映画『僕の帰る場所』藤本明緒監督×渡邉一考×キタガワユウキ対談インタビュー

【写真】映画『僕の帰る場所』藤本明緒監督×渡邉一考プロデューサー×キタガワユウキ共同プロデューサー対談

映画『僕の帰る場所』(英題:Passage of Life)
藤本明緒監督 × 渡邉一考 × キタガワユウキ 対談

国籍は関係ない。同じ人としての悩みや苦しみを共感できる瞬間が詰まっている。

日本人という国籍を超えて、ミャンマー人を普通の人間として見ることができている映画だと評価され、第30回東京国際映画祭(TIFF)の「アジアの未来」部門で作品賞と国際交流基金アジアセンター特別賞の2冠を受賞した映画『僕の帰る場所』(英題:Passage of Life)。

【写真】アジアの未来部門 作品賞&国際交流基金アジアセンター特別賞W受賞『僕の帰る場所』

日本とミャンマーを舞台に5年の月日をかけて完成させたという藤本明緒監督の長編映画初監督作品が2018年10月6日(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次公開となった。

東京国際映画祭で作品を観て以来、作品のファンだと公言する映画プロデューサーでもあるシネマアートオンラインの恵水流生が藤本明緒監督、プロデューサーの渡邉一考氏、共同プロデューサーのキタガワユウキ氏と対談し、本作について語り合った。その模様をお届けする。

恵水流生(以下:恵水): 東京国際映画祭30周年の記念の年にダブル受賞おめでとうございます。僕は、この映画を最初に拝見した時から、絶対に賞を取ると思っていたので自分のことのように嬉しいです。元々、ミャンマーというテーマはどういう思いから設定されたんですか?

【写真】映画『僕の帰る場所』藤本明緒監督×渡邉一考プロデューサー×キタガワユウキ共同プロデューサー対談

渡邉一考(以下:渡邉): ありがとうございます。僕もゆかりも何もありませんでしたが「ミャンマーがこれから来る」という話を共同プロデューサーのキタガワさんから聞いて、ミャンマーについて調べ始めたんです。調べているうちに、僕らがミャンマーについて知っていることは、アウン・サン・スー・チーさんとか限られた情報しかないことに気が付きました。食べ物、宗教、親子関係、民族のことも何も知らない。調べれば調べるほど、映像化したら結構インパクトがあると思いました。

さらに、それを日本人が撮るとしたら面白くなるかもと思いました。その時に必要だったのは、未知なるテーマでも果敢に取り組める観察眼のある監督でした。

恵水: 藤本監督にとって、最高の晴れ舞台になりましたね。渡邉プロデューサーの目利きが確かだったということですね。

渡邉: ここは押さえるべき大事なところを逃さない観察眼が鋭かったですね。何回かミャンマーでフィールドワークをした時に、旧首都ヤンゴンで、会う人会う人みんなに話しかけて、何時間でもしゃべり続けているんです。それは相当本気でないと出来ないと思いました。作るモノに対する誠実さがヒシヒシと伝わりました。

恵水: 本作は子供たちの演技が素晴らしかったですね。子供たちは、ミャンマー人と日本人のハーフですか?

藤本明緒監督(以下:藤本): いえ。純粋なミャンマー人です。最初の頃は、ずっと騒いでいて、なかなか話を聞いてくれなかったけど、カメラテストを始めたら表情が変わりました。

【写真】映画『僕の帰る場所』藤本明緒監督インタビュー

恵水: 子供たちがカメラを意識していないところがいいなと思いました。普通「カメラで撮られている!」って緊張してガチガチになりそうじゃないですか。でも、お兄ちゃん役のカウンくんも弟役のテッくんもカメラを意識していないのか、カメラ目線にならずに自然体で良かったです。

藤本: 子供たちは、最初から緊張していなかったから、カメラ目線にもなりませんでした。脚本は、多分読んでもわからないからと撮影の前には読ませなかったんです。お母さん役のケインさんは、日本語が読めないので、カウンくんが説明してあげていました。彼は、漢字も読めるんですよ。

恵水: 家族の連係プレーですね。

藤本: 撮影の時に、脚本に書いてある話の流れや台詞の説明をすると、カウンくんは完璧に理解していました。それも、ずっとiPadでゲームしながら(笑)。

恵水: おお!次世代だ。

藤本: ゲームをやりながら「わかったわかった」ってうなずくんです。「本当に分かってるのかな?」って疑いながら撮影を始めると、きっちり台詞通りにやってくれるんですよ。

恵水: 大御所を発掘しましたね。

藤本: 衝撃でしたね。理解力が普通じゃないと思いました。

恵水: ずば抜けた理解力だったんですね。

【画像】映画『僕の帰る場所』(英題:Passage of Life)

藤本: 映画『僕の帰る場所』は、子供たちが活き活きとしているから、周りからドキュメンタリーチックだという評価を受けることが多いです。でも、カウンくんは、どのシーンを撮っているか、カット割りはどうだとか、完全に把握しているんです。把握した上で、あの演技には僕も驚きました。

恵水: それはすごいですね。

藤本: もちろん弟のテッくんは何をやっているか一切分かっていません。

恵水: カウンくんの芝居が、理解した上でっていうのは驚きですね。

藤本: 特に、映画の後半、子供たちのシーンが多い撮影の時はさらに本領発揮をしていました。前半は子供がでてこないシーンが多かったので、撮影している周りで遊んでいたり、お父さん役のアイセさんとの撮影シーンが終わり、もう一緒にいられないと分かった時に涙ぐんだりしていました。でも、カウンくんはとても責任感があるので、後半のミャンマーでの撮影シーンになった途端「俺が主人公だーっ!」と叫んで張り切って演じてくれました。

【画像】映画『僕の帰る場所』(英題:Passage of Life)

恵水: 演者としての意識が芽生えましたね。今、彼らは日本にいるんですか?

藤本: はい。日本にいます。

恵水: そのうち、俳優になりたいって言い出すんじゃないですか?

藤本: 既に「俳優になりたい」って言っていましたね。元々ダンスをやっていて、ダンススクールには通っています。東京国際映画祭の舞台に立った時に「俺、ちゃんと映画に出たんだな」って認識して、俳優をやりたいって言っていましたね。

恵水: それは夢がありますね。お父さん役のアイセさんとはどのように出会ったのですか?

藤本: 脚本は既に作っていて、お父さん役の演じ手を探していたんです。なかなか日本には、お父さん役が似合う人はいなかったので、こうなったらミャンマーから呼ぶしかないと思っていました。そんな時にキタガワさんが、アイセさんの地元にボランティアに行ったんです。

【画像】映画『僕の帰る場所』(英題:Passage of Life)

恵水: ボランティアですか?

キタガワユウキ(以下:キタガワ): はい。僕がミャンマーの難民キャンプへボランティアに行った時に、日本語通訳として出会ったのがアイセさんでした。

恵水: 難民キャンプへは1人で行かれたのですか?

キタガワ: はい、僕はこの映画に俳優としても出演しているので、役作りのために1人で行きました。アイセさんと出会って、早速藤本監督に「この人かっこよくない?」と彼の写真を送りました。写真を見た監督も「いいね!」って言ってくれました。

恵水: アイセさん、美男ですもんね。

キタガワ: アイセさんは、カチン州のリス民族という少数民族の出身で、リス民族には美男美女が多いですね。

藤本: 僕もアイセさんに是非映画に出てもらいたいと思って、来日してもらいました。実際に会って話してみると、日本語もとても上手でした。僕が「日本に住んでいるミャンマー人の家族の話を撮りたい」と映画の構想を話すと、彼は、日本に住む友人から同じよう話を何度も聞いていると、脚本にとても共感してくれました。その後に、ロケハンに一緒に行くと「そのカットはここがいい」とかカット割りの提案までし始めたんです。

【写真】映画『僕の帰る場所』藤本明緒監督インタビュー

恵水: 天然の天才ですね。

藤本: はい。スタッフワークもとても良く、先読みして動いてくれました。仕事に対する姿勢も素晴らしかったのですが、やはり決め手は、カメラテストでした。「アイセさん、こういう悲しい雰囲気で写真を撮らせてください」と言ったら、僕が欲しかった、すごく良い表情をしてくれたんです。

恵水: アイセさんにしろ、カウンにしろ、何に対しても勘が大事ですね。

藤本: 勘は大事ですね。アイセさんには、撮影の際もとても助けてもらいました。

恵水: なるほど。そもそも、この映画の構想はどのように始まったのですか?

渡邉: 日本とミャンマー合作の映画を撮るという企画をやることになり、約1ヶ月後を締切りに脚本を募集しました。脚本を書ける人と監督、特に制限は設けておらず、誰でも受け付けました。

藤本監督は、きちんと締切り内に送ってきましたが、締切りを過ぎてから、改訂した脚本を再度送ってきたんです。他の人でそこまでやってきた人はいなかったし「脚本、読みましたか?」って確認の電話までかけてきました。

その執念というか、未知なるものに対して果敢に挑む姿は、最初からずっと変わりません。普通、どうなるかわからない、行ったこともない場所での撮影なんて言われたら尻込みするじゃないですか。脚本を送ってくれた人は約40人いたし、40ページくらいの企画書を書いてくれた人もいたけれど、その中でも藤本監督のように熱く、高い完成度を保っている人はいなかったので、藤本監督の脚本を採用しました。

【画像】映画『僕の帰る場所』(英題:Passage of Life)

藤本: その時は、とにかく映画を撮らなければいけない、何か描きたい、監督になりたい、と思っていました。

恵水: それは何年前の話ですか?

藤本: 5年前、2013年の春ですね。その企画を知って、ミャンマーってどこだろう?という意識レベルから始まりました。

恵水: 藤本監督がミャンマーに思い入れがあるのかと思っていました。

藤本: そうではないんです。東南アジアの方とは、日本でも会ったことはなかったです。

渡邉: 藤本監督は「ミャンマーと青年」というしばりで脚本を募集したのに、少女をテーマに書いてきました。最初からしばりを無視して書いてきたんです。

僕の個人的な目的は、全く知らないことに対しても、熱量を発揮できる人を探していました。藤本監督は、僕の目的から全く外れていませんでした。ただ青年を少女に変えただけで。大事なもの以外だったら、変えてもいい。意味がなかったら守らなくてもいい。流動性がすごく強い方です。

恵水: 素晴らしいですね。藤本監督にとって、映画『僕の帰る場所』は処女作ですか?

藤本: 専門学校の卒業制作で短編映画は撮りましたが、長編映画としては初ですね。

恵水: 処女作でのダブル受賞はどういうお気持ちですか?

藤本: ミャンマー人を撮るというミャンマーとの関係性だけで撮っていたので「アジアの未来部門」から賞をいただけたことはすごく嬉しいです。アイセさんを始め、家族のみんなに支えられて作った作品なので。

編集に約3年かけたので、みんな映画を撮ったことを忘れてますけどね(笑)。でも、ミャンマー人が日本で賞を受賞するってなかなかないことだと思います。

恵水: 本当に珍しいことだと思います。

藤本: 東京国際映画祭の授賞式で着ていた彼らの民族衣装は、ミャンマーで一緒に買いに行きました。

ミャンマーをロケ地にした映画だったら行けば撮れるけど、ミャンマーがテーマの映画は既にあるし、最初、どう頑張ってもしっくり来ず、もう無理だと思っていました。

その中で、今回の映画となったモデルの家族と出会って、やっとミャンマー人だから日本人だからといった垣根なく、人としての悩みや苦しみを共感できた瞬間がありました。そこからは、ミャンマーがどうこうではなく、この家族の物語を描こうということで、段々イメージが固まっていきました。

【写真】映画『僕の帰る場所』藤本明緒監督インタビュー

恵水: そうですよね。僕も、この映画でミャンマーということが大事ではないと思っています。本当に描きたい部分は、人としての悩みや苦しみだと思うのですが、ミャンマーと日本の映画というイメージが強いですね。「ミャンマーと日本で撮った映画なんだね」となるよりは、今、藤本監督がおっしゃっていた内容で、キャッチーなコピーにしたいですね。

渡邉: 東京国際映画祭で審査委員の方が言ってくれた言葉で「監督が日本人という国籍を超えて、人を普通の人間として観ることが出来ている映画はそんなに多くない。それをここで観られたことが、アジアの共同単位として互いにシンパシーを持つことの可能性を広げてくれた」というコメントがありました。それを聞いて時に、この映画を通して伝えたいことは正しくそれだなという感じがしましたね。

恵水: 素晴らしい!正しくその一言ですね。
これからも応援し続けていきます。ありがとうございました。

【写真】映画『僕の帰る場所』藤本明緒監督×渡邉一考プロデューサー×キタガワユウキ共同プロデューサー対談

[インタビュー: 恵水 流生 / ライター:大石 百合奈]
[スチール撮影・編集: Cinema Art Online UK]

プロフィール

脚本/監督/編集
藤元 明緒 (Akio Fujimoto) 

1988年大阪府生まれ。大学で心理学・家族社会学を学んだ後、ビジュアルアーツ専門学校大阪・放送映画学科に入学。卒業制作である短編映画『サイケファミリア』が、ドバイ国際映画祭、なら国際映画祭などで上映。長編初監督作品となる、『僕の帰る場所』を日本ミャンマーを舞台に5年の月日をかけ完成させる。現在、制作拠点をミャンマー・ヤンゴンに移し、日本ミャンマー合作映画制作のマネージメントやテレビドキュメンタリー制作のディレクターに携わる等、国際的に活動している。

【写真】映画『僕の帰る場所』藤本明緒監督インタビュー

映画『僕の帰る場所』予告篇

映画作品情報

【画像】映画『僕の帰る場所』(英題:Passage of Life) ポスタービジュアル

《ストーリー》

ある在日ミャンマー人家族に起きた、切なくも心温まる感動の実話 東京の小さなアパートに住む、母のケインと幼い二人の兄弟。入国管理局に捕まった夫アイセに代わり、ケインは一人家庭を支えていた。日本で育ち、母国語を話せない子ども達に、ケインは慣れない日本語で一生懸命愛情を注ぐが、父に会えないストレスで兄弟はいつも喧嘩ばかり。ケインはこれからの生活に不安を抱き、ミャンマーに帰りたい想いを募らせてゆくが――。


第30回 東京国際映画祭(TIFF) アジアの未来部門
作品賞&国際交流基金アジアセンター特別賞受賞作品
 
邦題: 僕の帰る場所
英題: Passage of Life

脚本・監督・編集: 藤元明緒

出演: Kaung Myat Thu、Khin Myat Thu、Issace、Htet Myat Naing、來河侑希、黒宮ニイナ、津田寛治 ほか
 
プロデューサー: 渡邉一孝、吉田文人
共同プロデューサー: キタガワユウキ
撮影監督: 岸建太朗
録音: 弥栄裕樹
美術: 飯森則裕
ヘアメイク: 大江一代
制作担当: 半田雅也
音楽: 佐藤和生
企画・製作・制作: 株式会社 E.x.N
主催: 特定非営利活動法人 日本・ミャンマーメディア文化協会
コーディネーション(ミャンマー): Aung Ko Latt Motion Pictures
協賛: 坂和総合法律事務所 / 株式会社ビヨンドスタンダード /長崎大学多文化社会学部
協力: 在ミャンマー日本大使館附属ヤンゴン日本人学校 / ミャンマー映画祭実行委員会
特別協力: MYANMAR JAPON CO.,LTD.
後援: 外務省 / 観光庁 / 国際機関日本アセアンセンター / 一般社団法人日本ミャンマー友好協会
© E.x.N K.K.
 
映画公式サイト
 
公式Twitter:@passage_of_life
公式Facebook:@passage.of.life.2014

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