映画『ナラタージュ』行定勲監督インタビュー

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一生に一度の禁断の恋を描いた10年越しの『ナラタージュ』の魅力に迫る

2005年に島本理生が発表し、2006年版「この恋愛小説がすごい」の第1位に輝いた恋愛小説「ナラタージュ」(角川書店)の映画化を行定勲監督が10年にわたり企画をあたため、主演に嵐の松本潤、ヒロインに有村架純のキャスティングによって実現した映画『ナラタージュ』が10月7日(土)に全国公開となった。

高校教師の葉山貴司を演じる松本潤は、これまで彼が演じたことがない新たな役柄に挑戦。その葉山を全身全霊で愛する元教え子の工藤泉を演じた有村架純も、感情が大きく揺れ動く大人の恋愛を果敢に熱演している。

当初の企画から映画化まで、10年もの歳月を経て完成した話題の本作への思いを、行定勲監督に伺った。

―― 撮影で大変だったことはどんなことでしたか?
以前、「こんなにしんどかった事は、いまだかつてなかったと思うぐらい慎重に撮りましたね。」 (FMK「月刊行定勲」2016年8月26日)とおっしゃられていましたが、その話をお聞かせください。

正直に言うと、それ忘れちゃいました(笑)。あはは、なんで忘れちゃったんだろう。なんでしんどかったんだろう。おそらく、一番しんどかったのは有村さん。今回の『ナラタージュ』は、恋愛が非常に息苦しいものに描かれていて、楽しい恋愛ではない話なので、彼女はそれを追体験しないといけなかった。実際に起こってはいない出来事ではあるのですが、その感情を作りださないといけない、追体験をしなくてはいけない彼女の感情は、非常に大変なものだと思うのです。その息苦しさの中にいるときの彼女の一つ一つの表情など、松本くんの恋焦がれる相手に対して、はっきりしない男に対して、自分に怒りがあっても、それを抑圧しなければいけない。

そういう曖昧さの中に苛立っていたり、逆にすごく喜びを見い出したり、切なくなったりという感情の動きが非常に抑制された内容なのです。なぜ抑制されるかと言うと、先生であることと元生徒であるから、高校時代からずっと抑圧されている。お互いに映画のトーンとしては抑圧されていくわけですが、その中に非常に感情の動きがものすごく多くて、激しいものだと思うんですよ。

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だから、それが僕の中では重要で、それを一つ一つ、ある緊張感をもって取りこぼさないようにしなければいけなかった。僕が見せたかった表情とは、彼女がその状況や映画の流れの中で、その表情で良いのかどうかをこっちが吟味するというよりは、あぶり出さなきゃいけないわけです。疲れたというのは、そこにも慎重になっている意味だと思うのですよね。

結局、アクション映画や普通の青春映画などの中で、一つの勢いとか、ショットが撮れればOKというものでもない。恋愛の駆け引きやお互いが見い出す二人の空気感というのは、10回やったら10回とも違う空気だったりもするわけですよね。それを上手く撮れるのかどうかというのは、こっちが作り出せるものではないからこそ大変だった、ということで苦労したような気がしますね。

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―― 若手の俳優には、あまり指示をされない行定監督ですが、今回のキャストへの演出に関してはいかがでしたでしょうか?

そうですね。そもそも、あんまり、こうしろ、ああしろという指示はしないんですよ。どこにどういて、まずやってもらうことが前提なんですね。ある程度やってもらった上での流れの中で、だとするならば、ここでこういうことをしたいんだと自分の中で確信をもっているものを少しづつそこに組み込んでもらう。これをこうやって、こういうアクションを足したら、どうなりますかということなどをやるのです。その表情や感情においては、一応クランクインの前には話をしていて、彼らが持ち込んできたものがすごく重要なのです。

ビジュアル面においては、髪の毛のことや衣装など、もちろん松本くんにおいても、髪の毛や眼鏡をかけることとか。あと、松本くんに言ったのは、元々もっている輝きを少しくすませたいと(笑)。

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―― 眼光40%と伺っていますが。

そうですね。目力を40%にしてもらったらどうかと。それも意識ですよね。目力が40%位。彼の目力が120%だとしたら、それを40%位に抑えた鈍さ。鈍いわずかな光の中にある憂いが欲しかった。そんなイメージ。その目力の弱い彼の前に立つ泉は、自分が先生の目の光を取り戻せるんじゃないかと過信する。先生は無自覚に彼女を翻弄しているようなイメージだけはありました。演技的には、基本的に任せてました。

―― 松本潤さんがキャスティングに上がったときに、行定監督が松本さんにどのような話をされたのかお聞かせください。

これ松潤にピッタリだねという役をやるのではなくて、松本くんがやる上で、作り上げていく人物像の中で、もちろん松本潤は松本潤でしかないわけだけれども、もっている資質とか、ビジュアルとか、空気感とか、それをもち合わせつつ、ある種ゼロからこの役を作り上げていく非常にクリエイティブな試みになるんだけれども、それを一緒に作ってもらえないかと言ったんですよ。

要するに自分に全くない。だからと言って、俳優はその役をやれないわけではないですよね。もちろん、自分にないものだけど。多分、松本くんにおいて、この役を何で俺っていう戸惑いは、きっとあったと思いますよ。

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キャスティングというのは、今までのパブリックイメージなど、そういうものから発生するものだと思う。でも、それを決して僕は良いことだと思っていないんですよ。年齢の感じやある種の憂いみたいなものをもっている感じ、その二つだけをまず根本的な本質的資質として欲しいわけで。だけど、それをどういう素性で、どういうビジュアルになって雰囲気となる。

40%の眼光にするというのも、そういう眼をしている。でも、その中に彼の何か一面みたいなものが加わっていくと、非常に輪郭が出てくる。どちらかというと、輪郭をぼかす作業ですけれども、輪郭をぼかしながらも、どこかで映画を観ていく中で、この人なりの輪郭が観客によって濃くなっていく。輪郭をぼかす作業は、僕らはね、クリエイティブにしようとするところの面白さがある。要するに、この人のことが分からないことがこの映画の一つのテーマで、相手の気持ちがどうしても分からないという恋愛映画の一つのあり方だとも思うのです。

―― 恋愛映画を撮ることについて、行定監督はどのようにお考えでしょうか?

僕は、自分が恋愛映画ばかりを撮っている印象はあまりなくて、色々な映画を撮ってきたつもりなんです。基本的には、恋愛映画は嫌いではなく、今回の映画の中にも引用をしているように、成瀬巳喜男(監督)の『浮雲』(1955年)がかかって、彼女は初めて『浮雲』を観るわけです。自分たちもどこに向かうのだろうというあの曖昧さ。成瀬巳喜男が作ってきた映画というのは、男と女のどうしようもなさみたいなものを描いた日本映画の代表格だと思うのですよ。『乱れる』(1964年)や『乱れ雲』(1967年)とかもね。成瀬巳喜男の映画は、すごく男女間の情緒みたいなものをきっちり捉えている。そういうものに憧れているし、映画だからこそ、その曖昧なもの、感情みたいなものに向き合って二時間を過ごす。そこに描かれていることを自分の人生と照らし合わせて、色々な感情を見い出すということが映画の醍醐味だと思うのです。

世の中が非常に正義ぶったことを正しいとする世の中になってしまった。だからこそ、そこの復権というか、そこの気持ちを共感をしなければいけない部分もあるような気がする。だって、一番身近で大きく感情を揺さぶられる行為や状況というのは、絶対に誰においても恋愛ですよ。それが一番気持ちが熱くなったり、落ち込んだり、それを救ってくれるのも恋愛だったりするかもしれない。そして、その存在ですよね。

もう一つ言うと、男女間の恋愛と欲望ですよね。そういうもので、色々なものが解消できたり、逆に言うと、それが自分の後ろめたさだったり、ズルさを浮き彫りにして、人間として非常に落ち込んだり。そういう人に試練を与えるものは、いちばん誰にも平等にあるものが恋愛だと思う。

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なのに日本映画もそうだし、海外もそうだけれども、恋愛映画が非常に軽視される傾向にある気がする。好きな人はいるかもしれないけれど、どちらかというとラブストーリー娯楽的な受けとられ方をする。

軽視されるからこそ、やり甲斐があるという気持ちが僕の中にはある。ラブストーリーこそ、色々な人間の物語が描けるチャンスが多いし、テーマは愛だからある意味自由ですよね。だから、これからもラブストーリーを撮り続けようと思っているんじゃないかなと思います。今回、『ナラタージュ』は、これまでの中では非常に自分らしい企画だと思います。

―― 10年ほど映画化を待たれたと伺っています。

待ったのではなくて、キャストが決まらなかったというのが正確ですね。葉山と泉のキャストがピッタリこの人たちでいけるという人が見つからなかった。出会えなかったのが大きいし、時代がそうさせたんだと思いますよ。今の恋愛映画という観点だけで言うと、少女漫画がベースになったり、ライトノベルがベースになったりする。その中に、淡い初恋のようなものとか、そのほとんどがそうですよね。純愛というか。要するに、そういうものとは、全く違う。『ナラタージュ』も純愛の一つであると思うのですけれどもね。

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―― これから『ナラタージュ』をご覧になられる方々に行定監督からひと言メッセージをお願いします。

もし、若い人たちがこの映画を観たら、理解出来ない部分が多いかもしれない。僕が若いときに成瀬巳喜男の映画を観て、特に『浮雲』を観て、なんでこんな男と女がくっついたり離れたりしているだけのことが傑作と呼ばれていたのか、よく理解出来なかったんですよね。でも、大人になってみると、それがよく分かるようになる。それは、見る側が成長した結果、理解できるようになった、ある意味大人になった証です。だから、本作『ナラタージュ』も若い人に観てもらいたい。この映画は、本当に自分の中で忘れられない恋愛みたいなものを狂おしく感じながら、だけど相手は、上手く応えてくれないような息苦しさの中に、切なさだとか、ドキドキするような感情だとか、そういう感情が水面下の中ですごく揺れ動く物語。今は理解出来なくてもいつかわかる時がある。もちろん大人の人たちは思いっきり感情を揺さぶられて欲しいです。この秋に、人恋しくなるようなこのときに、こういう映画を観て、自分の恋愛や恋愛観と向き合ってもらったりすると、嬉しいなあと思います。

映画『ナラタージュ』行定勲監督インタビュー

行定勲監督が自信をもってお届けする待望の純愛映画『ナラタージュ』は10月7日(土)より全国の劇場でご鑑賞いただけます。

[スチール撮影: 久保 昌美 / インタビュー: おくの ゆか]

 

プロフィール

行定 勲 (Isao Yukisada)

1968年生まれ、熊本県出身。2000年、監督2作目の『ひまわり』が、第5回釜山国際映画祭国際批評家連盟賞を受賞し、演出力のある新鋭として期待を集め、2001年『GO』では、第25回日本アカデミー賞最優秀監督賞を始め、数々の映画賞を総なめにし、一躍脚光を浴びる。2004年『世界の中心で、愛をさけぶ』は社会現象となり観客動員620万人、興行収入85億円の大ヒットを記録し、ヒットメーカーとなる。
以降、『北の零年』(2005年)、『春の雪』(2005年)、『クローズド・ノート』(2007年)、『今度は愛妻家』(2010年)、『パレード』(2010年/第 60 回ベルリン国際映画祭パノラマ部門・国際批評家連盟賞受賞)、釜山国際映画祭のプロジェクトで製作されたオムニバス映画『カメリア』の中の一作『kamome』(2011年)を監督し話題となった。近年も『円卓 こっこひと夏のいまじん』(2014年) 、日中合同作品『真夜中の五分前』(2015年)、 2016年は『ピンクとグレー』、故郷・熊本を舞台に撮影した映画『うつくしいひと』、『ジムノペティに乱れる』など、精力的に作品を製作しつづけている。また、「フールフォアラブ」(2007年)、「パレード」(2012年)、「趣味の部屋」(2013年・2015年)、「ブエノスアイレス午前零時」(2014年)、「タンゴ・冬の終わりに」(2015年)などの舞台演出も手掛け、その功績が認められ2016年1月、毎日芸術賞演劇部門寄託賞の第18回千田是也賞を受賞。待機作には岡崎京子原作『リバーズ・エッジ』(2018年2月公開予定)。現在、エッセイ集「きょうも映画作りはつづく」が発売中。

映画『ナラタージュ』行定勲監督インタビュー

映画作品情報

映画「ナラタージュ」 10.7 Roadshow

《STORY》

壊れるくらい、あなたが好きでした。
大学2年生の春。泉のもとに高校の演劇部の顧問教師・葉山から、後輩の為に卒業公演に参加してくれないかと、誘いの電話がくる。葉山は、高校時代、学校に馴染めずにいた泉を救ってくれた教師だった。卒業式の日の誰にも言えない葉山との思い出を胸にしまっていた泉だったが、再会により気持ちが募っていく。二人の想いが重なりかけたとき、泉は葉山から離婚の成立していない妻の存在を告げられる。葉山の告白を聞き、彼を忘れようとする泉だったが、ある事件が起こる――。

出演: 松本 潤、有村架純
坂口健太郎、大西礼芳、古舘佑太郎、神岡実希、駒木根隆介、金子大地、市川実日子、瀬戸康史
 
監督: 行定勲
原作: 島本理生(「ナラタージュ」角川文庫刊)
脚本: 堀泉杏
音楽: めいなCo.
主題歌:「ナラタージュ」adieu(ソニー・ミュージックレコーズ)/作詞・作曲: 野田洋次郎
配給: 東宝=アスミック・エース
© 2017「ナラタージュ」製作委員会
 
2017年10月7日(土) 全国ロードショー!
大ヒット上映中!
 
映画公式サイト

公式Twitter: @narratagemovie
公式Facebook: www.facebook.com/narratagemovie/
公式Instagram: www.facebook.com/tkg.movie
 narratage/

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