映画『妻よ薔薇のように 家族はつらいよⅢ』西村まさ彦インタビュー
【写真】映画『妻よ薔薇のように 家族はつらいよⅢ』西村まさ彦インタビュー

西村まさ彦インタビュー

「家族って面倒くさい。でも、いないと寂しい」

山田洋次監督最新作『妻よ薔薇のように 家族はつらいよⅢ』が5月25日(金)に公開される。

『家族はつらいよ』は三世代が同居する平田家の悲喜こもごもを描いたシリーズ。同居する親世代夫婦を橋爪功と吉行和子、長男夫婦を西村まさ彦と夏川結衣、独立して暮らす長女夫婦を中嶋朋子と林家正蔵、次男夫婦は妻夫木聡と蒼井優が演じている。

2016年に公開された1作目では熟年離婚、翌年の2作目では高齢者による自動車の運転や独居老人の死といった高齢者の問題を取り上げた。3作目となる本作のテーマは「主婦への讃歌」。気遣いのない夫の言葉に、溜まっていた不満を爆発させた妻が家を出るという緊急事態に直面した家族の大騒動を描く。

【画像】映画『妻よ薔薇のように 家族はつらいよⅢ』メインカット

妻に家出された長男・幸之助を演じた西村まさ彦さんに現場での様子や作品への思いを聞いた。

―― 『東京家族』(2013年)から出演者は同じ顔ぶれで、本作は4作目となりました。現場の雰囲気はいかがでしたか。

1作目は橋爪さんたち先輩方が中心になって、家族をまとめようとされ、僕も声を掛けていただきました。2作目、3作目と続くうちに、それぞれ自分の空間を確保できるようになり、今は必要以上に会話しなくても、お互いにそっとしておける関係になってきました。その暗黙の了解はすごく居心地がいい。もちろん、話したい人は話していますけれどね。

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――  今回の騒動のきっかけは幸之助と史枝の夫婦喧嘩です。脚本を渡されたときの気持ちをお聞かせください。

夫婦喧嘩のシーンでは、幸之助が妻に向けてかなり強烈な言葉を放っています。これは亭主関白を越えて、嫌味が過ぎます。「幸之助を嫌う人が出てくるかもしれない。困ったな」と思いましたね。

――  夫婦の馴れ初めが明らかになり、幸之助にはフェミニストな部分があることも分かりました。

馴れ初めについては、撮影に入ってから監督が新しくシーンを書き足しました。最初の脚本には書かれてなかったのです。

――  脚本の変更はよくあることですか。

セリフ2~3行の変更はこれまでもありましたが、今回はいつもより多く、それもかなり大幅に行われました。シーンまるごとの変更もあり、監督はぎりぎりまで考えておられたのだとその熱意を感じました。これまで以上に、テーマに対する思いがあったのだと思います。監督の意気込み、作品に懸ける思いに心打たれました。人間って歳を重ねていくと体力が落ちてきて、悔しいけれど、今までできたこともできなくなっていく。その中で、監督は映画作りに的を絞り、集中する自分を作って追い込んでいく。あの生き様、頭が下がりますし、素敵だなと思います。

【画像】映画『妻よ薔薇のように 家族はつらいよⅢ』場面カット7

長回しのシーン 撮影に心地よい緊張感

――  夫婦喧嘩のシーンは前半の見せ場でした。

平田家は家長がお金を管理している。お父さんがそうだし、長男夫婦もそう。妹夫婦は違いますけれどね(笑)。しかし、必要なお金はぜんぶ渡しているし、足りないと言われれば追加で渡す。出さなかったことはない。夫婦の間で強い信頼関係があると思っていた幸之助にとって、史枝のへそくりはこの信頼関係の崩壊を意味します。きついセリフの裏にあるのは幸之助の苛立ちと失望です。このシーンで妻の顔を見ないでセリフを言っているのは、「なんだよ」という情けない気持ちがあったから。面と向かって暴力的に言ってしまったら、意味合いが変わってしまいます。妻は妻で、「もしものことがあったら、私が家族を支えなきゃいけない」と考えて、へそくりをしていた。それが夫への裏切りとは微塵も思っていない。そのあたりの微妙なずれが、妻の家出に繋がったのでしょうね。

――  喧嘩の後で幸之助がベランダに出て、煙草を吸うシーンが印象的でした。

あのシーンは長回しで撮影したのですが、それは当日知りました。何回かテイクを重ねて、OKテイクが出たのですが、あの緊張感はたまらなく心地よかったですね。あのシーンはカメラワークも素敵で、さすがだなと思いました。

監督はフィルムで映画を撮っています。一瞬一撮。一発ですべての流れを作っていかなくてはならない。フィルムが回っている音にみんなの思いがのしかかってくる。もちろん潤沢に予算があれば何度でも撮り直しはできますが、なかなかそうはいきません。最近はフィルムで撮る監督が少なくなり、あの緊張感を味わう機会は減っています。得も言われぬ緊張感の中で演じられたことは、俳優としてとても貴重な体験でした。

――  テイクを重ねないようにするのはプレッシャーではありませんか。

モノを作っていくのは、「作っては壊し、作っては壊し」の連続だと思っています。どの現場でも思うことですが、モノづくりは決して楽にできるものではなく、NGが出ることを問題にしていません。一度でOKテイクが出るのに越したことはありませんが、「NGを出したから失敗した」と思う自分を作りたくない。そこでどうやったら、より良くなるかを目指しています。

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感謝の気持ちは言葉にしなければ伝わらない

――  本作のテーマ「主婦への讃歌」について、西村さんはどのようにお考えですか。

家事労働は大変です。男性はオンオフのスイッチを持っているけれど、女性は24時間、家族の誰かがいたら常にオンです。その大変さをわかってあげなきゃいけない。

公開に合わせてオンエアされる「上沼恵美子のおしゃべりクッキング」に出演したときに、上沼さんから「感謝の言葉が家事労働に対する救い。それがあれば、がんばれる。なぜ、世の中の男性はそれを言わないのか」と指摘されました。

しかし、「言わなくてもわかっているだろう」という思いが、幸之助の中にはあったのではないかと思います。それでずっと生活してきた夫婦ですからね。大きな事件が起きて、やっと言葉の必要を感じたのかもしれません。

外で仕事をするのは大変。しかし、家事労働も大変。要はお互い様だから、わかり合おうとする気持ちが大切。その「お互い様」をわからなければいけないと、作品に関わって実感しました。

【画像】映画『妻よ薔薇のように 家族はつらいよⅢ』場面カット3

――  幸之助を演じることで西村さんご自身の中で何か気づきがあったのですね。

自分の居場所がどこにあるのか、自信が持てないと人は自己否定に陥る。人ってそういうところがあります。ただ褒めるのではなく、「あなたがいてくれてよかった。ありがとう」と言われると、こそばゆい気がしつつも悪い気はしない。夫から妻だけでなく、人に対して言ってあげることが大事。子どもも親から「君がいてくれてよかった」と言われると俄然、輝き出すことがあります。とっておきの言葉ですね。しかし、僕自身あまり言っていなかった気がします。「そんなこと、言わなくてもわかっているだろう」という部分があったかもしれないと改めて気づかされました。

――  『東京物語』と『家族はつらいよ』、設定は似ていますが、人物の性格は違います。どちらが西村さんご自身に似ていますか。

僕は自分と役を結び付けて考えません。役を作っていく上で、共通点を見つけることが自分にはプラスになると思っていないのです。役者にはその人自身で演じる人と、役として演じる人がいて、僕は役として演じるタイプです。自分自身はあるけれど、ないものとして演じたい。俳優とはそういうものだと思っています。ルックスが良くて、どんな役をやってもカッコいい人だったら、それが武器になりますけれどね(笑)。

僕は自分の視点で脚本に向き合ったことありません。実際に演じているときには、無意識のうちに自分自身を動員しているとは思いますが、あくまでも脚本の中に書かれている人物を掘り下げていく。役と向き合うことがありきです。

シリーズ映画の中に「居場所」がある喜び

――  4作目に繋がっていくラストでした。これからも続いていく作品になりそうですね。

続くといいですね。1つ撮影が終わると、監督と橋爪さん、妻夫木さんたちは次回作の話をしていますよ。僕はそれを離れたところから見ていますが、平田家の一員としていられることを本当にうれしく思います。俳優は居場所が定まらないままいるような仕事です。居場所がある。こんなにうれしいことはありません。

【写真】映画『妻よ薔薇のように 家族はつらいよⅢ』西村まさ彦インタビュー

――  最後にメッセージをお願いいたします。

世代が違う人との会話がなくなってきています。人として向き合うことは大事。面倒でも関わってほしい。そうでなければわかり合えません。

人って面倒くさい。でも、いないと寂しい。この作品の持つ意味はそこにあります。作品を通して、そのことに気づいてほしいと思っています。

[インタビュー: 堀木三紀 / スチール撮影: 平本 直人]

プロフィール

西村 まさ彦  (Masahiko Nishimura)

1960年、富山県出身。TVドラマ「古畑任三郎」シリーズ(1994年〜2006年/CX)に出演し一躍人気を博す。映画『マルタイの女』(1997年/伊丹十三監督)、『ラヂオの時間』(1997年/三谷幸喜監督)では、ブルーリボン賞助演男優賞、日本アカデミー賞最優秀助演男優賞などの映画賞に輝く。近年の主な出演作として、舞台「90ミニッツ」(2011年、2012年/三谷幸喜演出)、NHK大河ドラマ「真田丸」(2016年)、『超高速!参勤交代 リターンズ』(2016年/本木克英監督)、『殿、利息でござる!』(2016年/中村義洋監督)など。山田洋次監督作品では『東京家族』(2013年)などに出演。

《衣裳協力》

デザインワークス ドゥ・コート銀座店
 
<問い合わせ先>
TEL: 03-3562-8277

映画作品情報

【画像】映画『妻よ薔薇のように 家族はつらいよⅢ』ポスタービジュアル

《ストーリー》

わたしたち〈主婦〉辞めます!
妻の反乱でドタバタ一家に史上最大のピンチが訪れる!

三世代でにぎやかに暮らす平田家。ある日、主婦・史枝(夏川結衣)がコツコツ貯めていたへそくりが盗まれた!夫・幸之助(西村まさ彦)からは「俺の稼いだ金でへそくりをしていたのか!」と嫌味の嵐…。ついに我慢も限界に達し、史枝は家を飛び出してしまう。掃除、洗濯、風呂掃除、朝昼晩の食事の準備…主婦がいなくなってしまった家族の暮らしは大混乱! 家族崩壊の危機に…!?

 
監督: 山田洋次
脚本: 山田洋次、平松恵美子
出演: 橋爪功、吉行和子、西村まさ彦、夏川結衣、中嶋朋子、林家正蔵、妻夫木聡、蒼井優
音楽: 久石譲
撮影: 近森眞史 
美術: 倉田智子
照明: 渡邊孝一
編集: 石井巌
録音: 岸田和美
プロデューサー: 深澤宏
衣裳: 松田和夫
装飾: 湯澤幸夫
音響効果: 帆苅幸雄
監督助手: 佐々江智明、濵田雄一郎
タイトルデザイン: 横尾忠則
VFXスーパーバイザー: オダイッセイ
音楽プロデューサー: 小野寺重之
宣伝プロデューサー: 古森由夏
スチール: 金田正
記録: 鈴木敏夫
製作担当: 杉浦敬
製作主任: 牧野内知行
ラインプロデューサー: 相場貴和
製作: 「妻よ薔薇のように 家族はつらいよⅢ」製作委員会
制作・配給: 松竹株式会社
カラー / シネマスコープ / ドルビーデジタル / 2時間3分
© 2018「妻よ薔薇のように 家族はつらいよⅢ」製作委員会
 

2018年5月25日(金) 全国ロードショー!

映画公式サイト

公式Twitter: @kazoku_tsuraiyo
公式Facebook: @kazoku.tsuraiyo

この記事の著者

ほりき みきライター

映画の楽しみ方はひとそれぞれ。ハートフルな作品で疲れた心を癒したい人がいれば、勧善懲悪モノでスカッと爽やかな気持ちになりたい人もいる。その人にあった作品を届けたい。日々、試写室に通い、ジャンルを問わず2~3本鑑賞している。

主に映画監督を中心にインタビューを行っており、これまでにインタビューした監督は三池崇史、是枝裕和、阪本順治、岸善幸、篠原哲雄、大九明子、入江悠、本広克行、荻上直子、吉田照幸、ジョン・ウーなど。

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