年ストップモーションの『楽園を探して』というアニメを大学の映画サークルで作りました。人形を使い、コンマで撮影したのですが、その作業があまりにも大変で俳優さんが自分で動いてくれる方に行きたいと思い、実写へと移行しました」と自身の監督としてのルーツについて驚きの告白。これには細田監督も「素晴らしい!グエムルもオクジャにもアニメーションスピリットが流れていて、ほかの監督とは違うと思っていました」と興奮気味に返答。「その作品はどこかのウェブサイトで観れますか?」と興味深々に返すも、「家にはあるけど、外部公開を必死で止めています。公開されたら大災害」とユーモアあふれる答えを受けて爆笑する一幕が繰り広げられた。
セルとデジタルを融合させた細田監督の世界
「CGか手描きか、ではなく2つを重ねて相乗効果を」
続けて話題は、ポン・ジュノ監督が「セルとデジタルが奇妙に美しく混ざり合っている印象」と語る一般世界と仮想世界を融合させたアプローチの仕方について移行。
細田監督は、一時期CGが全盛の中で「どうして手描きにこだわるの?CGの方がいいじゃない」と言われたことを思い返し、「手描きは古臭く、CGは新しいということを言いたかったのかもしれないけれど、僕はそうは思っていない。CGも素晴らしいけど、アニメーターが引く一本の線も素晴らしい。そういうものを手放すべきではないと思っていた。CGか手描きかの二元論ではなくて、両方成り立たせる方法がありうるのでは? どちらも単なる技法でしかなく、実写とアニメも対立していませんよね。作品の中で2つの技法を重ね合わせて相乗効果を作っていけたらいいな」と、自身の技法に対する考えを述べた。
さらに、ポン・ジュノ監督の新作がCGアニメーションだと聞いたことを伝え「CGに対してもっと新しい何かを期待する気持ちがあるのでしょうか?」と質問。ポン・ジュノ監督は、「僕にとてはアニメは初めてのチャレンジ。たやすことではない」と新しいジャンルへの難しさを思いながらも「見たことのない新しいトーン、ビジュアルを作りたくて試しています。CGだけどより人間的なもの。僕はこれまでも触覚やテクスチャーを重視してきました。冷たくてザラザラした感じではなく、手でさわりたくなるような感触をCGで表現できるのではと考えている。人間の情緒や香りが詰まったCGを作りたい。漫画的な面白さ、美しさを実写の枠組みを離れていかに作っていけるのかが僕にとってのチャレンジ」と新作に関する野望を口にした。
細田監督は、そのチャレンジスピリットを称えた上で「僕らはアニメーションを歴史的な作り方の延長線上で作っているところがあります。でもそればかりだと…、もっと新しい表現はないかな?と思う部分もある。アニメ専門の人ももっと挑戦したらと思うところがあります。ポンジュノ監督がブレイクスルーになるではとワクワクしますし、新しいアニメの扉をぜひ開いてほしい」と期待を寄せた。
『竜とそばかすの姫』は現代版の『美女と野獣』
作品で描かれたの“美女の2面性”と“現代の美”とは?
これまで家族というテーマを描いてきた2人。『竜とそばかすの姫』には、細田監督の作品に期待されるものがさらに深まって描かれていることを感じたというポン・ジュノ監督は「今回新しいレベルにストーリーの方向が拡張し、果敢で面白い」と絶賛。すると細田監督から、同作に込めたテーマについての裏話が飛び出した。「ベルは『美女と野獣』がモチーフなのですが、18世紀の原作は主に野獣についての物語。それを現代で描くとすると、どうなる?と考えました。美女については二面性のようなものは描かれていませんが、ベルの二面性を考察する中で、現代ではどういう人を美女と呼ぶかというテーマについても考えました。最終的に、もう一人の自分に出会うことでもともとの自分も強くなる。強くなって大切な人を守ることで現実が変わったらいいなと。最初から美女ではなく、強く変化すること、自分で自分を強くすることが現代では“美”と呼べるのではと」。
© 2021 スタジオ地図
そして今度は細田監督から、新作アニメーション映画の概要について聞かれたポン・ジュノ監督が、「出発点は“深海”というフランスの科学小説。妻が本屋さんで見つけてプレゼントしてくれたのですが、この写真が本当に美しい。生きていても出会うことのない生物たちの、独特の美しさ、カラーがあり、すでにアニメーションのキャラクターのようでした。同じ地球の中で365日海の暗闇に住んでいる主人公たちが、ある事件を通じて人間と出会う物語。今年の頭からシナリオを描いています」と貴重な情報を語った。
誰もが自分について語りたい
だから、映画を作りたい欲求は無くならない
イベントの後半では、現地とオンラインで試聴しているファンからの質問コーナーも。最初に聞かれたのは「どのようにして自分自身の創作をくじけずに続けて来られていますか?つまずいた時に気持ちを高める作品や方法があれば教えてください」と創作の根本にまつわる質問。
細田監督が、「映画を作り続けるのは本当に大変な力が必要。作った作品が見向きもされなくなる時が作れなくなる時だと思いますが、作り手としてはネタが無くなったとか、そういうことはあまりない気がします。例えば、現実の身近な人と上手くやれない分だけ映画ができてしまったりもするし、内的必然に関して疑問をもつことはあまりない気がします」と答えると、ポン・ジュノ監督もこれに同意。「芸術家に限らず、人間なら言いたいことはたくさんあると思います。シナリオを作る時にいろいろな人にインタビューをすると、最初はためらいがちな人も、話を聞く内にどんどん自分のことを語りだす。自分の話をしたい、聞いてほしいという思いを誰しもが活火山のように抱えている。映画を作る場合はストーリーや予算の問題を突破する必要があるけど、自分のことを語りたい欲はだれしも同じなのではないでしょうか」と内側から湧き出す欲求を熱く伝えた。
さらに、自身が立ち止まった時に観る作品について、「迷いが生じた時は『サイコ』(1960年)や『羊たちの沈黙』(1991年)黒沢清監督の『CURE』を観ます。たくさんの血が飛び交う作品なのに、心が穏やかに落ち着くんです。それはおそらく、監督が持っている確信や自信を作品から感じるからですね」と映画監督ならではの作品を支えとしていることを告白。細田監督も「僕も『羊たちの沈黙』を観ていました。主人公が追いつめられる場面の参考のつもりが、映画にどっぷりはまってみてしまった。他には、黒沢明監督の中でも『用心棒』(1961年)がすごく好きで、たどり着きたい憧れの作品ですね」と語り、ポン・ジュノ監督から「『バケモノの子』(2015年)の熊徹は『用心棒』の三船敏郎の影響を受けているように感じました」と返されて笑い合う和やかなやり取りが繰り広げられた。
本国で大コケのデビュー作が渋谷で満席に
映画祭は作り手に勇気を与える場所
最後に、今回のモデレーターを務めた、「ぴあフィルムフェスティバル」ディレクターの荒木啓子から「映画祭の楽しみ方」について聞かれると、「僕は15年前から国際映画祭に呼ばれるようになりましたが、参加してみたら、すごく相対的に日本というものが見えるようになりました。僕は日本の社会を描いている日本の映画監督なんだ、と国際映画祭だから逆に日本を意識して作るようになったんです」と細田監督。ポン・ジュノ監督は、デビュー作の『ほえる犬は噛まない』(2000年)を思い出したといい、「この映画は興行的に韓国では大コケしたんです。けれど、(第13回)東京国際映画祭に招待されて、渋谷のBunkamuraで上映されたら、なぜかその時映画館が満席で、観客が楽しそうに観てくれました。笑いや拍手も起こって、日本では例外的な反応だったらしく、今でもその光景を思い出せます。僕は東京国際映画祭で癒され、励まされたんです」と映画祭に勇気づけられた思い出を語った。
荒木が「映画祭というのは夢の場所というか、“映画を作っていていい”、”映画は素晴らしい”と言い続ける場所。映画祭が制作者を勇気づけているのであれば、映画祭としても本望だと思います」と締めくくり、メディアによるフォトセッションをもって、約100分の熱く濃厚な映画人のトーク幕を閉じた。
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第34回 東京国際映画祭(TIFF)
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