映画『日本のいちばん長い日』レビュー
【画像】映画『日本のいちばん長い日』メインカット1

映画『日本のいちばん長い日』(英題: The Emperor in August)

日本映画界が誇る豪華キャスト総出演。
半藤一利の傑作ノンフィクションを原田眞人監督が完全映画化!

《ストーリー》

太平洋戦争末期の1945年4月。各地の戦線で日本軍が苦境にたたされる中、その責任をとる形で小磯國昭が内閣総理大臣を辞任。後任には昭和天皇からの信任が厚い鈴木貫太郎が推された。鈴木は一旦固辞しつつも、陛下の強い意向もあり総理大臣に就任。引き受けた以上は、一命を賭してでも国家の難局を打破していく覚悟であり、この時から鈴木を初めとする和平派の人たちの戦争終結への戦いが始まった・・・

【画像】映画『日本のいちばん長い日』メインカット2

「敗け」を宣言するために戦った人たち

かつて「戦時中」と呼ばれた時代があった。特攻、空襲、原爆投下・・時代を象徴する言葉には、何一つ善い言葉などない。それほど悲惨な時代であった。妄信的な一部の軍部によって始められた戦争は、日を追うごとに戦況が悪化。戦死者は未曽有の数にのぼり、国民の生活は辛苦を極め、日本は底のない泥沼を這いつくばっていた。

本作は、そんな凄惨な戦争を終わらすべく戦い抜いた人たちの物語だ。その多くは、突出した才能があるわけでもない普通の人たちであったが、その行動は英雄的だった。寸暇を惜しんで交渉し、折衝し、根回しをし…武力こそ用いられなかったが、命がけで陸軍を中心とする戦争強硬派と戦った。ただ「敗け」を宣言するだけのために・・それが戦争を終わらせる唯一の手段であったからである。戦火を耐え忍び、戦友の死を見ながら生き残ってきた人たちだ。さぞ切なく、苦渋の思いであったことだろう。

やがて玉音放送が流れ、天皇陛下自らの口から敗戦が宣言される。この8月15日は日本にとって忘れられない日となったが、それは紙一重の危うさと駆け引きで創り上げられた。映画「日本のいちばん長い日」は、今ある平和が多くの人たちの奮闘と葛藤があっての賜物だということを静かに語ってくれる。

【画像】映画『日本のいちばん長い日』場面カット

 

《みどころ》

本作は1967年に公開された岡本喜八監督による「日本のいちばん長い日」のいわば同名リメイクだ。メガホンをとった名監督・岡本喜八の他、笠智衆・三船敏郎など日本映画に燦然と輝く巨星の名前が並ぶ。だが、この2015年版も負けてはいない。総理大臣の鈴木貫太郎役に山崎努、誠忠の陸軍大臣・阿南惟幾役には役所広司。その他にも昭和天皇にモッくんこと本木雅弘など、豪華絢爛なキャストが並ぶ。そんな豪華俳優陣がそれぞれ全身全霊で、あたかも本人が憑依したかのような抜群の演技を魅せている。

特に鈴木貫太郎役の山崎さん。とても山崎努本人には見えず、飄々と、だが一癖(ひとくせ)ある77歳の老宰相を見事に演じ切っている。歴史的に決して知名度の高くない鈴木貫太郎だが、この映画を通じてその功績の高さと、人物の魅力を知った人も多いのではないだろうか。本木さんも「昭和天皇」という難しい役に対して、堂々がっぷり四つに取り組んでいるし、役所広司さんは言わずもがな、名優に相応しい巧みな演技だ。その他にも堤真一や松坂桃李など、列挙すればキリがないくらい迫力ある芝居が随所にあり、観ていて圧倒される。そうした無数の名演が一体となることによって、銀幕から重厚な画力(えぢから)が発せられ、それが私たちに先人の苦難を知らしめてくれる。

戦後70年という節目の年に、本作のような映画が公開されたことは意義深い。平和な時代とそれを創ってくれた人たちへの感謝。映画を観て、改めて思い起こしてみては如何だろうか。

[ライター: 藤田 哲朗]

映画『日本のいちばん長い日』予告篇

映画作品情報

 
第28回 東京国際映画祭 Japan Now部門 監督特集<原田眞人の世界>上映作品
 
邦題: 日本のいちばん長い日
英題: The Emperor in August
監督・脚本: 原田眞人
原作: 半藤一利
撮影: 柴主高秀
美術: 原田哲男
編集: 原田遊人
出演: 役所広司、本木雅弘、松坂桃李、堤 真一、山﨑 努
2015年 / 日本 / 日本語 カラー / 136分
配給: アスミック・エース株式会社、松竹株式会社
© 2015 「日本のいちばん長い日」 製作委員会
 

映画公式サイト

この記事の著者

藤田 哲朗映画ライター・愛好家

大手出版取次会社で20代後半より一貫してDVDのバイヤー/セールスの仕事に従事する。
担当したクライアントは、各映画会社や映像メーカーの他、大手のレンタルビデオチェーン、eコマース、コンビニチェーンなど多岐にわたり、あらゆるDVDの販売チャネルにかかわって数多くの映画作品を視聴。
プライベートでも週末は必ず都内のどこかの映画館で過ごすなど、公私とも映画づけの日々を送っている。

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