
岡本崇監督 インタビュー
「ライブシーンに嘘がない」
バンド活動とMV制作を続けてきたからこそのリアリティ
2008年頃からインディーズバンド界のMV制作黎明期を支え、2022年に長編映画初監督作となる映画『ディスコーズハイ』を劇場公開。唯一無二のセンスで全国のミニシアターファンに衝撃を与えた岡本崇監督。
長編映画第2弾のタイトルは、敬愛するギタリスト、ジミ・ヘンドリックスの2ndアルバムの最後の曲「ボールド・アズ・ラヴ(愛のように大胆)」へのオマージュで、“君”への憧れの気持ちを込めて、『ボールド アズ、君。』と命名。
音楽や映画の作者の意図には関係なく救われた自分の経験から、“勝手に救われよう”をテーマに、カリスマ的なヴォーカリストとミニシアターの支配人に救われた主人公の熱い想いを描き、第18回田辺・弁慶映画祭のコンペティション部門、第34回ゆうばり国際ファンタスティック映画のゆうばりセレクション部門に正式出品され、大須インディペンデント・フィルム・フェスティバル2024にて長編部門最優秀賞、山形国際ムービーフェスティバル2024にて審査委員特別賞、第1回アートファインディング映画祭で俳優賞(伊集院香織/みるきーうぇい)と優秀賞、神戸インディペンデント映画祭2024にて企画賞、沖縄NICE映画祭3にて撮影賞と最優秀音楽賞を受賞した。
そして、新宿K’s cinemaとK’s近くの映画ファンが集まるBar DUDEでの追撮を加えた映画『ボールド アズ、君。』の最新バージョンが3月29日(土)より新宿K’s cinemaで公開。さらには4月26日(土)より大阪・第七藝術劇場他での全国順次公開を控えている。
本作にも出演している音楽ジャーナリストの原田和典氏による岡本崇監督のインタビューをお届けする。
―― 映画『ボールド アズ、君。』制作のきっかけについて教えていただけますか?
前作『ディスコーズハイ』に続く音楽ものを撮ろうとは以前から決めていましたが、今回はミニシアターもテーマにして作りたいと思いました。ミニシアターは僕にとってとても大切な場所ですし、いろんな出会いもありました。ライブハウスもミニシアターもどんどん減っているので、それを憂う気持ちもありますね。
―― 作品づくりに関わった期間はどのくらいでしょうか?
構想を含めると3年ぐらい、撮影は2年ぐらいだと思います。色々な映画祭で上映していただく機会があった後、お客さんの感想などを元にブラッシュアップしていったところもあります。追加撮影もしましたが、僕の中では「尺は絶対変えない。追加撮影のシーンによって尺を延ばしたりはしない」と決めていました。
―― 「僕らは勝手に救われる」というキャッチフレーズも印象的ですね。
このキャッチは、自分がそういう経験をしたことから生まれました。僕はレッド・ツェッペリンの音楽に救われたんです。学生時代の、本当にダメだった時に、心の支えとしてレッド・ツェッペリンの音楽が、ジミー・ペイジのギターがありました。
それまでの僕はどちらかというと内向的な人間でしたが、ギターを弾くようになって友達もできました。ツェッペリンが変えてくれたんです。向こうは僕のことなどもちろん知らないし、僕のことを考えて曲を作っているわけでもないのに。「誰のために作られたわけでもない音楽や映画が誰かを救ってるんだよ」ということは、この映画を通して伝えたいテーマです。
―― ミュージシャンのお二人、主人公・南條珠役の伊集院香織さん(みるきーうぇい)、彼女が憧れるヴォーカリスト・瓶子結衣子役の後藤まりこさんを起用なさったのは?
珠役の「エレキギターをかっこよく弾ける人」という一番のポイントを考えた時、最初に浮かんだのが香織ちゃんでした。上手いギタリストですし、劇中に出てくる曲は全部弾ける状態で撮影に臨んでくれたので、彼女の起用は本当に正解だったと思っています。
後藤まりこさんについては、この映画のバンドシーンで絶対にヴォーカルを担当してほしいという思いが元々ありました。かつそのバンドは作中では売れている設定なので、絶対的なカリスマを持った人じゃないといけなかった。そういう意味でも後藤さんが適任でした。オファーしたのは、『ディスコーズハイ』の上映後のアフタートークの時です。お客さんの前で「新しい映画に出てもらえませんか」と言ったら、「いいよ」ってめっちゃ軽い感じで受けてくれた。みんなの前で、言質を取りました(笑)。
―― 他にもクリトリック・リスのスギムさん、もるつオーケストラのGOOD之介さんなども出演していますし、東京事変の刄田綴色さんの役者ぶりにも驚きました。
刄田さんの出演には僕もびっくりしました。ダメ元で、「一番好きなドラマーに声をかけよう、玉砕したら次に進もう」と思っていたんです。そうしたら、「面白そうだね、ぜひやりたいです」と言ってくださって、まさかという感じでした。オーディションもしていませんし、もう来たものを来たものとして受け止めようと思って撮影したんですが、めちゃくちゃ良かった。
―― 『ディスコーズハイ』の時にも感じたのですが、岡本監督の作品は本当にセリフとセリフの「間」が生き生きしていますね。
十六分音符のシンコペーションみたいな感じで、セリフを掛け合いするような意識で演出していったところはあります。セリフの最後の一文字をちょっと食うぐらいで次の人が話し始めるとか、けっこう関西のしゃべくり漫才では多いと思いますが、相手の言葉尻を捕まえて、どんどん次に進んでいきながらテンポ感を出していくような演出はしました。
映画に関しては独学で作ってきたところがありますが、音楽はずっとやってきたので、「セッションのようにセリフも表現できたらいいな」とは思っています。
―― 『ディスコーズハイ』と同じ役名や同じバンドが登場するところもありますが、そことは繋がりがあると考えてもいいのでしょうか?
時系列としては完全にパラレルというか、キャラクター自体は『ディスコーズハイ』と繋がっているようで繋がっていないという考え方ですね。下京慶子さんが演じるのは、前が別久花、今回は草薙凪子。同じ役職(バンドのマネージャー)で同じキャラクターだけど名前が違う。世界軸としては違うものなんだなっていうふうに感じていただければと思いながら配役した感じですね。
―― そして、ラスト15分は心斎橋「BIGCAT」での圧巻のライブシーンです。
最初に撮るライブハウスのシーンは「BIGCAT」にしたいという気持ちがありました。僕ら大阪のインディーズ・ミュージシャンにとっては聖地みたいなところですし。ただ、エキストラではなく、実際このライブに来たいというお客さんを集めて公開撮影を敢行したかったので、規模感としては正直無理かなと思ってはいました。
日にちは押さえることができて、アシガルユースさんなどバンドの皆さんもOKと言ってくれて、あとは当日の集客というところまで来ましたが、800人のキャパを持つ会場ですし・・・・。
当日、どんどんお客さんが来てくれて、満席まで行ったのには感動しましたね。観客に関しては、今回エキストラの方を集めるというよりは、お客さんがそのライブを楽しみに観に来てくれることを一番のコンセプトにしていました。
―― 「映画のエキストラとして映りたいから来た」んじゃなくて、「音楽が好きだから来た」というオーディエンスのノリが爽快です。
「この演者が観たい、このバンドが観たい」ということで集まってくれたんだと思います。だから、ライブシーンに嘘がない。ライブを楽しみに観に来たお客さんの反応が撮れているので、ある種ドキュメンタリータッチの側面も持っていると思います。
ヴォーカルがずっと大写しになっている状態の映像があるでしょう、でも僕は「主役だけを撮らない」ようにした。やっぱり映画を通じてライブを楽しんでほしいという気持ちがあるし、ベースもドラムもお客さんも大事。まんべんなく収めたいと思って編集しました。
―― 今後も音楽を軸とした作品づくりに取り組んでいくのでしょうか?
短編映画では音楽以外のテーマに挑戦することもありますが、長編をもう1本撮るとしたらやっぱり音楽映画にしたいですね。各地のライブハウスの名前や場内をそのまま出すような、ロックバンドのリアルなロードムービーを作ってみたいです。
プロフィール
岡本 崇 (Takashi Okamoto)
|
原田 和典 (Kazunori Harada)音楽、映画を始めとするエンターテインメントの取材執筆、ほかラジオ番組パーソナリティ等を中心に活動を続けている。 映画関係の共著に「ジャズな映画 名作100ガイド」、「新世紀ミュージカル映画進化論」などがある。 |
映画『ボールド アズ、君。』予告篇🎞
映画作品情報
《ストーリー》人付き合いが苦手な南條 珠(伊集院香織)は、小学生の頃からシネコンとは一線を画すこだわりのラインアップのミニシアターを自分の居場所としていて、支配人の井澤雄一郎(津田寛治)を神様と呼んで慕っている。 そんな珠にとって、ロックバンド“翳ラズ”のヴォーカル・瓶子結衣子(後藤まりこ)はもう一人の自分を救ってくれた神様。中古ギターを入手して、スーパーギターバトルで優勝するほどの実力になるも、さらに上を目指して練習する日々。翳ラズの記事を読み、次の翳ラズのライブチケットは必ず入手すると決意を新たにする。 そんなある日、珠がバイトをする居酒屋に、たまたま瓶子結衣子がやってきて、珠がアップした“弾いてみた動画”を見ていたことが発覚。珠は「翳ラズと同じステージに立って直接お礼を言うこと」を目標に、さらに動画制作に精を出すが、行きつけのミニシアターが翳ラズのライブのタイミングで閉館するということを知り… |
ロケーション協力: 八尾フィルムコミッション、第七藝術劇場、BIGCAT HOOK UP RECORDS 、funk ojisan、D×Q神戸、Bar DUDE、新宿 K’s cinema
新宿K’s cinemaほか全国順次公開!