映画 「セッション」 (Whiplash)

セッション

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映画 「セッション」(原題: Whiplash)

時代を超えて語るべき「絶句」映画

あまりにも話題になった作品を観逃してしまうと、「もう今さら・・・」という気がして結局長年観ずじまいになっていることはないだろうか? それが単なる娯楽作品なら、大したことではない。 しかし、時代を越えて語り継ぐべきものであれば話は別だ。一刻も早く、観ておくべきだろう。 昨年、批評家のみならず、映画好きの賛辞が止まらなかった今作品もそのひとつ。 観終わった後に、あなたは言葉が出てこない。 まさに「絶句」とはそのことだ。 ようやく絞り出てくるのが、「凄い」。 「凄いよ、あれは・・・。」になる。

●あらすじ

名門音楽学校に進学したニーマンは伝説の鬼教師フレッチャーのもとでスパルタ教育を受け、ジャズドラム演奏に魂を奪われていく。

●欠陥映画という名の良作

私たちはこの作品を観ていても、スクリーンの中に入り込めない。傍観者としてしかそこに存在できない。スヌーピーのチャーリー・ブラウンのような主人公ニーマンの激昂についていけない。フレッチャー教師のセリフは唐突すぎて、やはりその無慈悲ぶりについていけない。そしてカットの切り回しがエヴァンゲリオンのコマ割りのごとく変転していき、私たちのフォーカス機能を揺さぶり続けることに目まいさえ感じる。そこに若き監督の戦略が潜んでいることを容易に感じとることができるだろう。撮影時、デミアン・チャゼル監督は28歳だった。脚本は、それよりも以前に自身の経験をふんだんに取り込んで書いたものだ。フレッチャーのセリフはあえて省かれており、あくまでも主人公ニーマンがとらえた内容だけで、主人公の把握している世界を浮彫りにしている。さらに把握したものと表面化する行動のズレもまた現実の混沌を表わしている。カメラの切り回しは、主人公の目線が無意味に動きまわっているかのように緊張を伝えている。だが、それだけでこの作品の凄さが成立しているわけではない。これらの戦略の中に私たちは欠陥を見い出す。突如、フレッチャーがベラベラと説明的にしゃべり出すという脚本の欠陥。さらに不用意な俯瞰カットの欠陥。だが、観客はその欠陥を無意識に埋めようと、あれこれ補てん作業を行う。しかし、やはりそれにも限界が来る。映像を受け入れるだけの物体に私たちは貶められる。そして、理性をとりもどそうとする脳はこう解釈するだろう。
「凄い・・・」

●人生ドラマとしての良作

この作品が昨年のアカデミー賞で助演男優賞、録音賞、編集賞を受賞するのとほぼ時を同じくして、『かくかくしかじか』という漫画が2015年マンガ大賞を受賞した。『海月姫』や『主に泣いてます』、『ママはテンパリスト』などの作品で知られる漫画家東村アイ子による自伝的エッセイ漫画だ。美大を目指す女子高生がスパルタ美術講師に出会い、地獄のような特訓を受ける。これは東村の実際の恩師日高先生との出来事を忠実に再現しているという。後にインタビューで、「後にも先にもあんな人には出逢えていない。本当に感謝している。」と語っている。
『セッション』を観た後、すぐに思い出した。
そして、自分のピアノのレッスンでの体験も思い出した。技能レベルが高すぎる曲を与えられた私は、それを発表会で演奏できるよう来る日も来る日も弾き続けた。「もう頭が真っ白になる!」という時に、気づけば弾けるようになっていた。身体で覚えたのだ。私はピアニストではないが、あの時のブレイクスルー体験は、苦境に立たされる度に私を奮い立たせてくれる。おそらくチャゼル監督もフレッチャーのモデルにトラウマを持ちながらも、その時培ったバイタリティーが今の監督業を助けているはずだ。教育論としてみれば賛否両論があるのは当然だが、若い時分の苦行は、必ず財産になる。ただし、「あの時ほど努力したことはない」と言い切れるほどの苦行の場合である。

ラスト、ニーマンの顔がいい。

[文: 横田美穂子]

 

映画作品情報

邦題: 「セッション」
原題: 「Whiplash」
監督/脚本: デイミアン・チャゼル (Damien Chazelle)
プロデューサー: ジェイソン・ブラム (Jason Blum)
         ヘレン・エスタブルック (Helen Estabrook)
         ミシェル・リトバク (Michel Litvak)
         デビッド・ランカスター (David Lancaster)
製作総指揮: ジェイソン・ライトマン (Jason Reitman)
       ゲイリー・マイケル・ウォルターズ (Gary Michael Walters)
       クーパー・サミュエルソン (Couper Samuelson)
       ジャネット・ブリル (Jeanette Brill)
撮影: シャロン・メール (Sharone Meir)
美術: メラニー・ペイジス=ジョーンズ (Melanie Paizis-Jones)
衣装: リサ・ノーシア (Justin Hurwitz)
編集: ム・クロス (Tom Cross)
音楽: ジャスティン・ハーウィッツ (Justin Hurwitz)
出演: マイルズ・テラー (Miles Teller)
    J・K・シモンズ (J.K. Simmons)
    メリッサ・ブノワ (Melissa Benoist)
    ポール・ライザー (Paul Reiser)
    オースティン・ストウェル (Austin Stowell)
    ネイト・ラング (Nate Lang)

第87回 アカデミー賞  助演男優賞(J・K・シモンズ)/録音賞/編集賞 3部門受賞、作品賞/脚色賞ノミネート
第72回 ゴールデン・グローブ賞  助演男優賞受賞(J・K・シモンズ)
第30回 サンダンス映画祭  グランプリ&観客賞受賞
その他 計142ノミネート、51受賞
2014年 アメリカ / 英語 カラー / 107分
配給: ギャガ株式会社
© 2013 WHIPLASH, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

映画公式サイト

この記事の著者

横田 美穂子

横田 美穂子Cinema Art Online 専属ライター

会社勤めのかたわら、週末ライターとして活動中。また、映画のストーリーを通して「普段の視点を変えてみるワークショップ」CAFE会を月1ペースで開催。働いているすべての方がサードプレイスを持つことで、オリジナルの幸福論を胸に力強く生きていけるようになってほしいと願っています。

「東京ワークショップデザイン☆Days」ブログと、
http://ameblo.jp/tokyoworkshopdesigndays/
「駆け出し!!!映画ライターのわちゃごな取材日誌」ブログは、毎日更新中。
http://moviewriterdiary.hatenablog.com/

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