映画『素晴らしきかな、人生』(COLLATERAL BEAUTY) レビュー
映画 「素晴らしきかな、人生」

映画『素晴らしきかな、人生』
(原題: COLLATERAL BEAUTY)

最愛の人との永遠の別れを受け入れることができない男
奇妙で奇蹟の出会いが、どん底にいた彼の人生の第二幕をあけてくれた。

《ストーリー 》

広告代理店の敏腕経営者として順風満帆な人生をおくってきたハワード(ウィル・スミス)は、最愛の娘を失ったことでかつての輝きを失ってしまう。その死を自身の中で認めること、そして受け入れることができずに、ただ毎日を彷徨(さまよ)うだけ。仕事も何もかも手につかない生ける屍のような状態が続いていた。そして、元々彼の能力や人脈に依存されていた会社はとうとう経営危機に陥ってしまう。ハワードの友人であり共同経営者でもあるホイット(エドワード・ノートン)は、会社の立て直しを図るため、やむなく彼を経営トップから排除することを決意。同僚のクレア(ケイト・ウィンスレット)やサイモン(マイケル・ペーニャ)の賛同を得て、偶然出会った3人の舞台俳優に奇妙な作戦を依頼することにした。

映画 「素晴らしきかな、人生」

《みどころ》

家族・恋人・友人…“最愛の人”の定義は、それぞれ人によって異なるだろうが、亡くした時の傷みや喪失感は皆平等に訪れる。が、もし自分の子供を亡くしたとしたら…寿命の順逆が入れ替わる分、その絶望感はさらに増幅されるのだろうか。

主人公ハワードが漂う哀しみの淵はまさに計り知れないものだった。物語が進むにつれ、彼の事情が段々とわかっていき、私たちはその淵の深さを共感することができるのだが…同時にハワードを演じたウィル・スミスの一つ一つの所作からも痛いほど感じることができる。コミカルな役どころの多い彼が織りなすハワードの心の涙は、素晴らしいのひとこと。その嗚咽が芯から伝わってくるような、閑かながらも圧倒する迫力がある。

映画 「素晴らしきかな、人生」

だが、この映画はそれだけではない。ウィル・スミスの一人勝ちではない。先にあげたケイトやエドワードの他、キーラ・ナイトレイ、ナオミ・ハリス、ヘレン・ミレンなど映画ファンであれば背中がゾクゾクするような豪華な俳優陣がキャスティングされ、その実力を遺憾なく発揮している。物語は一人の男性の再生だけにとどまらず、三人の舞台俳優と三人のハワードの同僚との間にある不思議なコネクトによって、様々な人生の再生が生まれていくのだが…逆説的に言えば、それを一つ一つ丁寧に魅せるために、これだけの実力派を揃えたとも言えるのではないだろうか。

 

劇中の重要なキーにもなっている「愛」と「時間」と「死」。この人生の大事なファクターを私たちは、ついつい見逃しながら日々の生活を送っている。だからこそ、大切なものを失った時の後悔がより大きい。そう気づかせてくれる映画だ。そして原題の「COLLATERAL BEAUTY」―これにピタリと当てはまる日本の言葉は、なかなかないように思うが、それでいて、これほど本作に相応しいタイトルはないように思える。たとえウマい日本語訳が見つからなくとも観る人それぞれの心には、この映画が本当に伝えたかったことがしっかり形を成して残り続けるのであろう。そう、まるで余韻がいつまでも鳴りやまぬように。

[ライター: 藤田 哲朗]

Photo Credit: Barry Wetcher

映画『素晴らしきかな、人生』予告篇

映画作品情報

邦題: 素晴らしきかな、人生
原題: Collateral Beauty
監督: デビッド・フランケル
 
キャスト: ウィル・スミス、エドワード・ノートン、ケイト・ウィンスレット、マイケル・ペーニャ、ヘレン・ミレン、ナオミ・ハリス、キーラ・ナイトレイ、ジェイコブ・ラティモア
 
2016年 / アメリカ / 英語 / 94分 / カラー / 映倫区分 G
配給: ワーナー・ブラザース映画
劇場公開日: 2017年2月25日

© 2016 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC., VILLAGE ROADSHOW FILMS NORTH AMERICA INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT, LLC

映画公式サイト
ハッシュタグ: #素晴らしきかな人生 

この記事の著者

藤田 哲朗映画ライター・愛好家

大手出版取次会社で20代後半より一貫してDVDのバイヤー/セールスの仕事に従事する。
担当したクライアントは、各映画会社や映像メーカーの他、大手のレンタルビデオチェーン、eコマース、コンビニチェーンなど多岐にわたり、あらゆるDVDの販売チャネルにかかわって数多くの映画作品を視聴。
プライベートでも週末は必ず都内のどこかの映画館で過ごすなど、公私とも映画づけの日々を送っている。

この著者の最新の記事

関連記事

カテゴリー

アーカイブ

YouTube Channel

Twitter

【バナー画像】日本アカデミー賞
ページ上部へ戻る