映画『ザ・ティーチャー』(The Teacher) レビュー
【画像】映画『ザ・ティーチャー』(The Teacher) メインカット

映画『ザ・ティーチャー』
(原題:Učiteľka / 英題:The Teacher) 

権力行使と恐怖の先にあるものとは。

脚本を手掛けたペトル・ヤルホフスキーの少年時代の実体験を元に、チェコを代表する監督のひとりであるヤン・フジェベイクが共産主義時代に市民が実感していた権力行使による恐怖と、一部の勇気ある者がそれに立ち向かうカタルシスを伴う心理ドラマとして描いた『ザ・ティーチャー』(原題:Učiteľka)が、第29回 東京国際映画祭(TIFF)のワールド・フォーカス部門で上映された。

ストーリー

舞台は1980年代のチェコ。主人公は、共産党の支部長でありながら女教師としてロシア語とスロベキア語を教えている学校の先生。新学期に受け持った新しいクラスの生徒1人1人に自己紹介をさせ、更に両親の職業を教えるよう促す。生徒達は素直に両親の職業や家庭環境について簡潔に語っていった。

先生は子供の成績が悪いのを理由に生徒や生徒の親を呼び出し、生徒の親の職業などに応じて私的な頼み事をするようになる。だんだんと頼み事がエスカレートしていくが《先生は共産党の支部長である》ということでほとんどの家庭が先生の言いなりになってしまう。

教師にはむかう生徒や教師の要望に答えられない親を持つ生徒は、どんなに努力しても著しく成績を悪く評価され、他の生徒とは明らかに扱いが違った。ある家族が悩みの末に転校手続きを学校側に出した事で校長先生が大変な事態を知る事になり、当事者である先生に内緒でクラスの生徒の両親たちを呼び欠席裁判を行うことになる。

果たして裁判の行方は・・・? 生徒の成績は・・・? 

【画像】映画『ザ・ティーチャー』(The Teacher) 場面カット

まるで無邪気なモンスター!?

主人公の女教師を演じたのは、本作にて第51回カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭(KVIFF)のオフィシャル・セレクション コンペティション部門で女優賞を受賞したズザナ・マウレーリ。個性的なパーマヘアで、悪びれる事もなく権力を行使し、次々と汚職に手を染めてしまうのだが、どこか憎めない女教師を見事に演じきっている。

この先生、ちゃっかりしていて要領が良いといったらありゃしない。自分の立場を利用して、うまく立ち回るのだから。

それだけならただの職権濫用なのだが、天然なのか、計算なのか…さも当たり前といった様にいくつもの私的な頼み事や不正をサラリと、やってしまうのだから怖い。

この映画に出てくる生徒の親たちは自分の子供の成績が良くなるならばと、先生の頼み事を引き受けてしまう。しかし、皆が逆らえない理由は子供のためでもあるが先生が共産党員でもあるからである。“学校などに対して自己中心的かつ理不尽な要求をする親”であるモンスターペアレントとは正反対、まるでモンスターティーチャーである。

【画像】映画『ザ・ティーチャー』(The Teacher) 場面カット

共産主義の闇。歴史的背景

本作は、共産主義の絶対権威という部分を《学校》という小さな枠組みの中で凝縮して描いている。

主人公の女教師は頼み事の際に「女の一人暮らしは何かと大変でしょ?」と同情を引くのだが、“共産主義なんだから当然助けるわよね?”、“平等なのよね?”と見えない圧力で訴えているように感じた。現代の日本ならすぐに、こんな先生は免職されてしまうだろう。また、ロシア語を学ぶという部分にも旧ソ連による侵攻があった歴史を感じさせる。

共産主義とは、政治や経済分野での思想や理論、運動、体制のひとつ、財産の一部または全部を共同所有することで平等な社会をめざす。
[出典: Wikipedia

ブラックジョークの数々

成績が悪い事で両親と喧嘩する生徒も居て見るに耐えない心苦しい場面がある中、所々、クスッと笑ってしまうブラックジョークやユニークでコミカルな場面も満載だ。シリアスな映画やリアルな実体験ものは苦手という方にも楽しんで観てもらえると思う。

自分の子供が同じ状況に立たされたらどうするのか、自分の子供の担任の先生がこんなモンスターだったらどうするのか、学校に通わせる子供をお持ちの大人達に特に観て欲しい。

18歳で選挙権を持つ事になる若い世代の方にも共産主義の怖い一面を知っていただく良い題材なのではないかと思う。

学校、家族、世界情勢。色々な観点から本作を観て何かを感じて欲しい。

[ライター: 黑木 未來]

映画『ザ・ティーチャー』(The Teacher) 予告篇

映画作品情報

【画像】映画『ザ・ティーチャー』(The Teacher) ポスタービジュアル
 
第29回 東京国際映画祭(TIFF) ワールド・フォーカス部門 出品作品
第51回 カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭(KVIFF) オフィシャル・セレクション コンペティション部門
女優賞受賞 [ズザナ・マウレーリ(Zuzana Mauréry)]
 
邦題: ザ・ティーチャー(仮題)
英題: The Teacher
原題: Učiteľka
 
監督・撮影: ヤン・フジェベイク
編集: ヴラジミール・バラーク
サウンド・デザイナー: イジー・クレンカ
脚本: ペトル・ヤルホフスキー
プロデューサー: ズザナ・ミストリーコヴァー
プロデューサー: ルビツァ・オレホフスカー
プロデューサー: オンドジェイ・ジマ
 
出演: ズザナ・マウレーリ、ペテル・バビヤーク、ズザナ・コネチナー、チョンゴル・カッシャイ
 
2016年 / スロバキア=チェコ / スロバキア語 / 103分 / カラー

© 2016 Rozhlas a televízia Slovenska, PubRes s.r.o., OFFSIDEMEN s.r.o., Česká televize

第29回 東京国際映画祭(TIFF) 公式サイト

この記事の著者

黑木 未來フォトグラファー/ライター

“国際映像製作スタジオ” NOMA(ノマ)でアソシエイトプロデューサーとして活動するなど、映画製作にも携わっている。個人としては、別の活動名でテレビドラマ制作にも挑戦している。

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