映画『アランフエスの麗しき日々』(Les beaux jours d’Aranjuez)

【画像】映画『アランフエスの麗しき日々』

映画『アランフエスの麗しき日々』
(原題:Les beaux jours d’Aranjuez)

あまりにも完璧で美しいひとときに包まれた瞬間、人は何を感じるのか――

巨匠ヴィム・ヴェンダース監督の最新作。1967年のデビュー以来、第39回ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞した『ことの次第』(1982年)、第37回カンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞の『パリ、テキサス』(1984年)、第40回カンヌ国際映画祭監督賞受賞の『ベルリン・天使の詩』(1987年)の他、ドキュメンタリー映画でも『Pina/ピナ・バウシュ 躍り続けるいのち』(2011年)が第84回アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞にノミネートされるなど、その類稀なる映像表現で世界中の観客達を魅了してきたヴィム・ヴェンダース監督は、本作についてこう語る。

「生涯で初めて100%自分の思いのままに撮り上げた映画だ」

撮影期間は10日間。自然に囲まれた1つのロケーションで展開する物語。初のフランス語を用いた男と女の会話劇。70歳を過ぎて尚溢れる野心的な想像性から生まれた本作は、『ベルリン・天使の詩』以来5本目のコラボレーションとなる盟友ペーター・ハントケの戯曲を映画化した一作。第73回ヴェネツィチア国際映画祭コンペティション部門に正式出品された。

【画像】映画『アランフエスの麗しき日々』メイキング

《ストーリー》

ジューク・ボックスから鳴り響く音楽。ルー・リードの名曲「パーフェクト・デイ」とともに映し出されるのは無人のパリ。やがてカメラは小高い丘の上の一軒家へと移動し、柔らかい夏の風が吹く木陰のテラスに座る男と女を写し出す。最初はためらいながら、時に激しい口調で対話する2人。性的体験、子ども時代の思い出、夏の本質、男と女の違いについて。そして、庭に向かって大きく開け放たれた扉の奥の書斎には、タイプライターを前にした1人の作家が庭を見つめながら座っている。彼、彼女らが発する言葉をぼんやりと呟きながら。目の前に広がる完璧な夏のひとときは、夢か現在か。いつかの過去か遠い未来か。観る者は何を思い、時を過ごすのか。

【画像】映画『アランフエスの麗しき日々』

《みどころ》

ヨーロッパを代表する作家のひとりピーター・ハントケの戯曲「アランフエスの麗しき日々 夏のダイアローグ」を知らなくても、ゲスト出演者としてピアノの弾き語りをする世界的人気のミュージシャン ニック・ケイヴを知らなくても、タイトルにある「麗しき日々」(原題直訳:晴れた日、気候の良い日)の言葉の通り、劇中歌の「パーフェクト・デイ」の名の通り、画面に映るモノ総てに終始心が奪われ、陶酔してしまう。

【画像】映画『アランフエスの麗しき日々』

穏やかに照りつける夏の陽光。小鳥のさえずり。木々が風に揺れ、葉のこすれる音が耳に心地よく響く。 “ナチュラル・デプス”という、出来る限り正確に二つのカメラの動きを目の動きに似せた撮影法が、観る者をまるでその場にいるかのような感覚にさせる。

日常生活の細々とした雑事から遠く離れて、戯れな、お互いの心をくすぐる対話を続ける男と女。彼らの関係は何なのか? 2人が居る場所は何処なのか? 時間はどれくらい経過しているのか? それらについて映画は語らない。緑と光と戯れな話し相手と。画面には夏の日のひと時がただ映る。

【画像】映画『アランフエスの麗しき日々』

観る者はこの映画が醸す理想郷のような世界に浸り、夢想に耽るのか。発せられる言葉の一つひとつに耳を傾け、愛とは、幸福とは、人の生の真理に思いを巡らせるのか。

ただ、度々挿入される、テラスの見える部屋に一人居座る作家の物憂げな瞳が、目の前に広がる、陽のあたる世界と隔てられた自分自身の居場所を、暗がりから光を見つめる自分自身の存在を時おり強烈に思い起こさせる。

【画像】映画『アランフエスの麗しき日々』

緑と光と話し相手と。画面に映るモノは何も特別なモノではない。この陶酔感はどこから生まれるのか。「何時」「何処で」「誰と」が曖昧なこの映画の世界は、例えば見る人の、幼少期、恋人との思い出、夏の休暇と、かつて得た平安なひと時の記憶を呼び起こすモノなのかもしれない。今の自分には触れられない遠い記憶の片隅にある安らぎ。麗しき日々。パーフェクト・デイ。

「美しい日々は終わり 僕らは無為に過ごした」「時の深淵でまどろむ者は誰か」

鑑賞後に、得も言われぬ陶酔感と喪失感が去来する。その焦がれた心を何処に向ければいいのか。劇場を出て、スクリーンのサイズ以上に広がる己の日常に目を向けて、ふと歩く先に思いを馳せる自分が居た。

[文: 大久保 渉]

映画予告篇

映画作品情報

【画像】映画『アランフエスの麗しき日々』(Les beaux jours d’Aranjuez)

第73回 ヴェネツィチア国際映画祭 コンペティション部門出品作品
第41回トロント国際映画祭(tiff) マスターズ部門出品作品
 
原題: Les beaux jours d’Aranjuez
邦題: アランフエスの麗しき日々
監督・脚本: ヴィム・ヴェンダース
原作: ペーター・ハントケ『アランフエスの麗しき日々 夏のダイアローグ』(論創社)
出演: レダ・カテブ 、ソフィー・セミン、イェンス・ハルツ、ニック・ケイヴ
プロデューサー: パウロ・ブランコ、ギアン=ピエロ・リンゲル
編集: ベアトリス・ババン
撮影: ブノワ・デビ
録音: ピエール・トゥカ、アンツガー・フレーリッヒ
美術: ヴィルジニー・エルンヴァン、ティエリー・フラマン
衣装: ジュディ・シュルーズベリー
2016年 / フランス・ドイツ・ポルトガル / 97分
字幕翻訳: 松岡葉子
配給: オンリー・ハーツ
© 2016-Alfama Films Production-Neue Road Movies
 
2017年12月16日(土)
YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開!
 
映画公式サイト

公式Twitter: @aranjues_movie
公式Facebook: www.facebook.com/movie.aranjues/
公式Instagram: www.nstagram.com/aranjues_movie/

この記事の著者

大久保 渉

大久保 渉ライター・編集者・映画宣伝

映画活動中です。フリーで色々。執筆・編集「映画芸術」「ことばの映画館」「neoneo」「FILMAGA」ほか。SKIPシティ国際Dシネマ映画祭事務局アシスタント、東京ろう映画祭スタッフほか。邦画とインド映画を応援中。でも米も仏も何でも好き。BLANKEY JET CITYの『水色』が好き。桃と味噌汁が好き。

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