映画「サクロモンテの丘~ロマの洞窟フラメンコ」チュス・グティエレス監督 単独インタビュー

映画「サクロモンテの丘~ロマの洞窟フラメンコ」チュス・グティエレス監督

映画「サクロモンテの丘~ロマの洞窟フラメンコ」

スペインの女性監督 チュス・グティエレス来日!

私たちは、思っている以上に似ている!
遠くスペイン南部の出来事が、胸に大きな足跡を残す。

スペイン・サクロモンテ地区はかつて、フラメンコの聖地と呼ばれていました。人々を故郷から追いやった洪水は、彼らの生活の場を奪い、変えます。映画「サクロモンテの丘 ロマの洞窟フラメンコ」は、サクロモンテの激動期を知る人々へのインタビューと、人生を濃縮したかのような圧巻のパフォーマンスで描く、ドキュメンタリー映画です。今回、チュス・グティエレス監督が来日し、作品への熱い思いを語ってくれました。

映画「サクロモンテの丘~ロマの洞窟フラメンコ」

 

― 監督にとって初めてのドキュメンタリーとのことですが、どのように作られたのでしょうか。

ドキュメンタリーはフィクションと違って脚本もないし、順番もありません。どちらかというと、野生の勘のようなもので動物的に、撮りながら、見つけながら、驚きながら自由に撮影できたと思います。その後、素材を見ながら編集し、作っていきました。

― 特にどの点に注目し、映画を観て欲しいと思いますか。

この映画は、フラメンコの踊り・踊ることについてのドキュメンタリーではありません。
私は世界の中でも、サクロモンテでしか起こらなかったことに興味がありました。その地域や共同体のことについてのドキュメンタリーを作りたかったのです。そうそうたるアーティストが出演しています。彼らはそれと同時に、語るべき物語を持っている登場人物です。彼らが語る物語、人生、経験、どう生きてきたかということを見て欲しいと思います。

映画「サクロモンテの丘~ロマの洞窟フラメンコ」チュス・グティエレス監督

 

― 監督自身がこの映画を撮る前後で変わったことはありますか。

もちろん変わりました。映画を撮る度に変わります。というのも、あるテーマについて深めるわけですからね。この映画の場合だと、私はサクロモンテという場所は知っていました。しかし、その場所がどのような歴史を持ち、人々がどのように生きてきたかということは全く知りませんでした。知らないことを発見することで、今までとまるで違う自分と出会うことができます。

― 劇中で踊られるフラメンコ、監督が感じる一番の魅力はなんでしょうか。

普通、年配の人が踊っているところを見ることはほとんどないと思います。みんな引退しますから。今やフラメンコといえば激しい踊りと言われますし、人の力は歳を重ねる毎に衰えていきます。しかし、彼らを見ていると、これまでできていたことができない、よりも、今までやってきたことを変えて表現していることが神秘でした。踊れないではなく、どう踊るか。年を経るにつれてその踊りがどう進化するかということが、非常に興味深かったです。彼らは皆、死ぬまでアーティストなのです。

映画「サクロモンテの丘~ロマの洞窟フラメンコ」

 

― サクロモンテ出身の人々にとって、サクロモンテはどのような場所なのでしょうか。

映画の中で、(登場人物)皆が子供の時のことを話す際、幸せそうです。それは、彼らが子供の時に(サクロモンテに)いたからだと思います。大人になったら皆(故郷であるサクロモンテを)出たり、痛い目にあったりしているわけです。私は、あの時彼らは子どもとして自由であった、と本能的に感じます。食べ物がない、寒い、親たちはロバのように一生懸命働いているという貧しさの中にはあったけれども、美しい自然の中で生きることができたというノスタルジーです。また、貧しくても平気だったのは、親達も共同体の中にいて助け合っていたし、子供同士もみな一緒に遊んでいたからでしょう。空腹や貧しさの中でも、寂しさではなくて幸せそうに話します。というのも、ネガティブなことはほとんど忘れていて、いいことしかたぶん覚えていないから。そういったところにも、彼らが幸せそうに話す理由があると思います。

映画「サクロモンテの丘~ロマの洞窟フラメンコ」

 

― 女性たちが自分の人生観を吐露する場面が印象的でした。

女性の世界はどちらかというと、私的でプライベートなものを担っていることが多いです。人々がどうやって暮らしていたのかということは、女性たちによってわかると思うのです。サクロモンテでは、日常生活に加え全員がお金を稼ぐために踊っていました。子育てをしながら踊り、働く。私の中で女性は男性の二倍働くという印象でした。(ガイド役の)クーロさんも言っていますが、彼女たちがどういう風に生活していたかということは内なる世界、これまで誰も語れなかった物語です。物語を語るというのは一つの力であり、権力でもあります。しかし、そこから女性たちはみな排除されています。商業映画でも、女性たちは誰かの妻、母、愛人であり、花を添える存在として描かれます。彼女たち自身の人生を語る場面がないというのが現状です。

映画「サクロモンテの丘~ロマの洞窟フラメンコ」

 

― 母国スペインと日本の共通点は何だと思いますか。

私たちは皆、そんなに違わないのだと思います。世界中、色んな所で生活してきた中で感じます。人は皆、人生に同じものを求めるのではないでしょうか。それは、尊厳のある人生、生活。そして愛すること、愛されること。食べること、戦うこと。それらを考えると、皆さんが思う以上に私たちは似ているのだと思います。日本でも、(スペインで迫害があったのと同じように)差別部落への非認知があると教えてもらいました。若い世代に興味を持ってほしいです。そして、日本の映画監督には、彼らが探ろうと思っても探れない、という風にならないよう、記憶が消えないように残してほしいと思います。

最後に、遠くスペイン南部の映画ではあるが、観た人の心に足跡が残るなら私たちは繋がることができると監督は話してくれました。人としてどのように生きるべきか、人生の大先輩たちの語りが教えてくれるものは万国共通かもしれません。大きな瞳がチャーミングな監督は日本の麦茶と塩せんべいが大好きとのこと、親しみを感じました。映画『サクロモンテの丘~ロマの洞窟フラメンコ』は2月18日より公開中です。 

[インタビュー: 宮﨑 千尋 / スチール撮影: 坂本 貴光]

 

チュス・グティエレス監督 動画メッセージ

[撮影: Cinema Art Online UK]
 

プロフィール

監督: チュス・グティエレス (Chus Gutierrez)

1962年、グラナダ生まれ。CMディレクターとしてキャリアをスタート。
現在ではスペインの中でも信望が厚く重要な監督の一人である。
子供の頃に初めて両親にタブラオに連れていかれて以来、何度もサクロモンテを訪れ、サンブラと関わり続けている。1995年の『アルマ・ヒターナ/アントニオとルシアの恋』ではサクロモンテの重要なアーティストの協力を得て、非ロマとロマとの共存を描いている。また『世界でいつも…』(2003年)『ヒステリック・マドリッド』(2004年)『デリリオ-歓喜のサルサ-』(2014年)はいずれもラテンビート映画祭で上映された。

映画「サクロモンテの丘~ロマの洞窟フラメンコ」チュス・グティエレス監督

 

映画「サクロモンテの丘~ロマの洞窟フラメンコ」作品情報

ドビュッシーやファリャ、ロルカなど数多くの芸術家を魅了し、マリオ・マジャ、エンリケ・モレンテ、エバ・ジェルバブエナなど世界的なフラメンコ・アーティストを生んだ聖地サクロモンテ。失われた黄金時代を生き抜いた人々を通して、世界で最も重要なフラメンコ・コミュニティのルーツと記憶を探るドキュメンタリー。

映画「サクロモンテの丘~ロマの洞窟フラメンコ」

スペイン・アンダルシア地方・グラナダ県サクロモンテ地区。
この地には、かつて迫害を受けたロマたちが集い、独自の文化が形成されていった。ロマたちが洞窟で暮らしていたことから洞窟フラメンコが生まれ、その力強く情熱的な踊りや歌に、世界中が熱狂した。隆盛をきわめたサクロモンテだが、1963年の水害により全てを失い、人々は住む場所を追われた――。

本作は、伝説のフラメンコ・コミュニティに深く入り込み、激動の時代を生き抜いてきたダンサー、歌い手、ギタリストなどのインタビュー、そしてアンダルシアの乾いた大地を舞台に繰り広げられる詩の朗読、そして力強い舞の数々を通して、大地に根付く魂が紡がれ、代々引き継がれていくさまを描く。

邦題: サクロモンテの丘~ロマの洞窟フラメンコ
原題: Sacromonte: los sabios de la tribu
監督: チュス・グティエレス
参加アーティスト: クーロ・アルバイシン、ラ・モナ、ライムンド・エレディア、ラ・ポロナ、マノレーテ、ペペ・アビチュエラ、マリキージャ、クキ、ハイメ・エル・パロン、フアン・アンドレス・マジャ、チョンチ・エレディア 他多数
 
日本語字幕:林かんな
字幕監修:小松原庸子
現地取材協力:高橋英子
 
提供: アップリンク、ピカフィルム
配給: アップリンク  宣伝: アップリンク、ピカフィルム
後援: スペイン大使館、セルバンテス文化センター東京、一般社団法人日本フラメンコ協会

2014年 / スペイン語 / 94分 / カラー / ドキュメンタリー / 16:9 / ステレオ
映画公開日: 2017年2月18日(土)

有楽町スバル座、アップリンク渋谷ほか全国順次絶賛公開中!

映画公式サイト
公式Facebook: https://www.facebook.com/sacromonte.jp/
公式Twitter: @sacromonte_jpn

この記事の著者

宮﨑 千尋

宮﨑 千尋ライター

一番古い映画に関する記憶は、姉と「天使にラブソングを...」ごっこをして遊んだこと。
10代後半でひとり暮らしを始めてから、ひとり映画にどっぷりはまっている。
映画館の独特な雰囲気を好み、休みの日にはミニシアターや小さなカフェで行われる自主上映にも足を運んでいる。

★好きな映画
『天使にラブソングを...』 (Sister Act) [監督: Emile Ardolino 製作:1992年/米]
『アバウトタイム~愛おしい時間について~』 (ABOUT TIME) [監督: Richard Curtis 製作: 2013年/英]
『シックスセンス』 (The Sixth Sense) [監督: M. Night Shyamalan 製作: 1999年/米]

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