
映画『ひとりたび』岩田 奏 インタビュー
主人公の“大切な思い出”を等身大で体現
瑞々しい感性が光る、初恋の記憶の象徴・圭一を好演
仕事に恋愛、人生に行き詰まった30代の女性が、学生時代に経験した「初恋」の記憶を頼りに、自分の人生を見つめ直す姿を描いた映画『ひとりたび』。主演の岡本玲が主人公の葛藤を等身大で演じ、石橋夕帆監督と脚本の上村奈帆という俊英たちが、将来への不安と過去の思い出との邂逅を繊細に紡ぎ出す。

本作で、主人公・大野美咲が20年もの間ずっと胸の奥で思い続け、物語の重要な鍵を握る初恋の相手・荻野圭一の中学生時代を演じたのが岩田奏だ。
前作での鮮烈な演技からさらなる成長を遂げた岩田に、役作りの裏側からロケ地の温かい思い出、さらには自身の役者としてのルーツと今後の展望まで、その瑞々しい想いを語ってもらった。
等身大の中学3年生として演じた「圭一」という役への挑戦
中学3年生という自身の年齢と同じ時期に撮影へ臨んだ岩田が、主人公・美咲の心に20年間残り続ける初恋の相手、圭一をどのように捉え、表現していったのか。そこには現役高校生ならではの瑞々しい共感と、大きなプレッシャーがあったという。
―― まずは、本作への出演が決まった時の心境と、脚本を読んだ時の印象についてお聞かせください。
岩田: 本作への出演はオーディションで決まりました。僕が演じる圭一は、大人になった姿が直接は描写されず、最後の方の写真でその存在が示される役どころです。そのため、僕自身の演技が「美咲にとっての大切な思い出にならなきゃいけない」と感じ、決まった時は「それがちゃんとできるかな」という不安やプレッシャーがすごくありました。
前作『雑魚どもよ、大志を抱け!』(2023年)の撮影を終えてから約1年が経った頃のオーディションということもあって、少し緊張もありましたね。30代になった美咲が中学時代のことを思い出して振り返った時に、それが綺麗で、かつ本当に大事な思い出として心に残るよう演じるのは、きっと難しいんじゃないかなと考えていました。

―― 実際に圭一という役を演じるにあたって、どのようなアプローチをされたのでしょうか。自身との共通点などはありましたか?
岩田: 圭一が置かれたシチュエーションそのものは僕自身経験したことがないものでしたが、脚本を読んだ時に、彼の持つ空気感と自分の雰囲気は結構似ているんじゃないかなと感じました。
例えば、劇中で音楽を聴くところなど、僕自身だったら緊張して口に出せないかもしれないけれど、もし勇気を出して言うとしたら、圭一と似ている部分があったというか。
また、当時僕も同じ中学3年生で同い年だったので、等身大の男の子として、同じ世代の男の子の気持ちとしてすごく共感しながら役を作ることができたと思います。
―― 劇中では音楽が重要な要素として登場しますが、岩田さんご自身も音楽がお好きだと伺いました。
岩田: はい、圭一が劇中で聴いている曲は今回初めて知りました。撮影時に聴いてみて、「圭一聴いてんの可愛いな」って思いましたね。そこはちょっと自分とは違うジャンルというか。でも、その時代だったら僕もこういう系を聴いていたかもしれないなと思います。
僕は結構色々なジャンルの音楽を聴きます。今流行っているといった人気のある曲も聴きますし、上の世代の曲とかも色々聴くのも好きなんです。僕個人の音楽の好みで言うと、東京事変さんがめちゃくちゃ好きで、椎名林檎さんの曲とかドラムでよく叩いたりしています。

和歌山での美しい思い出と、共演者との微笑ましいエピソード
撮影は、東京から離れた美しい街並みが広がる和歌山でも行われた。初めての土地で、同世代のキャスト陣と過ごした賑やかなロケ期間の思い出や、どこか懐かしい風景の中での撮影裏話について、笑顔を交えながら語ってくれた。
―― 共演された美咲役の石山愛琉さんをはじめ、同世代のキャストの皆さんとの現場の雰囲気はいかがでしたか?
岩田: 石山さんは本当に面白い人で、撮影現場でもすごく楽しかったです。ロケ期間中に泊まっていたホテルが一緒だったのですが、初日に僕が部屋にインキーをしてしまって(笑)。そこで石山さんに「何してんの?」って言われて、それがきっかけでちょっと仲良くなったりしたのですが、その後に石山さん自身が2日連続でインキーをしていて(笑)、本当に楽しかったですね。
ファミレスのシーンで共演したメンバーともすごく仲良くなれました。一緒にピザを食べたりして、居心地の良い空気感の中で撮影ができました。関東での撮影も含めて、9月頃の強い日差しの中で、暑かったり涼しかったり、夏の終わりのような空気感を感じながら撮影したのを覚えています。

―― 和歌山のロケーションはいかがでしたか?
岩田: 和歌山には初めて行きました。飛行機に乗るのがめちゃくちゃ久しぶりで、小学生の時に北海道へ行って以来だったので、それ自体がすごく新鮮でしたね。和歌山は本当に街並みが綺麗で、(撮影場所の)すぐ近くが住宅街でしたが、地元って感じがしてすごく良い雰囲気の場所でした。
一番の思い出は、みんなで一緒に食べたご当地アイスの「グリーンソフト」です。全体がコーンで包まれているようなアイスで、そこを割って食べるのが美味しくて。映画の中には出てこないのですが、僕たちの中では「和歌山行ったらそれだ」という一番の思い出になりました。

客観的に観て驚いた、20年間思い続ける「初恋」の強さ
完成した本編を観た際、一人の観客として作品の世界観に深く魅了されたという岩田。20年という長い歳月が経っても一人の人間を思い続ける主人公の姿から彼が受け取った、作品の核心に迫るテーマについて語る。
―― 完成した作品を客観的にご覧になって、どのように感じられましたか?
岩田: 試写で最初に観た時は、自分が出演している(圭一を演じている)という感覚があまりなくて、一人の観客として映画の世界に引き込まれてしまいました。一観客として「圭一何やってんだよ」って思うくらい客観的に観ていましたね(笑)。
特に印象に残っているのは、岡本さんが演じる大人になった美咲が車の中で圭一のことを好きだと言っているシーンです。そこがすごく印象に残りました。
好きだったとしても中学の時のことだし、めちゃくちゃ前だし、という風にはならずに「好き」と言ったのがすごいことだなと思って。台本を読んでいた時も、20年間経ってもこんなに悲しいんだなと感じていましたが、実際に映像として観ると、どれだけ圭一が大切な人だったのかという想いがすごく伝わってきて驚きました。

―― もし圭一がそのことを知ったらどう思うと思いますか?
これほど大切に思ってもらえるなんて、きっと嬉しいと思います。一人の人をずっと思い続ける強さや美しさが、この作品のすごいところだと改めて感じました。
―― この作品を、どのような人たちに一番届けたいですか?
岩田: 欲を言えば全部ですけど、昔の大事なものとかを、ちゃんと「大事」って言いたい人に観てほしいです。あと、今がすごく大事で、今のことばっかりになっちゃっている人にも観てほしいなと思います。過去の自分の大事だったことをちょっと忘れちゃっている人とかが、「あの頃の自分もちゃんと今でも大切だな」って言えるようになるんじゃないかなと思います。
それと同時に、僕と同じ高校生や中学生といった若い世代の皆さんにも、大人になった時にこれを思い出してほしいなと思います。今現在、僕は高校3年生のですが、中学3年生の時の記憶を振り返ると、もう結構「過去の自分」みたいになっちゃっている部分はあります。微々たる変化ですけど、そこはちゃんと自分だし、大事なものは忘れちゃダメなんだなって思うんです。この作品を今年観たら、大人になった時に思い返して、自分の人生を振り返るきっかけになってほしいなと思っています。

「リアル」を追求する俳優としてのルーツと、未来への引き出し
小学3年生の時に初めて芝居に触れてからプロの道へ進んだ岩田。彼に影響を与えた名作映画への想いや、これからの俳優人生において彼が目指す「リアル」な演技、そして物語の作り手としての夢についてなど聞いた。
―― 岩田さんが俳優の道を志したきっかけや、演技に触れた最初のルーツについても是非教えてください。
岩田: 一番最初に演技をしたのはお仕事ではなくて、小学3年生の時でした。母に連れられて、舞台を作って発表するようなワークショップに行ったのが最初で、そこで何回か演技に触れました。当時、僕はドラムをずっと続けていたので、お母さんとしては「舞台で演技をする経験が、ドラムなどにも活きてくるんじゃないか」と考えて僕を連れて行ってくれたんだと思います。
当時は俳優になろうとは考えていませんでした。その後、小学6年生の時に原宿を歩いていたところをスカウトしていただいたのがきっかけです。事務所に入ってすぐコロナ禍になってしまい、1〜2年くらいはオーディションもなかったのですが、入ってすぐにダンスレッスンもやっていましたし、そこから演技レッスンを重ねて、今はもう演技に集中している状態です。
―― 岩田さんにとって「映画」とはどのような存在ですか?
岩田: 観る側としては、日常的なところからお仕事のところまで、何にでもなる存在ですね。助けてくれることもあれば、突き放してくるようなこともあるから、時には相談役みたいになることもあるし、背中を押してくれる時もある存在です。
ちなみに、人生で一番最初に観た映画はディズニーのアニメ-ション映画『カーズ』(2006年)でした。3歳の頃の誕生日かクリスマスにDVDを買ってもらって観ました。僕それがめっちゃ好きで、小さい時に20回くらいは観ているはずです。
実写映画で最初に観たのは、テレビの地上波放送で観た『陽だまりの彼女』(2013年)だと思います。当時5歳くらいで、内容は何のことか分かっていないと思うんですけど(笑)、すごく印象に残っています。男女が喧嘩するシーンがあって、子供ながらに何かもどかしい気持ちになったのを思い出しました。最後もちょっと寂しい海のシーンの終わり方だった記憶があって、それが最初の実写映画ですね。
―― 映画館のスクリーンで初めて映画を観たのはいつ頃でしょうか?
岩田: 映画館に最初に行ったのは、小学生の時に劇場版の『ドラえもん』を観に行ったのが最初です。
今では映画を一人で観に行くのが好きですね。友達に誘われたら一緒に行くことはありますが、映画を観終わった直後にすぐ感想を話し合うのがそんなに好きじゃなくて、1日後とかに話し合いたいんです。自分の中で整理する時間が欲しいタイプなので、一人で観に行って次の日に学校とかで話すのがベストだと思っています。
―― 観客として様々な作品に触れ、映画に寄り添ってきた岩田さんですが、ご自身が「演じる側」としては、どのような存在に変わるのでしょうか?
岩田: 演じる側としての“映画”は、「自分がちゃんと役として生きた証が残るもの」です。それが別の人たちに伝わって、誰かの背中を押したりできる側になっていけたらいいなと思っています。
―― 岩田さんご自身が影響を受けた作品や目標にしている俳優はいますか?また、今後の目標や挑戦したい役柄などもありましたら教えてください。
岩田: 僕は『ミッドナイトスワン』(2020年)がすごく好きで、草彅剛さんの演技が本当に素敵だなと思っています。どうやって演じているのかは全然わからないのですが、自分で答えを合わせながら成長していって、いつかそこにたどり着けたらいいなと思います。
単にナチュラルとも違って、その役が作品の中で本当に生きている、現実のどこかに存在していると思えるような違和感のない「リアル」な演技ができるようになりたいです。
これからは年齢とか自分と全然違う役になった時にもそれができるようになりたいですし、自分の年齢より年上の役とかを演じる機会があれば、そこに対応できるかどうかが進化を問われる部分なのかなと思っています。
また、実は自分でお話を考えるのも好きで、本を読むのもすごく好きなんです。だから自分で脚本を書いて演じたり、自分が書いた小説が原作になったり、物語を自分で書きたいなという目標もあります。ただ、一番はやっぱり俳優を絶対に続けたいですね。
―― 最後に、読者の皆さんに向けてメッセージをお願いします。
岩田: この映画を通じて、自分の大切なものとか大切だったものを思い出して、それをちゃんと言いたい人に届いてほしいです。自分の大切なものを「大切だ」って言って大丈夫だよ、と言いたいです。ぜひ劇場でご覧ください。
プロフィール
岩田 奏 (Kanade Iwata)2008年11月22日生まれ。東京都出身。 映画デビュー作『雑魚どもよ、大志を抱け!』(2023年/足立紳監督)でメインキャストの西野聡役を好演し、一躍注目を集める。 主な映画出演作に、『消滅世界』(2025年/川村誠監督)、『桃味の梨』(2026年/蘇鈺淳監督)などがある。 またドラマでは、テレビ東京「姪のメイ」(2023年)、NHK「藤子・F・不二雄SF短編ドラマ シーズン2/アン子 大いに怒る」(2024年)、Leminoオリジナルドラマ「今日もふたり、スキップで」(2025年)、日本テレビ「タツキ先生は甘すぎる!」(2026年)、NHKドラマ10「コンビニ兄弟 テンダネス門司港こがね村店」(2026年)など数々の話題作に精力的に出演。今後の活躍が期待される若手俳優の一人である。 |
映画『ひとりたび』予告篇(本予告)🎞
映画作品情報

《ストーリー》主人公と同世代の3人が、将来への不安と過去の思い出の邂逅を繊細に紡いでいく。 東京で働く主人公・美咲。10年勤めていた会社に居づらくなり退職し、将来が見えないまま実家に帰る。地元で開催された同窓会で、初恋の相手が2年前に亡くなっていたことを知り――。空っぽだった美咲の心が、初恋の思い出で埋め尽くされていく… |
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