映画「関ヶ原」原田眞人監督インタビュー

【写真】映画「関ヶ原」原田眞人監督 インタビュー

映画「関ヶ原」原田眞人監督インタビュー

戦国の関ヶ原と現代をリンクする25年越しの『関ヶ原』“岡田”三成のぶれない魅力とは―

主人公・石田三成を岡田准一が好演する映画『関ヶ原』が8月26日(土)に公開となる。初めて劇場スクリーンに映し出される関ヶ原の大合戦の迫力や登場人物の新解釈は要注目だ。中でも、岡田准一演じる石田三成は、時代と逆行する自らの正義を、最後まで貫き通した人物。混沌とした現代に生きる私達が、求める理想的な人物像の1つと言えるかもしれない。

公開に先立ち、当初の構想から実際の映画化まで、25年もの歳月を経て完成した本作への思いを、原田眞人監督に伺った。

―― 映画公開まで1ヶ月を切りましたが、公開を間もなく控えたお気持ちを聞かせてください。

次の作品の撮影中なのであまり実感が湧かない部分もありますが、ともかく早く公開してくれないかなという感じです。わぁっとお客さんが来る反応が見たいです。来なかったら来なかったで落ち込みますが。むしろこれに来ないんだったら日本は滅びるよって感じですね。映画文化がなくなるよ、これ観なきゃ何も始まらないでしょ、そんな気持ちです。根底的には日本人を信頼しています。たぶんみんな観に来るでしょう、だから早く始まってほしいです。

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―― 撮影時の印象的なエピソードを1つ教えてください。

『関ヶ原』は、役者の衣装準備を待っている時間がものすごく長かった、という記憶があります。特に鎧などは、1人フル装備で付けるのに30分、下手すると一時間くらいかかります。それが何百人もの登場人物となると、主役が準備を終えて現場に来ても周りは準備が終わっておらず誰も入ってこれないということもありました。豊臣秀吉の特殊メイクは本当に良くできていて、5~6時間かけて準備をしたと聞いています。滝藤さん(豊臣秀吉役)は本来老け顔ですが、滝藤さんであっても特殊メイクは多くの時間がかかり、暑い中本当に良くやってくれました。『関ヶ原』では特殊メイクも老けメイクも、僕が思っていた以上に上手くいっています。

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―― 今回は石田三成を主人公に映画を作られましたが、その前に島左近、小早川秀秋、島津惟維新入道といった別の人物を主人公にし、「関ケ原」の映画化を考えられていたそうですね。これまでの構想は、どのように今回の作品に活かされていると思われますか?

一番活かされているのは小早川秀秋の部分でしょうね。小早川秀秋を主人公にしたいと思ったのは、もともと僕も小早川秀秋を石田三成以上に嫌悪していたからです。小早川秀秋というと、どうしようもない裏切者、変節漢、愚鈍というイメージが僕らの世代は定着していました。

例えば、同級生で“小早川”という苗字のやつがいると「お前あの裏切者の小早川家の家系か」なんて皆でいじめた覚えがあるし。小早川という苗字の人はずっと肩身の狭い思いをしていた、というのが僕らの世代まで続いているんです。でも、調べ始めたら小早川秀秋、決してそうではないなと。彼には彼の理由があったわけですし、単純な裏切者ではありません。三成との確執を調べて見ると、三条河原(の公開処刑)から始まっています。小早川秀秋が15歳の時です。そもそも悪いのは、関白秀次を秀吉が邪魔者扱いして殺してしまった、そしてその妻子も三条河原で処刑してしまったことです。小早川秀秋は秀次やその妻子と親しく、秀次を兄のように慕っていました。三条河原の処刑場の奉行が三成であったことに加えて、その頃の三成というのは、関白秀吉の晩年の全てを引き受けていたという潔さもあります。小早川秀秋の怒りは、全て三成に向けられたわけです。そういうことは少し調べれば出てきたのですが、司馬遼太郎先生の原作にはそういった記載がありません。小早川秀秋を主人公にしようと思った時は、原作を司馬先生の「関ケ原」にするのではなく単純に、小早川秀秋を主役にした映画『関ヶ原』を考えていました。そこで調べていったことは今でもずっと残り、今回の映画にも活かされています。

また、惹かれてはいるけれども、大きく描けなかったのが島津勢の島津の退け口(ひけぐち)です。戦争や合戦映画を撮る時に、一番効率よく迫力ある戦闘シーンを描けるのは、黒澤明監督も昔言われた“敵中突破”ものなんです。“敵中突破”では、突破するユニットを中心にそこだけを描いて行けばいいわけです。その他に、戦場はもっと広がっているよ、というニュアンスが出せさえすれば。

なぜ黒澤監督が『関ヶ原』を映画化しなかったかという理由にも繋がりますが、大合戦というのは何万もの大群が両方ぶつかるのでお金がかかるし、無駄も多いし、人物もしっかり描けないし、という難しさがあります。対して、島津の退け口つまり“敵中突破”は、2週間かけて故国へ辿り着いた時には1500人いた兵士が88人になっていた、という数字の上から言ってもスティーブ・マックイーンの『大脱走』以上に素晴らしい話で、娯楽性もあります。実はこれ、今もやりたいと思っています。岡田さん(石田三成役)とも「次にやるなら島津だよね」なんて話しています。

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今回『関ヶ原』が成功したら、島津藩側から見た『関ヶ原』というのもありえますね。今回の『関ヶ原』には新発見や新解釈、西洋的なるものの融合が含まれています。西洋的なるものの融合としては、石田方の歩兵隊です。大砲の号令で使っているのはポルトガル語なんです。当時のフランキーという西洋砲も実際に出てきます。それから、女性たちの役割も描きました。女武者が結構いたということを三成側でも表現しているし、相談役にお勝の方(おかつのかた)というのを使っていた家康の、女性の重用という点も今までは無視されてきたことですが、入れています。

(一番初めに映画化の構想があった)島左近については、当時はよくはわからず、単純にかっこいい豪傑という思いしかありませんでした。今調べて見ると、関ヶ原における島左近というのは家族単位で戦いを渡り歩いていました。しかも柳生勢(徳川家の剣術を指南していた一族)と深い繋がりを持っていました。

例えば、奥さんが病弱な時は柳生勢に預けていたことなどからもわかるように、今回初めて知るという人も多いかもしれませんが、柳生勢と島家の繋がりは、歴史的事実です。関ヶ原の戦場では、島左近の奥さんが医療団として活躍していたであろうという推測も成り立ちます。

初めて『関ヶ原』の映画化を構想し出してから、この25年で調べたり勉強したりしてきたことが、この作品は上手く繋がったなぁという気がしています。そして、三成を主人公にした今回の映画『関ヶ原』は新しい解釈で、なおかつ根幹は司馬先生が描いた三成を、自分が理解できるようになったということでしょう。

三成は、戦線から離脱したことも含めて、人間として一切ぶれていません。ちゃんと自分の正義を全うして、自分の思ったように言ったように行動しています。そんな彼の信奉する正義の気持ちは、ある種の純粋さを持っていますがあまり柔軟性はなく頑固な部分もある……司馬先生が分析していたものをより効果的に、今回の映画で岡田さんが表現してくれたなという気がしています。

―― 登場人物一人ひとりが自分の価値観をしっかり持っているというのも本作の魅力だと思います。原田監督ご自身は本作を作る上で、何に特に価値を置かれたのでしょうか?

正義とは、人間の価値です。普遍的な正義というのは、今の時代にはないわけです。この映画は「人間としての価値における正義というのをわかって生きているのか、君は?」という問いかけです。『関ヶ原』が描いている1600年代における正義でいうと、石田三成の信奉していた正義というのはわかりやすい形ですよね。それを今度、現代に生きている自分に置き換えた時に何になっているのか、というのを観ている人に考えて欲しいです。

―― セットよりもむしろ、実在する神社仏閣、重要文化財で多くの撮影を行ったと伺っています。現場の雰囲気や、印象に残っていることはなんでしょうか?

僕の作品で、ロケーションキャスティングというのはいつもこだわるところです。時代劇の場合はとにかく、“自分の好きな空間と出会える喜び”というのがあって、例えば姫路の書寫山圓教寺(しょしゃざんえんぎょうじ)では、圓教寺とある種の恋に落ちました。一目惚れしたんです。出会いは、映画『ラスト・サムライ』(2003年公開)の最初の頃の撮影です。撮影を見学に行った時、そのシーンでは自分の出番はありませんでしたが見ていて「わぁ、すごいな、これいつか絶対使いたいな」と思ったんです。だから映画『駆込み女と駆出し男』(2015年公開)で使わせてもらいました。

本作でも使わせてもらっていますが、姫路城というのは昔から、一度撮ってみたいなという強い思いがありました。今回は、ロケハンに行った時に、普通の観光ルートでは見ることができない所まで「ここも使えます」「あそこも使えます」と案内してもらったんです。そして、その時一番惚れ込んだのが、佐和山城での三成の軍議の間として撮影した『ろの渡櫓』です。

観光ルートには入っていないんですが、その造りを見た時に、「ああ、ここで三成の軍議がやりたい。そしてやるとしたらでかい日本地図が使いたい。それなら上から下ろすだろう」そんな発想が次々湧き上がってくるような、素晴らしいロケ場所でした。彦根城も今まで使わせてもらったことがありますが、今回は特に、姫路城と彦根城が作品に登場する全ての城を演じてくれています。東本願寺が原作者の司馬先生との関係で、使えることになったというのも大きかったですし、冒頭の秀吉と佐吉(石田三成の幼少名)の出会いの場である、五百羅漢天寧寺(ごひゃくらかんてんねいじ)というのは、溝口健二監督の『西鶴一代女』(1952年公開)のラストシーンを撮った場所です。そういった映画の歴史的な由緒ある場所も使うことができています。

何もない所に、新たに作ったものもあります。笹尾山の石田三成の陣跡です。京都の映画人のプライドがあそこに結集されていると思います。大道具さん達が、釘を一本も使わない当時の方式であの砦を作ってくれました。笹尾山の陣地というのは、普段関ヶ原を見学に行く時も観光地としてあるけれども、それよりも恐らく当時の実物の雰囲気に近いのではないかと思っています。戦略的に、三成が笹尾山に頑強な陣地を構築していて、それを関ヶ原に再利用したのではないかということも考えられるので、いわゆる一般の笹尾山の陣地よりはかなり立派なものにしています。あのロケ場所を見た時に「勝てた!」と思いましたね。

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―― 各登場人物がお国言葉を話すのが印象的でした。お国言葉を使いながらの作品作りはいかがでしたか?

関ヶ原で、島津勢が石田三成をはじめ西軍の諸将達と上手くコミュニケーションが取れていなかった理由が、何を言っているかわからなかったからだ、と言われています。だから島津は薩摩弁にしなくてはいけませんし、尾張言葉であるとか三河言葉といったものは、映画の調味料としてものすごく重要なのでいれていく必要がありました。観ている人は、それらが完璧にわからなくてもいいんですよ。お国言葉で喋っているな、ということがわかってくれさえすればそれでいい、言葉がわからなくても筋がわかるようになっている映画です。言葉を全部理解しようとしたら僕だってそれはわかりません。だけど、役・キャラクターはわかる、それが一番重要です。なおかつ、当時の言葉を全部使っているわけではなく、一つの台詞に50の要素があるとしたらその内の20か30がお国言葉であるといったように、あくまでニュアンスの問題です。お国言葉があるかないかで本物っぽさが決まってきます。本物・リアル、というよりもリアルに近い物を求める嘘のコンセプト・迫真性を考えると、関ヶ原で色んな諸将が集まっている中、お国言葉というのは絶対必要です。これでもまだ割合は少ないくらいですが、他の戦国映画に比べたら圧倒的にそういうニュアンスは強く出しているつもりです。

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最後に、「監督は、自分が戦国武将なら誰タイプだと思いますか」という質問に「やっぱり三成タイプじゃないかな。意固地になって正義を主張するだろうし、すぐ人を怒鳴るし。理に適っていないってなると怒るし……外見的には徳川家康かもしれないけれど」と茶目っ気たっぷりに答えてくれました。

原田監督も公開を待ち望む意欲作、映画『関ヶ原』は8月26日(土)より全国公開となります。

[スチール撮影: 久保 昌美 / インタビュー: 宮﨑 千尋]

 

監督プロフィール

原田 眞人 (Masato Harada)

1949年、静岡県沼津市出身。黒澤明、ハワード・ホークスといった巨匠を師と仰ぐ。1979年、『さらば映画の友よ』で監督デビュー。『KAMIKAZE TAXI』(1995年)は、フランス・ヴァレンシエンヌ冒険映画祭で准グランプリ及び監督賞を受賞。社会派エンターテイメントの『金融腐蝕列島〔呪縛〕』(1999年)、『クライマーズ・ハイ』(2007年)から、モントリオール世界映画祭で審査員特別グランプリ受賞の『わが母の記』(2012年)や、モンテカルロTV映画祭で最優秀監督賞を受賞した『初秋』(2012年)など、小津安二郎作品に深く影響された家族ドラマ、念願の初時代劇となった『駆込み女と駆出し男』(2015年)、戦後70年に合わせて公開され、第39回日本アカデミー賞優秀監督賞、優秀脚本賞などを獲得した『日本のいちばん長い日』(2015年)まで作品の幅は広い。『ラスト サムライ』(2003年/エドワード・ズウィック監督)では、俳優としてハリウッドデビュー。最新作は『検察側の罪人』(2018年)。
 

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映画作品情報

映画「関ヶ原」8.26 メインビジュアル

日本の未来を決した、わずか6時間の戦い。
誰もが知る「関ヶ原」の誰も知らない真実―
 
構想25年!日本映画史上、初めて「関ヶ原の戦い」がスクリーンに!
史上最大のスペクタクル・アクション、遂に登場!!
 
出演: 岡田准一、有村架純、平岳大、東出昌大、役所広司 
監督/脚本: 原田眞人  
原作: 司馬遼太郎「関ケ原」(新潮文庫刊)
製作:「関ヶ原」製作委員会
配給: 東宝=アスミック・エース

©2017「関ヶ原」製作委員会

2017年8月26日(土) 全国ロードショー!

映画公式サイト
公式Twitter: @sekigaharamovie
公式Facebook: https://www.facebook.com/sekigahara.movie

この記事の著者

宮﨑 千尋

宮﨑 千尋ライター

一番古い映画に関する記憶は、姉と「天使にラブソングを...」ごっこをして遊んだこと。
10代後半でひとり暮らしを始めてから、ひとり映画にどっぷりはまっている。
映画館の独特な雰囲気を好み、休みの日にはミニシアターや小さなカフェで行われる自主上映にも足を運んでいる。

★好きな映画
『天使にラブソングを...』 (Sister Act) [監督: Emile Ardolino 製作:1992年/米]
『アバウトタイム~愛おしい時間について~』 (ABOUT TIME) [監督: Richard Curtis 製作: 2013年/英]
『シックスセンス』 (The Sixth Sense) [監督: M. Night Shyamalan 製作: 1999年/米]

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