映画『ラブ&ピース』(LOVE & PEACE) レビュー
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映画『ラブ&ピース』(LOVE & PEACE) 

愛は、激しくて、切なくて、デカい。 

《ストーリー》  

ロックミュージシャンになる夢をあきらめてサラリーマンになった男、鈴木良一(長谷川博己)。鈴木良一には、社内に思いを寄せる女性 寺島裕子(麻生久美子)がいたが、極度に小心者であったためまともに話もできずにいた。そのうえ、会社の同僚や上司からも嫌がらせを受けフラストレーションを抱えた冴えない日々をおくっていた。ある日、デパートの屋上でちいさなミドリガメと目と目が合い運命的なものを感じた良一は、そのミドリガメを家へ連れて帰り「ピカドン」と名付けてかわいがる。しかし、そのピカドンをうっかりトイレへ流してしまい唯一の話し相手がいなくなってしまう。流されてしまったピカドンは謎の老人が住む地下世界にたどり着き、不思議な仲間たちに出会う。そこから鈴木良一の人生の快進撃がはじまり、奇想天外なストーリーが展開していく驚愕のハートフルファンタジー。

《みどころ》 

本作は、ヴェネツィア国際映画祭など海外の映画祭で高い評価を得ている園子温監督の異色作といえる。『冷たい熱帯魚』(2010年)、『ヒミズ』(2011年)など、社会の病巣をえぐりだすような園ワールドの感覚で本作に臨むと、拍子抜けするくらいに感動ファンタジーものである。おそらく本作を機に新たなファン層を獲得するであろう。なかには裏切られたと思われるかねてからのファンの方もいるかもしれない。それくらい驚愕のファンタジーが描かれている。

しかし、ご安心いただきたい。ストーリーの奇想天外さに園ワールドは健在である。鈴木良一を演じる長谷川博己の豹変ぶり、ヒロイン役の寺島裕子を演じた麻生久美子のいまだかつてないほど暗くて地味なOLの演技に、観客は魅了され映画のなかに引き込まれていくだろう。長谷川博己の演技は実に見事で、一人の人間の中に存在する二面性といったものを同一人物であることを疑いたくなるほど鮮烈に演じ分けている。

この役者の演技のふり幅と可能性には計り知れないものを感じる。『劇場版MOZU』での怪演ぶりも記憶に新しい。ヒロイン役の麻生久美子は恐ろしく目立たないOLを演じているが、彼女の持つ澄んだ色氣を封じ込め、よくぞここまで冴えない役柄を演じきったものだと感心する。そして地下道に住む謎の老人演じる西田敏行の忘れ去られてしまったものたちへ向けるまなざしが途方もなく寂しく優しい。

ファンタジーというとCGを駆使した作品があたり前というご時世において、あえて特撮で撮影しているところがレトロな感じで面白い。ピカドンが良一の夢を彼の部屋でともに歩んだ道のりが、どのように展開していくのか、最後まで手に汗を握りながら映像から眼をはなせないだろう。エゴ丸出しの人間に対し、ひたすら純粋な動物たち。ピカドンのひたむきで純粋な愛が引き起こす鈴木良一の快進撃に、観る者は大きく心をゆさぶられる。そして、エゴで凝り固まった偽りの自分や社会といったものに複雑な思いを持たずにはいられない。

本作を鑑賞後しばらくの間は、挿入歌の“LOVE&PEACE お前を忘れない~”という歌詞が頭のなかでエンドレスに駆け巡るかもしれません。少なくとも筆者はそうでした(笑)。

[ライター: Takako Kambara]

映画『ラブ&ピース』予告篇

映画『ラブ&ピース』特報

映画作品情報

第28回 東京国際映画祭(TIFF) Japan Now 部門出品
第5回 北京国際映画祭 コンペティション部門出品
 
邦題: ラブ&ピース
英題: LOVE & PEACE
監督・脚本: 園子温
特技監督:  田口清隆
撮影監督: 木村信也
音楽: 福田裕彦
美術: 清水 剛
主題歌: RC サクセション「スローバラード」
出演: 長谷川博己、麻生久美子、西田敏行、渋川清彦、マキタスポーツ 他
 
2016年 日本 / 日本語 カラー / 117分 / 映倫区分: G
配給: アスミック・エース株式会社
公開日: 2015年6月27日(土)
© 「ラブ&ピース」 製作委員会
 

映画公式サイト


この記事の著者

Takako KambaraCinema Art Online 専属ライター

★好きな映画
『素晴らしき哉、人生!』 (It's a Wonderful Life) [監督: Frank Russell Capra 製作: 1946年/米]
『太陽と月に背いて』 (Total Eclipse) [監督: Agnieszka Holland 製作: 1995年/英]
『きみに読む物語』 (The Notebook) [監督: Nick Cassavetes 製作: 2004年/米]

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