映画『無限ファンデーション』
原菜乃華インタビュー
全編即興、みんなで創った嘘のないリアルなお芝居
『お盆の弟』(第37回ヨコハマ映画祭 4冠)の大崎章監督がシンガーソン グライター・西山小雨の楽曲「未来へ」を原案に、10代の少女たちの即興芝居で紡がれた『無限ファンデーション』。少女たちのかけがえのない一夏を見事に切り取った、青春映画の傑作がいよいよ 8月24日(土)より劇場ロードショーとなる。
2018年に初主演を務めた映画『はらはらなのか。』に続いて自身の本名と同じ役名“ナノカ”を演じ、リアリティ溢れる見事な即興芝居で『無限ファンデーション』を共創した原菜乃華さんにインタビュー!自身が演じた役や本作にまつわるエピソードなど話を聞いた。
—— 『はらはらなのか。』に続き、本作もご自身の本名と同じ役名です。本作は台本なしの即興劇ということですが、今回演じたナノカの役作りはいかがでしたでしょうか。
台詞は全く書かれていない物語の設定と流れのみの構成台本はありました。
元々台本に役名が書かれていましたが、2回も自分の本名と同じ役名だったので驚きました。ナノカは、小さいときから芸能活動をしていて、女優さんを目指しているという境遇が近くて、女優に対する熱意とか夢は同じだったのでそこはとてもやりやすかったです。
また、「ナノカ」って呼ばれると自分自身が呼ばれている感じがして、より自分の言葉で台詞を言えたと思います。
—— 自分とは違うなという部分はありましたか。
ナノカは、場を引っかきまわし、話を展開していく役どころでしたが、そういう強引さとか行動力は私にはあまりない部分だったので、ナノカというキャラクターのことを考えながら演じました。
即興で不安なところがあったので、本番が始まる前のリハーサルのとき、監督さんや助監督さんに相談に行きましたが、「どうしていいかわからないと素直に相談に来てくれることが菜乃華ちゃんのいいところだから、変に作らずにそのままの菜乃華ちゃんをだしてほしい」と言ってくださったので、それが自信につながりました。
—— 共演したキャストの皆さんとは、どのような準備をされたのでしょうか。
合宿形式でキャストのみなさんと同じ部屋に泊まって、お芝居について語り合ったり、「明日のシーンどうする?」って共通の認識をすり合わせて、「ここのシーンはこういうシーンだから空気感とか大切にしようね」とか話をしたりとか、なかなか同年代の役者さんとここまで深く語り合う機会が今までなかったのですごく楽しかったです。
休みの日や休憩時間に近くのかき氷屋さんにみんなで一緒にかき氷を食べに行ったりとか、すごく仲が良くて、その雰囲気がそのまま部活内の雰囲気になって、即興なのでそれがより映像に出ていると思います。
—— 劇中でナノカは南紗良さん演じる未来の絵の才能を絶賛し演劇部に誘いますが、実際に菜乃華さんも誰かの才能を絶賛したり、「この人の才能すごい!」と感銘を受けたことはありますか?
劇中で未来が描いているあの(ファッションデザインの)スケッチブックは南紗良さんの私物なんです。実際に自分でデザインしたお洋服とか写真があって、本当に絵がお上手で、描かれているお洋服もとてもかわいらしくて、「すごいな」ってリアルに感動しました。それがそのままお芝居にも出ていると思います。
—— 未来とナノカが教室で話し合うシーンが印象的でした。菜乃華さんからみて主演の南紗良さんはどのような存在でしたか。
南さんにはすごく引っぱってもらっていました。
教室で二人が話し合うシーンは、南さんの表情を見ているだけでこちらの心が動き、すごく素敵な女優さんだなと思いました。
南さんとはあまり話し合いをせず、ぶっつけ本番で合わせるという感じだったので、緊張感もあってドキドキしていました。「どんなふうに言ってくるのかな?」と思っていましたが、あの台詞を言ってきたので、本当にどうしていいか分からなくなってしまって涙が止まりませんでした。いいシーンになったと思います。
—— ナノカは自分の夢を優先するため、演劇部の皆さんとぶつかります。個人の夢や優先したいことと、仲間と一緒に目指していることがぶつかった場合、菜乃華さんだったらどうしますか。 そのような経験はこれまでありましたか。
中学生のとき、文化祭に力を入れている学校だったので、(演劇への出演について)先生に「原がやってくれたら嬉しいな」とか、友達にも「原ちゃんやりなよ!」と言われたりしました。
もちろん「やりたいな」とか「楽しいだろうな」という気持ちはあったのですが、さすがに撮影(芸能活動)とかぶってしまったらすごく迷惑をかける思ったので、裏方や脇のほうに立っている役に徹していました(笑)。
—— ナノカは、自分の都合で一度抜けた演劇部に「本当に虫のがよくて…」と自分で言いつつもまた一緒にやりたいと勇気を持って申し出ましたね。
「オーディション受けるから出れません」と出ていった後に「やっぱり戻らせてください」ということは結構都合のよい話なので、私だったら言わないなと思ったのですが、劇中ではそれまでみんなで一緒に積み上げてきたものがあって、一生懸命いろんなことを乗りこえてきた絆があってからこそ、最後まで見届けたいという気持ちが勝ってナノカはそう言えたんだと思います。そのような背景まで自分のなかで考えて、そう言える気持ちまで持っていきました。
—— 最後のシーンで、みんなが受け入れてくれた時の心境はいかがでしたか。
本作の合宿で本当に仲良くなったみなさんが、自分が言った台詞に対して傷ついた顔をして怒ってくるとき本当に胸が痛みました。なのであの涙も言葉もリアルなものです。
みんなが受け入れてくれたときは、台本とか構成など関係なく、どうしても涙が出てしまうほど本当に嬉しかったです。嘘のないリアルなお芝居をみんなでできたと思います。
—— 楽曲が本作の原案になっていますが、西山小雨さんの音楽はいかがでしたか。
ゴミ捨て場で泣くシーンは、その場で小雨さんが歌ってくれて、本当に包まれているような、背中を撫でてくれているような安心感のある歌声で、小雨さんがその場で歌ってくれていたからこそあの芝居ができたんだろうなと思います。それが最後のシーンにもつながっています。
—— 菜乃華さんにとって『無限ファンデーション』はどのような作品ですか。作品を通じて得たものや気づいたことがありましたら教えてください。
今回の『無限ファンデーション』という作品は、台詞がない即興な分、深いところまでしっかり考えて役作りしないと崩壊しちゃうので、台詞のありがたみを実感しました。
台詞のある作品でも本当はここまで深く考えないといけないんだなと気づかせてくれた作品です。
—— 『無限ファンデーション』で特に注目してもらいたいポイントがありましたら教えてください。
全編即興でほとんどが一発撮りの作品です。その場所に流れている空気感は本当にリアルで、私たちも何が起きるか予想できないといった状況で撮りました。本当に自分たちの言葉を発しているという映画はなかなかないと思います。みんなの仲の良さも即興だからこそ映像にそのまま映っているのでそこを観てほしいです。
—— 今後、女優として挑戦していきたいことなどお聞かせください。
もっとお芝居を今よりも楽しめる女優さんになりたくて、そのために自分のなかの引き出しをいっぱい増やしていきたいなと思っています。アルバイトをしたり、いろんな友達と遊んだり、人生経験をいっぱい積んで、全部役に反映できるように頑張っていきたいです。
今、お芝居が前よりも楽しくなってきていますが、台本を読んだときに「こうやったらもっと面白いかも」みたいなのをあと10個くらい考えれるようになりたいです!
—— 最後に、シネマアートオンラインの読者の皆さんにメッセージをお願いします。
プロフィール
原 菜乃華 (Nanoka Hara)2003年生まれ、東京都出身。2009年より子役として芸能活動を開始する。以降、「サイレーン 刑事×彼女×完全悪女」(2015年/KTV)、「朝が来る」(2016年/CX)、 Huluドラマ「代償」(2016年)、テレビ東京「二つの祖国」(2019年)など、話題作に多数出演し注目を集める。映画では『BOX 袴田事件 命とは』(2010年/高橋伴明監督)、『Lieland』(2011年/片岡翔監督)、『地獄でなぜ悪い』(2013年/園子温監督)、『ピラメキ子役恋ものがたり』(2015年/太田勇監督)、『3月のライオン 前編・後編』(2017年/大友啓史監督)など多数出演。『はらはらなのか』(2017年/酒井麻衣監督)で初主演を果たす。 |
映画『無限ファンデーション』即興予告篇
映画作品情報
《ストーリー》人付き合いが苦手な女子高生・未来は、服飾デザイナーになる夢を胸に秘め、誰にも打ち明けることなく退屈 な日々を過ごしていた。ある日の帰り道、リサイクル施設から聴こえる澄んだ歌声に導かれ、ウクレレを弾きながら歌う不思議な少女・小雨と出会 う。さらには未来が描いた洋服のデザイン画を目にした演劇部のナノカたちに誘われ、舞台の衣装スタッフとして入部することになる。戸惑いつつ も小雨やナノカたちに心を開いていく未来だったが、彼女たちの一夏はやがて思いがけない方向へと走り出していく…。 |
監督: 大崎章
音楽・主題歌: 西山小雨
撮影・編集: 猪本雅三
照明: 松隈信一
サウンドデザイン: 伊藤裕規
プロデューサー: 越川道夫
助監督: 張元香織
コンセプトデザイン: 宮本茉莉
ヘアメイク: 浅井美智恵
企画: 直井卓俊
宣伝美術: 寺澤圭太郎
ポスタースチール: 枝優花
企画協力: Breath
協力: 高崎フィルムコミッション 玉村町
配給・宣伝: SPOTTED PRODUCTIONS
共同配給宣伝: MAP
2018年 / 日本 / カラー / 5.1ch / 102分
新宿 K‘s cinema ほか全国順次公開!