映画『海獣の子供』レビュー

【画像】映画『海獣の子供』場面カット

映画『海獣の子供』

少年とクジラが導く、始まりの夏。

“生命の誕生”を一人の少女の目を通して目撃する、壮大なファンタジーアニメが誕生した。原作は自然世界への畏敬を独自の表現で描く五十嵐大介氏の同名漫画だ。アニメーション制作を手掛けたのは「スタジオ4℃」。『鉄コン筋クリート』(2006年)などで多くのアニメファンを魅了し続ける同社が、今作ではシンボリックなザトウクジラをはじめとする海獣たちや神秘的な深海世界を、見る者が飲み込まれてしまうような迫力で描き出した。

【画像】映画『海獣の子供』サンプルカット

ストーリー

安海琉花あずみるか(声:芦田愛菜)は中学2年生。自分の気持ちをうまく言葉にできず、周囲とのトラブルが絶えない。夏休みに入ってすぐ、部活中にカッとなったことでチームメイトに怪我をさせ居場所を無くしてしまう。別居中の父が働く水族館を訪れた彼女は、そこで “ジュゴンに育てられた兄弟” うみ(声:石橋陽彩)とそら(声:浦上晟周)に出会う。2人に誘われ飛び込んだ海中で、数々の不思議な現象を目撃する琉花。兄弟を守ろうとする海洋学者のジムやアングラードとも知り合い、徐々に不思議な少年たちに魅了されていく。同じ頃、マンハッタンにはかつてない響きの「ソング」を歌う巨大なザトウクジラが出現し、湘南の海岸には深海魚が大量に打ち上げられる。それは、海の底で「本番」と呼ばれる何かが始まる序曲に過ぎなかった。

【画像】映画『海獣の子供』メインカット

みどころ

琉花が謎めいた兄弟と出会い、彼らの世界に引き込まれていく前半は、忘れかけていた“夏休みの冒険”を思い出させてくれる。兄弟は奇妙な強引さで琉花を海へ誘いだし、彼女の目の前で水中を飛ぶように泳ぎ回る。光あふれる浅瀬でジュゴンと戯れる2人の少年、夕暮れの海に浮かぶ舟で協力し合って作り、砂浜で食べる豪快な食事、夏の夜を照らす焚き火、降るような星空と流星群。積み上げられていく幻想的な場面は、一つ一つが完成された絵画のように美しく、“初体験の世界”への高揚感に満ちている。

【画像】映画『海獣の子供』場面カット

【画像】映画『海獣の子供』場面カット

対して後半は、深海で多種多様な生物を巻き込んだ「本番」を圧倒的なスケールで表現する。太古から取り残された化石を思わせる白いサメ、本能をむき出しにする海獣の集団、そして腹に“女神”を抱く巨大なザトウクジラが息つく間もなく押し寄せる。未知の世界の恐怖を感じるほどの荒々しさと、息を詰めて見入ってしまう映像美。それが久石譲氏の調べと融合し迫りくる様子は、物語というよりはもはや“現象”に近く、大掛かりなアトラクションを体験している気分になる。

【画像】映画『海獣の子供』場面カット

【画像】映画『海獣の子供』場面カット

壮大な“現象”が嵐のようなスピードで通り過ぎていく映画だが、琉花の日常が少年たちとの冒険と交互に描かれることで、今この作品を見ている私達の日常の向こう側でも知られざる変革が起こっていたって不思議ではないと感じさせてくれる。そして、最後には「大切なことは言葉にならない」と歌い上げる米津玄師の主題歌が、作品の世界観を引き継ぎ再編して大きな余韻を残す。

【画像】映画『海獣の子供』場面カット

これは子供も見られる、大人のためのファンタジーだ。無責任な言葉をいとも簡単に発信できてしまう今の時代に、“言葉にならない何か”を自分の中でゆっくり租借する楽しみを、もう一度思い出すことができるだろう。

[ライター: 深海 ワタル

映画『海獣の子供』予告篇

映画作品情報

【画像】映画『海獣の子供』ポスタービジュアル

出演: 芦田愛菜、石橋陽彩、浦上晟周、森崎ウィン、稲垣吾郎、蒼井 優、渡辺 徹 / 田中泯 富司純子
 
原作: 五十嵐大介「海獣の子供」(小学館 IKKICOMIX刊)
 
監督: 渡辺 歩
音楽: 久石 譲
キャラクターデザイン・総作画監督・演出: 小西賢一
美術監督: 木村真二
CGI監督: 秋本賢一郎
色彩設計: 伊東美由樹
音響監督: 笠松広司
プロデューサー: 田中栄子
主題歌:米津玄師「海の幽霊」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
アニメーション制作: STUDIO4℃
製作: 「海獣の子供」製作委員会
配給: 東宝映像事業部
© 2019 五十嵐大介・小学館/「海獣の子供」製作委員会
 

2019年6月7日(金) 全国ロードショー!

映画公式サイト
 
公式Twitter: @kaiju_no_kodomo

この記事の著者

深海 ワタル

深海 ワタルエディター/ライター

女性向け情報誌で旅・エンタメジャンルを担当し、試写会紹介やタレントインタビューなどを執筆。インタビュー実績は堤真一、永瀬正敏、大森南朋、北村一輝、松田龍平、斎藤工、柳楽優弥、柴咲コウ、北川景子、吉田羊、中谷美紀ほか30人以上。学生時代から地元の名画座に通い、年間50本超の映画鑑賞を15年以上継続中。好きなジャンルはヒューマンドラマ、アクション、サスペンス、ファンタジー。人生を変えた1本は、子どもの頃劇場で鑑賞して映画好きのきっかけとなり、通算30回以上リピートしている『ターミネーター2』。

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