映画『月と雷』主演・初音映莉子インタビュー

【写真】映画『月と雷』主演・初音映莉子

映画『月と雷』主演・初音映莉子インタビュー

“自分らしく生きていきたい人”の背中を押してくれる作品です。

「対岸の彼女」「八日目の蝉」「紙の月」の直木賞作家・角田光代の傑作長編が待望の映画化!家族という“幻想”を問い直す珠玉の人間ドラマを描いた映画『月と雷』が10月7日(土)より、テアトル新宿ほか全国公開となった。

本作で、自身の家庭が崩壊した忘れられない過去を持ち、“普通の幸せ”を願うも運命に翻弄され、作り上げてきた“普通の人生”から次第に遠のいていく主人公の女性・泰子を、繊細かつ情動的な表現で演じきった主演女優の初音映莉子さんに本作への出演についてお話を伺った

【画像】映画『月と雷』メインカット

―― 物語序盤、かつて半年間だけ一緒に暮らしていた父の愛人の息子・智(高良健吾)と再会するシーンで、男性を智と認識した瞬間に逃げ出した主人公・泰子の表情がとても印象的でした。どんな心境で演じたのでしょうか?

まず原作を読んだ時に、泰子に共感しました。女性としてどう生きていくのか、非常に悩ましい年頃という点もそうですし、彼女の過去、記憶が今でも彼女をがんじがらめにしているような印象を受けました。

過去の記憶が現在の自分を形づくっていきますし、そういったところに共感できたと思います。
草刈民代さん演じる智の母・直子と泰子は血が繋がっていませんが、似た匂いというか、本能的というか、「家族は血で繋がっているべき」という考え方ではない、“人間関係の強さ”というものを感じ、ものすごくぐっと胸にきました。

物語序盤のスーパーでの智との再会シーンも、原作では「不幸が私に追いついてきた」という表現だったのですが、高良くん(智)の「泰子ちゃん!」というあの表情と声は、まさにそれを表現していました。あれはつい逃げたくなってしまう感じでしたね(笑)。

なるべく自分の夢も希望も持たず、もうほぼ半分死んでいたような自分で生きていて、これでも「普通」なんだとか、だいたいこの年齢になったら結婚していく。「これがみんな普通なんだ」とか「これが普通のレールなんだ」、「大丈夫、大丈夫なんだ」っていう、年齢(結婚適齢期)が来て、優しい人がそばにいて、結婚して、私もそのレールに乗るんだって。でも、智との再会があって、自分の時間がまた複雑に、でも本当の姿として露わになって、本当の自分の人生が動き出すところがとても面白い作品だなと感じています。

【写真】映画『月と雷』主演・初音映莉子 インタビュー

―― 自分が約20年かけて形づくっていった世界観が崩壊していくというのは衝撃的な出来事だと思いますが。

あの家というのがとても重要でした。泰子は、あの家で子供の頃から育って、成長して、今でもまだそこに住んでいて、あの家が泰子の性格を表しているというか。家の中に住んでいること以外にも、田んぼ沿いを自転車で走っていくようなシーンとか、いっぱい思い出があると思うんです。彼女はずっと思い出の中で過ごしていて、ずっと成長できずに生きてきました。でもある日、その同じ場所に智と直子がやって来た。

20年前と同じ場所に来て、同じ人間同士なのだけど、泰子も智も身体は成長していて、無邪気に遊んできた、戯れの時間がまた違った方向に進んでいくところに、時の流れをすごく感じるなと思いました。

―― 「普通」に生きようとしていた人生の中で出会い、泰子の婚約者となった太郎さんについてお聞かせください。彼とこのままもし結婚していたら、泰子は幸せだったと思いますか?

泰子は、太郎のことをすごく愛していたとは思わないです。自分のことをすごく好きでいてくれますし、ちょっと変わったところもあるけど、「まあ、いいか。」といった感じで付き合っていたと思います。

でも、泰子の中には太郎ではなく、ずっと智と直子さんがいました。太郎とは一緒にいても、昔の思い出を共有したことなどないでしょうし、心を許せる人は多分本当にいなくて。。。お友達もスーパーのアルバイトの時だけ会うような同僚だけで、人生を振り返ってざっくばらんに会話できるような人間関係はそもそも泰子には存在していないんだと思います。

【写真】映画『月と雷』主演・初音映莉子 インタビュー

―― 血の繋がった義父妹・亜里砂の存在を目にした時に、泰子はすんなり受け入れたように感じました。初音さんご自身ではどう感じましたか?

泰子の中では、智と直子と暮らした時期を経ているので、「まあ、人生そういうこともあるよな。」という感覚で、自分に血の繋がった妹がいることを知ってショックを受けるのではなく、すんなり受け入れられたのだと思います。

映画の中の登場人物たちは、人間はこうじゃないといけないとか、母親はこうじゃなきゃいけないとか、婚約していたらこうじゃなきゃいけないとか、そういったことには囚われていなくて、人間らしい自分にしかできない生き方というか、やっぱりできないことはできないし、こうとしか生きれないというような思いの中で生きているような気がしました。

【画像】映画『月と雷』場面カット1

―― 亜里砂役の藤井武美さんとの共演はいかがでしたか?

現場ではやはりすごく仲の良い姉妹関係ではなかったので、草刈さんともそうですが、距離を保ちつつ一緒に撮影をしていました。でも、撮影していると、だんだん妹みたいに思えてきて、とても愛らしい瞬間が、多々ありました。海辺のシーンとか、「この子、こういうことを打ち明けてくれるんだ。」と思ったり、とても可愛いらしい方でした。

亜里砂も何か上手く生きられないものを抱えていて、そういう人たちが泰子の家に集まり、色んな感情が混ざり合って、ある意味家族であって家族じゃない関係というのが、その時の泰子にとってみれば「き~っ!!」って思ったかもしれないけれど、それが後々過去になっていき、それらが全部思い出になって、全部愛おしくなったのだと思います。

―― 高良健吾さんとの共演はいかがでしたか? 

高良くんとは何度か共演していますが、役柄ごとに表情が見事に変わって、私より若いけど、私より大先輩という気持ちで、お芝居をご一緒しています。とても骨太な感じの俳優さんだなあと思っています。

【画像】映画『月と雷』場面カット3

――  草刈民代さんとの共演はいかがでしたか?

草刈さんは、今まですごく上品な役柄を演じられてきた方なので、そのイメージが強かったのですが、実際にお会いしてみると、すごくざっくばらんにお話してくださる方で、それがとても印象的で、「あ!草刈さんの中に直子がいる。」と感じました。

野性の動物が裸足で歩いてきたような感じがありましたね。でも、泰子も智もみんな野性といえば野性なんですよね。みんな本当はドシドシと人生を歩んでいきたいですよねって思うんです。

【画像】映画『月と雷』場面カット2

――  本作の登場人物のほとんどが自己中心的な人物だと感じましたが、どのように感じましたか?

夫婦関係とか恋人関係とか、人の心はきっと季節よりも早く移り変わるものだと思いますし、人と出会って、別れがあったり、そういう流れの中で生きていると思うので人の人生は誰にも否定ができないと思います。

この映画は、「これでいいや!これでいいんだ!」って、人生を肯定してくれるような作品になったと思っています。

―― 『月と雷』というタイトルには、どんな印象を受けましたか?

私は月と雷って一緒に目撃したことがなくて、一体どういうことなのだろうって思いました。原作を読んでいても、景色を描写するものがそんなになかったので。でも、月は色々と満ち欠けも含め、巡っていて、女性は月の生き物だとか、海のバランス、潮の満ち引きとかに影響していて周期的で。それに対して、雷は突発的で、月とは対照的なものだなと思っています。

ちょっとしたエピソードですが、脚本を読み始めた時に、天気予報は雷雨じゃなかったのに雷が鳴り始めて、空を見ても曇っているので月は見えませんでしたけど、なんだかすごいBGMだなと思いながら、雷鳴をバックにドキドキしながら脚本を読んだ思い出があります。

【写真】映画『月と雷』主演・初音映莉子 インタビュー

―― 思い出のタンスを燃やしたシーンについて、演じる前と、映画を撮り終えた後で気持ちの変化はありましたか?

タンスを燃やすというのは原作にはなくて、脚本家の本調有香さんがご自身のお父様のことを想像しながら書かれたシーンなのですが、私自身も、父親は必ずタンスを持っているというイメージで、今でもあのタンスを開けた時の匂いも覚えています。スーツやネクタイ、靴下など会社に行くセットやいろんな大事なものが全部詰まっていて、あれを燃やすっていうのは私はできないなと。。。

けれど彼らは、過去とさよならするために燃やすのではなくて、新しいことに向かって燃やす。それが自分たちのためでもあるし、そこは決して悲しさで燃やしているわけではなく、自分たちが次へ行くための大きな一歩だったのだと思います。

私自身としては正直、「え?なんで燃やしちゃうの!?大事なものがたくさん詰まっているのに。」って思ったんですけど、でもやはり、必要な時は必要なんだなと思いました。

―― 最後に、本作をこれからご覧になる皆さんへメッセージをお願いします。

女性の生き方とか、男性もそうなのですが、一人の人間として、女として男として、「そうしてはいけない」ことが世の中にあまりにも多すぎるように思います。でもやはり人間だし、そこをこの映画を観た方が「ああ、これでいいんだ。大丈夫なんだ。」と思ってくださったら嬉しいです。

[スチール 撮影: 平本直人 / インタビュー: 蒼山 隆之]

 

プロフィール

初音 映莉子(Eriko Hatsune)

1982年3月24日生まれ。東京都出身。16歳でCMデビュー。『ノルウェイの森』(2010年/トラン・アン・ユン)で国内外の注目を浴び、ハリウッド映画『終戦のエンペラー』(2013年/ピーター・ウェーバー)のヒロイン役で海外映画にも進出。その他の主な出演映画に『ミツコ感覚』(2011年/山内ケンジ)『ガッチャマン』(2013年/佐藤東弥)『万能鑑定士Q-モナ・リザの瞳-』(2014年/佐藤信介)などがある。また最近の主な出演舞台に「死刑執行中脱獄進行中」「アルカディア」「自己紹介読本」などがある。2017年11月「この熱き私の激情」(マリー・ブラッサール演出)に出演予定

【写真】映画『月と雷』主演・初音映莉子

映画作品情報

【画像】映画『月と雷』ポスター

家族という幻想を問い直す、角田光代の傑作長編『月と雷』が映画化。
心の奥深くで共鳴せずにはいられない、珠玉の人間ドラマが誕生した。

《ストーリー》

あてもないけど、生きていく。
ふつうの人間関係を築けない大人たちがその意味を探し続ける切なく孤独な旅―。
あたしはこれから普通の家庭を築き、まっとうな生活を重ねていく。
結婚を控え、そう考えていた泰子の前に現れた、かつて半年間だけ一緒に暮らした父の愛人の息子、智。20年前、愛人・直子と智が転がり込んできたことで、泰子の家族は壊れたはずだった。根無し草のまま大人になった智は、ふたたび泰子の人生を無邪気にかき回し始める。「邪魔しないであたしの人生」、そう普通の幸せを願っているはずなのに……。
泰子は智とともに自分の母親、異父妹、そして智の母・直子を訪ねて行くことで、平板だった自分の人生が立ちどころに変わって行くのに気づき始める。

 
出演: 初音映莉子、高良健吾、藤井武美、黒田大輔、市川由衣、村上淳、木場勝己、草刈民代
原作: 角田光代(中公文庫)
監督: 安藤尋
脚本: 本調有香
音楽: 大友良英
製作: 東映ビデオ、博報堂DYミュージック&ピクチャーズ、エー・チーム、日本出版販売、パラダイス・カフェ
制作プロダクション: アグン・インク
配給: スールキートス
公開日: 2017年10月7日
2017 / 日本 / 120分 / カラー / R15+

© 2012 角田光代/中央公論新社 © 2017「月と雷」製作委員会

2017年10月7日(土) テアトル新宿ほか全国ロードショー!
 
映画公式サイト
公式Twitter: @tsukitokaminari
公式Facebook: www.facebook.com/tsukitokaminari/

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