映画『孤狼の血』白石和彌監督インタビュー
【写真】映画『孤狼の血』白石和彌監督

映画『孤狼の血』(KOROU NO CHI)

白石和彌監督インタビュー 

久々に血湧き肉躍る映画を撮ることができた。

昭和末期の広島を舞台に繰り広げられる暴力団同士の抗争に介入する孤高のマル暴刑事・大上省吾の生き様を圧倒的な熱量と戦慄ほどばしる描写で描き切った柚月裕子のベストセラー小説「孤狼の血」がこれまで数々のハードボイルド作品を世に送り出してきた東映により実写化。5月12日(土)についに全国公開を迎えた。

【画像】映画『孤狼の血』メインカット

映画『孤狼の血』のインタビューシリーズ第1弾として、本作のメガホンをとった白石和彌監督に本作へのこだわりや製作の背景についてお話を伺った。

―― 本作で監督が最もこだわり抜いたことについて教えてください。

原作者である柚月先生がこの作品の基にしている作品が、東映映画の『仁義なき戦い』などなので、一見、東映さんの昔の実録映画を基にしている体だったのですが、それをじゃあ深作監督のように手持ちでグラグラ撮るのがいいのかといったら、「果たしてこの時代に合うのか?正しいのか?」と思いました。

大きなバジェットを監督という立場で預かる身としても、そこのクオリティをどこに設定するのかというところは凄くこだわりましたね。ただやっぱり内容は過激かもしれないけど、思い切って端正に撮っていく方を選択しました。なので、昔のそういうパッションを持ちながら現代のノワールというか、実録風の映画を構築しようというのを一番考えたところですね。

しかし、原作が『仁義なき戦い』の小説のような書き方をしているので難しかったです。原作に書かれている一番大元のパッションって、「古き良き仁義を大切にしている昭和の男たちが消えていく」、極論を言えば「そこに哀愁があるよね」みたいな話がベースなので、実は「仁義なき話」ではないんですよね。それをどういう風に映画で構築していこうかということを考えました。

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―― 原作のどの部分に一番惹かれましたか?

昔の『仁義なき戦い』をベースにしているとはいえ、今となってはいろんな映画や小説に多々流用されてはいる設定ではあるのですが、一番斬新なのが、やっぱり主演の一人である日岡秀一(松坂桃李)の役どころですよね。それが小説だから成立しているけれど、映画ではどう考えなければならないかというところが一つの新しい形だなとは思いました。

ヤクザを今時描くこと自体がすごく難しくなってきているので、それを僕にできるのかなという思いはありました。でも、助監督をやり始めた頃に、ヤクザもののVシネマを撮ったり、制作会社がほぼヤクザみたいなところもありましたし(笑)。そういう撮影をしてきたことも本作で生かせるのかなあと思いましたね。

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―― 本作にぴったりだった撮影場所、ロケ地についてお聞かせください。広島でのロケ地はどう探されたのでしょうか?

舞台である呉原市ってもちろん呉のことですよね。なので、まず呉を見にいきたいとプロデューサーにお願いして見て回ってきたんです。そこでの呉の街並みの印象が、たまたまなのかもしれないですけれど、昭和63年で止まっているように見えたんですね。建物の感じとかが。これはそんなにロケ加工をしなくてもイケるかなという思いはありました。

当時は今よりもスナックがもっと多かったりとか、当時の熱量から比べると少しは減っているものももちろんあるとは思うんですけれど、『仁義なき戦い』シリーズは呉を舞台としておきながら、実際は呉ではそこまで撮影してないんですよね。それをやってないんであれば、あえて頑張って呉で撮影をやってみる。さすれば新しいもの何か撮れるんじゃないかと。街に出ればそこに住まわれてる方々は皆さん呉弁喋ってますし、俳優もずっと呉に滞在してもらいましたし、きっとそういうものが糧になるだろうなと。

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―― 舞台が昭和63年ということで、車や電話などの小物などがいかにも昭和なところにグッとくるものがありました。昭和63年という時代感を出すために意識したことはありますか?

例えば大上(役所さん)がポケベル持っているんですけど、ポケベルがいつからあったのかとか、実際にヤクザの抗争についても聞いてきたんですけど、これはフィクションなので実録的なことはなかったんですけど、だからこそ小物の部分に関しては、皆で調べられる限りのことを調べてやるしかないよねということで用意しました。とはいえ、外で撮ればヤフーモバイルとかソフトバンクとかあっちゃったりするので、そういったところは今時はCGもありますし、どうしてもやらなきゃならないところは頑張ってCGで修正しました。

あとは、美術の今村さんが僕のデビュー当時からずっと美術監督としてやってくださっています。彼は72歳の大ベテランで、この時代のこともよくご存知ですし、美術監督としての経験値も非常に豊富な方なので、今村さんが僕やこの作品を導いてくれたということはありますよね。

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―― パッション、熱量が全面に押し出されている作品だと感じています。そういった熱量に関して、キャスト陣の一体感みたいなものを感じました。監督がキャスト陣の熱量を引き出すための空気作りなど、意識して行ったことなどはありますか?

助監督時代にも俳優たちのウマが合わなかったりとか、監督とキャストが上手くいってないとか、そういった現場はいくつか見てますけど、もちろん今回皆さん仲が悪いということも特になかったですからね。特別に何かしたっていうことは無いですね。始まる前に円陣も組んだりしてませんし(笑)。 衣装合わせの時に、こういう風にしたいんだと言うことは話しましたが。

ただ思い返してみると、やはり柚月さんの原作のチカラじゃないかなと思いますよね。フィクション、オリジナルでやるネタではないですし、ましてや東映という世界的に輝く大傑作群がある映画制作会社に企画書を持っていっても、「いやこれはちょっと」ってなるんだと思うんですよ。やっぱり柚月先生が面白い本を書いてくれて、熱量がそのまま脚本に反映されて、上手く役者に伝わる形になったんだと思います。田口トモロヲさんなんかも、「セリフの方言を読んだだけでテンション上がります」とか言ってくださいましたし、皆そういう思いがあったんだと思いますよ。

―― 本作の監督をオファーを受けた時、率直にどう思いましたか?

僕でいいのかなと思いましたね。よく抜擢してくださったなと。不安はもちろんありましたが、腹をくくった以上は徹底的にやれることを、自分の持ち味を出しながらやると。あとはプロデューサーの皆さんがまず「R15にしてください」とか、「中途半端なものは求めてないですから」とか言ってくださったので、そこにすごく背中を押してもらえましたね。最初のシーンからあんなことになってますからね(笑)。

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―― 映画版オリジナルの登場人物である桃子役に阿部純子さんをキャスティングした理由を聞かせてください。

最初に彼女を会った時の感想は、「若いのになんでそんなに色気があるの?」でした。以来、ずっとお仕事をしたいなという思いがありました。僕の作品に出てくる女性は大体基本ビッチなんですけど(笑)。久々に阿部さんに会ったらこの役にぴったり合うんじゃないかなと。彼女もまたビッチを好演してくれましたね。

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他のキャストに関してですが、東映さんとしては「オールスターキャストで是非」とのことでしたので、尾谷組の尾谷組長も伝説のヤクザといった感じなので、伊吹吾郎さんにご出演頂いて良かったですね。昔の東映のヤクザの空気感を持っている役者さんって今、本当に少なくなってきちゃいましたから、本当にギリギリのタイミングだったかなと思いますね。加古村組若頭を演じた竹野内豊さんも良かったですよね。彼はこれまでヤクザ役も刑事役もやったことがないということが意外でした。「ヤクザ役あればやります?」って以前訊いていて、「チャンスあればやってみたいです!」と言ってくれていたので、今回やっていただいた形ですね。

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中村獅童さんもスケジュールギリギリだったんですけど記者役で出ていただきまして、「本当ヤクザやりたかった!」って少し怒られちゃいましたね(笑)。 この作品を作り終えてからも色んな役者さんから「ヤクザやりたかったなんで呼んでくれなかったんだ」って言われることが多くて、撮り終えた後の方が反響が多かったですね。皆、ヤクザやりたいんだなって思いました(笑)。

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―― 大上を演じる役所さんのテンションにどの役者さんもだんだん引っ張られていったように感じました。役所さんの現場での存在感について聞かせてください。

現場入って最初役所さんと桃李くんの二人のシーンから撮り始めていったわけですが、役所さんがどうやってるのかな?っていうのは皆さん絶対に見ますからね。それで、「ああ、役所さんがこのテンションでやっているのであれば自分もこれぐらいやっていいかな」といった感じになる。

役所さんのテンションがどうだったかを皆さんへ話していくと、それが伝染していくというか、それが皆さんへの演出になっている感じがありましたね。役所さんがファーストカットを撮った時に、「いや〜、緊張した!」って言った時に、「役所さんも緊張するんだなあ」って思いましたよね。「ちゃんとヤクザっぽく見えましたよ」って言っちゃいましたね。まあ、役所さんの役は刑事なんですけどね(笑)。

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―― 大上(役所広司さん)に痰を吐かせたというエピソードについて聞かせてください。

いつの頃だったか、僕が指示していないのにあるシーンで痰を吐いた役者が昔いたんですね。それがすごくカッコよくて、それ以降、自分が監督する映画に出てくるヒロインやヒーローには痰を吐かせようと(笑)。本作でも役所さんに絶対吐いてもらおうと。素晴らしい痰の吐きっぷりでしたよね。絶対に昔痰吐いてただろうなと(笑)。最近本当に痰を吐く人がいなくなりましたね。

―― この映画で共感できる人物はいましたでしょうか?

面白く撮ってはいるけど別に好きではないですからね(笑)。大上には共感もできるけど、ちょっとかっこよすぎるところはありますよね。日岡みたいには生きていきたいなと思います。この映画の後の日岡には共感できるかなと思いますね。ちょっとずつ染まっていく感じとか。いろんなことに見切りをつけて、ヤクザからも今後、お金をもらっていくでしょうし。「そりゃそうだよね」っていう。

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―― お気に入りの登場人物はどなたでしょう?

加古村組が個性的すぎますよね(笑)。ヤクザって皆バッジを付けるじゃないですか。撮影後に僕、加古村組のバッジをもらって帰りましたからね(笑)。 もしどこかの組に入るなら加古村組に入りたいなと。ちゃんとうまく運営できているかわからないですけどね(笑)。広島キャストも結構いるんですよ。もちろん演出を付けましたが、チンピラぐらいのほうが皆さん演じやすいんだと思います。変に無表情なヤクザの役とかになると、それまでの生き様とか経験値が表情に出てきますが、チンピラは作り込んでしまえば演じやすいですからね。ヤクザ映画がもう時代劇になってきてるんですよね。コンプライアンス上、ヤクザと会うことも許されないわけです。取材ができませんし、実際こういうヤクザはいなくなってきてますからね。だから過去の映画を観たり、想像の中で演じていったり、書物を読んだりする中で自分のヤクザ像を作っていくしかない。あとはせいぜい髪型や服装で気持ちを作って演じてもらうしかないということですよね。

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―― 「綱渡りに乗ったら落ちないように前に進むしかない」という大上のセリフが印象的でした。日岡もその綱に乗っていくんだと思うのですが、その辺のお話も聞かせてください。

すでに日岡もまた、この映画の最後に綱に乗っちゃってますよね。今後は綱に乗っていく人生になるんでしょうけれども。まあその綱に先はもう無いんですけどね。昭和という時代が終わって、暴対法も施行されて、今ヤクザもこういう状況になってるわけじゃないですか。分裂しても喧嘩もできないですし。じゃあ喧嘩ができた時代が良かったのかというと、「どうなの?」って話になるんだと思いますけれども。日岡はもう残された本当に最後の昭和の人という感じになるんでしょうね。無間地獄に入っちゃったわけですよね。

―― 「古き良き仁義を大切にしている昭和の男たちが消えていく」というのが本作のメインテーマなわけですが、後半終盤は大上から日岡への「継承」という要素もテーマとしてあったかと思うのですが、現時点で続編についてお話できることがあればぜひお聞かせください。

柚月先生の原作の連載が終わっていて、ゲラ(試し刷り)がこの前届いたんですけど、もちろん東映さんとしては鼻息荒く、僕ももちろん鼻息荒く(笑)。桃李くんもそれを最後に持って帰りましたしね。続編があったらよりグレードアップできるものをお見せできたらなと思っていますけれども、今からあんまり言い過ぎてもね(笑)。

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―― 本作を撮り終えて、何か新たな発見や気づいたことはありましたか?

やっぱり役所さんと今仕事ができるというのは特別なことなんですね。(松坂)桃李くんも言ってましたけど。役所さんと仕事をするということは、高校球児が練習試合で10試合するより、甲子園で一度試合を経験する方が経験値が上がるということに通じるものがあるんですね。一回の経験値が高いというのが、役所さんとご一緒するとわかりますね。

―― 最後に、Cinema Art Onlineの読者の皆様へメッセージをお願いいたします。

久々に血湧き肉踊る映画だと思っているので、楽しんでいただきたいですね。目を覆いたくなるシーンもあるかとは思いますが、でもそれを補って余りある、面白い映画に仕上がっていると思います。

[インタビュー: 蒼山 隆之
[スチール撮影: Cinema Art Online UK / 坂本 貴光]

監督プロフィール

白石 和彌 (Kazuya Shiraishi)

1995年、中村幻児監督主催の「映像塾」に入塾。その後は若松孝二監督に師事し、同監督の『17歳の風景 少年は何を見たのか』(2005年)などで助監督を務める。2010年、『ロストパラダイス・イン・トーキョー』で長編監督デビュー。ノンフィクションのベストセラーを映画化した長編第2作『凶悪』(2013年)で、新藤兼人賞金賞などを受賞し、注目を集める。「日活ロマンポルノ・リブート・プロジェクト」の第3弾『牝猫たち』(2016年)は第46回ロッテルダム国際映画祭に正式招待され、その後も『日本で一番悪い奴ら』(2016年)、『彼女がその名を知らない鳥たち』(2017年)と、人間心理を巧みに描きだす手腕で1作ごとに評価を高めている。

公開待機作に『止められるか、俺たちを』(2018年10月公開予定)がある。

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映画『孤狼の血』予告篇

映画作品情報

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《ストーリー》

「わしは捜査のためなら、悪魔にでも魂を売り渡す男じゃ」昭和63年、広島。所轄署の捜査二課に配属された新人の日岡は、ヤクザとの癒着を噂される刑事・大上のもとで、暴力団系列の金融会社社員が失踪した事件の捜査を担当することになった。飢えた狼のごとく強引に違法行為を繰り返す大上のやり方に戸惑いながらも、日岡は仁義なき極道の男たちに挑んでいく。やがて失踪事件をきっかけに暴力団同士の抗争が勃発。衝突を食い止めるため、大上が思いも寄らない大胆な秘策を打ち出すが……。正義とは何か、信じられるのは誰か。日岡は本当の試練に立ち向かっていく――。

 
出演: 役所広司、松坂桃李、真木よう子、音尾琢真、駿河太郎、中村倫也、阿部純子、中村獅童、竹野内豊、滝藤賢一、矢島健一、田口トモロヲ、ピエール 瀧、石橋蓮司、江口洋介
 
原作: 柚月裕子(「孤狼の血」角川文庫刊)
 
監督: 白石和彌
 
脚本: 池上純哉
音楽: 安川午朗
撮影: 灰原隆裕
照明: 川井稔
録音: 浦田和治
美術: 今村力
企画協力: 株式会社KADOKAWA
製作: 「孤狼の血」製作委員会
配給: 東映
 
2018年 / 日本 / 126分 / 映倫区分 R15+
 
© 2018「孤狼の血」製作委員会
 
2018年5月12日(土) 全国ロードショー!
 
映画公式サイト
 
公式Twitter: @Korounochi_2018
公式Facebook: @korounochi.movie
公式Instagram: korounochi_movie
 

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