映画『スリー・ビルボード』(Three Billboards Outside Ebbing, Missouri)

【画像】映画『スリー・ビルボード』メインカット

映画『スリー・ビルボード』(原題/英題: THREE BILLBOARDS OUTSIDE EBBING, MISSOURI)

3枚の広告板から、子を亡くした母親の叫びが聞こえる

アカデミー賞®の前哨戦としても注目される第42回トロント国際映画祭で、『スリー・ビルボード』(原題/英題: Three Billboards Outside Ebbing, Missouri)は直前の第74回ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞し下馬評の高かった『シェイプ・オブ・ウォーター』をおさえ、観客賞を受賞した。観客の心をひきつけ、共感を得たもの、それは、なりふり構わず社会と闘い続ける、孤独な母親の姿だった。

【画像】映画『スリー・ビルボード』場面カット3

《ストーリー》

アメリカ、ミズーリ州の田舎町・エビングに住むミルドレッド(フランシス・マクドーマンド)は、町郊外の道路を走行中、古い広告板(ビルボード)が3つ、荒れるがままに放置されていることに気づく。そのビルボードを所有するのはエビング広告社。ミルドレッドは若き社長レッド(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)に掛け合い、1ヶ月分の使用料を払って「広告」を出すことにする。数日後、パトロール中に真新しい「広告」を見たディクソン巡査(サム・ロックウェル)は、驚愕した。そこには彼が尊敬して止まない上司・ウィロビー署長(ウディ・ハレルソン)の名が書いてあったのである。ミルドレッドは娘を惨殺した犯人の捜査が進展しないのは、署長の責任だと考えていた。

【画像】映画『スリー・ビルボード』場面カット1

《みどころ》

子を亡くした親の悲しみは深い。それが殺人であり、犯人がわからないとしたら、その憎しみ、焦燥はどこに向かうだろうか。ウィロビー署長は最善を尽くしているかもしれない。でも被害家族にとって犯人逮捕に至らないのは、警察の怠慢でしかない。一方、町の名士でもある署長を公然と罵倒しまくるミルドレッドは、ディクソンに言わせればクレイマーの逆恨み女そのものだ。

【画像】映画『スリー・ビルボード』場面カット2

権力、経済力、ジェンダー、人種、偏見、教養…ありとあらゆる観点から強者と弱者は対立し、出口の見えない抗争は続く。女性だから、被害者だから、正しくて努力が報われるとも限らない。主人公は被害者だが、その悲しみゆえといっても暴走ぶりには一歩引いてしまうほどの狂気がある。しかしそこまで追い詰められる状況にこそ、現代に生きる人間のリアリティが潜んでいるのではないだろうか。

【画像】映画『スリー・ビルボード』場面カット5

罵倒と暴力、説得と協力、ギリギリの状態でいったい何が人の心を動かすのか。どんな人間にも良心はあり、どんな正義でも許されない手段があるのだ。憎しみあっていても分かり合える可能性があることを見せてくれる点に、希望がある。が、希望がありながらも胸中に重いものが残るのは、なぜだろう。

【画像】映画『スリー・ビルボード』場面カット4

忘れ去られたのはビルボードだけではない。登場人物たちは、皆忘れ去られている。この映画は、エビングのような「忘れ去られた田舎町」がアメリカにはたくさんあるということを、「映画」というビルボードを通じて告発しているように思える。

【画像】映画『スリー・ビルボード』場面カット6

[文: 仲野 マリ]

映画予告篇

映画作品情報

【画像】映画『スリー・ビルボード』ポスタービジュアル

第42回 トロント国際映画祭(tiff) 観客賞受賞
第74回 ヴェネツィア国際映画祭 脚本賞受賞
第75回 ゴールデングローブ賞® 最多4部門受賞(作品賞/主演女優賞/助演男優賞/脚本賞)
第90回 アカデミー賞® 主要6部門7ノミネート
 
原題・英題: THREE BILLBOARDS OUTSIDE EBBING, MISSOURI
 
監督:マーティン・マクドナー
 
キャスト: フランシス・マクドーマンド、ウディ・ハレルソン、サム・ロックウェル、ジョン・ホークス、ピーター・ディンクレイジ
 
2017年 / イギリス / 英語 / カラー / 116分
配給: 20世紀フォックス映画 
© 2017 Twentieth Century Fox Film Corporation
 
2018年2月1日(土)全国ロードショー!
 
映画公式サイト

この記事の著者

仲野 マリ

仲野 マリ映画・演劇ライター

映画プロデューサーだった父(仲野和正・大映映画『ガメラ対ギャオス』『新・鞍馬天狗』などを企画)の影響で映画や舞台の制作に興味を持ち、書くことが得意であることから映画紹介や映画評を書くライターとなる。
檀れい、大泉洋、戸田恵梨香、佐々木蔵之介、真飛聖、髙嶋政宏など、俳優インタビューなども手掛ける。
また、歌舞伎、ストレートプレイ、ミュージカル、バレエなど、舞台についても同じく劇評やレビュー、俳優インタビューなどを書き、シネマ歌舞伎の上映前解説も定期的に行っている。
オフィシャルサイト http://www.nakanomari.net

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