映画『迫り来る嵐』ドン・ユエ (董越) 監督インタビュー

【写真】映画『迫り来る嵐』ドン・ユエ監督インタビュー
 

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ドン・ユエ (董越) 監督インタビュー

中国が大きく変わるとき、人は何を思い、何を感じたのか

映画『迫り来る嵐』(原題:暴雪将至 / 英題:The Looming Storm)が、2019年1月5日(土)から全国で順次公開される。

時代設定は1997年。中国の小さな町の古い国営製鋼所の警備員が近くで起きた若い女性の連続殺人事件の捜査に刑事気取りでのめり込んでしまったことで起こる悲劇を描く。

映画『迫り来る嵐』メイン画像

2017年に開催された第30回東京国際映画祭(TIFF)のコンペティション部門では、最優秀芸術貢献賞を受賞、また主演のドアン・イーホン(段奕宏)が最優秀男優賞を受賞し、2冠を達成した。

日本公開に先立ち、来日したドン・ユエ(董越)監督に作品の解説をしていただき、さらに香港返還当時の中国の様子を聞いた。

―― この物語を思いついたきっかけをお聞かせください。

2013年にインターネットで、中国の西北地方の小さな炭鉱町が荒廃している記事を見ました。20枚近い写真もあり、どんどん廃れていく感じが写っていたのです。それを見たときに、このことを映画にしようと思いました。

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―― 本作はサスペンスですが、殺人事件の犯人や動機などは一切明らかにならないまま終わります。なぜ、このような展開にしたのでしょうか。

一般的なサスペンスは犯人と動機を明かしていきます。この作品も最初の脚本では、ちゃんと犯人が捕まり、なぜこんなことをしたのかを書いていました。しかし、これまでとおりのサスペンスにはしたくなかったのです。この作品では、何がどういう環境がこういう悲劇を生んだのかを描きたかった。結果的に犯人はどうでもよくなってしまいました。

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―― 主人公は正義感が強い。そんな主人公が一線を越えてしまったのはなぜでしょうか。

もともと人の内面の暗い部分を描きたかったのです。正義感が強く、白黒はっきりしている人は現実にはいないと思います。恐らく、人間はもっと複雑。極端な状況に置かれ、外部からの圧迫感を感じたとき、人は予想外の動きをする。そこで一線を越えてしまったのです。人がどんな状況で、どう変わっていくかを描きました。

―― 当初は高みを目指さず、今のままでいいと笑顔で言っていたユィでしたが、次第に笑顔が消え、犯人逮捕にのめり込んでいきます。彼を突き動かした動機は何だったのでしょうか。

彼が欲しいのは栄誉ではありません。体制の中で人々から尊敬されること。特権を持ちたいのです。いわゆる特権文化ですね。最初に満足していたのは、警備課の中で警備課長になり、警棒を持つ特権を得たから。殺人事件が起きたときも彼はそのままの立場で解決したいと思っていました。しかし、捕まえる寸前で犯人に逃げられ、しかも部下は命を落とす。悔しさから彼はどんどん深みにはまっていきました

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―― ユィはイェンズに「何をしたいのか」と聞かれますが、最後まで答えませんでした。それはなぜでしょうか。

欲望は持っているものの、それが何なのか、具体的には本人にもわかっていませんでした。それが今回、犯人を捕まえれば特権が得られると分かった。それなのに逃がしてしまい、しかも部下まで亡くした。これによって、目的が特権を得ることから、犯人を捕まえることに変わりました。ではなぜ犯人を捕まえたいのか。その時点では彼にもはっきりしていない。だから答えられなかったのです。

実はこの作品の中にイェンズの疑問を他にも2つ残しています。1つが何のためにそこまでして犯人を追いかけるのか。もう1つは、なぜ私に触れてくれないのか。この2つの疑問にユィは答えられない。これは彼の人間性というか、心に持っている傷に関わっています。

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―― ジャン警部は「なぜ今年はこんなに連続殺人事件が起こるのか」、「なぜ今年はこんなに雨ばかり降るのか」と疑問を口にしていました。これも疑問として残っています。

この2つはこの作品を読み解く上でとても重要なポイントになっています。1997年というのは中国がこれから大きく変わろうとする時です。ジャン警部はそれに対して焦りを感じています。だからこそ、大きな変化の前の小さな出来事として、「なぜ今年はこんなに連続殺人事件が起こるのか」「なぜ今年はこんなに雨ばかり降るのか」と言っています。

これをいちばん象徴するのが製鋼所のリストラのシーン。門の中に入れてもらえなかった人はこれからの時代に淘汰されてしまう人。門の中に入れてもらえた人はこの先の未来がある人という意味です。それが集団で時代の流れを見て、苦しみ、焦っていることを表している。それを表すのにジャン警部のセリフが一部として入ってきている。

伏線としてもう一つあるのは、奥さんを殺した男の話。連続殺人とはまったく関係ありませんが、あれも時代の流れが大きく変化するということへの焦りを表現しています。

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―― 大きな変化として、1997年7月1日に、香港の主権がイギリスから中華人民共和国へ返還されました。監督は香港返還をどう受けて止めていましたか。

自分にとっては遠い出来事。当時の自分たちにとって香港は別世界という感覚。だからこそ別世界が自分たちの国に返ってくることに対して注目していました。ただ、だからどうなるというのはまったく分からない状況でした。

―― イェンズはユィに「香港に簡単に行けると思う?」と聞きます。実際、簡単に行けるようになったのでしょうか。

確かに沢山の方が香港に旅行に出掛けました。返還前も後も距離は同じですが、沢山の人が人生の目標として、「いつか香港に遊びに行く」と思っていました。

―― 監督は香港に行かれましたか。

返還されたときには行っていませんが、2000年以降に行きました。

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―― ユィには1997年から2008年の空白期間があります。この期間に中国はどう変わったか、監督ならユィにどう説明しますか。

良くなったとも、悪いとも言えません。香港が返還されてよくなったのか、悪くなったのか、自分自身がまだ観察している状態です。もし、自分がユィのそばにいて、何か言うとしたら、「これがお前の運命なんだ」としか言えません。

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―― 最後に、これから作品をご覧になる方にひとことお願いします。

ぜひ沢山の方に映画館に見に行って、私が伝えたかったこと、表現したかったことを見てほしいです。そして、残してきた謎をご自身で紐解いてほしいと思います。

[インタビュー: 堀木 三紀 / スチール撮影: 坂本 貴光 ]

プロフィール

ドン・ユエ(董越) (Dong Yue)

1976年中国・威海省生まれ。北京電影学院を卒業し、写真撮影の修士号を取得。数本の映画のスチールを担当した後、広告映像の監督に転じる。 自身で脚本を担当した初の長編劇映画である本作は、第30回東京国際映画祭で最優秀男優賞、最優秀芸術貢献賞をW受賞したほか、第12回アジア・フィルム・アワードでは、新人監督賞を受賞するなど、その類稀なる才能は国内外で高い評価を得た。 

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映画『迫り来る嵐』予告篇

映画作品情報

映画『迫り来る嵐』ポスタービジュアル

《ストーリー》

1990年代。ユィ・グオウェイは、中国の小さな町の古い国営工場で保安部の警備員をしており、泥棒検挙で実績を上げている。近所で若い女性の連続殺人事件が起きると、刑事気取りで首を突っ込み始める。そしてある日犠牲者のひとりに似ている女性に出会い接近するが、事態は思わぬ方向に進んでいく…。

 
第30回東京国際映画祭(TIFF) コンペティション部門
最優秀芸術貢献賞&最優秀男優賞(ドアン・イーホン) 受賞
 
原題: 暴雪将至
英題: The Looming Storm
 
監督・脚本: ドン・ユエ
出演: ドアン・イーホン、ジャン・イーイェン、トゥ・ユアン、チェン・ウェイ
 
撮影監督: ツァイ・タオ
美術: リウ・チアン
編集: チョン・カーファイ
音響監督: ロン・シアオジュー
音響監督: チャン・ジンイエン
視覚効果: アー・トンリン
配給:アット エンタテインメント 
2017年 / 中国 / 北京語 / カラー / 119分 / シネスコ / 5.1ch
© 2017 Century Fortune Pictures Corporation Limited
 
2019年1月5日(土)より
新宿武蔵野館、ヒューマントラスシネマ有楽町にて、ほか全国順次公開!
 

映画公式サイト

公式Twitter: @semarikuruaras1
公式Facebook: @semarikuru

この記事の著者

堀木 三紀

堀木 三紀ライター

映画の楽しみ方はひとそれぞれ。ハートフルな作品で疲れた心を癒したい人がいれば、勧善懲悪モノでスカッと爽やかな気持ちになりたい人もいる。その人にあった作品を届けたい。日々、試写室に通い、ジャンルを問わず2~3本鑑賞している。(2015年は417本、2016年は429本、2017年は504本の映画作品を鑑賞)

主に映画監督を中心にインタビューを行っており、これまでにインタビューした監督は三池崇史、是枝裕和、阪本順治、岸善幸、篠原哲雄、大九明子、入江悠、本広克行、荻上直子、吉田照幸、ジョン・ウーなど30人を超える。

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