
映画『REQUIEM〜ある作曲家の物語〜』
菅野祐悟監督×加藤雅也 インタビュー
作曲家でなければ描けない美しい映像と音楽の融合
菅野祐悟が今一番表現したい世界観
劇場版『名探偵コナン』シリーズ、NHK大河ドラマ「軍師 官兵衛」(2014年)、連続テレビ小説「半分、青い。」(2018年)など、数々のヒット作品の音楽を手がける国内屈指の作曲家・菅野祐悟が監督を務める、映画『REQUIEM〜ある作曲家の物語〜』が2月28日(金)より全国で公開される。
平岡祐太が演じる主人公の城島匠は、若き天才作曲家として名声をほしいままにしているが、城島は大学の同期で10年前にこの世を去った神野慎吾から「僕の死後、10年かけてレクイエムを作曲してほしい」という依頼に苦悩し続けている。
天才ピアニスト・神野慎吾を演じるのは、フリースタイルピアニストとして、YouTube登録者数110万人、総再生回数3億回を超える(2025年現在)、けいちゃん。
城島に寄り添う雑誌編集長・向井紗枝には桜井玲香、城島のアシスタント・姫野光一に安井謙太郎(7ORDER)、物語の核となる謎の人物 伯爵(菅原正義)には加藤雅也らが名を連ねる。
第2回横浜国際映画祭でクロージング作品として上映されるなど、注目を集めている。
本作で監督および作曲を務めた菅野祐悟と、本作での重要人物となる伯爵役を演じた加藤雅也にインタビューを行った。
作曲家・菅野祐悟はどのようにして映画監督となり、そしてどのような映画監督となっていくのか。また、加藤雅也と出会ったことにより、今作はどのような作品となったのか、深掘っていきたい。
表現の1つとして「映画」というものにすっかりハマってしまった
―― 前作『DAUGHTER』(2023年)、そして今作と映画監督に挑戦しようと思った経緯を教えてください。
菅野: 前作の『DAUGHTER』は、映画プロデューサーの友人から、「映画を撮ってみませんか?」と誘われたのがきっかけです。最初は固辞していたのですが、熱意に押されて監督を引き受けてみたんです。そうしたら思いのほか楽しくて。
そして、『DAUGHTER』の脚本家の宇咲海里さんと話していたら盛り上がって、2作目も一緒に作ってみましょうかということになりました。
今作では加藤さんとの出会いもあり、今ではすっかりハマってしまいました。でも、私の本職は作曲家であって、職業としての映画監督というわけではないですが、その部分がある意味強みなのではないかと思っています。
もちろん映画には本気で取り組みますが、構えなくていいというか、好きなことを詰め込めるので、商業的というよりも作品性を強く出せると考えています。
―― 菅野監督と加藤さんはどのようにして出会い、伯爵役をオファーすることに至ったのでしょうか?
加藤: 2023年に開催された第1回横浜国際映画祭で出会いました。菅野さんは全身カラシ色のスーツを着ていらっしゃったのが印象的でしたね。
菅野: 今回の映画には伯爵という役が先にあったのですが、伯爵のイメージには加藤さんしかいないと思っていたので、一択でした。ヨウジヤマモト(Yohji Yamamoto POUR HOMME A/W 2022-23 COLLECTION)のランウェイを加藤さんが歩いている姿を見ていたのですが、まさにその姿が伯爵のイメージそのものでした。
衣装合わせの時には(ランウェイの時の)加藤さんの写真を加藤さんにお送りして、この感じでお願いしますとお伝えしました。
加藤: 台本を読んだ時に、伯爵の思想や人物像がスッと理解できたので、特に意識せずに演じることができましたね。
―― 菅野監督から見て、今作で新たに発見した加藤さんの一面はありましたか?
菅野: 加藤さんには、葉巻を吸ってウイスキーをストレートで飲むお芝居をしてもらいまして、それが物すごく様になっていてカッコよかったんですが、普段はほとんどタバコもお酒もやらないということだったので、演技というよりもプライベートの部分に驚きました。
加藤: 若い頃から葉巻を吸ってくださいというオファーがなぜか多いんです(笑)。でも葉巻はふかすだけなのでタバコに比べてハードルは高くないんです。どうやって持ったらカッコ良く見えるかは、火をつけずにずっと練習していました。ウイスキーはどうグラスを持てばカッコいいかということよりも、それを好きで飲んでいるかどうかという部分を意識していますね。コーラを飲むのと一緒です。仕草に意味を持たせすぎない方がいいときも多いんです。
菅野: 今作ではシンメトリーをすごく意識したので、飲んだ後にグラスを置く場所などは完璧に指定させてもらっていました。なので、置く場所がちょっとズレただけで撮り直しとさせていただきました。演技は完璧だったのに、グラスの置く場所が違いますってやり直しになっていたので、役者さんは非常に大変だったと思います。
―― 加藤さんから菅野監督へ、「こうした方がいいのでは」と提案したことはありましたか?
加藤: 主人公と伯爵の何年もの長い付き合いを表すのに、チェスを用いるアイデアは出させていただきました。主人公が席に座ると対戦途中の盤面が用意される。普段から対戦をしている間柄というのがイメージできますよね。
それから、ラストのシーンでは本来はヨットで撮影する予定だったのですが、実際にヨットで撮影するとだいぶ大掛かりになってしまうので、室内にしておきましょうと。ヨットだったらまた雰囲気が違っていたと思いますが、(室内にしたことで)ガラス窓から見える夜景がキャンバスのように見える演出になっていたので、そこは監督流石だなと思いました。
―― 加藤さんから見た、菅野監督の演出スタイルはどのようなものでしたか?
加藤: 例えば電話をかけるシーンでは、離れた場所で電話をしている2人が同じ空間にいたりして、現実としてはあり得ないシーンが度々出てくるのですが、場面を切り取って見ると絵画のようになっていて非常に面白い。絵に力があるから、あり得ないシチュエーションでも違和感は感じないんです。
衣装合わせの時には、なんでこの色の服なんだろうと疑問に思ったものもありましたが、絵になった瞬間にぴったりハマるのがすごいです。
菅野: 演技にはほぼほぼ口を出していません。その代わり、映像の撮り方やシチュエーション、編集などにはこだわりました。それから服装や色合いなどにも。
加藤: やはり絵なんですよね。絵の中の主人公達がどう動くか。ウェス・アンダーソンの映画を彷彿とさせるような色合いだと個人的に感じています。
印象に残っているのは、白い壁の横を主人公が赤い服を着て階段を降りてくるシーンなんですが、空を壁であんな風に切り取って見せるというのは私の中ではショッキングでした。これこそ本当に絵ですよね。近代アートそのもの。
菅野: 思い描いている画を撮りたくて、シーンを撮っているようなところがありますね。絵本をめくっていく感じですかね。絵本って象徴的な絵があってその間が描かれない。
私の映画も、このシーンはこの画を観てほしいというのがそれぞれあって、それを繋いで動画にしているという演出方法なんです。鈴木清順さんが好きで、独特な世界観は目指しているところがあるかもしれません。
加藤: 立体的というよりも平面的に物事を捉えてみる版画のような映画も面白いと思います。東海道五十三次みたいな。
菅野: レクイエム(REQUIEM)って鎮魂歌という意味で、要はお葬式の言葉なのですが、映画のタイトルではそれを破廉恥なピンク色にして、宝石のようなフォントにしました。本来の意味とはだいぶかけ離れていますが、レクイエムという言葉の再解釈をしました。
主人公にとってのレクイエムとは、自分の過去を乗り越えて新しい世界へ行くということのきっかけになる言葉。生きている人達を前に進めていくために死を宝石のように美しいことと捉えるという再解釈としてデザインしています。そこまでは誰も気づかないでしょうけど。
―― 菅野監督は今までにレクイエムを作曲したことはあるのでしょうか?
菅野: ないです!初めてです。
主人公の城島が最後にたどり着く音楽なので、難しかったです。私は何も辿り着いていないのにその曲を書かなくちゃいけないという(笑)。
あと、神野がいかに天才かというシーンの音楽も僕が作らなくちゃいけなくて、私は天才ではないのに天才が作る音楽を作らなくてはいけなかったのはしんどかったです。
―― 劇中の天才ピアニスト神野に、菅野監督ご自身を投影している部分はあるのでしょうか?
菅野: それは難しいところですね〜。神野が私だと思いました?
―― そうですね、私はそのように捉えていました。なんといっても演じられているけいちゃんの表情が菅野監督の表情にそっくりだなと感じましたので。神野慎吾と菅野祐悟の名前も似ているのでその意図があるのかと。
菅野: 周りのみんなには城島こそが私の投影なんじゃないのかと言われることが多い気がするんですけどね。
加藤: 私は神野が陶酔してピアノを弾く姿は菅野祐悟に近いなって感じていましたよ。
菅野: 神野は完全にオリジナルキャラクターなんですが、脚本家の宇咲さんと私が仲が良いというのもあり、宇咲さんが私のテイストを入れようとするんですよ。それで、ちょっと似た部分が出てきちゃったのかもしれません。名前を似せちゃったのも宇咲さんの仕業です(笑)。
―― 神野役はけいちゃんにすぐ決まったのでしょうか?
菅野: プロデューサーから何名か候補をいただきました。
今回の場合、ピアノを弾ける人に演技をしてもらうか、役者の人にピアノを練習してもらうかの2パターンあると思うんです。たまたまピアノを弾ける役者がいたら最高ですが、普通はそんなことはまずありません。ピアノを相当に弾くシーンがあるので、ピアノを弾けるということを優先に考える必要がありました。その際にけいちゃんに白羽の矢が立ちました。神野の線が細い感じにもぴったりでしたね。
エンドクレジットも必見の本作
「劇中絵画:菅野祐悟/劇中写真:加藤雅也」のクレジットを発見!!
―― 劇中に登場する絵画を菅野監督自らが描かれたとのことですが、絵は以前から描いていたのでしょうか?
菅野: 自分の表現したいことの一つとして、絵は描いていました。思い浮かんだ世界観を記録するような意味で描いています。たくさん作品が生まれたので展覧会をやったり、自分のCDジャケットに自分の絵を使ったりはありますが、職業画家ではないので、切羽詰まった感はなく描きたいものを描いてます。
―― エンドクレジットには劇中写真で加藤さんのお名前がありましたが、どの写真を撮影されたのでしょうか?
加藤: 私が撮影した平岡さんがピアノを弾いている手元の写真を監督が使いたいと。自分のカメラで撮影したものです。
菅野: 城島が酒に酔って、夢に落ちていくフラッシュバックのようなシーンで加藤さんの撮影した写真を使いましたね。時計とか色々な写真を使わせていただきましたよ。
加藤: え、思ったよりも使っていただいているんですね。私も気づかなかった!ぜひ、探してみてください。
―― それでは最後にお聞かせください。今後も映画監督を続けたいと考えていますでしょうか?また続けていく場合はどのようなジャンルに挑戦していきたいですか?
菅野: 作曲家でありつつ映画も撮影しているという人はなかなかいないと思うので、自身の音楽を最大限に生かせる映画を制作していくということが私のカラーになると考えています。あとは、映画は一人では作れないので、出会いとかタイミングによって全然違うものが生まれる可能性があります。
誰かの想いと私の想いが交わってぶつかった時、その瞬間に表現したいものが最大化されたものが映画なのではないかと思っています。まずは、誰かに想いがぶつかるように、自分からボールは投げていきたいです。
プロフィール
菅野 祐悟 (Yugo Kanno)
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加藤 雅也 (Masaya Kato)
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映画『REQUIEM〜ある作曲家の物語〜』予告篇
映画作品情報
《ストーリー》その音楽は、愛か?狂気か? これはあるひとりの作曲家の物語である。 今は亡き親友、神野慎吾の幻影に苦しみながらも「約束」を果たそうとひたむきに生きる城島匠。他人からは順風満帆に見える、その人生に潜む『苦悩』と、それを支える人々の『想い』が絡み合う。 多くの愛を受けながらも、愛に飢え、愛に苦しみ、葛藤し続ける作曲家がたどり着いた音楽(レクイエム)とは? |